コンジョイント分析入門 千葉大学 真城知己
Part I コンジョイント分析の基礎 従来の手法と比べた特徴
コンジョイント分析の要点 複数の名義尺度間でいずれの要因が重視されているのかを視覚的に把握することができる ポイントとなる点を端的に把握可能 分析結果をもとにシミュレーションができる 調査結果の実現にむけた予測作業に便利
以下の課題をどのように調査するか 既存のサービス利用へのニーズ 新しいサービス開発へのニーズ 交通手段選択の判断 eg.「どのようなサービスを受 けたいですか?」 新しいサービス開発へのニーズ eg.「どのようなサービスが必 要ですか?」 交通手段選択の判断 eg.「福岡までの移動にどのような 条件で移動したいですか?」 教員免許状取得条件 として重視される内容の把握 eg.「どのような条件で教員免許状取得のための講習を受講したいですか?」
以下の課題をどのように調査するか ・・ 従来の手法なら 既存のサービス利用へのニーズ eg.「どのようなサービスを受 けたいですか?」
以下の課題をどのように調査するか どれも利用したいサービスばかり !! ・・ 従来の手法なら 既存のサービス利用へのニーズ ・・ 従来の手法なら 既存のサービス利用へのニーズ eg.「どのようなサービスを受 けたいですか?」 既存のサービスを並記して, サービスを利用したい程度を尺度化した項目で評価 利用したくない 利用したい 送迎サービス 1 2 3 4 5 一時預かりサービス 1 2 3 4 5 宿泊ケアサービス 1 2 3 4 5 余暇プログラム 1 2 3 4 5 どれも利用したいサービスばかり !! どのサービスの必要度が高いのか ?? どれから用意すればいいのか ??
以下の課題をどのように調査するか ・・ 従来の手法なら 新しいサービス開発へのニーズ eg.「どのようなサービスが必 要ですか?」
以下の課題をどのように調査するか ・・ 従来の手法なら 新しいサービス開発へのニーズ 平均値の差がニーズの差になっているだろうか ? ・・ 従来の手法なら 新しいサービス開発へのニーズ eg.「どのようなサービスが必 要ですか?」 新しく考案するサービスを並記して,そのサービスを利用したい程度を尺度化した項目で評価 利用したくない 利用したい タクシー利用券 1 2 3 4 5 サービス受給券 1 2 3 4 5 サービス受給現金給付 1 2 3 4 5 余暇カレッジの講座 1 2 3 4 5 平均値の差がニーズの差になっているだろうか ? どれか一つだけサービスを用意できるとしたときに,「平均値」の一番高かったものが「もっとも必要とされる内容である」と判断して大丈夫だろうか ??
以下の課題をどのように調査するか ? ・・ 従来の手法なら(名義尺度の場合) 交通手段選択の判断 ・・ 従来の手法なら(名義尺度の場合) 交通手段選択の判断 eg.「福岡までの移動にどのような 条件で移動したいですか?」 早くて,安くて,楽ちんな移動手段を用意するのは現実には難しい 1.移動時間 長時間 普通 短時間 2.料金 安い 普通 高い 3.快適さ 疲れる 普通 楽ちん 4.同伴者 相性悪い人 同僚 友人 恋人 ?
交通手段選択の判断 (名義尺度データ) 早くて,安くて,楽ちんな移動手段を用意するのは現実には難しい 交通手段選択の判断 (名義尺度データ) eg.「福岡までの移動にどのような条件で移動したいですか?」 早くて,安くて,楽ちんな移動手段を用意するのは現実には難しい すべての条件を同時に見比べて どこかの条件を妥協している or (優先させている条件がある) 1.移動時間 長時間 普通 短時間 2.料金 安い 普通 高い 3.快適さ 疲れる 普通 楽ちん 4.同伴者 相性悪い人 同僚 友人 恋人 理想型 1.移動時間 長時間 普通 短時間 2.料金 安い 普通 高い 3.快適さ 疲れる 普通 楽ちん 4.同伴者 相性悪い人 同僚 友人 恋人 飛行機 1.移動時間 長時間 普通 短時間 2.料金 安い 普通 高い 3.快適さ 疲れる 普通 楽ちん 4.同伴者 相性悪い人 同僚 友人 恋人 新幹線 1.移動時間 長時間 普通 短時間 2.料金 安い 普通 高い 3.快適さ 疲れる 普通 楽ちん 4.同伴者 相性悪い人 同僚 友人 恋人 夜行バス
ここまでのポイント 1 従来のニーズ調査では コンジョイント分析では 「どれも重要」という結果では,その後に活かしにくい ここまでのポイント 1 従来のニーズ調査では 「どれも重要」という結果では,その後に活かしにくい 「平均値」で代表させることがむしろ結果の解釈を誤らせてしまう可能性がある 名義尺度データの場合には,回答者がどの条件を重視して判断しているのかが解釈できない場合がある 個々の回答者ごとの分析は ローデータからの解釈しかできない コンジョイント分析では 条件間の「相対的重要度」で表記するので,どこが重視されているのかを容易に把握でき,実現可能な対策のためのデータが得られる 名義尺度データでも,回答者が各条件にどのような相対的な評価をしているのか把握することができる 回答者のデータをプロフィールの形で個別に表現することができる →類似したプロフィールでグループ分けをして分析をすることも
