「夜も働く診療科」が再生するために ー産婦人科ー 2010年5月29日 日本臨床救急医学会 地域救急医療体制検討委員会 シンポジウム「地域救急医療再生への道筋を説く」 「夜も働く診療科」が再生するために ー産婦人科ー 海野信也 日本産科婦人科学会 医療改革委員会委員長 (北里大学医学部) Website: 「周産期医療の広場」 http://shusanki.org/
日本産科婦人科学会の 産婦人科医療に対する基本理念 2007年4月12日 「産婦人科医療提供体制検討委員会」最終報告書 日本産科婦人科学会の 産婦人科医療に対する基本理念 2007年4月12日 「産婦人科医療提供体制検討委員会」最終報告書 我が国の産婦人科医療の質の維持、発展につくす。 女性の健康を多面的に支援する。 我が国の全出産に対して責任ある姿勢で臨む。 すべての女性が安全性、快適性を含めた適切な医療を受けられるような医療提供体制を構築する。 当面、以下の課題に重点的に取り組む。 すべての女性が一定水準以上の産婦人科診療を受けるために、会員教育と診療の基盤となる産婦人科診療ガイドライン作成を推進する。 医療事故関連の法律の整備及び医療紛争処理のための制度整備に積極的に取り組む。 産婦人科医師不足の解消の一助として、産婦人科医の就労環境改善に努力する。 女性会員が抱えている諸問題の解決に正面から取り組む。
基本戦略 調査とその結果の迅速な公表:正確な最新の情報を収集し、医療提供体制の現状、医療現場の実態に関する情報を積極的に開示する。 最新の周産期医療統計指標 分娩施設の現状 産婦人科医の年齢・性別構成とその勤務実態 問題点の抽出:医療現場、特にその持続可能性に係る問題点を明確に提示し、その社会的な意味を説明する。 周産期医療システムの抱える問題点 分娩施設減少の原因とその社会的影響 産婦人科医療提供者のワークフォース 対策の提言:医療提供を持続しつつ現場を改善する実現可能な対策を提案する。 必要な産婦人科医・助産師養成数の推計 産婦人科医・助産師養成増の具体策 必要数に達するまでの期間に必要な現場へのincentive 医療紛争リスク等の制度整備 対策の実施に積極的に参加する。
日本産科婦人科学会 「産婦人科医の就労環境改善」への取り組み 情報の収集と分析 施策実施への協力 正確な情報の提供 対策・施策の提言
情報の収集と分析 2006年 大学および関連病院に関する実態調査(学会のあり方検討委員会) 2006年 大学および関連病院に関する実態調査(学会のあり方検討委員会) 「大学病院産婦人科勤務医の待遇改善策の現況に関するアンケート調査」2007年・2008年・2009年 「産婦人科動向意識調査」 2008年・2009年 わが国の病院産婦人科勤務医の在院時間実態調査2008年 日本産婦人科医会との分担作業による定期調査の実施
正確な情報の提供 マスコミの取材に対する積極的対応 学会理事会定期記者会見:年間4回 学会HP等を用いた情報の開示 公開講座、フォーラム等の開催 正確な情報へのアクセス促進のためのサイトの設置 「考えよう 日本のお産」http://www.osan-kiki.jp/ 「周産期医療の広場」http://shusanki.org/
対策・施策の提言 「緊急提言」 :2006/4/7 分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言: 2006/10/27 ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする。 分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言: 2006/10/27 厚生労働大臣宛「産科医療提供体制の危機的状況を打開するための緊急対策に関する陳情書」 2007/07/09 厚生労働大臣宛「産科救急医療対策の整備」及び「産婦人科医師不足問題への対策」に関する陳情書 2007/09/07 日本産科婦人科学会理事長名「周産期医療提供体制の危機的状況を打開するための声明」 : 2007/12/17 46道府県知事宛「産婦人科勤務医師の待遇改善のお願いについて」要望書 2008/01/28 厚生労働大臣宛「周産期救急医療体制 特に母体救命救急体制の整備に関する緊急提言」 2008/10/31 日本産科婦人科学会および日本救急医学会「地域母体救命救急体制整備のための基本的枠組の構築に関する提言」 2008/11/21 各都道府県知事宛「現場の産婦人科勤務医の待遇改善推進のための要望書」 2008/12/17
