首都圏に建つ超高層建築物の地震応答と 制震補強に関する研究 工学院大学大学院 久田研究室 修士2年 DM-08038 島村 賢太 首都圏に建つ超高層建築物の地震応答と制震補強に関する研究について発表します。久田研究室、島村賢太です。よろしくお願いします。(くりっく) 工学院大学大学院 久田研究室 修士2年 DM-08038 島村 賢太 KOGAKUIN UNIVERSITY
首都圏で発生する恐れのある地震例 ■ 工学院大学新宿校舎 STEC情報ビル 東京湾北部地震 想定首都直下地震 今後30年 発生確率80% ■ 工学院大学新宿校舎 STEC情報ビル 東京湾北部地震 想定首都直下地震 今後30年 発生確率80% 東海地震 東南海地震 近年首都圏ではM7クラスの首都直下地震による震源近傍の強震動や、想定東海地震などに代表されるM8クラスの海溝型巨大地震による長周期地震動に対し、超高層建築物の対策の重要性が指摘されています。そこで、本研究では、新宿副都心の一角に位置する工学院大学新宿校舎とSTEC情報ビルを対象とした立体モデルを用い、(首都圏において危険性の高い首都直下地震および東海・東南海連動地震の想定地震波を入力波とした)弾塑性地震応答解析を行い、地震応答および構造被害を予測します。そして、施工性、運搬性、応答低減効果等をふまえ、制震補強案を提案します。(くりっく) 想定東海・東南海連動地震 今後30年 発生確率30~50%
研究の流れ 設計用解析(等価せん断)モデルを用いた 地震応答解析※1 立体モデルによる弾性地震応答解析および 観測記録との比較検討 (大学棟※2・3、オフィス棟) 常時微動観測、人力加振観測、地震観測記録 サイト波を用いた弾塑性地震応答解析とその評価 首都直下地震、東海・東南海連動地震 制震補強案の検討 研究の流れです。既往の研究として設計用解析(等価せん断)モデルを用いた大学棟の地震応答解析をしています。また、より詳細な検討を行うために立体モデルによる弾性地震応答解析を行い、観測記録との比較検討し、モデルの妥当性を確認しています。ここでは、常時微動観測、人力加振観測、および、地震観測記録と比較を行っています。続いて、首都圏において危険性の高い首都直下地震および東海・東南海連動地震の想定地震波を入力波とした弾塑性地震応答解析を行い、構造被害の予測をします。そして、施工性、運搬性、応答低減効果等をふまえ制震補強案の検討をします。今回は、時間の都合により、弾性範囲内における地震応答解析は割愛させていただきます。(くりっく) ※1:小菅芙紗子他:首都圏にある超高層キャンパスの地震防災対策に関する研究(その3) 超高層ビルの微動観測と地震応答解析、日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)2007.8 ※2:星幸男他:首都圏に建つ超高層キャンパスと地域連携による地震防災に関する研究(その3)超高層ビルの微動観測と地震応答解析、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)2008.9 ※3:島村賢太他:首都圏に建つ超高層キャンパスと地域連携による地震防災に関する研究(その4)超高層ビルの地震応答特性の評価、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)2008.9
対象建築物概要:大学棟 対象建築物概要 基準階伏図 軸組図(左Y14、右X2通り) 北側立面図 部材寸法(柱) 部材寸法(ブレース) 部材寸法(梁) 部材寸法(大スパン梁) 対象建築物である大学棟の概要です。大学棟の地上部はS造のブレース付きラーメン架構であり、構造的な特徴として東西端部にあるコアを結ぶ25.6mの大スパン梁が配置されています。また、長辺方向であるEW方向の16階、21階の階高が5mを超える中間階には、スーパーフレームが配置されています。主要部財の寸法はこのようになっています。部材位置は、軸組図の太線で示しています。 (くりっく) 太線はブレース位置 基準階伏図 軸組図(左Y14、右X2通り) 北側立面図