ここまでのポイント 2 コンジョイント分析では 従来のニーズ調査では 各調査項目が項目間相互で 「独立している」ことが前提 ここまでのポイント 2 従来のニーズ調査では 各調査項目が項目間相互で 「独立している」ことが前提 →各項目ごとに質問されれば,「高い評定」や 「理想像に近い評定」が なされてしまう →実際には,いくつかの条件を 「同時に勘案して判断している」 ・判断に大きな影響のある項目 ・判断にほとんど影響のない項目 コンジョイント分析では 複数の条件を同時に勘案する処理なので,回答者の実際の思考パターンに近い形の分析となる 回答者の項目評価の際に 「大きな影響のある条件」と 「ほとんど影響のない条件」を 「相対的重要度」のプロフィール図 として集団・個別に表すことができる
コンジョイント分析では なにができるのか 複数の要因間で(条件比較をして) いずれの要因が重視されているのかを コンジョイント分析では なにができるのか 複数の要因間で(条件比較をして) いずれの要因が重視されているのかを 視覚的に相対化して明瞭に表現できる 名義尺度や順序尺度など異なる尺度が混在してもかまわない
Part II コンジョイント分析の実際 シンタックスの作成と留意のポイント
コンジョイント分析のプロフィール出力例 (出展: 真城知己(2001):SPSSによるコンジョイント分析.東京図書 p.15)
もっとも好まれる水準の組み合わせ +0.136 +0.087 +0.076 +1.034 +2.758 (定数項) 4.091 全効用 課程の種類:夜間 +0.087 学習年限 :1年 +0.076 免許状種類:一種 +1.034 在籍の身分:専従免除 +2.758 (定数項) 4.091 全効用
課程の種類を夜間から昼間に変更 -0.064 +0.087 +0.076 +1.034 +2.758 (定数項) 3.891 (全効用) 課程の種類:昼間 +0.087 学習年限 :1年 +0.076 免許状種類:一種 +1.034 在籍の身分:専従免除 +2.758 (定数項) 3.891 (全効用)
在籍の身分を専従免除から個人責任に変更 +0.136 +0.087 +0.076 -1.034 +2.758 2.027 課程の種類:夜間 学習年限 :1年 +0.076 免許状種類:一種 -1.034 在籍の身分:個人責任 +2.758 (定数項) 2.027 (全効用)
-0.064 課程の種類:昼間 +0.087 学習年限 :1年 +0.076 免許状種類:一種 +1.034 在籍の身分:専従免除 課程の種類を夜間から昼間に変更 在籍の身分を専従免除から個人責任に変更 -0.064 課程の種類:昼間 +0.087 学習年限 :1年 +0.076 免許状種類:一種 +1.034 在籍の身分:専従免除 +2.758 (定数項) 3.891 (全効用) +0.136 課程の種類:夜間 +0.087 学習年限 :1年 +0.076 免許状種類:一種 -1.034 在籍の身分:個人責任 +2.758 (定数項) 2.027 (全効用) ※ もっとも好まれる組み合わせの場合の全項用 → 4.091
コンジョイント分析のプロフィール出力例 (出展: 真城知己(2001):SPSSによるコンジョイント分析.東京図書 p.15)
コンジョイント分析の具体的手順 1.要因と水準の決定 水 準 要 因 要因数は 4~6程度 水準数は 2~5程度 例) 課程の種類 学習年限 4~6程度 水準数は 2~5程度 要 因 水 準 課程の種類 ・昼間 ・夜間 ・昼夜間 学習年限 ・1年 ・2年 免許状種類 ・一種 ・専修 在籍の身分 ・専従免除 ・個人責任
コンジョイント分析の具体的手順 2.直行配列表を使った項目の絞り込み 水 準 要 因 すべての水準の 例) 組み合わせでは 項目が膨大に 組み合わせでは 項目が膨大に なってしまうため 右表程度であれば 3×2×2×2=24 たいしたことはないが 要因数や水準数が 少し増えただけで 例)3×2×4×3×3= 例) 要 因 水 準 課程の種類 ・昼間 ・夜間 ・昼夜間 学習年限 ・1年 ・2年 免許状種類 ・一種 ・専修 在籍の身分 ・専従免除 ・個人責任 216
コンジョイント分析の具体的手順 3.調査票の作成 回答者による評定は リッカート方式 5段階評定など 順位付け方式 リッカート方式 5段階評定など 順位付け方式 もっとも好ましい項目からそうでない項目まで 順位をつける 並べ替え方式(カード式) 各組み合わせをカードにして好ましいものから そうでないものに並び替える
要因や水準を設定する際の留意点 要因として設定すべきか水準とすべきか 同じベクトル上にある水準が複数の要因に またがっていないか またがっていないか 相反する水準の組み合わせが生じていないか 相対性の表現が適切か 水準間の距離が適切か 実際に実現可能な水準の内容か
