第9章 独占 市場経済の基本的なメカニズムは,健全な経済を維持する上で欠かせないものである。 しかし,市場機構の調整機能は,「完全競争perfect competition」の状態においてのみ,はじめて十分な役割を果たしうるに過ぎない。 完全競争の特徴:誰もが自分だけの行動によって財の価格を左右しうるほどの力を持っていない。(プライス・テイカーとして行動する。) 各財の買い手と売り手が多数存在 各財の製品差別化product differentiationなし すべての成員が市場の価格や財の特性について完全な情報をもつ 企業の市場への参入・退出が自由(自由参入free entry) ミクロ経済学
第9章 独占 市場の分類 独占市場は完全競争市場とは正反対の市場状態である。 独占市場の場合 完全競争市場の場合 完全競争 独占的競争 独占企業は価格受容者(つまり所与の価格の下で数量調整者)としての行動するとせず,多かれ少なかれ自社製品の価格に対して支配力を行使することが可能になる。 独占企業は自らの利潤を最大にするように価格と生産量の両方を決定する。 完全競争市場の場合 市場に参入している企業が多数あり,各企業は価格受容者(つまり所与の価格の下で数量調整者)としての行動し,自社製品の価格に対して支配力を行使することができない。 各企業は市場価格の下で自らの利潤を最大にするように生産量のみを決定する。 完全競争 製品差別化なし 買い手の 数 多 数 1 人 独占的競争 製品差別化あり (供給)独占 (供給)複占 (供給)寡占 双方独占 買い手独占 (需要独占) 売 り 手 の 数 複 数 多 数 1つの企業 2つの企業 市場では,ある財を供給している企業が1つしかない状態は(売り手)独占または(供給)独占と呼ばれる。 ミクロ経済学
第9章 独占 9.1 独占企業の行動 ■供給独占の要因 規模の経済性: 自由参入の障壁: 製品差別化: 大規模生産の利益によって生じる現象。 9.1 独占企業の行動 ■供給独占の要因 規模の経済性: 大規模生産の利益によって生じる現象。 (鉄鋼産業,自動車産業,鉄道,電力,ガスなど) 自由参入の障壁: ある製品の生産にとって必要不可欠な原料・資源の供給が特定企業にのみ限定されたり,特許制度によって特定の技術的知識の使用権利が一企業に排他的に与えられたり,あるいは法律によって他の企業には当該製品の生産販売が一切禁じられたり場合に,生じる現象。 (タバコ産業,マイクロソフト社のコンピュータ・ソフトなど) 製品差別化: ルーズな意味では「同じ」種類とみなされる製品であっても,その品質,性能,外観,商標,デザイン,店舗の風囲気,買い手からの距離等々の違いによって,買い手がそれぞれの商品に独自の選好を持つ場合に,生じる現象。 (化粧品や服装,ホテル,レストラン,出版社,美容院など) ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の特徴 利 潤 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: 平均費用曲線 総 収 入 総費用 需給量 y O 価格p D ■独占企業の特徴 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: p1 総 収 入 利 潤 y1 総費用 製品の価格を決定する ↓ その価格に応じる 需要量も分かる その価格で販売すれば独占企業の総収入の大きさが決まる。 生産量を決定する ↓ その生産量に応じる 価格も分かる その生産量に応じる生産によって発生する総費用の大きさも決まる。 総収入-総費用=利潤 ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の特徴 利 潤 利 潤 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: 平均費用曲線 総 収 入 総 収 需給量 y O 価格p D ■独占企業の特徴 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: p2 利 潤 総 収 入 y2 p1 総 収 入 y1 総費用 利 潤 総 費 用 製品の価格を決定する ↓ その価格に応じる 需要量も分かる その価格で販売すれば独占企業の総収入の大きさが決まる。 生産量を決定する ↓ その生産量に応じる 価格も分かる その生産量に応じる生産によって発生する総費用の大きさも決まる。 総収入-総費用=利潤 ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の特徴 利 潤 利 潤 利潤を最大化するために製品の価格および生産量を如何に決定するか? 平均費用曲線 需給量 y O 価格p D ■独占企業の特徴 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の行動: 総 収 入 p2 y2 費 用 利 潤 p1 総 収 入 y1 総費用 利 潤 p3 利 潤 総 収 入 y3 総 費 用 製品の価格を決定する ↓ その価格に応じる 需要量も分かる その価格で販売すれば独占企業の総収入の大きさが決まる。 