インフルエンザの感染機序、ウイルスの再集合 パート 2 インフルエンザの感染機序、ウイルスの再集合 浸入門戸となる細胞のレセプターは、ヒトとブタは共通しますが、鳥を含むその他の動物のレセプターはヒトと異なっている。鳥に感染しているウイルスはヒトのレセプターから原則として入れない。鳥からヒトへの直接感染が起きたのは、鶏の糞便を大量に吸入した例外であり、これまでもヒトへの大流行は起きていないし、これからも起きません。問題は、ブタで遺伝子交雑が起きて新型ウイルスが誕生することです。
鶏を積んだトラックが市内を走っていたが、それが撒き散らす埃によって感染が起きることはなかった。もっと濃厚な埃でしか感染しないため、18名の感染に留まった。
インフルエンザ・ウイルスの流行模式 ? 「種の壁」を越えることは、頻繁に起きるものではないが・・・・ 通常は同一動物種内での流行 水禽類(カモなど) α2-3 H1~H15 (α2-3) ブタ α2-3、α2-6 ニワトリ α2-3 ウマ α2-3 H1、H3 (α2-3、α2-6) H5、H7 (α2-3) H3、H7 (α2-3) ? 通常は同一動物種内での流行 ヒト α2-6 H1、H2、H3 (α2-6) ウイルスのH型 (αレセプター対応) 動物種 αレセプター 矢印の形と太さは、感染の頻度を示す インフルエンザ・ウイルスの流行模式
2種類のウイルスが、1個の細胞内に同時に侵入する ブタ型ウイルス H1、H3 (α2-3、α2-6) 水禽類ウイルス H1~H15 (α2-3) α2-3 レセプター α2-6 レセプター 核 細胞質 細胞膜 :H(ヘマグルチニン) :N(ノイラミニダーゼ) ブタ鼻粘膜細胞 新型ウイルス誕生までのステップー1 2種類のウイルスが、1個の細胞内に同時に侵入する
ブタ鼻粘膜細胞 核 細胞質 新型ウイルス誕生までのステップー2 エンベロープが溶けて、それぞれ8分節のRNAが細胞質に出てくる
新型ウイルス誕生までのステップー3 ウイルスRNAを基に、 逆転写酵素により、一旦DNAができる 分節の交換など 遺伝子組み換えはこの過程で起きる このDNAを基に、ウイルスRNAが複製されるが、多くの変異株は生活能力を欠如し、生き延びるのはごく一部 新型ウイルス誕生までのステップー3 ブタ細胞の成分と酵素を利用して、ウイルス複製が同時進行する
ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである ヒト型ウイルス H1、H2、H3 (α2-6) 水禽類ウイルス H1~H15 (α2-3) α2-3レセプターのないヒトの細胞に 無理やり侵入する α2-6 レセプター 核 細胞質 ヒト呼吸器系細胞 ヒトで新型ウイルスが誕生する可能性 どの程度の確率で起きるか分からないが、 ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである
ヒト呼吸器系細胞 ヒトの肺細胞にα2-3レセプターが分布していることが判明! α2-3レセプターのないヒトの細胞に 無理やり侵入する ヒト型ウイルス H1、H2、H3 (α2-6) 水禽類ウイルス H1~H15 (α2-3) ヒトの肺細胞にα2-3レセプターが分布していることが判明! α2-3レセプターのないヒトの細胞に 無理やり侵入する α2-6 レセプター 核 細胞質 ヒト呼吸器系細胞 ヒトで新型ウイルスが誕生する可能性 既存の香港型、ソ連型インフルエンザに感染した患者が、H5N1に重複感染することで遺伝子組換えが起きる可能性が高い! どの程度の確率で起きるか分からないが、 ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである
新矢恭子,河岡義裕:ヒト体内におけるインフルエンザウイルスのレセプター分布 ウイルス 第56 巻(2006)
新矢恭子,河岡義裕:ヒト体内におけるインフルエンザウイルスのレセプター分布 ウイルス 第56 巻(2006) インフルエンザウイルスのレセプターは、シアル酸を末端に持つ糖鎖で,ウイルス表面のヘマグルチニン(HA)がレセプターとの結合に関与している。 そこで、シアリルオリゴ糖に特異的なレクチンを用いて人の呼吸器におけるウイルスレセプターの検索を行った。その結果、人の呼吸器の深部(呼吸細気管支と肺胞細胞の一部) にはSA α2,3Gal、すなわち鳥ウイルスのレセプターが豊富に存在していた。
吸入した粒子は、鼻咽頭の複雑な気流のために粘膜面に衝突・沈着するが、小さなものはカーブを回りきって肺に達する。 ウイルス粒子は微小であるが、剥き出し状態で空中にあるのではなく、水滴や塵埃の中に含まれている。咳やクシャミの水滴は蒸発により粒径が小さくなるが、塵埃はそのようなことはない。 空中に漂っている鶏糞が吸入されても、その大半は鼻咽頭に沈着し、肺に達する機会は少ないと考えられ、これがH5N1で濃厚感染が必要とされる根拠である。