対象建築物概要:オフィス棟 対象建築物概要 基準階伏図 軸組図(左Y14、右X2通り) 東側立面図 太線はブレース位置 こちらはオフィス棟の概要です。大学棟と同様に地上部はS造のブレース付きラーメン架構であり、東西端部にあるコアを結ぶ大スパン梁が配置されています。東西端部のコアの大きさより、ブレースの配置が対象ではなく、偏心していることが特徴です。主要部材の寸法はこのようになっています。(くりっく) 太線はブレース位置 基準階伏図 軸組図(左Y14、右X2通り) 東側立面図 5
立体モデル概要 立体モデル仮定条件及び解析条件 固有周期比較 弾性モデル(正曲げのみを評価した合成梁) 立体モデル ・各階の床は剛床と仮定 ・柱脚の支持条件は固定と仮定 ・梁は床スラブの剛性,強度を考慮した合成梁として評価 ・パネルゾーンは剛域と仮定 ・ブレースは接点間距離を材長とし、両端ヒンジモデルを採用 ・人力加振観測結果より減衰定数1%のレーリー減衰 ・NS成分・EW成分・UD成分の3方向入力 N E W S 固有周期比較 弾性モデル(正曲げのみを評価した合成梁) 弾塑性モデル(正負曲げを評価した合成梁) 対象とする振幅が小さいため、合成梁の床スラブ にクラックが入らないと仮定 対象とする振幅が大きくなるため、正曲げ、負曲げを考慮 立体モデルの仮定条件および解析条件はこのようになっています。特徴として 、梁は床スラブの剛性、強度を考慮した合成梁として評価し、人力加振観測結果より減衰定数1%のレーリー減衰を使用しています。こちらに、各モデルの固有周期を示しています。まず、弾性モデルから説明します。弾性モデルは対象とする振幅が小さいため、合成梁の床スラブにクラックが入らないと仮定し、正曲げ時の断面性能を使用しています。弾性モデルと微動観測結果が1割以下の差しかなく近い値であることが確認できます。今回は、弾塑性解析では、対象とする振幅が大きくなるため、正曲げ・負曲げを考慮しています。(くりっく) 立体モデル ※使用解析ソフト SNAP V4.0 (構造システム) 6
危険性の高いサイト波を用いた弾塑性地震応答解析 危険性の高いサイト波を用いた弾塑性地震応答解析 解析目的 妥当性の確認された立体モデルによるサイト波を用いた応答解析より被害想定を行い、補強の必要性を確認する 弾塑性モデル概要 柱(MSモデル) ・スーパーフレームおよびその上下階のみを弾塑性モデルとした ・軸方向力とモーメントの相互作用を表現出来るMSモデル 梁(材端バネモデル) ・全ての部材を合成梁として正負で異なる全塑性 モーメントを指針を元に算出した ※4 ・履歴特性はバイリニア形とし2次剛性は1次剛性 の1/105とする ブレース(材端バネモデル) 次に弾塑性モデルの概要を説明します。柱はスーパーフレームおよびその上下階のみを弾塑性モデルとし、軸方向力とモーメントの相互作用を表現出来るMSモデルです。梁は全ての部材を合成梁として正負で異なる全塑性モーメントを算出しました。ブレースは座屈を考慮した履歴特性を使用しています。(くりっく) ・座屈を考慮した柴田-若林の履歴特性を使用 ・座屈荷重、座屈後安定耐力は、基準及び指針より 算出した※5,6 ※4:日本建築学会編:各種合成構造設計指針・同解説 ※5:日本建築学会編:鋼構造設計基準 ※6:日本建築学会編:鋼構造限界状態設計指針・同解説 履歴特性
弾塑性解析に用いる入力地震波 想定首都直下地震(東京湾北部地震)※7 想定東海・東南海連動地震※8 特徴が異なる入力地震波として、首都圏で想定されている危険性の高い、想定首都直下地震および想定東海・東南海連動地震を用います。左が想定首都直下地震で右が想定東海・東南海連動地震です。首都直下地震は振幅が大きく短周期成分が卓越し 、連動地震は長周期成分が多く継続時間が長いことが特徴です。(くりっく) 想定首都直下地震(東京湾北部地震)※7 想定東海・東南海連動地震※8 ※7:田中良一他:首都圏に建つ超高層キャンパスと地域連携による地震防災に関する研究(その2)首都直下地震の強震動予測日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)、構造Ⅱ、pp.815-816、2008.9 ※8:株式会社大成建設より提供