生産量を決定する ↓ その生産量に応じる 価格も分かる その生産量に応じる生産によって発生する総費用の大きさも決まる。 利潤を最大化するために製品の価格および生産量を如何に決定するか? 総収入-総費用=利潤 ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C 総 収 総 入 需給量 y O 価格p D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C MC p2 総 収 入 y2 p1 総 収 入 y1 p3 総 収 入 y3 yの1単位の追加生産によってもたらす収入の増加分 yの1単位の追加生産によってもたらす費用の増加分 MR y2 y1 y3 供給量 y O 総収入 総費用曲線C 限界収入 MR=dR/dX 限界費用 MC=dC/dX 総収入曲線TR ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C 価格p MC 需給量 y O 価格p D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C MC p* y* MR y* 供給量 y O 総収入 総費用曲線C 総収入曲線TR ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C 利潤p 価格p 需給量 y O 価格p D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C MC p1 y1 p* y* MR y* 供給量 y O 総収入 総費用曲線C 利潤p 総収入曲線TR ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C 需給量 y O D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C MC p* p2 y* y2 MR y* 供給量 y O 総収入 総費用曲線C 総収入曲線TR ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の最適問題 利 潤 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C 総 収 平均費用曲線C/y 需給量 y O 価格p D ■独占企業の最適問題 独占企業が社会的需要曲線に直面している。 独占企業の利潤: 利潤p=総収入R-総費用C MC p* 利 潤 総 収 入 y* 総費用 MR y* 供給量 y O 総収入 総費用曲線C 総収入曲線TR ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占度 収入関数: TR=p(y)・y 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC m =(p-MC)/p e =ー(dy/dp)(p/y) e は需要の価格弾力性である。 m=1/e m は独占度またはラーナーの独占度と呼ばれている。 ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC 需給量 y O 価格p D p y* MR MC ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC m =(p-MC)/p 独占度m と需要の価格弾力性e の関係: m は独占度またはラーナーの独占度と呼ばれている。 需要の価格弾力性e 独占度m ∞ 1 弾力性は小さくなる 独占度は高くなる ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC 需給量 y O 価格p D p y* MR MC ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC m =(p-MC)/p マークアップ率:(2つの考え方がある) ① 価格が限界費用の何倍か? m は独占度またはラーナーの独占度と呼ばれている。 ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC 需給量 y O 価格p D p y* MR MC ■独占度 限界収入: 利潤最大化の条件: 限界収入MR=限界費用MC p(1-m)=MC m =(p-MC)/p マークアップ率:(2つの考え方がある) ① 価格が限界費用の何倍か? ② 価格の限界費用の上乗せ分が限界費用の何倍か? m は独占度またはラーナーの独占度と呼ばれている。 ミクロ経済学
