上級マクロ経済学後半 TFPの計測 と日本の「失われた10年」 2006年7月11日 by塩路.

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上級マクロ経済学後半 TFPの計測 と日本の「失われた10年」 2006年7月11日 by塩路

1 TFP成長率の計測 総生産関数(例:コブ・ダグラス型) GDP成長の源泉 Lの成長 Kの成長 Aの成長(全要素生産性=「TFP」の成長   、別名ソロー残差)

           

どうやってαを求めるか? ・・・・完全競争的な労働市場を仮定 ・・・・労働の限界生産性(MPL)=実質賃金 このとき、1-α=労働分配率=労働所得/GDP 計算は次ページ参照

-(資本分配率)・(資本ストック成長率) ー(労働分配率)・(労働成長率) TFP成長率は  (GDP成長率) -(資本分配率)・(資本ストック成長率) ー(労働分配率)・(労働成長率) として求められる。

2 林・プレスコット論文 「失われた10年」 出典 Hayashi and Prescott (2002) “The 1990s in Japan: a lost decade,” Review of Economic Dynamics 5

総生産関数 ただしEは雇用者数、hは一人当たり労働時間 生産人口一人当たりの生産は(計算は次ページ)

期間 Aの貢献 K/Yの貢献 雇用率の貢献 1960-1970 7.7% 1.7% -0.8% 1970-1980 3.2% 1.3% 生産人口一人当たりGNPの成長率 Aの貢献 K/Yの貢献 週当たり労働時間の貢献 雇用率の貢献 1960-1970 7.7% 1.7% -0.8% 1970-1980 3.2% 1.3% 3.0% -0.6% 1980-1988 2.8% 0.2% 0.0% -0.1% 1991-2000 0.5% 0.3% 1.4% -0.9% -0.4%

結論:失われた10年の主因はTFP成長率の低下である。 資本蓄積の減速が大きな要因であったという証拠はない。 ところで、ソロー・スワンモデルによれば、恒久的な一人あたり所得の成長の源は技術進歩である・・・・。

林・プレスコットによるシミュレーション スタンダードなRBCモデルの”A”の項に推計された日本のTFPの値を当てはめる。 → 1990年代日本の「均衡経路」を求める モデルはGDPやK/Yの動きをかなりの程度とらえることができる 「失われた10年」の主因は技術ショックであり、需要不足や投資の停滞は説明上不要である

最近のTFP研究の流れ 産業別にTFPを推計して総計をとる 資本の稼働率の変化等をコントロールする → JIPデータベースの構築とそれを用いたTFPの推計(深尾・宮川グループ)、それらを用いた実証分析 (例)Miyagawa, Sakuragawa and Takizawa “The Impact of Technology Shock on the Japanese Business Cycle: An Empirical Analysis Based on Japanese Industry Data” 日本経済学会報告論文

3 林・プレスコット論文と異なる TFP成長率推計例 3-1 ジョルゲンソン・元橋:IT革命 出典 Jorgenson and Motohashi “Economic growth of Japan and the United States in the information age”, RIETI Discussion Paper Series 03-E-015.

主張:日本の統計はIT関連財の価格下落(質の向上を調整したあとの)を過小評価しているのではないか? 例:コンピューター価格の変化率 日本(1990-2000)  -7.2% 米国(1990-1998) -19.5% 日本のIT関連財価格変化率が実は米国と同じであったという仮定のもとでデータを再計算する。

日本の成長会計(ジョルゲンソン・元橋による) 期間 GDP成長率 TFP成長率 労働の貢献 IT資本財の貢献 非IT資本財の貢献 労働の貢献 1975-1990 4.70% 1.01% 0.42% 1.93% 1.34% 1990-1995 1.89% 0.74% 0.31% 1.00% -0.16% 1995-2000 2.15% 1.13% 0.90% 0.33% -0.20%

米国の成長会計(ジョルゲンソン・元橋による) 期間 GDP成長率 TFP成長率 労働の貢献 IT資本財の貢献 非IT資本財の貢献 労働の貢献 1973-1990 2.87% 0.25% 0.40% 1.08% 1.15% 1990-1995 2.43% 0.24% 0.48% 0.64% 1.06% 1995-2000 4.12% 0.68% 0.99% 1.10% 1.35%

結論:IT革命によって日本のTFP成長率は上がっている。

3-2 川本論文:資本稼働率など 出典: 川本「日本経済の技術進歩率計測の試み:「修正ソロー残差」は失われた10年について何を語るか?」 『金融研究』2004年 労働・資本の稼働率と規模の経済性などを調整して技術進歩率を再推計 1990年代の技術進歩の停滞は起こっていなかった。

3 日本のTFP成長率の低下要因? (低下したとして、だが・・・) (1)「ゾンビ仮説」 Caballero, Hoshi, Kashyap “Zombie lending and depressed restructuring in Japan” NBER Working Paper #12129, 2006. 星「ゾンビの経済学」 『現代経済学の潮流2006』(東洋経済新報社) 日本の銀行は不良債権問題を隠すために収益の上がらない大企業に追い貸しを続けた。その分、生産性の高い企業の成長が抑えられた。

(2)企業レベルデータを用いた実証分析 Fukao and Kwon “Why did Japan’s TFP growth slow down in the lost decade?: an empirical analysis based on firm-level data of manufacturing firms” Hi-Stat Discussion Paper Series No. 50. Nishimura, Nakajima, and Kiyota “Does the natural selection mechanism still work in severe recessions? Examination of the Japanese economy in the 1990s” Journal of Economic Behavior and Organization 2005.

企業の参入と退出・・・経済全体の生産性を高める要因と通常は考えられる(新陳代謝、自然淘汰) しかし、これらの研究によれば、日本においてはかえってTFPの高い企業の退出が発生している。 市場の資源配分機能の低下? (金融による選別機能が低下している?)