いまなぜ感染症を勉強するのか? 1.新しい感染症の出現 2.再興感染症の出現

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利用規約 役に立つ薬の情報~専門薬学 : 提供している資料は「同じ会社内、施設内での研修」や「高校生・大学生のプレゼンテーション参考資料」、「市民向けの教材をボランティアで作成するため」などを想定しています。つまり、当サイトの資料の利用は「教育に対して、無償で貢献するために使用すること」が大前提です。
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鹿児島大学 新興感染症対策研究 プロジェクト
自己紹介 1978年 北大医学部卒業 北大病院医師(血液内科) 1988年 オーストラリア国立大学研究員 1991年 北大医学部癌研病理講師
新興感染症の病原体 再興感染症の病原体 病原体の種類 病原体名 ウイルス ロタウイルス、エボラウイルス、T細胞性白血病ウイルス
消化器の解剖 消化器系とは、食物を摂取し、分解し、腸管で吸収した後、食物残渣を排泄する器官である。
合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系)
危害の発生: 調理、摂食、ならびに汚染拡大の要因 Robert V Tauxe, M.D., M.P.H. 病原体低減のための意見交換
溶連菌感染症 1.急性咽頭炎・急性扁桃腺炎 2.伝染性膿痂疹
人類集団の歴史的変遷 出典:Mascie-Tailor CGN (1993) The Anthropology of Disease, Oxford Univ. Press.
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いまなぜ感染症を勉強するのか? 1.新しい感染症の出現 2.再興感染症の出現   1)遺伝子の変異などによる新しい病原体の出現(AIDSウイルス?)   2)風土病への接触(AIDSウイルス?)   3)他の動物の感染症がヒト集団に感染(とりインフルエンザウイルス)   4)地球温暖化に伴う媒介動物の生息地拡大(ウエストナイルウイルス)   5)その他 2.再興感染症の出現   1)細菌:結核やコレラなど   2)ウイルス:黄熱病、デング熱、狂犬病など

主な新興感染症 年 病原体 分類 疾患 1973 ロタウイルス ウイルス 小児下痢症 1977 エボラウイルス ウイルス エボラ出血熱 年 病原体 分類 疾患 1973 ロタウイルス ウイルス 小児下痢症 1977 エボラウイルス ウイルス エボラ出血熱 1980 ヒト成人T細胞性白血病ウイルス ウイルス 成人T細胞性白血病 1982 腸管出血性大腸菌O-157 細菌 出血性大腸炎、溶血性尿毒 症症候群 1983 ヒト免疫不全ウイルス ウイルス 後天性免疫不全症候群 ヘリコバクターピロリ 細菌 胃炎、胃潰瘍、12指腸潰瘍 1988 ヒトヘルペスウイルス6型 ウイルス 突発性発疹 1989 C型肝炎ウイルス ウイルス 肝炎 1995 G型肝炎ウイルス ウイルス 肝炎 1997 トリインフルエンザウイルス ウイルス 高病原性トリインフルエンザ 1999 ウエストナイルウイルス ウイルス ウエストナイル熱

3.院内感染の増加 4.高病原性トリインフルエンザ 病原菌を持つ患者からの直接伝播のほかに、汚染物品、医療行為や医療従事者を介する   病原菌を持つ患者からの直接伝播のほかに、汚染物品、医療行為や医療従事者を介する   間接伝播もあり得るので厳重な注意が必要である。   日和見感染以外の正常免疫でも感染する病原菌にも注意する。   (結核、細菌性食中毒、ウイルス性肝炎、ノロウイルスなどの下痢) 4.高病原性トリインフルエンザ   新型インフルエンザの出現の可能性(ヒトからヒトに感染する高病原性トリインフルエンザウイ   ルスが変異の結果できる可能性がある。)    過去における新型インフルエンザ流行    過去の例の一つとしてスペインインフルエンザ(1918年~1919年)がある。世界では人口の    25~30%が罹患し、4000万人が死亡したと推計されており、日本では2300万人が感染    し、39万人が死亡したと記録されている。

感染源となる病原体 1.細菌 1個の細胞からなる。増殖は細胞分裂による。細胞を含まない培地で培養可。 2.真菌   1個の細胞からなる。増殖は細胞分裂による。細胞を含まない培地で培養可。 2.真菌   カビや酵母の仲間。増殖は細胞分裂による。細胞を含まない培地で培養可。 3.原虫   単細胞生物。風土病の原因となる。細胞を含まない培地で培養可。 4.クラミジア   球状の病原体。細胞を含まない培地で培養不可。 5.リケッチア   0.3mm程度の病原体。細胞を含まない培地で培養不可。 6.ウイルス   15nmから数百nmの病原体。細胞を含まない培地で培養不可。核酸としてDNAもしく   はRNAのいずれかを持つ。

細菌の増殖速度と感染症発症に必要な菌量 病原菌 発症に必要な菌量 増殖速度 腸炎ビブリオ 105~108 7.5~8分 病原菌 発症に必要な菌量 増殖速度 腸炎ビブリオ 105~108 7.5~8分 コレラ菌 104~108 20~30分 腸管出血性大腸菌O-157 101~102 20~30分 赤痢菌 101~104 30~40分 チフス菌 101~103 30~40分 サルモネラ 105~108 30~40分 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌 105~108 50~60分 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 105~108 90~120分 結核菌 101~103 11~12時間 腸管出血性大腸菌O-157、赤痢菌、結核菌 は  個レベルで発症しうる感染力の強い菌だが、結核菌の増殖速度は非常に遅い。