第9章 独占 独占企業行動の数値例 需要関数: p=100-y 費用関数: C=10y 限界費用: MC=dC/dy=10 O 価格p MR 独占企業行動の数値例 需要関数: p=100-y 費用関数: C=10y 限界費用: MC=dC/dy=10 収入関数: TR=py=(100-y)y =100y-y2 限界収入: MR=dTR/dy=100-2y 利 潤: p =TR-C 100 D 55 45 MC 10 50 100 生産量 y 30 35 40 45 50 55 60 65 価格 p 70 費用 c 300 350 400 450 500 550 600 650 限界費用 MC 10 収入 TR 2100 2275 2400 2475 2500 限界収入 MR 20 -10 -20 -30 利潤 p=TR-C 1800 1925 2000 2025 1625 ミクロ経済学
第9章 独占 独占企業行動の数値例 需要関数: p=100-y 費用関数: C=10y 限界費用: MC=dC/dy=10 O 価格p MR 独占企業行動の数値例 需要関数: p=100-y 費用関数: C=10y 限界費用: MC=dC/dy=10 収入関数: TR=py=(100-y)y =100y-y2 限界収入: MR=dTR/dy=100-2y 利 潤: p =TR-C 100 D 55 45 MC 10 50 100 独占企業の利潤最大化の解の計算方法: 利潤最大化条件: MR=MC 100-2y=10 y=45 y=45 を需要関数に代入して, p=100-y =100-45=55 ラーナーの独占度 m=(p-MC)/p =(55-10)/55 =9/11=81.82% 利潤p =総収入TR-総費用C =py-10y =55×45- 10×45 =2025 ミクロ経済学
第9章 独占 ■独占企業の供給曲線 独占市場の場合: 完全競争市場の場合: 企業の数は1つである。 独占企業は供給量と価格の ある最適な組合せを選択する。 完全競争市場の場合: 企業の数は多数である。 各企業は所与の市場価格の下で, 最適な生産量を選択する。 需給量 y O 価格p MC 平均可変費用AVC 需給量 y O 価格p D p y* MR MC y* y* y* p S p p ミクロ経済学
生産が過小で,価格が過大のため超過負担があり 第9章 独占 ■独占企業の供給曲線 独占市場の場合: 企業の数は1つである。 独占企業は供給量と価格の ある最適な組合せを選択する。 完全競争市場の場合: 企業の数は多数である。 各企業は所与の市場価格の下で, 最適な生産量を選択する。 独占市場の場合 完全競争市場の場合 企業の数 1つ 多数 企業の主体的 均衡条件 限界収入=限界費用 市場価格=限界費用 供給曲線 存在しない 右上がり 資源配分の効率性 生産が過小で,価格が過大のため超過負担があり 効率性が 満たされている 需給量 y O 価格p MC 平均可変費用AVC 需給量 y O 価格p D p y* MR MC y* S p p ミクロ経済学
第9章 独占 9.2 独占と市場 ■ 独占の弊害 厚生損失 独占の下で,p>MC ,社会的に見て供給量は過小,価格は過大となっている。 9.2 独占と市場 ■ 独占の弊害 独占の下で,p>MC ,社会的に見て供給量は過小,価格は過大となっている。 独占的行為の結果,消費者余剰が減少することによって,独占企業の獲得利潤がより大きくなった。独占的行為が社会的余剰の減少をもたらすのは,過小生産による資源配分の歪みに基づくものである。完全競争市場と比較して独占市場の超過負担あるいは死荷重deadweight loss (=厚生損失)が生じる。 MC D,S p D D,S p y* p* D S E MR 完全競争市場 独占市場 消費者余剰 消費者余剰 p* y* 厚生損失 E 生産者余剰 ミクロ経済学 生産者余剰
第9章 独占 ■異なる市場での価格差別 同一の財の市場が,需要の価格弾力性e の異なる2つの市場に分割できる場合に,独占企業はそれぞれの市場で異なる価格付けをすることができる。(例えば,映画館の入場料,飛行機料金,通話料金など) 市場1 (eが相対的に弾力的で,大きい) 市場2 (eが相対的に非弾力的で,小さい) 需給量 y O 価格p 需給量 y O 価格p D MR MR D p1 p2 y1 y2 MC MC ミクロ経済学
第9章 独占 ■異なる市場での価格差別 同一の財の市場が,需要の価格弾力性e の異なる2つの市場に分割できる場合に,独占企業はそれぞれの市場で異なる価格付けをすることができる。(例えば,映画館の入場料,飛行機料金,通話料金など) 【限界費用MCが一定の場合】 独占企業利潤p=市場1の収入TR1+市場2の収入TR2-費用C(y1+y2) =p1(y1)・y1+ p2(y2)・y2 -費用C(y1+y2) ミクロ経済学
