小学校教師のための   理科実験セミナー   ~新学習指導要領の主な     改訂部分について~ 大阪教育大学 理科教育講座       教授 畦 浩二.

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 小学校教師のための   理科実験セミナー   ~新学習指導要領の主な     改訂部分について~ 大阪教育大学 理科教育講座       教授 畦 浩二

教師を対象とした全国調査(H20年度) ○小学校理科教師実態調査 全国の公立小学校:380校,935名 ◎実施機関:科学技術振興機構と国立教育政策研究所 ○小学校理科教師実態調査  全国の公立小学校:380校,935名 ○中学校理科教師実態調査  全国の公立中学校:337校,572名 ○高等学校理科教師実態調査  国公私立  全日制普通科:973校,2422名  理数科   :140校, 473名  SSH校   :102校, 355名  実施機関:JSTと国立教育政策研究所

『あなたの担当する授業が好きだと感じてい る生徒の割合は,およそどの程度ですか』 『あなたの担当する授業が好きだと感じてい  る生徒の割合は,およそどの程度ですか』 高校で低くなる傾向 (H20理科教員実態調査)

『生徒による観察や実験を概ねどの程度 行っていますか』 『生徒による観察や実験を概ねどの程度     行っていますか』 (H20理科教員実態調査)

『授業で,実験の手順を生徒自身によく考 えさせていると思いますか』 『授業で,実験の手順を生徒自身によく考  えさせていると思いますか』 (H20理科教員実態調査)

『生徒に自分の考えを発表する機会をよく 与えていると思いますか』 『生徒に自分の考えを発表する機会をよく  与えていると思いますか』 (H20理科教員実態調査)

まとめ ○『理科好きな生徒が半数より多い』は,小学校 担任で65%,中学校の理科教師で41%。高校( 普通科)の理科教師では2割に満たない。 ○『理科好きな生徒が半数より多い』は,小学校   担任で65%,中学校の理科教師で41%。高校(   普通科)の理科教師では2割に満たない。 ○『実験観察の回数』は,週最低1回以上が小学校  担任で7割近く,中学校の理科教師で6割強。高  校(普通科)の理科教師の約半数が,「年に数   回以下」と極端に少ない。 ○『実験の手順をよく考えさせている』も,学年   が進行するにつれて減少する。 ○ 『生徒に自分の考えを発表する機会をよく与え  ているか』は,小学校で特に高い。

理科授業の国際比較 TIMSS 1999の関連調査として行われた中学2年生(第8学年)段階を対象      理科授業の国際比較 TIMSS 1999の関連調査として行われた中学2年生(第8学年)段階を対象 ○ 目的:異なる文化間で授業を比較し,異なる指導法が認識されることで,指導法を反省することができる。自国における学習目標を達成するためにどのような指導法が最善かに関する議論を促すことができる。 ○ 方法:授業ビデオの分析は,米国に設置された授業研究所(Lesson Lab.)で統一的に実施された。 ○ 参加国:アメリカ合衆国,オーストラリア,オランダ,チェコ共和国,日本5か国で439件の理科授業が分析された。日本では,全国の国公私立中学校から95校が無作為抽出された。

小倉 康・ 松原 静郎 (2009)

小倉 康・松原 静郎(2009) 小倉 康・松原 静郎(2009)

「理科の勉強はとても楽しい」と回答した小学生 4年生の人数の割合 (TIMSS 1995,2003,2007) 「理科の勉強は楽しい」と回答した小学生の割合(TIMSS2003) 「理科の勉強はとても楽しい」と回答した小学生 4年生の人数の割合 (TIMSS 1995,2003,2007) 11

まとめ ○日本では,理科の知識と実世界の諸問題との関連 づけが重視されていない。 ○日本では,生徒自身に観察実験で得られたデータ  づけが重視されていない。 ○日本では,生徒自身に観察実験で得られたデータ  の処理方法を考えさせる機会に乏しい。 ○日本の理科授業には,観察実験を通じて基礎基本   を理解させることを重視する特徴がある。観察実  験に先立って,生徒は結果の予測を求められるこ  とも多い。観察実験の途中と後では,教師や教科  書に導かれながら,グラフや表にデータを整理し  ,処理してから,データを解釈する。そして,全  体で結論としての一つの主要な概念を導いて授業  を終える。

