第11回 「多文化共生」を問い直す 個性の時代から多様性の時代へ.

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第11回 「多文化共生」を問い直す 個性の時代から多様性の時代へ

Q.あなたは、自分の身近で生活して いる人びとの多様性をめぐる理解や現 状をどのように捉えていますか? ワークシートの問い Q.あなたは、自分の身近で生活して いる人びとの多様性をめぐる理解や現 状をどのように捉えていますか?

1.<多文化共生>

排外主義 「ふつう」 多様性

「地域における多文化共生推進プラン」 (2006年、総務省) 多文化共生=「国籍や民族などの異なる人々が、互いの ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地 域社会の構成員として共に生きていくこと」。 コミュニケーション支援(e.g. 日本語の習得) 生活支援(e.g. 住宅支援) 多文化共生の地域づくり(e.g. まちづくり)

「多文化共生」という言葉 多文化主義(Multiculturalism)という言葉のなかの「多文化」。 1970年代以降に環境問題や人権問題などに対する近代化への反省を こめた「共生」という言葉。 和製語としての多文化共生が初めて主要新聞社紙面に登場したのは、 1993年1月12日『毎日新聞』(=川崎市で開催された開発教育国際 フォーラムに関する記事)。 1995年の阪神淡路大震災後に立ち上げられたNPO法人・多文化共生 センターの存在によって、決定的に広まることとなる。

「共生」 自然科学に適用されていた言葉。 戦後の高度経済成長や近代化がもたらした意図せざる結果 に対する反省の意味が込められ、人間関係にも応用されて 用いられるようになる。 花崎皋平は、『アイデンティティと共生の哲学』 (1993)のなかで、1970年代以降の部落、障碍者、女性 の解放、民族差別撤廃や権利回復運動といったアイデン ティティ政治の実践を通じて「共生」の倫理が育まれてき たことを指摘している。

草の根市民活動から(1) 神奈川県川崎市 在日コリアンの集住する川崎区桜本地区周辺における地域の教育実 践。韓国系キリスト教会を母体として1969年に設立された桜本保育 園と、1973年に認可された社会福祉法人青丘社が拠点となった。 1970年代の日立就職差別裁判闘争への参加から、民族差別に対する 実践や行政との交渉をすすめた。 1986年には「川崎市外国人教育基本方針――主として在日韓国・朝 鮮人教育」が制定された。 1988年には川崎市からの委託事業として、在日コリアンの地域実践 の拠点としての「ふれあい館」が設置された。

草の根市民活動から(2) 大阪府高槻市 1970年ごろから高槻第六中学校で在日コリアンの児童生徒を対象 とした子供会活動が開始された。 高槻六中の教師や高槻市教職員組合の支援により、高槻むくげの 会(14~18歳)を結成する。 1985年には、高槻市教育委員会が正式な事業として同会の活動を 引き継ぐこととなった。 高槻市職員の国籍条項撤廃(1980年度より)に成功した。

戦略的本質主義 (strategic essentialism) マイノリティに対する社会的不平等是正や権利の獲得、自 尊感情の醸成のために、民族的アイデンティティ(ethnic identity)=「差異」を全面的に掲げる。 カミングアウト(e.g. 部落民宣言、本名宣言) 民族や文化が均質的(=一枚岩)なものとして規定される

「共生」の変容 1980年代半ばには、言論界や広告情報界において「キャッチフレー ズとしての「共生」」の氾濫が生じており、「そのブームは、商品 に美的な陰影を加えるイメージとしての「共生」を流通させること であって、共生が含み持つ共苦の側面、現実の矛盾との現場での格 闘の側面を切り離す作用を伴っていた」(花崎皋平 2001)。     「共生」の消費社会化(e.g. 韓流ブーム) 1980年代末ころからは、グローバル化と外国人労働者の増加にとも なった産業界や経済界によって外国人との共生の必要性が謳われて おり、共生という言葉が自然と切り離されていった(金泰泳 1999)。       「共生」の経済化(ダイバーシティ・マネジメント)

2.Diversity ~グレーゾーンを考える~

ダイバーシティ(多様性) 人権 経済

ダイバーシティ(多様性)と二つの異なるベクトル 人権の尊重(社会運動) 異なる文化や価値観を持った人びとの違いを認める社会。 社会運動を通じて権利を獲得し、不平等を是正してきた。 経済的な効果(市場メカニズム) グローバル化時代に適合的な、多様な文化や価値観を持つ人びとが 住んでみたいと思う都市をつくる。 多様な文化や価値観こそが、新たに「差異」を生み出し、新しい技 術のイノベーションや創造性(creativity)を生み出す。 e.g. Richard Florida, “Creative class”

共生への反発 反(嫌)グローバル主義 Backlash(バックラッシュ) グローバル化による雇用の流動化や生活の不安定感から生じる不安。自 分たちの仕事が「奴ら」に奪われるかもしれないという不安。 Backlash(バックラッシュ) グローバル化時代(福祉国家の縮小化)における「日本人」の権利 の縮小と、福祉国家時代に獲得された女性やマイノリティの権利に 対する反発。 消費社会的な好き嫌い 韓流ブーム/嫌韓流(愛憎関係に存在するような自己/他者との関 係性が存在しない)。