第9章 独占 ■異なる市場での価格差別 独占企業の利潤最大化条件: 同一の財の市場が,需要の価格弾力性e の異なる2つの市場に分割できる場合に,独占企業はそれぞれの市場で異なる価格付けをすることができる。(例えば,映画館の入場料,飛行機料金,通話料金など) 【限界費用MCが一定の場合】 独占企業利潤p=市場1の収入TR1+市場2の収入TR2-費用C(y1+y2) =p1(y1)・y1+ p2(y2)・y2 -費用C(y1+y2) 独占企業の利潤最大化条件: 限界費用 MC = 市場1の 限界収入 MR1 市場2の 限界収入 MR2 需要の価格弾力性がより小さい市場では,より高い価格が付けられる。 e1 > e2 ならば, p1 < p2 ミクロ経済学
第9章 独占 ■非線形の価格付け 独占企業が,家計の購入量に応じて価格を変化させることを非線形の価格付けという。 例えば: たくさん購入すればするほど,追加の購入価格を下げて販売するような価格戦略を取る。 1 個目の購入 価格を10 2 個目の購入 価格を 8 3 個目の購入 価格を 6 ・ ・ 需給量 Y O 価格 10 こうした価格戦略は,需要曲線上での価格と購入量の組合せを実現するような価格付けである。 8 6 D ミクロ経済学
第9章 独占 ■非線形の価格付け 独占企業が,家計の購入量に応じて価格を変化させることを非線形の価格付けという。 例えば: たくさん購入すればするほど,追加の購入価格を下げて販売するような価格戦略を取る。 これは,独占でも市場が失敗しない特殊なケースである。 こうした価格戦略は,需要曲線上での価格と購入量の組合せを実現するような価格付けである。 消費者余剰はすべて独占企業に吸収される。独占企業にとって利潤最大化を実現するが,消費者にとっては消費しない場合と無差別である。 この場合に,社会的余剰は生産者余剰に等しくなり,最大にもなる。資源配分の効率性が確保される。 需給量 Y O 価格 社会的余剰(=生産者余剰) MC D ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■自然独占: より規模の大きい生産をする企業によって支配されるような独占を自然独占と呼ぶ。(例えば,電力,ガス,水道,電話,鉄道など,固定費用が非常に大きな公益事業に関する産業) 劣加法性: 生産量 y O 価格p 生産量yを1つの企業で生産する場合に,総費用について, c(y)=AC×y 生産量yを2つの企業で,それぞれx1とx2(但し,y=x1+x2)を生産する場合に,総費用について, c(x1)=AC1×x1 c(x2)=AC2×x2 この場合, c(y) < c(x1)+c(x1) AC AC1 AC2 AC y x1 x2 x2 y=x1+x2のときに, c(y) < c(x1)+c(x1) ならば,厳密に劣加法性であるという。 ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■自然独占: より規模の大きい生産をする企業によって支配されるような独占を自然独占と呼ぶ。(例えば,電力,ガス,水道,電話,鉄道など,固定費用が非常に大きな公益事業に関する産業) 劣加法性: y=x1+x2のときに, c(y) < c(x1)+c(x1) ならば,厳密に劣加法性であるという。 劣加法性は1つの企業が生産する方が,複数の企業に分割して生産するよりも,総費用が少なくて済むことを意味する。 そして,費用関数が厳密に劣加法性的であり,市場需要関数の下で独占企業が非負の利潤を得ているときに,自然独占の状態にあるという。 生産量yを複数の企業が分割して,それぞれを生産する場合に,もし, のときに, ならば,厳密に劣加法性であるという。 ミクロ経済学
社会にとって 最も望ましい状態 (限界効用=限界費用) 第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■限界費用価格形成原理 社会的余剰の比較: 需給量 y O 価格p 社会にとって 最も望ましい状態 (限界効用=限界費用) 生産量=y2 価格=p2 消費者余剰 独占企業利潤最大化の状態 生産量=y1 価格=p1 余剰の和 LMC D MR LAC 生産者余剰 p1 y1 p2 y2 ミクロ経済学
社会にとって 最も望ましい状態 (限界効用=限界費用) 第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■限界費用価格形成原理 社会的余剰の比較: 独占企業利潤最大化の状態は,社会的余剰の損失が生じる。 需給量 y O 価格p 社会にとって 最も望ましい状態 (限界効用=限界費用) 生産量=y2 価格=p2 余剰の和 消費者余剰 独占企業利潤最大化の状態 生産量=y1 価格=p1 余剰の和 LMC D MR LAC 負の生産者余剰 p1 y1 p2 y2 ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■限界費用価格形成原理 社会的余剰の比較: 社会的余剰の損失を解消するために,限界費用が市場需要と一致するように,生産量をy2,価格をp2に設定する。これが限界費用価格形成原理である。 