有限差分法による 時間発展問題の解法の基礎

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有限差分法による 時間発展問題の解法の基礎 地球流体力学研究室 川畑 拓也

目次 目的 関数の離散化 差分近似と有限差分法 移流方程式の有限差分解法 数値計算において重要な事柄 打切り誤差 適合性 収束性 安定性 丸め誤差 まとめ 今後の方針 参考文献

1. 目的 金星の雲対流は地球の雲対流とはかなり異なるようだ 金星の雲対流を数値シミュレーションにより解明したい Mesinger & Arakawa (1976) に沿って 数値計算で用いる代表的な手法 の一つである有限差分法を理解する 差分化・数値計算に伴う問題の概要を知る

2. 関数の離散化 簡単のため、独立変数 x の関数 を考える x軸上のとびとびの点で u(x) を表わし、微分を差分で近似して数値計算する 簡単のため、独立変数 x の関数 を考える x軸上のとびとびの点で u(x) を表わし、微分を差分で近似して数値計算する 分割した点のことを格子点と呼ぶ ある区間を j 分割して : 差分間隔 Δx u j x 1 2 3 ・・・ j-1 j

3. 差分近似と有限差分法 差分近似 差分近似を元の方程式へ代入し、数値計算する 有限差分法 例えば を以下のように近似 前進差分近似 例えば を以下のように近似 差分近似を元の方程式へ代入し、数値計算する 前進差分近似 後退差分近似 中心差分近似 有限差分法

F. Mesinger and A. Arakawa (1976) 4. 移流方程式の有限差分解法 移流方程式 差分近似すると 式②は式①を差分化した式 Δx、Δtはそれぞれ x と t の差分間隔 : …① , (定数) …② 2変数の差分化 F. Mesinger and A. Arakawa (1976)

5. 数値計算において重要な事柄 打切り誤差 (truncation error) 適合性 (consistency) 差分化したときに生じる誤差 適合性 (consistency) 差分方程式が元の方程式に収束するか 収束性 (convergence) 差分解が解析解に収束するか 安定性 (stability) 差分解は有界か 丸め誤差 (round-off error)

6. 打切り誤差 (truncation error) 解析解の格子点での値を、差分方程式に代入したときの残差 と を の周りでそれぞれTaylor 展開 式①の例 元の式 差分化した式 打切り誤差 (≡ε) …③

7. 適合性 (consistency) 差分間隔 、 を十分小さくしたとき、近似された導関数が真の導関数に収束する性質 式①での例 差分間隔 、 を十分小さくしたとき、近似された導関数が真の導関数に収束する性質 式①での例 誤差は③式の右辺で表わされているので、 のとき , 適合性がある .

8. 収束性 (convergence) 差分間隔を十分小さくすると、差分方程式の解が元の方程式の解に収束する性質 式①での例 適合性があるからといって収束性があるとは限らない 式①での例 解: 収束性の必要条件 (CFL 条件) 特性曲線       と依存領域 (http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/~kimoto/fd_note.htm)

9. 安定性 (stability) 厳密解が有界のとき、 としても差分解が有界である性質 代表的な安定性の判定法 直接法 エネルギー法 厳密解が有界のとき、 としても差分解が有界である性質 代表的な安定性の判定法 直接法 誤差あるいは数値解が有界であることを直接証明 エネルギー法 数値解のノルムが有界であることを証明 Von Neumann 法 解をフーリエ級数に分解し、1つ1つの成分の安定性を調べる

10. 丸め誤差 (round-off error) 打切り誤差を小さくするために差分間隔を小さくとると、丸め誤差が顕著に表れてくる を計算する際に桁落ちが生じる 桁落ちとは、ごく近い値同士の引き算によって有効数字が減少してしまう現象 適切な差分間隔を見極める必要 問題によって誤差の発生は異なるので、その都度実験して確かめるしかない

11. まとめ 有限差分法とは、偏微分方程式に現れる微分を差分で置き換えて解く方法のこと 有限差分法では「打切り誤差」「適合性」「収束性」「安定性」という概念が重要 数値計算による丸め誤差の影響があるため、近似を良くしようとむやみに差分間隔を小さくしても精度は向上しない

12. 今後の方針 差分法を用いた雲対流モデル (deepconv) に金星の雲物理を組み込む Baker and Schubert (1998) を再計算する Imamura and Hashimoto (2002) をレビューし、H2SO4雲について学ぶ 金星探査機 Akatsuki のデータとシミュレーション結果との比較検討

13. 参考文献 Mesinger, F., and A. Arakawa, 1976: Numerical Methods used in atmospheric models. GARP Publication Series, 17, 1, p1--8. Dule R. Durran, 1998 : Numerical Methods for Wave Equations in Geophysical Fluid Dynamics. Springer, p39--47. 河村 哲也, 2006 : 数値計算入門. サイエンス社, 165 pp. 伊理 正夫, 藤野 和建, 1985 : 数値計算の常識. 共立出版株式会社, p52--58. 木本 昌秀 : 地球流体力学における時間発展問題の解法 , http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/~kimoto/fd_note.htm 清水 慎吾, 佐野 哲也, 内藤 大輔 : Von Neumann の解析, http://www.rain.hyarc.nagoya-u.ac.jp/laboratory/OB//shimizu/SUUTI/6.pdf 富阪 幸治 : 数値安定性, http://th.nao.ac.jp/~tomisaka/Lecture_Notes/Simulation_Astrophysics/simulation_041.pdf