学童期の近視について ~近視進行抑制治療のトピックス~ 眼科からは、学童期の近視と近視進行抑制治療の最近のトピックスについて、お話しさせて頂きます。 木下 望 自治医科大学附属さいたま医療センター・眼科
眼球の構造 角膜 毛様体筋 毛様体筋 水晶体 強膜 網膜 まず最初に近視に密接に関係ある部位について、眼球の構造についてご説明致します。イラストは眼球の水平断面図ですが、上が眼球の前側、下が後ろ側になります。 一番前側にあるドーム状の透明な膜を角膜といい、光線を屈折させて眼球の中に集める役目があります。眼球全体の屈折力の3分の2を占めます。 虹彩の後ろにあるのが水晶体で、ピントの調節をするレンズの役目をしています。水晶体の屈折力は角膜の約半分で眼球全体の屈折力の3分の1です。 水晶体を取り囲むようにリング状に繋がっている筋肉が毛様体筋で、水晶体の厚みを調節する役目をしています。 遠くを見る時は毛様体筋がリラックスして水晶体を外側に引っ張り水晶体の厚みを薄くして屈折力を弱くします。近くを見る時はリング状に収縮して水晶体を外側に引っ張る力が弱くなり、水晶体の厚みが増し屈折力が強くなります。 角膜以外の眼球の一番外側の壁に相当する白い膜が強膜で、近視になるとこの強膜が伸びて眼球の奥行きの長さが長くなります。 その強膜の内側にある膜が脈絡膜と網膜で、(クリック)一番内側にある網膜は神経細胞や神経線維で出来ており、水晶体により網膜にピントを合わせられた像を脳に伝える役目をしています。 網膜 イラスト:日本眼科医会 HPより引用
近視とは 遠くを見る時にピントが網膜より前に結んでしまい、像がぼやける状態。 正視 近視 遠視 乱視 そして近視とは、遠くを見る時にピントが網膜より前に結んでしまい像がぼやける状態です。 イラストは、左から順に、正視、近視、遠視、乱視の模式図を示しています。 遠くを見る時に、 正視ではピントが網膜上に結び、はっきり見えます。 近視ではピントが網膜より前に結び、ぼやけて見えます。 遠視ではピントが網膜より後に結び、ぼやけて見えます。 乱視は縦方向と横方向のピントが違う位置で結び、二重に見えます。 イラスト:Academia Japan, Inc. HPより引用 正視 近視 遠視 乱視
近視の見え方 遠くの視標はぼやけて見えるが、視標を近づけていくとはっきり見えるようになる距離がある。 遠くを見る時 近くを見る時 近視の見え方としては、 (クリック)遠くの視標はピントが網膜より前に結ぶためぼやけて見えますが、(クリック)視標を近づけていくとどこかでピントが網膜上に合い、はっきり見えるようになる距離があります。 遠くを見る時 近くを見る時 イラスト:あたらしい眼科19(9)1152, 2002より引用
近視の度数 ジオプター(D) = - (はっきり見える距離の逆数) 例1:はっきり見える距離が50cm(= 0.5m)の場合 例3:はっきり見える距離が∞の遠方の場合 -1/∞ = 0D(正視) 近視の度数は、このはっきり見えるようになる距離の逆数に-を付けて計算することができます。この数字をジオプターといい、簡略化してDと表記します。 例えば、はっきり見える距離が、50cm=0.5mの場合、1割る0.5に-を付けて、-2ジオプターの近視になります。 はっきり見える距離が、10cm=0.1mの場合、1割る0.1に-を付けて、-10ジオプターの近視になります。 はっきり見える距離が、∞の遠方の場合は、1割る∞で0ジオプターとなり、正視になります。
学校検診の視力検査 5mの距離(遠く)の裸眼視力を測定。 0.1 ランドルト環 0.3 視標 0.7 1.0 ここで近視の度数と学校検診の視力検査との関係について説明致します。 学校検診の視力検査では、スライドのようなランドルト環視標による3.7.0方式の視力検査表を用いて、5mの距離つまり遠くの裸眼視力を測定します。 学校検診では日常の学校生活での見え方を知ることを目的としているため、0.3、0.7、1.0 の3視標によって判定します。 1.0 写真:Sanwa Manufacturing Co., Ltd. HPより引用
視力検査の判定方法 A 1.0以上 異常なし B 1.0未満0.7以上 要注意 C 0.7未満0.3以上 教室の後ろから黒板の字が見ずらい。 眼科要受診 D 0.3未満 教室の前からでも黒板の字が見ずらい。 視力検査の判定方法を表で示します。 1.0の指標が見えた場合は、A判定で異常なしです。 1.0の指標が見えず、0.7の指標が見えた場合は、B判定で要注意です。 0.7の指標が見えず、0.3の指標が見えた場合は、C判定で、教室の後ろの方から黒板の字が見ずらいと考えられ、眼科の受診が必要です。 0.3の指標が見えない場合は、D判定で、教室の前の方からでも黒板の字が見ずらいと考えられ、眼科の受診が必要です。
視力検査と近視度数の関係 裸眼視力が0.3だとしても、近視で見えないのか、遠視で見えないのか、病気で見えないのか不明。 原因を調べるには、眼科を受診して屈折検査、眼底検査などが必要。 最も多いのは近視で、C・D判定は矯正が必要。 遠くの裸眼視力と近視の度数は全く別物だが、ある程度は相関はする。 学校検診の視力検査と近視度数との関係についてですが、 裸眼視力が0.3だとしても、近視で見えないのか、遠視で見えないのか、または他の病気で見えないのかは判りません。 裸眼視力低下の原因を調べるには、眼科を受診して詳しい屈折検査や必要があれば眼底検査などが必要になります。 ちなみに最も多いのは近視ですが、C判定では授業中に、D判定では常時メガネなどの矯正が必要になります。 遠くの裸眼視力と近視の度数は全く別物ですが、近視の度数が強いほど遠くの裸眼視力は低下する傾向がありますので、ある程度相関はします。
近視の有病率 特に東アジア人において高いと報告。 日本人の有病率 多治見スタディ( 2000年~2001年)において、 -0.5Dより強い近視が 41.8% -5.0Dより強い近視が 8.2% と報告された。 近視の有病率は、特に東アジア人において高いことが報告されています。 日本人の有病率に関しては、2000年から2001年にかけて行われた多治見スタディにおいて、-0.5ジオプターより強い近視が41.8%、-5.0ジオプターより強い近視が8.2%と報告されており、他の東アジア諸国と同様に、日本でも近視の有病率が高いことが示されました。
