音読評価と音声分析の関係 飯野 厚(法政大学) 籔田由己子(清泉女学院短期大学) iino@hosei.ac.jp 飯野 厚(法政大学) iino@hosei.ac.jp 籔田由己子(清泉女学院短期大学) yabuta@seisen-jc.ac.jp 1
研究の背景:なぜ音読評価なのか 教師にとって、生徒の音読の実態を把握する機会 になる。 評価をすることによって、授業内の音読活動を活性 化するウォッシュバック効果が期待できる。 評価の観点や基準にもとづいてフィードバックするこ とによって音読の質の向上が期待できる。(音韻体 系の習得)
音読の理論的位置づけ 単語レベルの研究(Coltheart et. al, 2001など) 音読のプロセス 文字(文字列)を認識して音声化できる →語レベルの音声化ができる→意味処理を伴った 語の音声化 *練習によってdecoding処理が自動化 (automatic decoding) 句や文レベルの音読を想定したモデルはない
音読の認知的枠組み(語認識モデル) 音声ルート: 文字を認識して音声化ができる 赤 音節・音素レベルのdecoding 意味ルート 語レベルで認識して、意味へのアセスを伴った音声化ができる 青 word recognition with lexical access)
先行研究 (1)音読の評価に関する研究 山口・清水(2009) 音読評価の観点 (5つ) Iino, Yabuta, & Thomas(2011)音読評価の観点(3つ) (2)英文音読の音声分析に関する研究 中里 ・マイヤー(1990)日本及び韓国の大学生によって 音読された英文の音声分析 (3)音読と英語習熟度に関する研究 宮迫(2002) 音読と英語力 Iino, Yabuta, & Thomas(2011)音読観点と習熟度
研究課題 (1)人による音読評価と音声分析ソフトによるデータ の関係を探る (2)音声分析データと英語習熟度の関係を探る
データ収集方法 研究協力者 短期大学1年生(英語専攻・非英語専攻混在) 61名(上位2クラス・下位2クラス) 研究協力者 短期大学1年生(英語専攻・非英語専攻混在) 61名(上位2クラス・下位2クラス) 必修科目「英語演習」(前期、CALL使用) 4月、6月、7月に音読テスト 英語習熟度の指標としてCASEC(総合的習熟度)、 ELPA(文法力)、ERPR(読解力)を実施 CASEC:4月、7月、ELPA:4月、EPER:7月
音読データの収集方法 テキストは英検2次試験の音読用テキスト 上位クラスは準2級、下位クラスは3級 初見の文章を紙で提示後、1分間黙読 PCを利用して音読(1回テイク) 音声ファイル回収 評価者による評価後、返却 上記のプロセスを、4月、6月、7月に実施 それぞれのデータ収集の間に行われた授業では、 毎回の授業始業時15分間の音読練習を行った
音読用テキスト(サンプル) (上位群 準2級) In the past, almost all nurses used to be women. Nowadays, the number of male nurses is increasing. They are as efficient as female nurses. Beside, most patients say that it does not matter whether the nurse is a woman or a man. Skills and personality are more important factors than being male or female. (下位群 3級) One of the most popular drinks in England is tea. When English people take a short rest at work, they like to drink tea. This is called a “tea break.” In other European countries, like France, people like to drink coffee more than tea. When you visit a friend’s house in England, your friend will always offer you a cup of tea or coffee. It’s better to choose tea, because English tea is delicious!
(1)人による評価方法: 音読評価の観点 日本人英語教員2名による評価 評価観点は下記の通り 評価 観点 正確さ 英語らしさ 流ちょうさ 下位 項目 ・正確に読めている ・調音を英語らしく行おうとしている ・ストレス ・リズム ・イントネーション ・適切なスピード ・ポーズの置き方 スケール 1-5 Iino, Yabuta, Thomas (2010)より
(1)人による評価: 評価者間信頼性係数 対象:全サンプルの30%(上位14名・下位15名) 上位:4月分・6月分・7月分の平均 α=.830 下位:4月分・6月分・7月分の平均 α=.780 全体 α =.805
(2)音声分析ソフトによる分析 使用したソフトウエア 『音声工房プロ』 (NTTアドバンストテクノロジ) 分析結果で得られる数値 Ample(音声の強さ):振幅の平均二乗根 Pitch(音声の高さ):ピッチ周波数 Cmax(有声音らしさ):共分散の最大値 k1(有声音らしさ):1次の偏相関係数の値
(2)音声分析ソフトによる分析 データ処理の方法 分析結果は10msごとに数値が示される 無声区間の排除(閾値0.7) Ample, C_Max, k1は平均値を算出 Ample平均値→「音声の強さ」の指標 Pitch平均値を算出→「音声の高さ」の指標 Pitch 標準偏差を算出→「音声の高低差」の指標 C_MAX+k1/2→「有声性」の指標
結果 (1)人による音読評価 4月 6月 7月 正確さ 2.8 3.2 英語らしさ 2.6 2.9 3.0 流ちょうさ 3.1 合計 8.2 4月 6月 7月 平均 (M) 標準偏差(SD) 正確さ 2.8 1.0 3.2 英語らしさ 2.6 0.8 2.9 0.7 3.0 流ちょうさ 0.9 3.1 合計 8.2 2.3 9.2 2.4 *各観点の記述統計詳細データは割愛するがいずれの項目も非正規分布を示した