理科の観察実験で育てたい力 ◎ 科学的な思考力・判断力・表現力 ① 目的意識をもった観察実験 ② 結果の考察   理科の観察実験で育てたい力 ◎ 科学的な思考力・判断力・表現力 ① 目的意識をもった観察実験 ② 結果の考察 ③ 図や表などのデータを正しく読みとり,   グラフ化,文章化 ④ 実生活や実社会との関連性

 定量実験でみられた生徒 の特徴や傾向と問題点 岡本英治他(2009)

興味深さ: データを収集し,データに基 づいて科学的,論理的解釈 を行い,法則や規則性を導く 観察・実験 ・児童に観察・実験への意欲や 態度を持たせる ・児童に観察・実験の目的を把握 させる ・児童に目的に沿った方法を考え ・児童にデータの意味を認識させ 科学的分析や科学的解釈の 手法を身につけさせる 教師 働きかけ 楽しさ: 単なる活動や作業 としての観察・実験 ・目標の設定→実行→振り返り ・目標の設定→実行→振り返り

実験レポートの指導 -児童- 書き方・考え方の習得 メタ認知能力の発達 科学的思考力の伸長 実験レポートとは 教師 働きかけ     実験レポートの指導 -児童- 書き方・考え方の習得 メタ認知能力の発達 科学的思考力の伸長 観察や実験の過 程を意識的・随意 的に整理 実験レポートとは 教師 ○目的・操作・結果・考察 ○考察では事実(結果)か ら導いた自分の意見 (結論)を示し,その説明 (根拠)を記す。 働きかけ -児童・生徒-        実験レポート 書き方・考え方の習得 メタ認知能力の発達 科学的思考力の伸長 科学的sh 事実と理由を混同 感想になった考察 結果と考察が区別できていない

実験レポートの書き方 ~日本人の苦手な表現~   実験レポートの書き方    ~日本人の苦手な表現~ (小学校4年生) 花子さんの前にも,たろうさんの前にも,おなじよ うなカップに入れたスープがあります。どちらのス ープも同じ温度でした。花子さんは,さらにふたを しました。 (1) どちらのスープの方が長い時間さめないと思いますか。 (2) また,そのように答えたわけを書きなさい。                         松原静郎(2005) 松原静郎(2005)

【結果】 ↓ (1)の正答率:97% (2)の正答率:55%(世界43%) 多い間違い:「ふたがしてあるから」 (日本36%,世界28%)  多い間違い:「ふたがしてあるから」  (日本36%,世界28%) ◎理由(わけ)には,二つの答え方がある (1) 結論を導く元となる事実 (2) その事実と自分の導いた意見を結びつける説明 ↓ ↓ 日本では,事実を示すことで説明しなくても“自明の理” とすることがよくある。 松原静郎(2005)

定型文の書き方 ○結果の定型文「a(操作)をしたら,b(結果)に なった。」← 見たままを書く       定型文の書き方 ○結果の定型文「a(操作)をしたら,b(結果)に  なった。」← 見たままを書く ○考察の定型文「c(結果)から,d(結論)と考えた。   その理由は,e(根拠)だからである。」← 考えないと 書けない 〈結果の記述〉        〈考察の記述〉 実験の操作a   ↓ 実験や観察の結果b = 実験観察や計算の結果(事実) c ↓←結果と結論を結びつける説明(根拠) e          自分で考えた結論(意見) d 松原静郎(2005)

協同学習の指導 -児童- 自分の考えを深めたり 広めたり,再構築できる 真の科学的思考力の育成 自分の考え 友だちの考え ・グループ内で      協同学習の指導 -児童- 自分の考えを深めたり 広めたり,再構築できる 真の科学的思考力の育成 ・グループ内で 話し合う。 ・学級全体で -教師-  ・話し合いの決まりの作成 ・学び合いの姿勢の育成 ・継続的指導 -児童・生徒- 書き方・考え方の習得 メタ認知能力の発達 科学的思考力の伸長 科学的sh 自分の考え 友だちの考え