対策・施策の提言 2010年4月22日 日産婦学会総会「産婦人科医療改革グランドデザイン2010 骨子」採択 2009年5月29日:「産科医等確保支援事業の拡充に関する要望書」 2009年6月1日:厚生労働省保険局長宛「産科・周産期医療再建のための平成22年度診療報酬改定に関する要望書」 2009年9月11日:厚生労働省保険局長宛「産科・周産期医療再建のための平成22年度診療報酬改定に関する要望書―優先順位について」 2009年9月25日:厚生労働省「出産育児一時金に関する意見交換会」提出資料:「わが国の産科医療」 2009年10月16日:日産婦学会理事長名 厚生労働大臣宛要望書「出産育児一時金制度の抜本的改革に関する要望書」 2010年2月10日:日産婦学会理事長名 厚生労働政務官宛要望書「出産育児一時金制度の抜本的改革に関する要望書」 2010年3月4日: 日産婦学会理事 長名 卒後研修指導施設管理者宛「産婦人科医の負担軽減と処遇の改善に関するお願い」 2010年3月31日:日産婦学会理事長・日産婦医会会長名 厚生労働大臣宛要望書「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」終了後の抜本的改革に関する要望書 2010年4月22日 日産婦学会総会「産婦人科医療改革グランドデザイン2010 骨子」採択
施策実施への協力 「緊急的産婦人科医確保が必要な医療機関の調査」報告書 2008/03/25 「緊急的産婦人科医確保が必要な医療機関の調査」報告書 2008/03/25 「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会への参加 「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」への参加 産科医療補償制度 制度設計・運営・審査・原因分析への全面的協力 厚生労働省 診療報酬検討チームへの参加
わが国の出生数の年次推移
わが国の妊産婦死亡率 年次推移 (出産10万対) わが国の妊産婦死亡率 年次推移 (出産10万対)
わが国の周産期死亡率の年次推移 (出生1000対)
周産期死亡率の国際比較
わが国の新生児死亡率の年次推移 (出生1000対)
産科医療 過去60年間の流れの確認 現状では、病院が全分娩の51%、診療所が48%を担当している。この状況は過去20年間変化していない。
分娩取扱医療施設数の変化 (厚生労働省・医療施設静態調査)
施設あたり出生数の推移
日本産科婦人科学会会員 年齢別・性別分布 2009年 日本産科婦人科学会会員 年齢別・性別分布 2009年
勤務施設別・産婦人科・産科医師の年齢分布 2008年末現在(医師・歯科医師・薬剤師調査) このグラフは施設別の産婦人科医の実働数を示しています。女性医師が多い若い年代 は大部分が病院で働いています。女性医師働き続けられないと、まず病院産婦人科が 危機におちいることになります。
分娩取扱診療所医師の年齢分布 日本産婦人科医会 2009年調査 分娩取扱診療所医師の年齢分布 日本産婦人科医会 2009年調査
年齢層別 月間在院時間 当直体制のある一般病院 年齢層別 月間在院時間 当直体制のある一般病院 2008年 日本産科婦人科学会調査
年齢層別 大学病院勤務医の在院時間 2008年 日本産科婦人科学会調査
分娩施設に勤務している割合 日産婦学会 女性医師継続的就労支援委員会2007年調査
日本産科婦人科学会の取組 「産婦人科医を増やそう」 学会は若い医師を育てるのが任務。医学生や研修医に積極的に情報提供し、働きかけを行っている。 サマースクール 1泊2日 信州美ヶ原温泉 http://www.jsog.or.jp/to_medics/school/index.html 毎年夏に、産婦人科志望を検討している医学生、研修医を集めて開催。年々参加者が増え、また参加者の中からは高率に新しい産婦人科医が生まれている。 2007 86名 ・2008 174名 ・2009 285名 ニューズレター Reasons for Tomorrow:学会で医学生・研修医向けに、定期的にパンフレットを作成し、配布 http://www.jsog.or.jp/to_medics/news/index.html 学会総会時の若手医師企画シンポジウムの開催 医局の枠を越えた若手医師による自主企画 若手医師研修会の開催(予定):若手産婦人科の「現場離脱」への対策 産婦人科研修のための奨学金制度:国や自治体に要望した結果、医学生や後期研修医を対象とした奨学金、研修奨励金制度が整備されてきている。(「産科医等育成支援事業」)
日本産科婦人科学会会員 性別 年齢層分布の変化 日本産科婦人科学会会員 性別 年齢層分布の変化 男性 女性 産婦人科学会員の性別年齢別の人数を2005年と2009年で比較してみました。50歳未満では 男性は減少し、女性は増えているようにみえますが、20歳代後半だけ、男性も増えています。 ほんの少しですが、トレンドは変わりつつあるようです。
日本産科婦人科学会 年度別入会者数(産婦人科医)
日本産科婦人科学会 卒業年度別会員数(産婦人科医)
日本産科婦人科学会 卒業年度別女性会員の占める割合 (産婦人科医)
平成19年度・21年度 産婦人科 新専門医 アンケート調査 現在の就労状況 平成19年度・21年度 産婦人科 新専門医 アンケート調査 現在の就労状況 日本産科婦人科学会 男女共同参画検討委員会調査