感染症の成立に必要な6要素 1.病原体の存在 2.病原体の感染力(病原性) 3.接種菌量 4.感染経路 5.感染部位・侵入門戸(カテーテル挿入,褥瘡の存在など) 6.宿主の感受性・抵抗力 病原微生物の毒力、量、経路などが微生物の病原性を決める。 また、病原性と宿主の状態(カテの存在など)や抵抗力のバランスが傷害を起こすか否かを決める。

感染経路 感染経路 感染の詳細 病原菌 接触感染 直接あるいは器具などを介して 性感染症、膿痂疹、 保菌者より感染する。 ウイルス性出血熱 感染経路 感染の詳細 病原菌 接触感染 直接あるいは器具などを介して 性感染症、膿痂疹、                      保菌者より感染する。 ウイルス性出血熱 飛沫感染 咳、くしゃみ、会話などで飛び散る インフルエンザ菌、 径5mm以上の飛沫を介する感染 マイコプラズマ、インフル エンザウイルスなど 空気感染 径5mm以下の飛沫核による感染 結核菌、水痘、麻疹 レジオネラなど 一般媒介物感染 汚染された食物、水、薬剤、装置 食中毒、コレラ、ポリオ によって感染する 赤痢アメーバなど 昆虫媒介感染 蚊、ハエ、ダニ、ノミなどによって 日本脳炎、黄熱病 媒介。 マラリア、フィラリアなど その他の感染経路  1)母子感染 病原体が胎盤を通過して、あるいは 成人T細胞性白血病 母乳を介して感染。 AIDSウイルスなど  2)経皮感染 病原体が皮膚を通過して感染。 住血吸虫、レプトスピラ など  3)輸血・切創事故 輸血・血液などで汚染された医療器具 B・C型肝炎ウイルス

病原体に対する宿主反応 組織反応 主たる炎症細胞 特徴 膿瘍 好中球 限局性病変(急性炎症) 組織反応 主たる炎症細胞 特徴 膿瘍 好中球 限局性病変(急性炎症) 蜂巣炎(蜂窩織炎) 好中球 びまん性炎症(炎症性浮腫) 好酸球性蜂巣炎 好酸球 アレルギー、寄生虫感染 リンパ球浸潤 T細胞 慢性炎症、ウイルス感染 リンパ濾胞形成 B細胞 慢性炎症、自己免疫疾患 形質細胞浸潤 形質細胞 亜急性炎症、梅毒 肉芽腫 マクロファージ 細胞性免疫反応  乾酪肉芽腫 結核  異物肉芽腫 異物処理反応  横色肉芽腫 脂質貪食 肉芽組織 血管内皮細胞 組織修復反応

加齢に伴う免疫能の低下 T細胞が老化の影響を受けやすい主な理由は、T細胞の補充がほとんど新生児期に限られ、その後十分に補充されないため。したがって、老化に伴って免疫細胞・免疫組織の機能は多かれ少なかれ低下するが、中でも免疫応答全体をコントロールするT細胞系が特に影響を受けやすいと考えられている。マクロファージも減少する。 また加齢による胃腸の衰えからくる腸内の細菌バランスの崩壊なども免疫低下の原因と考えられる。

日和見感染症 病原性がほとんどないか、あっても非常に弱い病原体が、正常の宿主に対しては病原性を発揮しないにかかわらず、宿主の抵抗力が弱っている時に病原性が発揮されおこる感染を日和見感染といいます。

新興感染症の病原体 再興感染症の病原体 病原体の種類 病原体名 ウイルス ロタウイルス、エボラウイルス、T細胞性白血病ウイルス 病原体の種類 病原体名 ウイルス ロタウイルス、エボラウイルス、T細胞性白血病ウイルス                エイズウイルス、C型肝炎ウイルスなど リケッチア 日本紅斑熱リケッチアなど クラミジア 肺炎クラミジア 細菌 レジオネラ、ヘリコバクター、病原性大腸菌O-157など 原虫 クリプトスポリジウムなど 再興感染症の病原体 病原体名 ペスト、ジフテリア、コレラ、百日咳、サルモネラ、炭疸、結核、黄熱病、狂犬病、 耐性病原体感染症(MRSA、耐性肺炎球菌、バンコマイシン耐性腸球菌、多剤耐性 結核菌、マラリアなど)

高齢者肺炎の特徴 (1)老化による生理機能の低下のため、咳・痰・発熱などの典型的な   臨床症状を欠くことが多く、このため肺炎の発見の遅れにつなが   る可能性がある。 (2)高齢者は様々な基礎疾患(成り立ちの大もとの病気)を持つこ   とが多く、肺炎が重症化しやすくなる。 (3)老化による薬物代謝・排泄機能の低下のため、治療薬の副作用   が生じやすくなる。 (4)その原因として誤嚥(ごえん:異物を誤って飲み込むこと)の関与   が大きい、つまり口腔咽頭内に定着した菌を下気道に吸入するこ   とによって肺炎を引き起こすわけで、肺炎も再発しやすい。