アレルギー疾患の検査法と実際 長岡中央綜合病院小児科 太田匡哉 2013.11.16 第2回アレルギーブートキャンプ
免疫 Th1/Th2仮説 1986年Mosmannらによって提唱。CD4+T細胞由来のサイトカインの産生パターンによってヘルパーT細胞をTh1、Th2に区別する。アレルギー性炎症には好酸球やB細胞を刺激するTh2サブセットの重要性が確立された。 Th1サブセット Th2サブセット サイトカイン IL-2、IFN-γ、TNF-β IL-4、IL-5、IL-13 転写因子 T bet, STAT1, STAT4 GATAT-3, STAT6 ケモカイン受容体 CXCR3, CCR5 CCR4, CCR8, CXCR4 主な免疫 細胞性免疫 液性免疫 サイトカイン:IL-2 Tリンパ球の増殖とキラーT細胞の誘導、IFN-γマクロファージやNK細胞の活性化、TNF-β 免疫反応の抑制効果 IL-4 肥満細胞の分化増進とB細胞のIgE産生に関与、IL-5 好酸球の分化促進活性化、IL-13 B細胞を刺激しIgEの産生増進 現在はThの他のサブセットも多く同定されている。
アレルギー性炎症に関与するT細胞 Th17:Th1に特異的と考えられていたIFN-γや好中球を引き寄せる作用のあるIL-17を分泌。 Th9:Th2の分泌するIL-9を産生する。 調節性T細胞(Treg細胞):すべてのThを抑える効果がある。免疫反応の抑制や免疫寛容の誘導に関与する。 新生児は抗原と接しておらず、与えられた環境からナイーブT細胞が各種のT細胞へと分化する。(環境因子)
アレルギー性炎症における感作 古典的経路に加えて上皮性サイトカインと呼ばれる新規の免疫反応の関連サイトカインが発見された 古典的回路として、アレルゲン⇒樹状細胞⇒Th2 上皮細胞を介した、アレルゲン⇒上皮細胞⇒natural helper seccなどと呼ばれている自然免疫細胞の両方に 第43回日本アレルギー学会専門医教育セミナーより
Ⅰ型アレルギー ①特異的抗原に感作された患者の粘膜には抗原特異的IgEを細胞表面に持つ肥満細胞が存在する ヒスタミン ロイコトリエン サイトカイン ①特異的抗原に感作された患者の粘膜には抗原特異的IgEを細胞表面に持つ肥満細胞が存在する ②外界より侵入した抗原が肥満細胞の抗原特異的IgEに結合し肥満細胞を活性化させる(IgE抗体依存性アレルギー反応) ③活性化された肥満細胞は二相性にメディエーターを放出する
血清総IgE アレルギー素因のスクリーニング 1967年に石坂医師らが発見 基本はⅠ型アレルギー Ⅳ型や非IgE依存のアレルギーについては有用で無い 液性免疫の発達する生後6か月以降でないと評価できない 小児の正常値は年齢とともに上昇する
1歳未満 20IU/mL以下 1~3歳 30IU/mL以下 4~6歳 110IU/mL以下 7歳~成人 170IU/mL以下 小児の血清総IgE参考基準値 1歳未満 20IU/mL以下 1~3歳 30IU/mL以下 4~6歳 110IU/mL以下 7歳~成人 170IU/mL以下 島津伸一郎, 他:アレルギーの領域, 2:920-925, 1995 森川利夫:血清IgE値の基準値の検討,日本小児アレルギー学会誌 15, 547, 2001
特異的IgE 単項目測定…CAP RAST法が一般的 多項目測定…MASTやRASTのマルチアレルゲンセット 現在の各項目に対するIgEを測定するため過去の感作を見ている 各種測定法の相関性は高いが測定法で用いられるアレルゲンの違いから判定が一致しないこともある 一部の食品(鶏卵、牛乳)の食物アレルギーの負荷試験陽性率と相関があるプロバビリティーカーブはCAP RAST値を使う RAST:radioallergo sorbent test(放射性アレルゲン吸着試験)
食物アレルギーの診療の手引き2011(厚生労働省研究班)より抜粋
食物経口負荷試験が95%以上の陽性的中率 (または特異度)を示す特異的IgE 卵白 牛乳 ピーナッツ 魚 95%陽性的中率 7 15 14 20 年齢 1歳未満 1歳 2歳以上 卵白 13.0 23.0 30.0 牛乳 5.8 38.6 57.3 負荷食品 生卵白 加熱卵白 特異的IgE 卵白 オボムコイド 95%特異度※ 7.4 5.2 30.7 10.8 ※負荷試験陰性者の95%がこの値以下 食物アレルギー診療ガイドライン2012
卵・牛乳のアレルゲン 食品 蛋白質 含有量 特徴 卵白 オボムコイド 11% 熱に安定。水溶液中に溶出。 オボムアルブミン 54% 加熱で抗原性下がる 牛乳 カゼイン 80% チーズの原料 βラクトグロブリン 10% 抗原性強い αラクトグロブリン 4%
小麦のアレルゲン 水溶性蛋白 αアミラーゼ/トリプシンインヒビター(吸入抗原) アシルCoAオキシダーゼなど 水・塩不溶性蛋白(グルテン) αアミラーゼ/トリプシンインヒビター(吸入抗原) アシルCoAオキシダーゼなど 水・塩不溶性蛋白(グルテン) アルコール可溶性…α・β・γ・ω-グリアジン アルコール不溶性…高分子グルテニン 低分子グルテニン