(Sydney Myopia Study, 2004-2005 他) 近視発症進行の要因 (Sydney Myopia Study, 2004-2005 他) 1. 遺伝因子 両親とも近視ではない子供と比べ、 片親が 近視の子供は2.0倍 両親とも近視の子供は5.7倍 近視になり易い。 2. 環境因子 促進:過度の近業、都市部での生活、高いIQ・学歴 抑制:屋外活動時間(1日に1時間長いと13%減少) 近視発症進行の要因についてですが、2004-2005年に行われたシドニーマイオピアスタディーを始め、近年大規模な疫学研究が行われており、詳細に調べられています。 近視発症進行の要因としては、大きく分けて遺伝因子と環境因子の2つが挙げられます。 遺伝因子としては、両親とも近視ではない子供と比べ、片親が近視の子供は2.0倍、両親とも近視の子供は5.7倍近視になり易いと報告されています。 環境因子としては、過度の近業、都市部での生活、高いIQと学歴で促進されます。 屋外活動時間が長い程抑制され、屋外活動が1日に1時間長いと近視を13%減少させる作用があると報告されています。
近視発症進行のメカニズム 屈折説 過度な近業によって調節を司る毛様体筋が過緊張を起こし、水晶体の屈折力が増加して固まるために近視になるとの説。 次に近視発症進行のメカニズムですが、近年まで長い間、 過度な近業によって調節を司る毛様体筋が過緊張を起こし、水晶体の屈折力が増加して固まるために近視になるという屈折説と、 イラスト:Academia Japan, Inc. HPより引用
近視発症進行のメカニズム 眼軸説 過度な近業の刺激により眼球の奥行きの長さ(眼軸長)が伸びること(伸展)により、近視になるとの説。 過度な近業の刺激により、眼球の奥行きの長さ(眼軸長)が伸びること(伸展)により、近視になるという眼軸説の 二つが考えられていました。 しかしながら以前は、眼軸長を正確に測定する技術がなく、根拠のない論争が繰り返されていました。 ちなみに、佐藤・大塚論争と呼ばれています。 イラスト:Academia Japan, Inc. HPより引用
学童期の近視発症進行の機序 近年、眼軸長の計測技術の進歩により、学童期の近視発症進行は、軽度のものも含めてほとんどが眼球の奥行きの長さが伸びること(眼軸長の伸展)=眼軸説が原因であることが明らかになった。 しかしながら近年、眼軸長の計測技術の進歩により、学童期の近視進行は、軽度のものも含めてほとんどが眼球の奥行きの長さが伸びること(眼軸長の伸展)、いわゆる眼軸説が主な原因であることが明らかになりました。
仮性近視(偽近視) 毛様体筋の過緊張により軽い近視が始まり、その状態が持続することにより眼軸長が伸びて真性の近視になるという考え方。 毛様体筋の過緊張を取る治療により、近視が治る状態とされている。 その頻度は、軽い近視が始まった学童の数%で、まれな状態。 仮性近視(偽近視)という言葉を聞いたことがあると思います。 これは毛様体筋の過緊張により軽度の近視が始まり、その状態が持続することにより眼軸長が伸びて真性の近視になるという考え方です。 仮性近視であれば、毛様体筋の過緊張を取る治療をすることにより、近視が治る状態とされています。 しかしながらその頻度は、軽い近視が始まった学童の数%と言われ、まれな状態なので、3ヶ月程度治療して効果がなければ、真性の近視と考えるべきとされています。
眼軸長伸展の模式図 眼軸長伸展の模式図を示します。 上が正視眼、下が近視眼の模式図になります。 正視眼では遠くを見る時のピントの位置が網膜に合っていますが、近視眼では目の奥行きの長さ(眼軸長)が伸びて、ピントの位置が網膜より前に結んでしまうことにより、像がぼやけて見えるようになります。 イラスト:Universal Veiw 提供
眼軸長と近視度数の関係 眼球全体の屈折力は8歳頃までに正視化し、成人の眼軸長に達する。8歳以降に眼軸長が伸びると近視が進行する。 0D(正視眼)=眼軸長約24.0mm 1mm眼軸長が長いことは、約3.0D近視度数が強いことに相当。 眼軸長と近視度数の関係をご説明致します。 眼球全体の屈折力は8歳頃までに正視化し、成人の眼軸長に達します。8歳以降にさらに眼軸長が伸びるとその分近視が進行することになります。 成人において、0ジオプターの正視眼の眼軸長は、約24.0mmです。 1mm眼軸長が長いことは、約3.0ジオプター近視度数が強いことに相当します。 したがって、眼軸長が25mmであれば約-3.0ジオプターの近視、26mmであれば-6.0ジオプターの近視、27mmであれば-9.0ジオプターの近視と推定することができます。
強度近視の眼底写真 ともに左眼 向かって左の写真は、0ジオプター、眼軸長23.64mmの正視眼の眼底写真です。
強度近視の定義 国際的な基準:近視度数が-6.0Dより強い 国内での基準: ①近視度数が-8.0Dより強い ②眼軸長が27.0mmより長い 強度近視の定義ですが 国際的には、近視度数が-6.0ジオプターより強いという基準が採用されています。 しかしながら近視の有病率の高い日本国内では、-8.0ジオプターより強いという基準が提案されています。1998年東京医科歯科大学の所元教授らは-8.0ジオプターを超える近視において、95.9%に何らかの視機能障害を認めると報告しています。 また眼軸長の過伸展が病的な網膜症を引き起こすため、眼軸長が27.0mmより長いという基準も提案されています。2012年に報告された久山町スタディで、眼軸長27.0mm以上の近視の23.4%に網膜症を認めると報告されています。
強度近視のリスク 強度近視になると網膜が引き伸ばされ萎縮することにより、緑内障、黄斑変性症、網膜剥離の発症リスクが高まる。 強度近視は我が国の失明原因の第5位。 (厚生労働省平成17年度研究報告書) 強度近視になると網膜が引き伸ばされ萎縮することにより、緑内障、黄斑変性症、網膜剥離の発症リスクが高まります。 また強度近視は、厚生労働省平成17年度研究報告書によると、我が国の失明原因疾患において、第1位緑内障、第2位糖尿病網膜症、第3位網膜色素変性、第4位加齢性黄斑変性に次いで、第5位を占めるという怖い病気です。