結果 (2)音声分析ソフトによる分析 4月 6月 7月 平均 (M) Ampl 1968.6 1790.67 1716.97 Pitchz 標準偏差(SD) (M) Ampl 1968.6 938.03 1790.67 1219.21 1716.97 1386.8 Pitchz 229.4 15.3 227.93 15.95 227.45 16.08 PitchSD 20.82 5.21 22.65 9.34 23.27 8.86 Pitch2SD 40.81 10.21 44.39 18.3 45.62 17.37 C_MAX 0.26 0.04 0.25 0.23 k1 0.98 0.01 0.93 0.06 0.92 0.1 有声性 0.74 0.07 0.67 0.18 0.59
結果 (3)英語習熟度テスト CASEC(習熟度) 4月平均:354.7点(SD=98.1)/1000点 EPER(読解力) 28.7 点(SD= 11.0 ) / 76点 ELPA(文法) 64.3点(SD=22.1) /100点
分析(1) 音声分析結果と音読評価の関係 (Kendall順位相関) 4月 正確さ 英語らしさ 流ちょうさ 評価合計 音声の強さ .060 .050 .177 .104 音声の高さ .236 * .183 .212 .235 ** 音声の高低差 .224 .402 .160 .254 有声性 .134 .030 .258 .167 6月 .023 .109 .087 .148 .093 .152 .140 .284 .219 .108 .173 .238 .195 7月 .071 .027 .233 .139 .203 .138 .119 .158 .189 .271 .247 .237 .149 .377 .304
分析(2) 音声分析結果と CASEC・EPER・ELPAとの関係 4月 4CASEC 4VOC 4EXP 4LCOMP 4DICT 文法 読解 音声の強さ .120 .136 -.019 .080 .107 .041 .047 音声の高さ .180 * .161 .088 .010 .197 .081 .105 音声の高低差 .227 ** .211 .267 .221 .132 .231 .214 有声性 .179 .157 .009 .100 .198 .059 .151 7月 7CASEC 7VOC 7EXP 7LCOMP 7DICT 文法 読解 音声の強さ .087 .079 .126 .028 .004 .129 .105 音声の高さ .194 * .116 .232 .133 .190 .104 .178 音声の高低差 .212 .130 .334 ** .174 .217 .200 有声性 .055 .091 .095 .021 .039 .100 .101
考察(1) 音声分析結果と音読評価の関係 音声の高低差(ピッチの振幅)と、「総合評価」およ び「英語らしさ」に関係が見いだされた(3回の測定 で常に、有意で弱い正相関) →音の高低の顕在化が「英語らしさ」の判定に影響を 与え、総合的にも「上手い音読」となる可能性
考察(1) 音読評価と音声分析の関係 続き 音声の有声性と「流ちょうさ」に関係が見いだされた (3回の測定で常に、有意で弱い正相関) 考察(1) 音読評価と音声分析の関係 続き 音声の有声性と「流ちょうさ」に関係が見いだされた (3回の測定で常に、有意で弱い正相関) →調音している音声の音価(文字が示す音)がはっき りとしていること(有声・無声)の別が流ちょうに聞こ える可能性。
考察(2) 英語習熟度と音声分析の関係 習熟度(CASEC総合点)と、音声の高さ(ピッチ)およ び音声の高低差(ピッチの振幅)の間に弱い正相関 →低く平坦な音声での読み方(いわゆる「お経読み」 ではないの学習者の習熟度が高め、といえるのでは ないか(またはその逆) Expressionの知識(CASEC下位項目)と音声の高 低差の間に弱い正相関 →音の高低を付けられる学習者は対話知識に富ん でいるのではないか(またはその逆)
考察(2) 英語習熟度と音声分析の関係 続き Dictation(CASEC下位項目)は音声の高さと弱い相関 考察(2) 英語習熟度と音声分析の関係 続き Dictation(CASEC下位項目)は音声の高さと弱い相関 →音と文字の関連付けが弱い学習者は低音に偏った 音読をするのではないか(またはその逆) 文法(ELPA) と音声の高低差の間に弱い相関 →ELPAが測るチャンク認識力が高い学習者は音変化 をともなった音読をするのではないか(またはその逆) 読解(EPER)と音声の高低差に弱い相関 →読解力のある学習者は音変化をともなった音読をす るのではないか(またはその逆)
結論 (1)人による音読評価と音声分析ソフトによるデータ の関係を探る 音声の高低差(ピッチの振幅)が、英語のストレス、 リズム、イントネーションなど韻律的要素の指標とな り、「英語らしさ」「うまい音読」につながっている (2)音声分析データと英語習熟度の関係を探る 文法や読解力も含めて習熟度が高い学生は音の高 さに敏感であり、音声の高低差(ピッチの振幅)をつ けた音読ができる
引用文献 中里 知恵子,マイヤー A.M.(1990).「日本及び韓国の大学生によ って音読された英文の音声分析」音聲學會會報 194, 29-38 宮迫靖静. (2002). 「高校生の音読と英語力は関係があるか」. STEP Bulletin,Vol.14, 14-2.5 山口陽弘・清水真紀. (2009). 「英語学習者のための音読テストの 信頼性の検討」.群馬大学教育学部紀要人文・社会科学編,第58 巻, 155-168 Iino, A. Yabuta,Y. & Thomas J. (2011). Relationship Between Criteria for Reading Aloud Evaluation and English Proficiency.中部地区英語教育学会紀要, 40,159-166