K.F. Shortridge:東アジアにおいて変化する鳥インフルエンザ遺伝子プール 日本バイオロジカルズ(株) 西暦1644 年に始まった清王朝の頃から、アヒルは稲作を助ける農法として飼育されるようになり、そのために中国南東部の田園地域では鳥インフルエンザウイルスが一年を通じて豊富に存在するようになった。 ・・・・近年の調査で、家禽の主要3 種である鶏、アヒル、ガチョウのうちアヒルが主なウイルス保有動物であることが明らかになった。 世界の豚の半数が中国で飼育され、300以上の多数の豚の種類が知られている。 「インフルエンザ農園」
H5N1 型ウイルスの中国南東部から2003 年末/2004 年初頭にウイルスが報告された国への推定放射拡散。 2001 年初頭: 市場の無症状感染鶏において複数の遺伝子型を持つウイルス。2 度目の家禽殺処分。 2002 年: 香港の2 か所の公園において「Z」遺伝子型とそれに非常に近縁な「Z+」遺伝子型によって野生の渡り鳥と、アヒルなどの留鳥水禽類が死亡。 2003 年初頭: 福建省を旅行したある家族の2 名から「Z+」遺伝子型が分離され、そのうち の1 名は死亡。 「Z」遺伝子型と「Z+」遺伝子型の違いは、「Z」型が表面のN1 ノイラミニダーゼの軸の部分にアミノ酸を20 個欠損していることである。これは、陸鳥に適応したことを示す指標である。 H5N1 型ウイルスの中国南東部から2003 年末/2004 年初頭にウイルスが報告された国への推定放射拡散。 背景は渡り水鳥の冬の主な生息地。
H5N1再集合株の遺伝子型と1997~2001年における変遷 各ウイルス粒子の8分節は、上から、PB2、PB1、ポリメラーゼ(PA)、血球凝集素(HA)、核タンパク質(NP)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス(M)、非構造的(NS)遺伝子の順である。ウイルス系統を区別するために色分けしてある。 略語: Ck(chicken:ニワトリ)、 Dk(ducks:アヒル)、 Gs(geese:ガチョウ)、 Ph(pheasant:キジ)、 Pg(pigeon:ハト)、 Qa(quail:ウズラ)、 Sck(silky chicken:烏骨鶏)、 Gd(Guangdong:広東) Emergence of multiple genotypes of H5N1 avian influenza viruses in Hong Kong SAR. PNAS, 99, 8950-8955,2002 (Link)
2004年1月以降に中国で分離された69 株、 2003年8月から2005年3月にインドネシア、マレーシア、ベトナムで分離された52株について、HA遺伝子の系統発生解析を行った。 Gs/GD/1/96-like (Gs/GD-like) 全てのウイルス株のHA遺伝子はGs/GD-likeに由来する。 VTM (Vietnam, Thailand, Malaysia) は香港の野鳥と家禽由来株と近似する。 2003年以降の湖南、雲南、インドネシア由来株は別の亜系統にある。 H. Chen, et al: Establishment of multiple sublineages of H5N1 influenza virus in Asia: Implications for pandemic control. PNAS, 103, 2845–2850, 2006 (Link)
アジアにおけるH5N1インフルエンザウイルス再集合の遺伝子型 遺伝子の8分節は上から、PB2、PB1、PA、Np、 NA 、M、および NS の順序である。各色はウイルスの系統を表し、赤色系はGs/GD/1/96に由来することを示してる 。遺伝子型Z、Z+、V、およびWの遺伝子型および発生の定義は (Nature, 2004 )に 説明されている。新規の遺伝子型Gは、中国南部に流行している遺伝子型ZとWの再集合によって生じたと思われる。 H. Chen, et al: Establishment of multiple sublineages of H5N1 influenza virus in Asia: Implications for pandemic control. PNAS, 103, 2845–2850, 2006 (Link)
