小 島 平 夫 KOJIMA, Hirao 経営統計学担当(西南学院大学商学部) 西南学院大学公開講座「現代のビジネス−現状・理論・展望−」 (Friday, May 7, 2004) ビジネスと情報技術 企業財務情報の 将来予測 <ビジネス予測> 小 島 平 夫 KOJIMA, Hirao 経済学博士 (九州大学) M. B. A. (米国カーネギーメロン大学) 経営統計学担当(西南学院大学商学部) http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/
以下の流れで,話を進めます はじめに: 企業の財務情報とはどんなものか,どこにあるのか なぜ,その将来予測(ビジネス予測)をおこなうのか 実際に,ビジネス予測をおこない,公表している企業は:キャノン 誰が,予測を担当するのか 将来のいつまでを,予測するのか どのように,予測をおこなうのか <ビジネス予測の核心> 予測から見えてくる将来の特徴は何か;予測の精度は高いのか 精度の高いビジネス予測をどのように活かすのか 将来が現実となったとき,予測と現実との乖離は小さいか;その乖離にどう対応していくか まとめに代えて:ビジネス予測の Excel 演習 ビジネス予測関連文献 おわりに
はじめに: 企業の財務情報とはどんなものか 企業の財務情報: 決算書(商法では計算書類,証券取引法では財務諸表) 有価証券報告書(冊子) このような企業情報,その入手方法,国際会計基準の読み方,企業会計全般について解説: 企業会計向上委員会 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2818/ 注意:以下,Web ページの作成者側がURL を更新していることがあります 有価証券報告書(有報,ともいいます) 有報の様式(企業会計向上委員会による作成) http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2818/yuuhoutop.htm 有報の実例:キャノン (2004.4.8時点: 2003年1月-12月) http://www.canon.co.jp/ir/yuuhou/index.html
はじめに<続> : 企業の財務情報とはどんなものか 財務諸表 貸借対照表: 資産;負債,自己資本 損益計算書: 売上高,費用,利益(=売上高ー費用) http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/hirao/course_busstats.html#A1 財務諸表の実例:キャノン『有価証券報告書 』 前のスライドのリンクで pp.35-96:第一部「企業情報」第5「経理の状況」にあります
はじめに<続>: 企業の財務情報はどこにあるのか 各企業のホームページ:キャノンなど イーオーエル(eol): 全株式公開企業の有価証券報告書、財務諸表、決算短信等を提供(会員制) 西南学院大学図書館ウェブサイトからアクセス(ただし学生教職員のみ):http://www.eol.co.jp/ EDINET:証券取引法に基づく 有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム 金融庁:http://info.edinet.go.jp/Guide/ Hello! IR World:インベスターリレーションズとディスクロージャーに関する総合情報。各社決算短信、 有価証券報告書、事業報告書等 http://www.hello-ir-world.com/
なぜ 財務情報の将来予測 (ビジネス予測) をするのか 将来の不確実性が大きい,と考えられる程,将来予測,そしてそれに基づく計画,が重要となるでしょう 不安定で不確実な経済状況下で,企業経営者は意思決定する 企業経営をひとつの流れとして捉える: Plan - Do - See - Feedback はじめに,予測/計画あり: まず,予測情報の作成,「経営計画」立案,から始まる 私の話は,Plan, See, Feedback に沿うように,進めます 企業経営の流れ図: http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/plan-do-seeV.gif 日本では,経営者に予測情報の公表を義務づける制度がある 予測情報が株価に影響を与える可能性;予測情報の公開制度の意義 参考文献:後藤雅敏『会計と予測情報』(中央経済社)
なぜ 財務情報の将来予測 (ビジネス予測) をするのか<続;終> (5/7/04 配布資料にない追加) 具体事例:新規事業の採否を決定するために その事業から,将来2,3年に渡って生み出される,純キャッシュフロー =売上などのキャッシュインフロー マイナス 費用などのキャッシュアウトフロー これを,可能な限り客観的に,将来予想/予測することが重要 その予測値を使って,「事業の価値」を適正に測りたい 価値=現在価値: 将来得られるキャッシュフロー(100万円)を,現時点で評価した値のこと[<or=or> 100万円?] その価値が,例えば事業の立ち上げ時に被る費用より大きい[小さい]と,経営者は事業を採択[棄却],という決定を下すでしょう
実際に,ビジネス予測をおこない, 公表している企業は:キャノン 2003年度決算説明(2004年1月29日)での,2004年業績予想: http://cweb.canon.jp/co-profile/ir/conf03-2/p19.html 「業績予想(1) 〜 (4)」で,「2004年計画」を見ます キャノンは 売上高,利益などの業績予想(計画値)を,目標において経営計画を立て, その計画に沿うように,今年,様々な意思決定をおこなうことになるでしょう