小学生の裸眼視力低下者の推移 小学生の裸眼視力低下者の推移をグラフで示します。 裸眼視力0.7未満の者の割合は、1979年当時は約8%、13人に1人程度でしたが、徐々に増加傾向を辿り、2012年には約20%、5人に1人程度に達しています。 裸眼視力0.7未満の者とは、学校検診の視力検査でC判定とD判定の者の合計で、近視の場合、メガネなどの矯正が必要になる視力です。 裸眼視力低下者なので、厳密には近視以外も含まれていますが、実質的にはほとんどが近視の増加を反映しているとみなされています。 近視が増加している原因として、中学受験などの勉強量の増加や携帯ゲーム・スマートフォンの普及などが考えられています。
近視発症の低年齢化の影響 近視は発症年齢が低い程進行しやすい。 近視発症の低年齢化により、今後、強度近視の割合が増加することが予想される。 近視は発症年齢が低い程、成長期であることや近視の進行が止まるまでの期間が長いこともあり、強い近視に進行しやすい傾向があります。 近視発症の低年齢化により、今後、強度近視の割合が増加することが予想されています。
近視進行抑制治療の必要性 子供の近視進行を早期の段階で予防することは、将来、強度近視になるのを食い止めるために重要。 しかしながら、強度近視への進行を予防する治療方法は未だ確立していない。 したがって、子供の近視進行を早期の段階で予防することは、将来、強度近視になるのを食い止めるためにとても重要です。 しかしながら、強度近視への進行を予防する治療方法は未だ確立していません。
従来の近視進行抑制治療 過度な近業によって調節を司る毛様体筋の過緊張を起こし近視になるとの説=屈折説に基づいた治療が行われてきた。 先程もお話し致しましたが、近年まで我が国では、過度な近業によって調節を司る毛様体筋の過緊張を起こし近視になるとの説、いわゆる屈折説に基づいた治療が行われてきました。
屈折説に基づいた治療方法 望遠訓練法=遠くの視標を見る訓練 超音波治療器=毛様体筋をマッサージ 0.4%トロピカミド点眼薬(ミドリンM ® 、サンドールMY ® )=調節麻痺薬 低矯正メガネ=近業時の調節を抑える 屈折説に基づいた治療方法として、 遠くの視標を見る訓練である望遠訓練法、 毛様体筋のマッサージ効果を期待する超音波治療器、 調節麻痺薬である0.4%トロピカミド点眼薬、商品名でいうとミドリンM、サンドールMYの点眼、 近業時の調節を抑える目的で処方される低矯正メガネ などが挙げられます。
治療効果の科学的根拠 これらの屈折説に基づいた治療方法の すべてにおいて、近視進行抑制効果の 科学的な根拠を示す研究報告は存在しない。 しかしながら、これらの屈折説に基づいた治療のすべてにおいて、近視進行抑制効果の科学的な根拠を示す研究報告は存在しないのが実情です。 ここで余談ですが、私は中学1年生の時に、近視になりました。近視を治したくて、遠くの山を見たり、目の体操をしたり、その当時10万円以上した超音波治療器を両親に土下座して頼み込んで買ってもらいましたが、結局治りませんでした。 そこで将来眼科医になって近視の研究をしようと思いたったことが、私が医師志した理由でした。
ピンホール効果 小さい穴を通してみると光線が細い線状になり、ピントが合う範囲が広くなる現象。 近視の人が目を細めると、遠くが少し見やすくなる理由。 アイマスクにいくつかの小さい穴を開けたピンホールマスクが、視力回復を謳ってインターネットなどで販売されているのをみたことがある人がいると思います。 このピンホールマスクは、ピンホール効果を利用しています。 ピンホール効果とは、小さい穴を通してみると光線が細い線状になり、ピントが合う範囲が広くなる現象です。したがって、遠くも近くもピント調節をする必要がなくなり、近視の人でも遠くが見やすくなります。 近視の人が目を細めると、遠くが少し見やすくなるのは同様の理由です。 ピンホールマスクをすると、遠くが見やすくなりますが、近視進行抑制効果の科学的根拠はありませんので、ご注意下さい。 イラスト:BANRAI Inc..HP より引用
今後の近視進行抑制治療 過度な近業の刺激により眼軸長が伸展し近視になるとの説=眼軸説に基づいた治療が必要である。 近年、眼軸長の伸展を抑制する科学的な根拠に基づいた研究が報告されるようになった。 したがって、今後の近視進行抑制治療は、過度な近業の刺激により眼軸長が伸展し近視になるとの説、眼軸説に基づいた治療が必要です。 近年徐々に、眼軸長の伸展を抑制する科学的な根拠に基づいた研究が報告されるようになってきました。
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% そこで現在までに、国際的に信用の高い眼科の医学雑誌に掲載された報告をもとに、近視進行抑制率ランキングを作成致しました。 各治療の詳細は、後ほど詳しくご説明致します。 第1位は1%アトロピン点眼薬で抑制率77%、第2位は0.01%アトロピン点眼薬で抑制率59%、第3位はオルソケラトロジーで抑制率36%、第4位は軸外収差抑制コンタクトレンズで抑制率34%、第5位は軸外収差抑制メガネ、商品名MyoVision®で抑制率30%、第6位は累進多焦点メガネ、商品名MCレンズ® で抑制率15%と報告されています。
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% 各治療の詳細を、詳しくご説明致します。 まずは、第1位、近視進行抑制率77%の1%アトロピン点眼薬についてですが、
第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77%(Chua WH et al. Ophthalmology. 2006) 副交感神経遮断作用による散瞳・調節麻痺目的ですでに市販されており、主に検査で使用。 現在、最も強い近視進行抑制効果を有する。 作用機序は、眼軸長伸展を刺激するムスカリン受容体のブロック。 瞳孔が広がってまぶしい、近くが見づらいなどの副作用が強く、日常的な点眼は実際には不可能。 2006年にChuaらによって報告されました。 副交感神経遮断作用による散瞳・調節麻痺目的ですでに市販されており、主に検査で使用されてきました。 現在、最も強い近視進行抑制効果を有すると認められています。 作用機序は、眼軸長伸展を刺激するムスカリン受容体をブロックすると考えられています。 しかしながら、瞳孔が広がってまぶしい、近くが見づらいなどの副作用が強く、日常的な点眼は実際には不可能でした。