需給量 y O 価格p 限界費用価格形成原理の下では, 企業の収入=p2・y2 企業の費用=LAC(y2)・y2 企業の利潤=(p2-LAC)・y2 < 0(赤字) この場合,政府の補助がなければ,この企業は長期にわたって生産を継続することができない。 LMC D MR LAC p1 y1 p2 y2 ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■X非効率性 この損失が政府からの一括の補助金で穴埋めさせることによって,生産を継続させることも考えられる。 但し,このことが企業が事前に知られると,費用最小化の誘因がなくなる。これによって発生する非効率性のことをX非効率性と呼ぶ。 需給量 y O 価格p 限界費用価格形成原理の下では, 企業の収入=p2・y2 企業の費用=LAC(y2)・y2 企業の利潤=(p2-LAC)・y2 < 0(赤字) この場合,政府の補助がなければ,この企業は長期にわたって生産を継続することができない。 LMC D MR LAC p1 y1 p2 y2 ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■X非効率性 この損失が政府からの一括の補助金で穴埋めさせることによって,生産を継続させることも考えられる。 但し,このことが企業が事前に知られると,費用最小化の誘因がなくなる。これによって発生する非効率性のことをX非効率性と呼ぶ。 次に,政府が補助金を出さずに,価格を平均費用に一致させるように規制すること(いわゆる平均費用価格形成原理)も考えれる。 この場合に,企業の損失はなくなるが,社会的余剰は小さくなる。 しかし,独占企業の赤字を回避するための価格の引き上げが保障されているので,X非効率性は必ずしも排除されていない。 需給量 y O 価格p 平均費用価格形成原理 社会的余剰 LMC D MR LAC p1 y1 p3 y3 p2 y2 ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 ■セットアップ・コスト 例えば,電力産業におけるダム建設などのように初期の固定費用が巨大のため,長期平均費用LACが常に市場需要曲線の上方にあり,どの生産量でも正の利潤が確保できなく,企業が独占利潤を最大化したとしても,利潤が負になるケースを考えよう。 独占企業利潤最大化の場合にかかるセットアップ・コスト 需給量 y O 価格p LMC (1)独占企業利潤最大化の場合 価格=p1 生産量=y1 p1 < AC1 利潤 < 0 (赤字) この赤字は補助金として政府が負担すれば,産業の維持が可能となる。 企業はこの産業の参入に際して,この分のセットアップ・コストが必要となる。 LAC D MR AC1 p1 y1 ミクロ経済学
第9章 独占 9.3 自然独占と規制 従って,産業確立のセットアップコストの大きさは,企業をどのように規制するかの政策に依存する。 ■セットアップ・コスト 例えば,電力産業におけるダム建設などのように初期の固定費用が巨大のため,長期平均費用LACが常に市場需要曲線の上方にあり,どの生産量でも正の利潤が確保できなく,企業が独占利潤を最大化したとしても,利潤が負になるケースを考えよう。 限界費用価格形成原理規制の場合にかかるセットアップ・コスト 需給量 y O 価格p LMC (2)限界費用価格形成原理規制の場合 価格=p2 生産量=y2 p2 < AC2 利潤 < 0 (赤字) この赤字は補助金として政府が負担すれば,産業の維持が可能となる。 企業はこの産業の参入に際して,この分のセットアップ・コストが必要となる。 LAC D MR AC2 p2 y2 ミクロ経済学
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 貯蔵が困難で,かつ需要が大きく変動する財は,ある時点で最大需要に達する現象がよく見られる。 (例えば,真夏の日中の電力需要,出勤・退勤時の電車混雑と道路渋滞など) 非ピーク時の需要曲線 需給量 y O 価格p このような財に対して,ピーク時に料金を高く,非ピーク時に料金を低くするように社会的に最適な料金設定のことをピーク・ロード料金(peak load pricing)という。 ピーク時の需要曲線
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■最適なピーク・ロード料金の設定原理 公益企業の短期費用=運営費用+資本費用 (可変費用) 人件費,燃料費など 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■最適なピーク・ロード料金の設定原理 公益企業の短期費用=運営費用+資本費用 運営の限界費用を一定とすると, 運営費用=限界費用b×生産量y 資本費用=各期の最大生産能力K ×限界資本費用b (固定費用) 設備の単位期間あたりの費用,利子支払い,減価償却費用など 非ピーク時の需要曲線 限界費用 MC 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K0 0期の最大生産能力をK0とする。 (1)K0以下の生産水準では限界費用はb(一定)である。 (2)K0以上の生産は短期的に不可能となり,限界費用は無限に上昇する。 b