誰が ビジネス予測を担当するか 経営計画担当者:経営計画の策定 販売担当者:売上高の予測 生産担当者:生産高(台数,個数など)の予測 統計学,統計分析専門家 会計,財務担当者 販売担当者:売上高の予測 生産担当者:生産高(台数,個数など)の予測 環境保全担当者: 環境経営,環境会計 環境保全コスト,環境保全効果の予測 環境活動の目標と実績 実例:パナソニックコミュニケーションズ(福岡市博多区美野島4丁目) http://panasonic.co.jp/pcc/environment/keikakusuishin.html 経営・製品の質管理関係者 質向上の目標とすべき国際基準:http://www.iso.ch/iso/en/iso9000-14000/index.html
将来のいつまでを 予測するのか 短期予測をしたいとき: 中期予測をしたいとき: 来週いっぱい 来月 次の四半期 次の半年間 次の1年間 今後3年間
どのように 将来予測するのか おおまかな方法 Excel(エクセル)を使う 身近かで,図を使って,分かりやすい しかし,荒っぽい (rough) 予測 将来の不確実性が小さい,と考えられるときに,適切 例えば,過去「右肩上がり」傾向の売上高を将来予測するとき,など 実例で,やってみましょう:Excel でビジネス予測 ただし,実例では,「将来の不確実性が大きい」最近の日本経済を取り上げますが
どのように 将来予測するのか<続> 緻密(ちみつ)な方法 RATS(ラッツ)など,を使う 専門的で難しく,経験を要する しかし,より細やか (sophisticated) 予測 将来の不確実性が大きい,と考えられるときに,適切 今日の日本の経済状況に当てはまりますね 西南学院大学商学部経営学科協議会『経営学総論』 この方法は,「経営統計」の章で取り上げていますので,そちらを参照して下さい
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ0> ステップ 0: 短期予測を目的とする 将来=これからの1年3か月 2002年第1四半期〜2003年第1四半期 現在までの期間を設定する 過去から現在まで=過去7年 1995年第1四半期〜2001年第4四半期 現時点=2001年第4四半期 注意点:将来の不確実性が大きい,と考えられるこれらの時期については,本来,緻密な予測方法が適切でしょう しかし,以下では,おおまかな予測方法 Excel を使ってみます
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ1> ステップ 1: 現在までの売上高情報を入手する 企業の情報源(既に触れました): 企業ウェブサイト,有料の企業情報データベース,など 産業別の情報源 財務省ウェブサイト (A) 四半期毎データのURL http://www.mof.go.jp/ssc/kihou.htm 業種は,製造業と非製造業まで分けられています (B) InternetExplorer 5.01以上または NetscapeNavigator 7.0以上を使った,最新のURL http://www.fabnet2.mof.go.jp/ 業種が細分化された時系列データを入手できます 以下では, (A) を用いて,産業=製造業,と設定し,その売上高予測を行います
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ2> ステップ 2: 現在までの産業別売上高を表にする 現在まで: 1995年第1四半期〜2001年第4四半期 対象産業 製造業 資本金が10億円以上の企業 表(次のスライド)
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ2続>
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ3> ステップ 3: 現在までの産業別売上高(ステップ2の表)をグラフにする:次のスライド
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ3続>
補足: 過去20年間の不況期 長期20年間(1982年第1四半期〜2001年第4四半期)で,現在までの日本経済の景気循環を概観しておく 3つの不況期: 円高不況期 1985年第3四半期-1986年第4四半期 平成1次不況期 1991年第1四半期-1993年第4四半期 平成2次不況期 1997年第2四半期-1999年第2四半期 次のスライドにグラフ
Excel で ビジネス予測:実例 <補足:長期20年>
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ4> ステップ 4: 現在までの売上高情報に依りつつ,将来予測をする ビジネス予測の核心 二つの方法: Excel(エクセル)の「関数」を使って予測 いろいろなビジネス予測方法が,「関数」として,用意されています データの傾向を利用する「トレンド関数」,など Excel(エクセル)の「グラフ」を使って予測 視覚的に分かりやすい 以下では,こちらを使います
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ4続> 「グラフ」で,ビジネス予測 ステップ4ー1: まず,現在までの売上高に沿って,直線と曲線を描く ステップ4ー2: 次に,それらの直線と曲線を将来に延長するような形で,将来売上高予測を描く 次のスライドにグラフ(4ー1,4ー2について) 後のスライドで,将来売上高予測の特徴を見ます
Excel で ビジネス予測:実例 <ステップ4終>