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% 次に、第2位、近視進行抑制率59%の0.01%アトロピン点眼薬についてですが、
第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? (Chia A et al. Ophthalmology. 2012) 1%アトロピン点眼薬を生理食塩水などで100倍に希釈して作製。 まぶしい、近くが見づらいなどの副作用を認めず、日常的な使用が可能でかつ近視進行抑制効果を有すると報告されている。 ただし、この報告は2006年の論文の無治療群と近視の進行程度を比較しているため、明確に何%抑制するのかは今後さらなる検討が必要。 2012年にChiaらによって報告されました。 市販されている1%アトロピン点眼薬を生理食塩水などで100倍に希釈して作製します。 まぶしい、近くが見づらいなどの副作用を認めず、日常的な使用が可能でかつ近視進行抑制効果を有すると報告されています。 ただし、この報告は先程の2006年の論文の無治療群と近視の屈折度数で進行程度を比較しており、また眼軸長については測定方法が異なり、明確に何%抑制するのかは今後さらなる検討が必要と考えられますので、?マークを付けました。
アトロピンが近視進行を抑制する理由 ~ムスカリン受容体のブロック~ 以前はアトロピンは、強力な調節麻痺作用を介して近視進行を抑制すると考えられていた。 近見障害を認めないほど低濃度(0.01%)にしても効果を認めることが報告された。 現在ではアトロピンが眼軸長伸展作用のあるムスカリン受容体を直接ブロックするためと考えられている。 アトロピンが近視進行を抑制する理由はムスカリン受容体をブロックするためと先程お話し致しましたが、もう少し詳しくご説明致します。 以前はアトロピンは、ミドリンMなどのトロピカミドよりも、強力な調節麻痺作用を介して近視進行を抑制すると考えられていました。 しかし、近見障害を認めないほど低濃度にしても効果を認めることが報告され、さらにミドリンMなどのトロピカミドは近視進行抑制効果を持たないことより、 現在ではアトロピンが眼軸長伸展作用のあるムスカリン受容体を直接ブロックするために近視進行を抑制すると考えられています。
ムスカリン受容体のブロックのイメージ アセチルコリン アトロピン 強膜 ムスカリン受容体 ムスカリン受容体 ムスカリン受容体のブロックのイメージをイラストで示します。 近くを見ることにより、眼軸長伸展を促進するアセチルコリンが放出され、眼球の一番外側の壁である強膜のムスカリン受容体にくっつくことにより、強膜が伸びて眼軸長の伸展を刺激します。 アトロピンを点眼することにより、眼軸長伸展を促進するアセチルコリンが強膜のムスカリン受容体にくっつくのをブロックし、眼軸長の伸展を抑制します。 イラスト:Johnson & Johnson HPより引用 ムスカリン受容体 ムスカリン受容体
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% 次に第3位、近視進行抑制率36%のオルソケラトロジーについてですが、
第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% (Kakita T et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 寝ている間に特殊な形状をしたコンタクトレンズを装用することで、日中裸眼で過ごすことができる。 近年、子供の近視進行を抑制することが世界各国より報告されている。 感染予防のために通常のコンタクトレンズ同様、洗浄・消毒が必要。 自由診療のためやや高価(15~25万円)。 2011年に我が国の筑波大学のKakita先生、Hiraoka先生らによって報告されたほか、多数の報告があります。 オルソケラトロジーの特徴をスライドに示します。 寝ている間に特殊な形状をしたレンズを装用することで、角膜の形状を矯正し、朝レンズをはずしても日中裸眼で過ごすことができます。 また近年、子供の近視進行を抑制することが世界各国より報告されています。 感染予防のために通常のコンタクトレンズ同様、洗浄・消毒が必要ですので、ずさんなレンズケアをすると角膜にキズがついたりバイキンが付き、角膜潰瘍になることがあります。 自由診療のため各クリニックにより価格が異なり、15万円~25万円程度とやや高価です。
オルソケラトロジーレンズの形状 高酸素透過性ハードコンタクトレンズ オルソケラトロジーレンズの形状をイラストで示します。 オルソケラトロジーレンズは、レンズの内面が、中心部からベースカーブ、リバースカーブ、フィッティングカーブ、ペリフェラルカーブの4つのカーブにより成り立つ特殊な形状をした高酸素透過性のハードコンタクトレンズです。 この特殊な形状により、角膜の前面中心部をフラットに押さえ、平坦化させることにより角膜を矯正します。 イラスト:Universal View HPより引用 イラスト:Universal View HPより引用 高酸素透過性ハードコンタクトレンズ
オルソケラトロジーの近視矯正の仕組み オルソケラトロジーの近視矯正の仕組みをイラストで示します。 レンズ装用前は、遠くを見る時のピントの位置が網膜より前にずれています。 夜間寝ている間に角膜の前面中央部をフラットに押さえ平坦化させるオルソケラトロジーレンズを装用し、角膜にくせ付けをします。1日最低5~6時間以上の装用が推奨されています。 日中レンズを外した後も角膜の中央部に平らなくせが付き、角膜の屈折力が小さくなるため、ピントの位置が網膜上に合い、裸眼で遠くを見ることができるようになります。 しかしながら、角膜のくせは1~2日程度で元に戻ります。そのため、毎晩レンズを装用する必要があります。 イラスト:Universal View HPより引用