特異的IgEの細かい話 MASTは少量の血清で多項目を検査できるが溶血で偽陽性が起きるので注意 RASTの1回の検査で13項目までは保険内(多項目を出すときは各施設の医長に確認を勧めます) ヤケヒョウダニ、コナヒョウダニは両方とも室内塵ダニのチリダニ科に属しているためどちらかでよい ハウスダスト1とハウスダスト2の違いは原料の家庭屑を作っている会社の違い。またHDの成分の60%がダニであるためダニを出せばHDは出さなくてもよい。 イヌ上皮とイヌ皮屑では皮屑の方が抗原性が高く出すなら皮屑をオーダーを
RASTの高い低いだけではアレルギーか 特異的IgEの注意点 RASTの高い低いだけではアレルギーか 判断できない Ⅰ型アレルギーじゃないアレルギーの人 IgEの抗原と結合するエピトープの構造が似ていると特定の抗原以外にも反応して偽陽性となる:交差反応
好酸球 IgEより変動しやすく重症度と関連する アレルギー性鼻炎では鼻汁中の好酸球数をカウントし鼻炎の程度を評価する 近年好酸球の抗原提示細胞としての働きとIL-4の供給源として役割が示された。IL-4を産生することでナイーブT細胞をTh2への分化を引き起こしアレルギーに関与する
ヒスタミン遊離試験HRT:histamine release test 全血から好酸球を分離し抗原を加え好酸球から遊離したヒスタミンを測定する 過去の感作ではなく現時点での患者のIgE抗体の関与しているアレルギー反応を細胞レベルで検査できる アラポートHRTがSRLで提出できる。卵白・小麦・牛乳・米・蕎麦・ピーナッツなどの食物系とダニ・ハウスダスト・イヌ上皮・ブタクサなどの吸入系などがある。 食物アレルギーの負荷試験での誘発症状とHRTの結果が相関する報告がある(卵、牛乳、小麦)。
TARC アトピー性皮膚炎(AD)のバイオマーカー ADの重症度が高いほど高値で治療により有意に低下する 表皮角化細胞が産生するTh2を局所に集めるケモカイン(細胞に遊走をもたらすサイトカイン) TARC産生上昇⇒Th2の集積⇒IL-4,IL-13増加⇒B細胞からのIgE分泌増加
小児の年齢ごとのTARC基準値 小児ADの重症度の目安 6-12か月 1367 pg/ml未満 1-2歳 998 2歳以上 743 成人 450 小児ADの重症度の目安 760pg/ml未満 軽症 760pg/ml以上 中等症以上
プリック針:プリックランセット、バイファケイテッドニードル 皮膚テスト 即時型反応の診断にプリック針を用いた皮膚プリックテストが推奨される 乳幼児は特異的IgEよりも感度が高い 皮内テストは偽陽性やアナフィラキシー誘発の危険がある 検査前に抗ヒスタミン薬などは3日間程度休薬する 市販の抗原液(スクラッチエキス)が無ければ新鮮な食品を使ったprick to prickも有用 陰性コントロールとして生理食塩水、できれば陽性コントロールとしてヒスタミン液(10mg/ml)を用意する プリック針:プリックランセット、バイファケイテッドニードル
プリックテストの実際 ・判定は15分後に膨疹(縦mm+横mm/2)を評価する。 ・終わったらステロイド外用をして帰宅する。
呼吸機能検査 喘息の閉塞性換気障害の客観的指標としてフローボリューム曲線が用いられる 発作時は努力肺活量(FVC)、1秒率(FEV1.0)が低下する 非発作時は末梢気道のパラメーターである最大中間呼吸速度(MMF)、V50、V25が重症度に一致して低下する 発作がなく経過してもこれらが改善なければ治療を継続するなど治療方針にも関与する ピークフローメーターは最大呼気流量(PEF)のみの測定であるが安価で自宅で患児の状態を客観的に評価できる。6才くらいから使えることが多い。 定期的に検査することで客観的な指標となる
フローボリューム曲線の評価 気道狭窄があって吐き出せなければ呼気の曲線部分がなだらかになる 発作があれば吸気のピークが低下する
気管支喘息の初診 問診、診察 血液像(好酸球) 総IgE CAP RAST ダニ、(ハウスダスト)、周りにいる動物の皮屑 ダニ、(ハウスダスト)、周りにいる動物の皮屑 幼児・学童ならスギ、カモガヤなどの花粉や真菌 胸部Xp、副鼻腔Xp(副鼻腔炎の鑑別) 呼吸機能検査(学童期以降) (一酸化窒素測定)
アトピー性皮膚炎の初診 問診、診察 血液像(好酸球)、電解質、総蛋白、Alb TARC 総IgE CAP RAST ダニ、(ハウスダスト)、周りにいる動物の皮屑 乳児なら摂取後湿疹の悪化する食物抗原
食物アレルギーの初診 問診、診察 血液像(好酸球)、Hb、総蛋白、Alb、電解質 総IgE CAP RAST 問診で疑われる項目(多項目なら発症年齢を参考に) FEIAnなら小麦のω-グリアジニン 後日 プリックテスト HRT 食物負荷試験