小学校「理科」改訂のポイント ○ 基礎的・基本的な知識・技能の定着のため,科学の基本的な   小学校「理科」改訂のポイント ○ 基礎的・基本的な知識・技能の定着のため,科学の基本的な 見方や概念(「エネルギー」,「粒子」,「生命」,「地球」)を柱に,     小・中学校を通じた内容の一貫性を重視。3区分から2区分:    「物質・エネルギ-」,「生命・地球」へ。 ○ 国際的な通用性,内容の系統性の確保の観点から,必要な指 導内容を充実。(「物と重さ」,「人の体のつくり」等)。 ○ 科学的な思考力・表現力等の育成の観点から,観察・実験の 結果を整理し考察する学習活動,科学的な概念を使用して考 えたり説明したりするなどの学習活動等を充実。 ○ 科学を学ぶことの意義や有用性を実感及び科学への関心を高 める観点から,日常生活や社会との関連を重視し改善。 ○ 基礎的・基本的な知識・技能の定着のため,科学の基本的な見方や概念(「エネルギー」,「粒子」,「生命」,「地球」)を柱に,小・中学校を通じた内容の一貫性を重視。(日置光久2008)

学習内容の改善・充実 ①第3学年 ◎風やゴムの働き,物と重さ,身近な自然の観察。 ②第4学年 ◎骨と筋肉の働き。 ③第5学年      学習内容の改善・充実 ①第3学年  ◎風やゴムの働き,物と重さ,身近な自然の観察。 ②第4学年  ◎骨と筋肉の働き。 ③第5学年  ◎水中の小さな生物,雲と天気の変化の関係,川の上流・     下流の石の大きさや形。  ◎「卵の中の成長」と「母体の成長」の必修化。 ④第6学年  ◎てこの利用,電気の利用,人の主な臓器の存在,植物の    水の通り道,食べ物による生物の関係,月の位置や形と    太陽の位置,月の表面の様子。  ◎「火山の噴火による土地の変化」と「地震による土地の    変化」の必修化。

(文部科学省2008)

(文部科学省2008)

「エネルギー」概念:持続可能な社会のために ○日常生活の中に存在しているが,目に見えない         → 複雑な概念 ○「エネルギー」→ 児童は直接的な考えを持っている                                      ⇒ 教師がエネルギーについて科学的に理解する     「仕事をする能力」「うちに秘めた能力」 ○「エネルギーの見方」「エネルギーの変換と保存」     「エネルギー資源の有効利用」の3つの領域 ○小学校でのエネルギーの捉え方 ・具体的な現象を基にして体験的,経験的に捉える ・定性的に捉える ○エネルギーを自然現象と関連づけることも必要 ・水の三態変化    ・栄養の合成や栄養の消費 ・火山や地震のメカニズム 等

(文部科学省2008)

「粒子概念」:粒子のイメージは化学の「命」 ○粒子は目に見えない → 「真に迫った形で想像さ         せる」・・イメージで表現させる ○授業では,まず現象から → 教師が「粒子イメー          ジ」をしっかりつかんでおく必要 (例)水とアルコールを混ぜると体積が減る,音が      聞こえる,結晶ができる,鉄の棒が曲がる 等 ○小学校では,                ・「粒子」で身の回りの多様な現象が説明できる ・物質は変わっても「粒子」は不変の本体である   ことに気づかせたい ○「粒子の存在」「粒子の結合」「粒子の保存性」   「粒子のもつエネルギー」の4つの領域

(文部科学省2008)

【引用文献】 岡本英治・山下雅文・小茂田聖士・蔦岡孝則・前原俊信 (2009) 実験データの科学的解釈に関する基礎的 研究-中学校段階の実験処理を通して-.広島大学学部附属学校共同研究機構研究紀要37:349 -354. 小倉 康・松原静郎 (2009) 理科授業の国際比較.理 科の教育 58 (679):8-11. 松原静郎(2005)実験レポートの書き方.国立教育政策研究所.6pp. 文部科学省 (2008) 小学校学習指導要領解説 理科編.105pp.大日本図書. http://www.jst.go.jp/pr/announce/20090330-2/index.html http://www.nier.go.jp/timss/2007/gaiyou2007.pdf