オルソケラトロジーのメリット オルソケラトロジーのメリットをイラストで示します。 野球やサッカーなどのほこりっぽい野外の激しいスポーツや水泳やダイビングなどの水中のスポーツなど、眼鏡やコンタクトレンズでは不便なスポーツを裸眼で安全に楽しめます。 イラスト:いらすとや HPより引用
オルソケラトロジーが近視進行を抑制する理由 ~軸外収差の抑制~ オルソケラトロジーが近視の進行を抑制する理由として軸外収差の抑制が考えられていますが、イラストで説明致します。 まず近視無矯正の場合、遠くを見る時に網膜中心部および周辺部のピントが網膜より前に結ぶため、ぼやけて見え、生活に支障があれば近視矯正が必要になります。 メガネによる近視矯正の場合、網膜中心部のピントは網膜上に結びますが、網膜周辺部でのピントが網膜より後ろに結ぶため、近視進行(=眼軸長伸展)を刺激します。 オルソケラトロジーによる近視矯正の場合、角膜の中心部のみを平坦化し、角膜の周辺部は近視無矯正の状態のままであるため、網膜中心部のピントは網膜上に結びますが、網膜周辺部のピントが網膜より前方に結ぶため、近視進行(=眼軸長伸展)を刺激しません。 そのため、メガネ矯正に比べて近視が進行しずらいと考えられています。 近視無矯正の場合 ピントが網膜より前方に結ぶため、ぼやけて見えます。 メガネ矯正の場合 網膜周辺部のピントが網膜より後方に結ぶため、近視進行を刺激します。 オルソケラトロジー矯正の場合 網膜周辺部のピントが網膜より前方に結ぶため、近視進行を刺激しません。 イラスト:Universal View 提供
オルソケラトロジー・ガイドライン (2009年日本コンタクトレンズ学会策定) 1. 適応年齢:20歳以上 治験が20歳以上を行われたため。 2. 適応屈折度数: 近視度数は-4.0~-1.0D、乱視度数は1.5D以下 3. 角膜内皮細胞:2000個/mm2以上 眼科専門医が処方し、市販後調査の成績で適応は再検討されるべきと明記。 オルソケラトロジー・ガイドラインは、国内でオルソケラトロジーレンズが厚生労働省に承認された2009年に日本コンタクトレンズ学会によって策定されました。 このガイドラインによると、適応年齢が20歳以上となっていますが、治験が親権者の同意が必要ない20歳以上で行われたためとのことです。 その他、近視度数は-4.0~-1.0ジオプター、乱視度数は1.5ジオプター以下、角膜内皮細胞は1平方ミリメートルあたり2000個以上などの基準が定められました。 日本眼科学会認定の眼科専門医が処方を行い、オルソケラトロジーレンズの市販後調査の成績で適応は再検討されるべきと明記されています。
オルソケラトロジー・ガイドライン改定の動き 子供における近視進行抑制効果が世界各国より相次いで報告されるに従い、ガイドラインの適応年齢は実情に合わないものになってきた。 6歳~16歳で両親がコンタクトレンズを管理でき、成人代諾者の文書による同意が取得できる者を対象者として治験が開始。 2014年11月の日本臨床眼科学会での中間報告では、有効性、安全性ともに良好と報告。 しかしながらその後、オルソケラトロジーの子供における近視進行抑制効果が世界各国より相次いで報告されるに従い、大人よりむしろ子供に処方されることの方が多くなり、ガイドラインにおける適応年齢20歳以上は、実際の臨床現場と合わないものになってきました。 そこで最近、オルソケラトロジー・ガイドラインの適応年齢を改定する動きが出てきています。 対象年齢が6歳~16歳で両親のいずれかがハードコンタクトレンズを管理でき、成人代諾者の文書による同意が取得できる者を対象として治験が開始されました。 2014年11月の日本臨床眼科学会での中間報告では、有効性、安全性ともに良好で未成年者への装着は成人と比べて差はないと報告されました。
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% 次に第4位、近視進行抑制率34%の軸外収差抑制コンタクトレンズについてですが、
作用機序はオルソケラトロジーと同様、軸外収差の抑制。 周辺部に行くほどレンズの屈折力を弱めたソフトコンタクトレンズを日中装用。 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% (Sankaridurg P et.al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2011) 作用機序はオルソケラトロジーと同様、軸外収差の抑制。 周辺部に行くほどレンズの屈折力を弱めたソフトコンタクトレンズを日中装用。 感染予防のために通常のコンタクトレンズ同様、洗浄・消毒が必要である。 まだ市販されておらず現在のところ入手は困難。 2011年にSankaridurgらによって報告されました。 作用機序はオルソケラトロジーと同様、軸外収差の抑制で、抑制率もオルソケラトロジーと近似しています。 周辺部に行くほどレンズの屈折力を弱めたソフトコンタクトレンズを日中装用し、網膜周辺部が過矯正にならないよう工夫をされています。 感染予防のためオルソケラトロジーレンズや通常のコンタクトレンズ同様、洗浄・消毒が必要ですので、ずさんなレンズケアをすると角膜にキズがついたりバイキンが付き、角膜潰瘍になることがあります。 まだ市販されておらず、現在のところ一般的には入手は困難な状況です。
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% 次に第5位、近視進行抑制率30%の軸外収差抑制メガネ、商品名MyoVisionについてですが、