白黒つけるぜ!? 思想的な「正しさ」(=歴史的な社会運動を通じて獲得 した権利VS「日本人」の権利)の対立。Q. 在特会の主張 は「バカげたもの」か?  人権的な観点からの「正しさ」と経済的効率性の観点か らの「正しさ」。Q.多様性の選別をどのように克服する ことができるだろうか? e.g.「渋谷区男女平等及び多様 性を尊重する社会を推進する条例」

奇妙な三角関係 排外主義者 カウンター 「普通の人々」

普通(=多数派)の人々とは誰なのか? 在特会にもカウンターにも興味を示さない(感じない)通 行人(=白黒つけていない人びと、あるいは両方とも 黒?)。 身近な世界において見え難くなっている、自分とは異質な ものとして認識される「他者」の存在(=見え難くなって いる多数派の人びとの多様性)。

私は誰か、「他者」とは誰か、を学びなおすこと 「正しさ」VS「正しさ」のあいだ コピペされた言葉(在特会から首相まで)。 反知性主義(Anti-intellectualism)。 「バカげたものとみなす」(レス・バック 2014)。 相手をバカにするのではなく、自分もまたバカだという こと(=ネズミ男)に気づくこと。 私は誰か、「他者」とは誰か、を学びなおすこと

3.<文化>を学び直す 個性の時代から多様性の時代へ

「警察官になりたい」 在日コリアン3世(朝鮮籍)、ドコモショップ勤 務の若者の語り。 何か使命感を抱くことのできる仕事を?正社員? 専門職? 在日コリアンのアイデンティティにアテハマラナ イ(博士論文に位置づけることは断念)。

学びなおし(=バカになる) 印象に残ること、「迫力」を感じること。 専門家だから分からなくなっていること、=実は誰でも分 かること(感じること)。 ある語りの背景にある、その前提となっている言葉の世界、 感情、条件、文脈、考えなど(=メッセージ)を受け止め ること。 「正しい」とされる知識・情報を問い直すこと。コピペさ れた言葉を問い直すこと。

「警察官になりたい」というセリフのもう一つ(いくつもの)意味 「警察官になることはできない可能性、日本 国籍を取得することをめぐる様々な問題や諸 手続き、そして日本国籍を取得しても警察官 に採用されることの不確かさについても同時 に述べている」(川端 2013)

いかに「差異」 =アイデンティティを捉えなおし、 多様性に溢れる社会を再想像できるのか?

本質主義的理解と陥穽 私たち一人ひとりが違うのだという想像力を社会で共 有する(マイルド化する社会に抗して)。 「差異」を強調することが、私/彼・彼女、我々/奴 らのあいだの分断を強調してしまう。 帰属する集団による同調圧力という息苦しさ。

構築主義的理解と陥穽 民族・文化的アイデンティティは本質的(=原初的)な ものではなく、文化的に構築されるもの。 一枚岩ではなく、混淆的(hybrid)なものとしての民 族・文化的なアイデンティティ。 「差異」が何なのかが極めて曖昧となる。 (e.g. 「お前も俺と同じだよ!」)

個人とアイデンティティの 結びつきを解きほぐすことが必要 (個性から多様性へ)

多様なアイデンティティが交錯する私たち 一つのアイデンティティには回収されない多面的な存在としての自己。 様々な社会的分類が個人を貫き、またそれぞれに対応することを通じ て、多面的な繋がりのなかでアイデンティティが成立している。 アイデンティティは個人に帰属するものではなく、「他者」と交渉す ることによって形成される。 マイノリティ性(=自己が育む多様な側面のなかで捨象されてしまう部 分)を、「他者」と遭遇する場面において共に育む

“Intersectionality”(交錯) Anthias (2010)

マイルド化する社会のなかで 多様化か再没個性化か? マイルド化する「他者」のイメージ(ヤンキーか らホームレスまで)。 公的なイメージから私的(消費者的)なイメージ へ(共有不可能なイメージ)。 公的な領域における「差異」/多様性(色々な人 が共に生きていること)を学びなおす必要性。

リア充オタク?

「他者」の消費(=消失) 自分や社会を映し出す鏡としての「他者」。 「他者」の喪失は、アイデンティティ形成のプロセスに おける参照点の喪失を意味し、自分や社会が見え難くな ることにつながる。 自分自身の多様性(様々な能力や資源)を喪失する(= 不可視化される)。

情報化時代における多様性/他者性の行方 情報化時代において、「差異」を育むこと、生産することは決 定的に重要となる。 「差異」の消費は、資本による「差異」の回収(=没個性化) を意味し、新しい情報(=「差異」)を生み出さない。 「他者」との出会い(なおし)を通じて、自己の中に「差異」 が確認されるとともに、誰かと共有することによって共同的に 育むことが可能となる。 「他者」の排除(=差別)と「自己」の排除(=没個性化)から 逃れるために!

色々な自分を再発見すること、「他者」を再発見すること <多文化共生>を問い直す 自己/他者、個人/社会、日本/外国etc…といった認識的な 分断を越えて、あらゆる文化的多様性を認めたうえで、共に生 きる社会を構築する。 グレーゾーンを考える想像力の涵養。 バカになる、学びなおす。1次情報=現実に(再度)向き合う。 情報の消費から生産へ。 「交錯」するアイディティティと交渉。 色々な自分を再発見すること、「他者」を再発見すること