Li, K. S., Guan, et al. : Genesis of a highly pathogenic and potentially pandemic H5N1 influenza virus in eastern Asia. Nature 430, 209–213, 2004. (Link) 2002年以降、8つの新しいH5N1遺伝子型(V、W、X1、X2、X3、Y、Z、およびZ+)が検出された。 遺伝子型A、C、D、Eならびにそれらの共通する先祖Gs/Gdはもはや検出されず、上記の遺伝子型が適合によって生存力を獲得したと思われる。 ・・・・・・・ 2002年1月以来、 NAとNS1の両方を欠損する遺伝子型Zは、中国南部において優性なH5N1ウイルス株となっている。2003年2月に、ヒトのH5N1症例が、 1997年12月以来初めて診断された。患者分離株( A/HK/212/03とA/HK/213/03 )は、遺伝子型Zと同じ遺伝子配置を持っていたが、 NA stalkの欠損がなく、遺伝子型Z+と命名された。2003年以降分離されたH5N1ウイルス62株の遺伝子配列を読み取ったところ、それらの60株は遺伝子型Zに属していた。 2003年後期と2004年初期にインドネシア、ベトナムおよびタイで発生した患者に由来する全ての株は、遺伝子型Zであった。 東アジアにおける病原性が高く汎流行性の可能性をもつH5N1型インフルエンザウイルスの起源 (Link)
動物衛生研・感染病研究部・病原ウイルス研究室 (Link) わが国のウイルス株は相互に近縁であったが,これらのウイルスは中国広東省で分離された遺伝子型Vのウイルス(A/chicken/Shantou/4231/2003株)と最も高い相同性を示し,東南アジアの主流株である遺伝子型Zではなかった。 動物衛生研・感染病研究部・病原ウイルス研究室 (Link)
新たな 遺伝子プール 新たな汎流行ウイルスになりうるH9N2 型ウイルスの出現に関与している中国南東部の「インフルエンザ農場」の生態 従来の 遺伝子プール コブハクチョウ等の大型渡り鳥 カモ等の水禽類 家禽 ブタ、イノシシ
自然界の中で起きているインフルエンザ・ウイルスの進化 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の発生以来、大量殺処分が行われる大規模養鶏場が諸悪の根源であるかのような主張を耳にすることがある。しかし、それが事実ではないことを理解していただくために、 H5N1ウイルスの系統発生について少し詳しくみてきた。渡り鳥を中心とした野生動物の間で近縁のウイルスが遺伝交雑を繰返す中で発生し、進化しているものである。 2005年に中国の青海湖で起きた大型渡り鳥の大量死を契機として、H5N1が中近東、アフリカ、ヨーロッパ等の西方諸国に広がり、ヒトの感染例も出ているが、生物の進化を止めることは、神以外の誰にもできない。 人間ができることは、新たな事態の発生、すなわち「新型ウイルス」の誕生を遅らせ、その封じ込め、予防対策を行うことでしかない。
H5N1 H5N1 H5N1 G. Gabriel, et al.: The viral polymerase mediates adaptation of an avian influenza virus to a mammalian host. PNAS, 102 , 18590–18595, 2005 (Link)
Conserved structures near the 30-ss of segment 8 of influenza A and B viruses. (A). Examples of hairpins in segment 8 RNAs from influenza A (independent clades A and B) and B viruses. The magenta arrowhead denotes the 30-ss, this region is drawn as being single-stranded but interactions with other regions cannot be excluded. Nucleotide numbering is according to full-length segment 8 RNAs, ignoring the 15 nt deletion in recent H5N1 sequences. Base pairs co-varying between influenzaAand B viruses are shown in magenta. A. P. Gultyaev et al.: An RNA conformational shift in recent H5N1 influenza A viruses. Bioinformatics, 23, 272–276, 2007 (Link)
The timescale of unique mutations destabilizing the suggested pseudoknot and of the major events in recent history of H5N1 influenza outbreaks. A. P. Gultyaev et al.: An RNA conformational shift in recent H5N1 influenza A viruses. Bioinformatics, 23, 272–276, 2007 (Link)