作用機序はオルソケラトロジー、軸外収差抑制コンタクトレンズと同様、軸外収差の抑制。 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% (Sankaridurg P et.al. Optom Vis Sci. 2010) 作用機序はオルソケラトロジー、軸外収差抑制コンタクトレンズと同様、軸外収差の抑制。 抑制率が前2者に劣るのは、メガネなので視線の動きによりセンタリングがずれやすいためと考えられている。 現在国内でも多施設臨床試験中だが、まだ市販されていない。 洗浄・消毒の手間がかからない。 2010年に同じくSankaridurgらによって報告されました。 作用機序はオルソケラトロジー、軸外収差抑制コンタクトレンズと同様、軸外収差の抑制です。 周辺部に行くほどレンズの屈折力を弱めたメガネを日中装用し、網膜周辺部が過矯正にならないよう工夫をされています。 抑制率が前2者に劣るのは、メガネなので視線の動きによりセンタリングがずれやすいためと考えられています。 現在、MyoVisionという商品名で、国内でも多施設臨床試験中ですが、まだ市販されていません。 メガネなので、コンタクトレンズのような洗浄・消毒の手間がかからないメリットがあります。
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% 最後に第6位、近視進行抑制率15%の累進多焦点メガネ、商品名MCレンズについてですが、
いわゆる老眼に使用する遠近両用メガネで、近業時の調節を軽減することを目的とする。 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% (Gwiazda J et.al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003) 作用機序は近業時の調節ラグの抑制。 いわゆる老眼に使用する遠近両用メガネで、近業時の調節を軽減することを目的とする。 子供の場合、近用部を上手く使用できないため、近視進行抑制効果が弱い。 すでに市販されている。 洗浄・消毒の手間がかからない。 2003年にGwiazdaらによって報告されました。 作用機序は近業時の調節ラグの抑制です。 いわゆる中年以降の老眼に使用する遠近両用のメガネを子どもにかけさせて、近用部で近くを見させることにより、近業時の調節を軽減することを目的としています。 老眼ではレンズの近用部でしか近くが見えないのですが、子供の場合は、遠用部でも近くが見えてしまうので近用部を上手く使うことができないことが多く、そのため近視進行抑制効果が弱いと考えられています。 すでにMCレンズとして、カールツアイス社より市販されています。 メガネなので洗浄・消毒の手間がかからないメリットがあります。
近業時の調節ラグ 近方視時 遠方視時 MCレンズの作用機序である近業時の調節ラグについてイラストでご説明致します。 調節ラグとは、近くを見る時に調節量が不足して、網膜の中心部においてピントが網膜より後ろへずれることです。 このずれによるピントのぼけを眼球が補正しようとして、眼軸長を伸ばす刺激となり、近視が発生し進行すると考えられています。 遠方視時 イラスト:あたらしい眼科19(9)1152, 2002より引用
累進多焦点メガネ 累進多焦点メガネの仕組みをスライドに示します。 レンズの上方は遠くにピントが合う度数になっています。下方に行くに従い近くにピントが合う度数になり、近くを見る時に調節をしなくても近くが見える構造になっています。 累進多焦点メガネは、近くを見る時の調節量を減らすことにより、先程説明しました調節ラグを抑制し、近視進行を抑制することを狙っています。 しかしながら、中年以降の老眼では調節力がないため、レンズの近用部でしか近くが見えないのですが、子供の場合は、調節力がり遠用部や中間部でも近くが見えてしまうので近用部を上手く使うことができないことが多く、そのため近視進行抑制効果が弱いと考えられています。 メガネのオガワ HPより引用
軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 近視進行抑制率ランキング 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% 第4位 軸外収差抑制コンタクトレンズ 抑制率34% 第5位 軸外収差抑制メガネ=MyoVision® 抑制率30% 第6位 累進多焦点メガネ=MCレンズ® 抑制率15% ここまで6つの科学的な根拠のある近視進行抑制治療について解説いたしましたが、現在入手可能で効果が最も期待できるのは、アトロピン点眼薬とオルソケラトロジーです。
アトロピン点眼薬とオルソケラトロジー アトロピン点眼薬 長所:高い近視進行抑制率、安価 短所:濃度を下げると抑制効果も少し下がる 矯正効果がないため、矯正が必要 オルソケラトロジー 長所:近視矯正効果と進行抑制効果を持つ 短所:近視進行抑制率は30%台、高価 アトロピン点眼薬とオルソケラトロジーの長所と短所をスライドにまとめました。 アトロピン点眼薬は、高い近視進行抑制率を有し、安価に入手できます。しかし副作用を軽減さるため濃度を下げると近視進行抑制効果も少し下がります。また近視を矯正する効果はないため、メガネやコンタクトレンズなどの何らかの近視矯正が必要になります。 オルソケラトロジーは、近視矯正効果と近視進行抑制効果を併せ持ちます。しかし近視進行抑制率は30%台で単独ではアトロピン点眼薬に劣ります。また入手するために高額な費用が掛かります。
近視進行抑制治療の重要性 脳梗塞や心筋梗塞の発症予防のために高血圧や糖尿病のコントロールが重要。 強度近視および緑内障、黄斑変性症、網膜剥離の発症予防のためには、近視の進行抑制(=眼軸長の伸展抑制)が重要。 ここで話が変わりますが、脳梗塞や心筋梗塞の発症予防のために高血圧や糖尿病のコントロールが重要であることは、ご存知だと思います。 それと同様に、強度近視およびそれに続発する緑内障、黄斑変性症、網膜剥離の発症予防のためには、近視の進行抑制(=眼軸長の伸展抑制)が重要だと考えられます。
併用治療の有効性 高血圧や糖尿病の治療では、副作用を軽減しつつ最大限の効果を得るために、作用機序の異なる治療薬を併用する。 近視においても、作用機序の異なる治療の併用により、副作用を軽減しつつ最大限の近視進行抑制効果を得ることが、強度近視の発症予防に重要。 高血圧や糖尿病の治療において、副作用を軽減しつつ最大限の効果を得るために、相乗効果、相加効果を期待して作用機序の異なる治療薬を併用することがしばしばあります。 近視においても、作用機序の異なる治療の併用により、副作用を軽減しつつ最大限の近視進行抑制効果を得ることが、強度近視の発症予防に重要と考えられます。