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■最適なピーク・ロード料金の設定原理 公益企業の短期費用=運営費用+資本費用 運営の限界費用を一定とすると, 運営費用=限界費用b×生産量y 資本費用=各期の最大生産能力K ×限界資本費用b 非ピーク時の需要曲線 限界費用 MC 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K0 政府の目的:社会的余剰を最大化 (価格=限界費用) (1)非ピーク時に: p2=b (2) ピーク時に: p1=b+q1 p1=b+q1 q1 p2= b
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■最適なピーク・ロード料金の設定原理 公益企業の短期費用=運営費用+資本費用 運営の限界費用を一定とすると, 運営費用=限界費用b×生産量y 資本費用=各期の最大生産能力K ×限界資本費用b 非ピーク時の需要曲線 限界費用 MC 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K0 (1)非ピーク時に: p2=b (2) ピーク時に: p1=b+q1 ピーク時の収入=(b+q1)K0 ピーク時の費用=(b+b )K0 q1 > b ⇒ 企業は黒字になる。 q1 < b ⇒ 企業は赤字になる。 p1=b+q1 q1 p2= b
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■最適なピーク・ロード料金の設定原理 公益企業の短期費用=運営費用+資本費用 運営の限界費用を一定とすると, 運営費用=限界費用b×生産量y 資本費用=各期の最大生産能力K ×限界資本費用b 非ピーク時の需要曲線 限界費用 MC 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K0 K0 K0 q1 > b ⇒ 企業は黒字になる。 q1 < b ⇒ 企業は赤字になる。 Kが拡大すると, q1は小さくなる。 Kが縮小すると, q1は大きくなる。 p1=b+q1 q1 p2= b
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■最適なピーク・ロード料金の設定原理 公益企業の短期費用=運営費用+資本費用 運営の限界費用を一定とすると, 運営費用=限界費用b×生産量y 資本費用=各期の最大生産能力K ×限界資本費用b 非ピーク時の需要曲線 限界費用 MC 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K K0 生産能力Kの最適化: 社会的限界便益=b+q1 社会的限界費用=b+b b+q1=b+b ⇒ q1 =b K=(b+b )y1,p1=b+q1, p2=b p1 b+b 社会的限界便益=社会的限界費用 p1=b+q1 q1 p2= b
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■2部料金制度 2部料金制度:基本料金と従量料金の2つの部分からなる料金体系である。 (例えば,電気,ガス,水道料金など) 基本料金は消費者の最大需要 (契約容量 y*)に応じて資本費用 (=固定費用=ay*)が課される。 従量料金は限界費用価格形成原理 で設定され,価格p=bである。 限界費用 MC 非ピーク時の需要曲線 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K b+a b+b (1)消費者個人の予算制約式: py1+ py2+ay*+x =M (2)公企業の予算制約式: pY+aY*=bY+b K (但し,Yは各個人の需要の合計,Y*は各個人の契約容量の合計である。) p= b
第9章 独占 9.4 公益企業の料金規制 ■ピーク・ロード料金 ■2部料金制度 2部料金制度:基本料金と従量料金の2つの部分からなる料金体系である。 (例えば,電気,ガス,水道料金など) (1)消費者個人の予算制約式: py1+ py2+ay*+x =M (2)公企業の予算制約式: pY+aY*=bY+b K (但し,Yは各個人の需要の合計,Y*は各個人の契約容量の合計である。) Y=S(y1+y2) ので, pY=bY となる。 ∴ aY*=b K ⇒ a=b(K/Y*) Kは契約容量の合計に応じて設定されるので, K=Y*, 故に,a=b である。 2部料金の下でもピーク・ロード料金と同様に,最適資源配分が達成される。 限界費用 MC 非ピーク時の需要曲線 需給量 y O 価格p ピーク時の需要曲線 K b+a b+b p= b