コンジョイント分析の項目例 例) 課程の種類 ・・・ 夜間 学習年限 ・・・ 1年 免許状種類 ・・・ 専修 課程の種類 ・・・ 夜間 学習年限 ・・・ 1年 免許状種類 ・・・ 専修 在籍の身分 ・・・ 校務からの専従免除 リッカート方式でたずねるなら 好ましくない・・・・どちらともいえない・・・・好ましい 1 2 3 4 5 順位付け方式でたずねるなら このカードの順位は? 位
コンジョイント分析の具体的手順 4.コンジョイント分析の出力 SPSSのプログラムの場合 結果は「Subfile Summary(全体要約)」と 各回答者ごとのプロフィールが出力される →各個人がどの要因を重視しているのかも 明確にわかる 全体要約や各回答者のプロフィールをもとにシミュレーションを行うことができる
まとめ 予測性の高さ →具体的な内容を提示して回答させるため 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →具体的な内容を提示して回答させるため 実際に回答者の行動予測がやりやすい 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →ある程度まで要因や水準が具体的に 絞られた段階で用いる分析方法 すでにとったデータを後から処理することはできない →コンジョイント分析のために計画した調査票を 用いて行わなければならない ニーズとサービスの橋渡しのための調査手法 →調査結果を具体的に実現させやすいという 特徴を有効に活用してこそ真価を発揮
まとめ 予測性の高さ →具体的な内容を提示して回答させるため 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →具体的な内容を提示して回答させるため 実際に回答者の行動予測がやりやすい 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →ある程度まで要因や水準が具体的に 絞られた段階で用いる分析方法 すでにとったデータを後から処理することはできない →コンジョイント分析のために計画した調査票を 用いて行わなければならない ニーズとサービスの橋渡しのための調査手法 →調査結果を具体的に実現させやすいという 特徴を有効に活用してこそ真価を発揮
まとめ 予測性の高さ →具体的な内容を提示して回答させるため 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →具体的な内容を提示して回答させるため 実際に回答者の行動予測がやりやすい 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →ある程度まで要因や水準が具体的に 絞られた段階で用いる分析方法 すでにとったデータを後から処理することはできない →コンジョイント分析のために計画した調査票を 用いて行わなければならない ニーズとサービスの橋渡しのための調査手法 →調査結果を具体的に実現させやすいという 特徴を有効に活用してこそ真価を発揮
まとめ 予測性の高さ →具体的な内容を提示して回答させるため 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →具体的な内容を提示して回答させるため 実際に回答者の行動予測がやりやすい 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →ある程度まで要因や水準が具体的に 絞られた段階で用いる分析方法 すでにとったデータを後から処理することはできない →コンジョイント分析のために計画した調査票を 用いて行わなければならない ニーズとサービスの橋渡しのための調査手法 →調査結果を具体的に実現させやすいという 特徴を有効に活用してこそ真価を発揮
まとめ 予測性の高さ →具体的な内容を提示して回答させるため 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →具体的な内容を提示して回答させるため 実際に回答者の行動予測がやりやすい 「どこから着手すればよいか」の指針をえるため まったくの探索的段階には不向き →ある程度まで要因や水準が具体的に 絞られた段階で用いる分析方法 すでにとったデータを後から処理することはできない →コンジョイント分析のために計画した調査票を 用いて行わなければならない ニーズとサービスの橋渡しのための調査手法 →調査結果を具体的に実現させやすいという 特徴を有効に活用してこそ真価を発揮
おわりに コンジョイント分析でもっとも難しいのは,設問のたてかた 調査票の作成までに,全体の時間配分の7割を割くぐらいの調査計画が大切 これによって調査結果を意図的に歪めることさえ可能 調査票の作成までに,全体の時間配分の7割を割くぐらいの調査計画が大切
コンジョイント分析関係の書籍 ・岡本眞一:コンジョイント分析.ナカニシヤ出版 ¥2,000 ・代喜一 :コンジョイント分析.データ分析研究所 ¥2,000 ・代喜一 :コンジョイント分析.データ分析研究所 ¥5,000 ・真城知己:SPSSによるコンジョイント分析. 東京図書 ¥2,800