相乗効果・相加効果 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? + 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% ≧? 第2位? 0.01%アトロピン点眼薬 抑制率59%? + 第3位 オルソケラトロジー 抑制率36% ≧? 第1位 1%アトロピン点眼薬 抑制率77% 近視進行抑制率第1位の1%アトロピン点眼薬は、副作用が強いため実用不可能ですが、これを薄めて副作用の少なくした第2位の0.01%アトロピン点眼薬と第3位のオルソケラトロジーを組み合わせれば、もしかすると第1位の1%アトロピン点眼薬に匹敵もしくはそれを上回る効果が得られるかもしれません。
理想的な近視進行抑制治療 0.01%アトロピン点眼薬の 矯正効果がなく、副作用軽減のため抑制効果が少し下がった短所を、 オルソケラトロジーの 矯正効果があり、かつ近視進行抑制効果を有する長所でカバーすれば、 副作用が少なく、効果の強い理想的な近視進行抑制治療となる可能性がある。 0.01%アトロピン点眼薬の矯正効果がなく、副作用軽減のため抑制効果が少し下がった短所を、 オルソケラトロジーの矯正効果があり、かつ近視進行抑制効果を有する長所でカバーすれば、副作用が少なく、効果の強い理想的な近視進行抑制治療となる可能性があると考えられます。 またオルソケラトロジーは高価ですが、0.01%アトロピン点眼薬は安価に入手できるため、併用による経済的負担はあまり大きくなりません。
近視進行=眼軸長伸展 ここで繰り返しますが、近視進行の原因は、眼軸長の伸展で、過伸展し網膜が薄くなると、失明原因になります。 イラスト:Academia Japan, Inc. HPより引用
近視進行予防プロジェクト 当センターとさいたま市内の眼科医院およびレンズメーカーの共同プロジェクト。 最終的な目標としては、強度近視への進行を予防する治療方法の確立を目指している。 まずオルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用が、オルソケラトロジー単独よりも強い近視進行抑制効果があるかを確認する。 そこで自治医科大学附属さいたま医療センターとさいたま市内の眼科医院およびレンズメーカーが共同で、近視進行予防プロジェクトを立ち上げました。 本プロジェクトの最終的な目標としては、強度近視への進行を予防する治療方法の確立を目指しています。 まずオルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用が、オルソケラトロジー単独よりも強い近視進行抑制効果があるかを確認する共同研究を実行中です。
『オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用による近視進行抑制効果の検討』 近視進行予防プロジェクト第一弾 『オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用による近視進行抑制効果の検討』 この講演の最後に、当センター眼科が中心になって実行中の近視進行予防プロジェクトの第一弾である『オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用による近視進行抑制効果の検討』についてご説明させて頂きたいと思います。
近視進行抑制の共同研究 当センター眼科、こんの眼科、大宮はまだ眼科および株式会社ユニバーサルビューとの共同研究。 文部科学省より科学研究費の助成を受けている。 当センターの倫理審査委員会において、適切な研究であると承認されている。 この研究は、当センター眼科とさいたま市内の眼科医院であるこんの眼科、大宮はまだ眼科およびレンズメーカーである株式会社ユニバーサルビューとの共同研究です。 文部科学省より科学研究費の助成を受けています。 また、当センターの倫理審査委員会において、適切な研究であると承認されています。
近視進行抑制研究の実施方法 この研究の実施方法についてご説明致します。
①実施施設 こんの眼科 大宮はまだ眼科 自治医大さいたま医療センターでは、計画および統括を行っており、実施はしていません。 こんの眼科 大宮はまだ眼科 自治医大さいたま医療センターでは、計画および統括を行っており、実施はしていません。 実施施設は、こんの眼科と大宮はまだ眼科です。自治医大さいたま医療センターでは、計画、統括を行っており、実施はしておりません。
②オルソケラトロジー用コンタクトレンズ 東レ『ブレスオーコレクト®』 毎日眠前に着用し、6時間以上装用する。 (販売:株式会社ユニバーサルビュー) 毎日眠前に着用し、6時間以上装用する。 オルソケラトロジー用コンタクトレンズは、国内メーカーである東レのブレスオーコレクトを使用しています。株式会社ユニバーサルビューが販売を行っています。 基本的に毎日眠前に着用し、6時間以上装用して頂きます。
③対象者 オルソケラトロジーを希望する出生時体重1500g以上の8~12才の男女。 事前の適性検査で、近視度数-6.0~-1.0D、乱視度数1.50D以下、近視度数の左右差1.50D以下、矯正視力1.0以上。 斜視・弱視などの眼疾患、循環器・呼吸器疾患などの全身疾患、アトロピンアレルギーの既往、オルソケラトロジー・アトロピン点眼薬治療中は除外。 対象者ですが、オルソケラトロジーを希望する出生時体重1500g以上の8~12才の男女で、事前の適性検査で近視度数が-6.0~-1.0D、乱視度数が1.50D以下、近視度数の左右差が1.50D以下、矯正視力1.0以上である必要があります。 ただし、斜視・弱視などの眼疾患、循環器・呼吸器疾患などの全身疾患、アトロピンアレルギーの既往、オルソケラトロジー・アトロピン点眼薬により治療中の方は除外しております。