各階最大応答値 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 大学棟解析結果(NS方向) 首都直下地震解析結果 最大加速度 最大変形角 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 大学棟解析結果(NS方向) 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 オフィス棟解析結果(NS方向) 最大加速度 最大変形角 続いて、解析結果です。このグラフは各階の最大加速度と最大変形角をプロットしたものです。上段が大学棟解析結果で下段がオフィス棟解析結果です。左側が首都直下地震解析結果で、右側が東海・東南海連動地震の解析結果です。解析ソフトの出力では層間変形角は曲げ変形を含んだものとなっています。そこで、ここでは、ブレースの変形量から各層のせん断変形量を求め、層間変形角を算出しています。首都直下地震では高次モードの影響により、複雑な値となっています。東海・東南海連動地震では、1次モードが支配的であることが確認できます。また、せん断変形に比べて曲げ変形が大きいことがわかります。(くりっく)
時刻歴波形:大学棟 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 大学棟解析結果(NS方向) 首都直下地震 29F 加速度 こちらは大学棟解析結果の時刻歴波形です。左が首都直下地震解析結果で右が連動地震解析結果です。首都直下地震のでは、最大加速度は約1000galと大きく、最大変位は約60cmであり、応答の継続時間は2分程度である。また、連動地震では最大変位が約80cmと大きく、応答の継続時間が長く、10cm程度の片振幅を保ちつつ約10分間揺れ続けることが特徴です。(くりっく) 首都直下地震 29F 変位 連動地震 29F 変位 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 大学棟解析結果(NS方向)
時刻歴波形:オフィス棟 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 オフィス棟解析結果(NS方向) 首都直下地震 28F 加速度 こちらはオフィス棟の時刻歴波形です。こちらも大学棟と同様な傾向が見られ、大学棟よりも若干応答が小さいことが確認できました。(くりっく) 首都直下地震 28F 変位 連動地震 28F 変位 首都直下地震解析結果 東海・東南海連動地震解析結果 オフィス棟解析結果(NS方向)
塑性化の評価:大学棟 首都直下地震振動状態 基準階伏図 塑性ヒンジ図 首都直下地震 解析結果 東海・東南海連動 地震解析結果 X2通り Y14通り X2 X10 各階平均塑性率(NS方向) 首都直下地震 解析結果 東海・東南海連動 地震解析結果 塑性化の評価になります。こちらは大学棟の解析結果になります。グラフは各階の塑性率の平均値プロットしたものです。右の図は塑性ヒンジ図です。こちらは、首都直下地震時の振動状態を示したものです。これらを見ますと、黄色で示したところが主に被害を受けている箇所です。ブレースが配置されていない通りにかかる境界梁の塑性率が大きいことが確認できます。これは、曲げによる力を受けることが考えられます。首都直下地震では、高層階おける境界梁に被害が大きく、連動地震では低層階に被害が大きいことが確認できます。また、最も注目すべきは21階のブレースです。大きな塑性率であり周辺階の約2倍です。21階はEW方向にスーパーフレームがあり階高が高くなっています。しかし、ブレースの断面寸法は周辺階とほぼ変わらないことが原因と考えられます。(くりっく)
塑性化の評価:オフィス棟 首都直下地震応答スペクトル 基準階図平面図 各階平均塑性率(NS方向) 首都直下地震 解析結果 東海・東南海連動 地震解析結果 続いてオフィス棟です。大学棟と同様に、ブレースが配置されていない通りにかかる境界梁の塑性率が大きいことが確認された。また、オフィス棟は偏心しているため、各通りにより被害が異なり西側の通りの被害は少なく、東側であるX15およびX17通りに被害が集中することが確認された。首都直下地震では2次モードの影響により、中間階の塑性率が大きいことが確認できました。こちらは首都直下地震の応答スペクトルになります。これを見ますと、1秒付近にピークがあり、この影響を受けたものと考えられます。東海等南海連動地震では低層階に被害があり、大学棟に比べ、被害が少ないことが確認できます。(くりっく) X12通り X15通り X15通り 首都直下地震 解析結果 東海・東南海連動 地震解析結果 塑性ヒンジ図 13