平成19年度・21年度 産婦人科 新専門医 アンケート調査 現時点で5年後に希望している就労状況(複数回答) 平成19年度・21年度 産婦人科 新専門医 アンケート調査 現時点で5年後に希望している就労状況(複数回答) 日本産科婦人科学会 男女共同参画検討委員会調査
平成19年度・21年度 産婦人科 新専門医 アンケート調査 現時点で5年後に希望している就労状況(複数回答) 分娩取扱施設での勤務希望 平成19年度・21年度 産婦人科 新専門医 アンケート調査 現時点で5年後に希望している就労状況(複数回答) 分娩取扱施設での勤務希望 日本産科婦人科学会 男女共同参画検討委員会調査
医療提供の質向上と現場負担軽減の両立 地域周産期医療システムの整備 高次周産期医療機関の集約化による勤務条件の緩和 周産期母子医療センター等の高次周産期医療機関の受入能力拡充 周産期母子医療センターの整備 周産期母子医療センターの地域連携強化を通じた後方病床確保 救急医療の社会・医療リソースを活用する 一般救急情報システムと連携した周産期医療情報システムの整備 搬送コーディネーターの配置 周産期母子医療センターと救命救急センターの連携強化 高次周産期医療機関の集約化による勤務条件の緩和 分娩取扱病院を集約化し、施設あたり勤務医数の増加を図る 当直回数を減らし、可能なら交代勤務制に移行し、在院時間の減少を図る 多様かつ弾力的勤務形態の産科専門施設の育成を図る
神奈川県の母体搬送 県外搬送率の年次推移 救急医療中央情報センター による斡旋開始
産婦人科医療改革グランドデザイン2010:骨子 その1 本グランドデザインは、単なる将来の産婦人科医療体制の予測ではなく、より望ましい産婦人科医療体制を実現するための現時点における行動指針として検討されたものである。 産婦人科医師数:年間最低500名の新規産婦人科専攻医を確保する。 社会の理解と協力を要請するとともに、行政(国、地方自治体)、学会、医学部産婦人科、研修指定病院が中心となって新規専攻医増加のための協力体制を構築する。 産婦人科医の質の向上のため、産婦人科専門医育成制度の改革を着実に進めていく。 助産師数:助産師養成数を年間2000名以上まで増員する。 助産師養成システムの再検討を行う。 助産師がすべての分娩施設で分娩のケアにあたる体制を整備するため、特に診療所への助産師の配置に対してincentiveを付与する。
産婦人科医療改革グランドデザイン2010:骨子 その2 勤務環境: 分娩取扱病院:勤務医数を年間分娩500件あたり6-8名とする。 月間在院時間240時間未満を当面の目標とする。 勤務医の勤務条件緩和、処遇改善策を推進する。 特に女性医師の継続的就労率の増加を図る。 産科診療所: 複数医師勤務、助産師雇用増等により、診療所医師の負担を軽減するとともに 診療の質の確保と向上を図る。 勤務環境の改善と診療の質の向上のために、診療規模の拡大を志向していく
産婦人科医療改革グランドデザイン2010:骨子 その3 地域周産期医療体制: 地域の周産期医療体制整備を推進し安全性を確保する。 分娩管理の効率化と多様性を確保するため分娩数全体の2分の1から3分の2を産科診療所または産科専門施設*で担当する。 地域分娩環境を確保するため、産科診療所の新規開業、継承、事業拡大、事業継続への積極的incentive付与を行う。 産科診療所の事業拡大を促進するため、新たな施設形態としての「産科病院」の導入を検討する。 産科専門施設*:低リスク妊娠分娩管理を中心とする医療施設。妊産婦の多様なニーズに効率的に対応する。複数の医師が勤務し、緊急帝王切開が実施可能であることが望ましい。 直近の診療所の出生の割合は都道府県によって幅があり26%から73%(全体では48%)となっている(2008年人口動態調査)。
産婦人科医療改革グランドデザイン2010:骨子 その4 地域周産期医療体制(続き): 地域ごとに、その地域の実情に即した医療施設の配置等を検討し、現実的でかつ安全な分娩取扱が可能な地域周産期医療体制を構築する。 限られた医療資源を最大限に活用するため、診療機能及び妊産婦・患者のバランスのとれた集約化と分散により、安全、安心、効率化の同時実現を目指していく。 麻酔科、新生児科、救急関係諸診療部門を擁する周産期センターを中心とした周産期医療システムを各地域に整備する。 施設内連携を強化する。
産婦人科医療改革グランドデザイン2010:骨子 その5 地域周産期医療体制(続き): 地域における一次施設から三次施設までの施設間連携を強化し、周産期医療における安全性の向上を図る。 診療ガイドラインの作成やその普及等により周産期医療の標準化を推進し、周産期医療の質の向上に寄与する。 上記施策を5年間継続し、成果を確認した上で、計画の再評価を行う。
謝 辞 本講演の機会を与えていただきました日本臨床救急医学会 地域救急医療体制検討委員会の皆様に深謝いたします。 謝 辞 本講演の機会を与えていただきました日本臨床救急医学会 地域救急医療体制検討委員会の皆様に深謝いたします。 司会の労をおとりいただいた木村病院 木村 佑介 先生にあつく御礼を申し上げます。