④治療グループと予定人数 Aグループ: オルソケラトロジー+0.01%アトロピン点眼グループ 予定人数 40人 Bグループ: 予定人数 40人 Bグループ: オルソケラトロジー単独グループ 事前に作成された割付表に従い無作為に割り振られます。治療グループを選ぶことはできません。 治療グループと予定人数を示します。 Aグループが、オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼併用グループで、B.グループがオルソケラトロジー単独グループです。 予定人数は各グループとも40人です。 治療グループは、事前に作成された割付表に従い無作為に割り振られますので、治療グループを選ぶことはできません。
⑤評価方法 両グループとも通常のオルソケラトロジー同様、適性検査、フィッティング検査のため、装用開始日、装用開始翌日、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後に診察。 この研究のための定期検査は、角膜の形状および裸眼視力が安定する装用3ヶ月後から開始。眼軸長測定、角膜内皮細胞検査、遠見および近見視力検査、眼圧検査を施行。 評価方法を示します。 まず両グループとも通常のオルソケラトロジー同様、適性検査、フィッティング検査のため、装用開始日、装用開始翌日、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後に診察させて頂きます。 この研究のための定期検査は、角膜の形状および裸眼視力が安定する装用3ヶ月後から開始になります。眼軸長の測定、角膜内皮細胞検査、遠見および近見視力検査、眼圧検査を行います。
⑥0.01%アトロピン点眼薬 Aグループは、オルソケラトロジー装用3ヶ月後から0.01%アトロピンの点眼を開始。 0.01%アトロピン点眼薬は、富士薬品の調剤薬局で清潔操作により、市販されている1%アトロピン点眼薬を生理食塩水で100倍希釈して作製。 オルソケラトロジー用コンタクトレンズを装用する5分以上前に0.01%アトロピン点眼薬を1日1回夜寝る前に点眼。 Aグループの方は、オルソケラトロジー装用3ヶ月後から0.01%アトロピンの点眼を開始して頂きます。 0.01%アトロピン点眼薬は、富士薬品の調剤薬局で清潔操作により、市販されている1%アトロピン点眼薬を生理食塩水で100倍希釈して作製しております。 オルソケラトロジー用コンタクトレンズを装用する5分以上前に0.01%アトロピン点眼薬を1日1回夜寝る前に点眼します。
⑦定期検査 以後3ヶ月毎に2年間定期受診。 毎回、眼軸長測定、角膜内皮細胞検査、遠見および近見視力検査、眼圧検査を施行。 継続不可能な副作用および眼疾患を認めた場合は中止。 定期検査は、以後3ヶ月毎に2年間定期的に受診して頂きます。 毎回、眼軸長の測定、角膜内皮細胞検査、遠見および近見視力検査、眼圧検査を行います。 継続不可能な副作用および眼疾患を認めた場合は中止いたします。
⑧費用補助・交通費の支給 参加者には、オルソケラトロジーの費用を補助。 定期検査開始後、1年経過時と2年経過時の2回に分けて合計20,000円を上限に交通費を科学研究費から支給。 この研究にご参加いただいた方には、オルソケラトロジーの費用を補助させていただきます。 この研究のための定期検査開始後、1年経過時と2年経過時の2回に分けて合計20,000円を上限に交通費を科学研究費から支給させていただきます。
⑨参加することにより期待される利益 両グループともオルソケラトロジーによる近視進行(=眼軸長伸展)抑制効果が期待できます。 また0.01%アトロピン点眼薬を併用したグループでは、近視進行抑制の相加効果も期待できます。 参加することにより期待される利益として、 両グループともオルソケラトロジーによる近視進行(=眼軸長伸展)の抑制効果が期待できます。 また0.01%アトロピン点眼薬を併用したグループでは、近視進行抑制の相加効果も期待できます。
⑩研究期間 平成26年6月30日から平成30年3月31日まで 参加者募集期間は、平成27年12月31日まで 研究期間は、平成26年6月30日から平成30年3月31日までです。 なお、参加者募集期間は、平成27年12月31日までとなっておりますので、ご興味のある方はお早目に、こんの眼科、大宮はまだ眼科を受診して頂けると幸いです。
近視進行抑制併用治療のイメージ オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用による近視進行抑制治療のイメージをイラストで示します。 近視進行による眼軸長の伸展を、オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼薬の併用で押し返すイメージです。 イラスト:Academia Japan, Inc. HPより引用
まとめ 学童期の近視進行は、眼球の奥行きの長さが伸びること(眼軸長の伸展)が主な原因。 強度近視になると網膜が引き伸ばされ萎縮することにより、失明原因になる。 子供の近視進行を早期の段階で予防することは、将来、強度近視になるのを食い止めるために重要。 まとめをお示し致します。 学童期の近視進行は、眼球の奥行きの長さが伸びること(眼軸長の伸展)が主な原因です。 強度近視になると網膜が引き伸ばされ萎縮することにより、失明原因になります。 子供の近視進行を早期の段階で予防することは、将来、強度近視になるのを食い止めるために重要です。
今後の近視進行抑制治療の展望 強度近視への進行を予防する治療方法は未だ確立していない。 近年、眼軸長の伸展を抑制する科学的な根拠に基づいた研究が報告されるようになった。 副作用が少なくかつ効果が強い、近視進行抑制治療の確立が望まれる。 今後の近視進行抑制治療の展望ですが、 強度近視への進行を予防する治療方法は未だ確立していません。 しかしながら近年徐々に、眼軸長の伸展を抑制する科学的な根拠に基づいた研究が報告されるようになってきました。 副作用が少なくかつ効果が強い、近視進行抑制治療の確立が望まれます。
ご静聴ありがとうございました。 兵庫県豊岡市竹野浜 写真は夏休みに帰省しました私の地元の兵庫県豊岡市の竹野浜です。