予測から見えてくる 将来の特徴は何か:実例 売上高将来予測の特徴(前スライドのグラフで調べます) 直線で予測すると 現在までと同様に,将来売上高は平たんで,伸び悩む 曲線で予測すると 現在までと違って,将来売上高は上昇の傾向を示す
予測の精度は高いのか:実例 直線と曲線のどちらの予測が,精度はより優れているか 将来が未知の状況下では,現在までの「予測誤差」を使って比較 予測誤差=予測値ー現実値 現在までの平均(平均二乗誤差 MSE,など)を計算し,これがより小さい方が精度が高い予測と判断される: 直線: MSE =1,062,082,267 曲線: MSE =1,010,857,369 したがって,精度のより高い,曲線を使った将来予測を採用したいと思います
(精度のより高い曲線の)売上高予測を,どう活かすか 曲線のビジネス予測:「これまでと違って,将来売上高は上昇する」 この楽観的予測は経営計画に反映され,したがって,以下の将来に関する様々な経営意思決定に影響を与える: もう一度,企業経営の流れ図 http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/plan-do-seeV.gif の頭ら辺を見て下さい: 生産量設定 新製品の研究開発 販売:広告宣伝,価格設定 人的資源管理:賃金,配置転換,採用人事 環境保全,経営・製品の質管理のための経営管理システム改善
それでは,将来が現実となったとき, 予測とその現実との乖離はどの程度か:実例 ここの話は,経営の流れ図 http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/plan-do-seeV.gif で 下の方(See のところ)に対応 実例を,グラフ (次のスライド)で見てみましょう 将来の現実は,全体的には,伸び悩んでいるようです その限りでは,直線予測(緑)も,いいみたいです しかし,将来の現実の後半になると,伸びる様子がうかがえる その点,曲線予測(赤)は,その上昇トレンドをうまくとらえています
それでは,将来が現実となったとき, 予測とその現実との乖離はどの程度か:実例 <続;終> それでは,将来が現実となったとき, 予測とその現実との乖離はどの程度か:実例 <続;終>
予測と現実との乖離に どう対応していくか ここの話は,経営の流れ図 http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/intro_business/plan-do-seeV.gif で 最下部から先頭に戻る(Feedback のところ)に対応します 現実との乖離(過大予測,過小予測)は,次回の新たなビジネス予測の際に,そして,次回の経営計画策定に,反映されなければならない: 今回,売上高の過大[小]予測であったならば 次回は下[上]方修正するような予測と経営計画策定が望ましいと考えられます これは,上図の先頭に戻り(フィードバック),経営コントロール(修正行動をとるための制御)を行うこと,にほかなりません このように,経営の流れ図先頭の予測/計画に戻って,再び,新たな企業経営の流れが始まることになります
まとめに代えて: ビジネス予測の Excel 演習 InternetExplorer 5.01以上または NetscapeNavigator 7.0以上を使って,財務省ウェブサイト http://www.fabnet2.mof.go.jp/ にアクセス 「法人企業統計四半期別調査(原数値)」をクリック 予測対象の業種(食料品,など),期間,財務項目を選択し,続けて,データのダウンロード,Excel で保存 ステップ 0 – 4 を踏んで,「グラフ」による財務情報の将来予測 予測の特徴,精度 将来予測を経営計画にどう反映させるか(Plan-Do-See-FeedbackのPlan) 将来が現実となったときの,予測と現実の乖離を調べる 現実との乖離を経営コントロールにどう活かすか(Plan-Do-See-FeedbackのSee-Feedback) 補足:財務省ウェブサイトの使い方,Excel の細かい操作方法,などの解説は,別の機会に譲ることとします。
ビジネス予測の 関連文献 統計学入門 ビジネス予測入門 ビジネス予測中級程度 ビジネス予測の 関連文献 統計学入門 Rowntree, D., Statistics Without Tears, Penguin Books, 1981. (加納 悟 訳『新・涙なしの統計学』新世社,2001年) 数式を使わずに統計学を学べる入門書 ビジネス予測入門 荒木勉『Excelで学ぶ経営科学入門シリーズ I:需要予測』(実教出版) Excel の操作を丁寧に解説 ビジネス予測中級程度 西南学院大学商学部経営学科協議会『経営学総論』の「経営統計」 新版が先月出版されました。本学生協に問い合わせください Granger, C.W.J., Forecasting in Business and Economics, Academic Press, 1989. (宣名真勇,馬場善久訳『経営・経済予測入門』有斐閣,1994年) Grangerは2003年にノーベル経済学賞受賞
おわりに 以上で話を終わります。ご清聴,ありがとうございました ビジネス予測について,みなさまの関心が深まったとすれば,とても幸いです! この講演は,以下の URL で,いつでも,閲覧できます: http://www.seinan-gu.ac.jp/~kojima/Ext/ そこでは,以下の二つのヴァージョンを用意しています: Web ページ版とパワーポイントファイル版 パワーポイントファイル版の方は,できましたら,Macintoshではなく, Windowsでご覧ください ご質問そして更に学習したい方など, kojima@seinan-gu.ac.jp まで,遠慮なくご連絡下さい