現場調査によるダンパー設置可能位置の検討 制震補強案の検討 目標 大学棟NS方向21階に確認された応答を周辺階の1.5倍以下に低減させる補強案を施工性、運搬性、応答低減効果等をふまえ総合的に判断し提案する 現場調査によるダンパー設置可能位置の検討 :NS方向既存ブレース :ダンパー設置検討部 N D2 D2 制震補強案の検討についてです。今回は、大学棟のNS方向21階の応答を周辺階の1.5倍以下に低減させることを目標とします。21階にダンパーを配置しますが、こちらは、 解析モデルは違いますが、昨年度の修士論文発表で発表されているので、詳細は割愛させていただきます。 D1 D1 D2 D2 X2 X2 X4 X4 21階平面図 軸組図 左:X2 右:X4
N 運搬性の検討 左:EVカゴ平面図 右:アクソメ図 天井高さが低く、幅が狭い廊下 ダンパー配置位置軸組図 左:D2 右:D1 D2 D1 ・最大積載重量1900kg ・最大積載部材長さ 2500~3000mm D2 ・最低天井高さ2400mm ・最低廊下幅1100mm 左:EVカゴ平面図 右:アクソメ図 天井高さが低く、幅が狭い廊下 運搬製の検討も行っています。 電動式パワーリフター ・最大積載能力1000kg ・自重225kg 三菱重工HP:http://www.grendia.com/b_power-lifter/index.html ダンパー配置位置軸組図 左:D2 右:D1 運搬用フォークリフト概要
使用ダンパー概要とモデル化 使用オイルダンパー概要図 ※9 使用オイルダンパー性能 使用オイルダンパー配置図 左:D2 右:D1 こちらは、使用するダンパーになります。最大減衰力2000kNのオイルダンパーを使用します。 使用オイルダンパー性能 使用オイルダンパー配置図 左:D2 右:D1 ※9:三和テッキHP http://www.tekki.co.jp/products/damper.html 16
東海・東南海連動地震解析結果(NS方向) 各層応答値による補強前後の比較 ブレース 各階平均塑性率 梁 各階平均塑性率 最大変形角 1.8倍 1.4倍 首都直下地震解析結果(NS方向) 梁 各階平均塑性率 ブレース 各階平均塑性率 応答解析結果の各階応答値における補強前後の比較を示します。上側が首都直下地震解析結果で、下側が東海・連動地震の解析結果です。首都直下地震のブレース塑性率を見ますと、目標としていた周辺階の1.5倍以下の応答に収まることが確認できます。層間変形角においても、同様の傾向が見られます。また、21階周辺階の梁塑性率においても、応答の低減が見られました。振動の継続時間も60秒程度短くなる事が確認された。連動地震では、最大層間変形角およびブレース塑性率にあまり効果がありませんが、中間階から低層階における梁塑性率に若干の応答の低減が確認されました。 最大変形角 東海・東南海連動地震解析結果(NS方向)
まとめ 超高層建築物である工学院大学新宿校舎およびSTEC情報ビルを対象とした立体モデルを用い、首都圏において危険性の高い首都直下地震および東海・東南海連動地震の想定地震波を入力波とした弾塑性地震応答解析を行った。 大学棟では、スーパーフレームが配置されている直行方向であるNS方向21階において変形が大きく、構造的な弱点になることを確認した。また、曲げ変形の影響により、境界梁の被害が大きくなることを確認した。 オフィス棟では、偏心の影響より、建物西側のX10およびX12通りの被害は少なく、東側であるX15およびX17 通りに被害が集中することを確認した。 施工性、運搬性、応答低減効果等をふまえ、大学棟のNS方向21階の応答を低減させる制震補強案の検討を行った。 オイルダンパーを用い、弾塑性地震応答解析を行った結果、NS方向21階において目標としていた、周辺階の1.5倍以下の応答に抑えることができた。 今後の課題 オフィス棟において、施工性、運搬性、応答低減効果等を考慮した上で、建物東側であるX15およびX17 通りの部材の応答を低減させるような現実的な補強案を提案する必要がある。 18