緩和ケアチームについて 諏訪中央病院緩和ケア医師 平方 眞
目次 1) 緩和ケアとは何か 2) 緩和ケアチームの置かれている立場 3) 緩和ケアの需要を把握する 4) 国が考えるこれからの緩和ケア 5) 緩和ケアチームがするべきこと
1-1) 以前の緩和ケアの定義 旧来の定義(1990年 WHO) ホスピス・緩和ケアは、治癒不可能な状態にある患者および家族のクオリティーオブライフ(QOL)の向上のために,様々な専門家が協力して作ったチームによって行われるケアを意味する。 →この定義では、末期がんでないと緩和ケアにはかかれない、かかってはいけないと理解される。 緩和ケアというと、この古い定義の方が多くの人の認識に近いと思う。 しかし、世界的に見るとこの定義ではもう古い。 この定義は、緩和ケアの守備範囲を狭めてしまうために、医療関係者からも、患者さんや一般の人からも、日陰の医療扱いをされ続ける原因になってしまう。
1-2) 緩和ケアの新しい定義 新しい定義(2002年 WHO) 生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである。 新しい定義で大事なのは、「生命を脅かす疾患」による問題であれば、治るとか治らないとかいうことは、緩和ケアにかかっていいかどうかには関係ないということ。 2007年4月から施行される「がん対策基本法」でも、この定義に沿って「疾患の早期から」緩和ケアが係われる体制を求めている。
1-3) 緩和ケアはいつから受ける? 以前の定義だと、「治すための治療をこれ以上はできない」というところまで頑張って、そこから緩和ケアに移行する 治すための治療→→→→→→→→→→ 緩和ケア 時間の流れ→
1-4) 緩和ケアはいつから受ける? 新しい定義では、がんと言われて「困った」だけでも(がんによる不都合)緩和ケアを受ける資格ができる。治す治療をしながら緩和ケアを受けることも問題ない。必要なだけ緩和ケアを提供する。 治すための治療→→→→→→→→ →→→→→→→→緩和ケア 時間の流れ→
1-5) 緩和ケアの内容① 緩和ケアの内容 ① 症状のコントロール ② 生活面の問題解決の援助 ③ 社会面の問題解決の援助 ① 症状のコントロール ② 生活面の問題解決の援助 ③ 社会面の問題解決の援助 ④ 精神面の問題解決の援助 ⑤ 魂の痛みに対する解決の援助 魂の痛み=Spiritual pain
1-6) 緩和ケアの内容② 癌の症状のうち、一番つらくて困るのが「痛み」 そのため、緩和ケアではまず第一に痛みの解消を目指して治療を行なう モルヒネなどの強オピオイドも必要があれば症状に応じて適量を使用。モルヒネは痛みに対しては純粋な痛み止めとして働く。
1-7) 緩和ケアの内容③ ・生活面の問題解決の援助 ・社会面の問題解決の援助 ・精神面の問題解決の援助 ・魂の痛みに対する解決の援助 これらは医者・看護師だけではできないので、多くの職種が協力して総合的に援助を行う。それぞれの患者に必要な職種が柔軟にチームを形成してケアに当たる
2-1) 緩和ケアチームの 置かれている立場 病院によって緩和ケアチームの置かれている立場は大きく異なる <意識の高い病院> 2-1) 緩和ケアチームの 置かれている立場 病院によって緩和ケアチームの置かれている立場は大きく異なる <意識の高い病院> 「緩和ケアは、がん診療になくてはならない機能である」という意識が病院全体にある <意識の高くない病院> 「緩和ケアチームがないとがん診療連携拠点病院が取れないらしいから○○先生をそれに使おう」程度の意識で設立
2-2) 緩和ケアチームの 置かれている立場 意識の高くない病院では 2-2) 緩和ケアチームの 置かれている立場 意識の高くない病院では チームはできたが、急造だったり寄せ集めだったりするために、緩和ケアについて勉強するのはこれから 病院や行政が「緩和ケアチームはこれをやれ」と言わないので、何をすればいいのかわからない チームが勉強と実践により実力をつけても、病院全体と利用者の理解が得られなければ、仕事はとてもやりにくく、孤独な活動になってしまう
3-1) 緩和ケアの需要を把握する 日本全体で2005年にがんで死亡した人の数は約32.6万人 長野県では約5,800人 緩和ケア病棟で最期を迎えている人は、がんによる死亡の約5%にすぎない 地域によっては、がん死亡者数のうち約70%が緩和ケア病棟で死亡しているところもある=潜在的な需要はそれだけある 平成17年人口動態統計月報年計では、長野県内の平成17年の悪性新生物による死亡は5,786人となっている。
3-2) 緩和ケアの需要を把握する 二次医療圏の悪性新生物による死亡概数 佐久 664 木曽 85 上小 658 松本 1,093 諏訪 550 大北 155 上伊那 430 長野 1,372 飯伊 505 北信 280 2005年の死亡者数を、1998年の人口統計で単純に割ったものなので多少の誤差はある。 このように、左の5つの二次医療圏は全国平均に近いが、右の5つは標準から外れた規模になっている。
3-3) 緩和ケアの需要を把握する 現在緩和ケア病棟があるのは、長野地区と諏訪地区に各2つだけ <長野>愛和病院 16床(長野市) <長野>愛和病院 16床(長野市) 新生病院 12床(小布施町) <諏訪>塩嶺病院 10床(岡谷市) 諏訪中央病院 6床(茅野市) 他の8つの二次医療圏にはない
3-4) 緩和ケアの需要を把握する 緩和ケア病棟がない地域の患者さんはどうしているか かかっている病院で医療を続けて受ける 「うちの病院ではもうすることがないから退院してくれ」と放り出される ・運のいい人は熱心な開業医に当たる ・緩和ケアを求めて遠くの病院へ ・地域で不十分な緩和ケアを受ける ・緩和ケアを知らずに亡くなる 熱心な開業医の例としては「種山医院」などが挙げられる。 自分が住んでいる地域で緩和ケアが受けられる運のいい人以外は、下の3つにならざるを得ず、大変な思いをする。 この需要に応えるのは、地域の医療機関の使命である。
4-1) 国が考えるこれからの緩和ケア 国が考える施策のキーワード 「がん医療の均てん化」 どの地域に住んでいても、その地域の中で一定レベルのがん診療が受けられるようにする 「在宅療養支援診療所」(2006年4月〜) 24時間体制で看取りまでおこなう診療所には保険点数で優遇(ただし看取り実績が伴わないと取り消し)
4-2) 国が考えるこれからの緩和ケア 実際に進められている施策 「第3次対がん10カ年総合戦略」(2004〜) この中に「地域がん診療拠点病院(2006年4月から「がん診療連携拠点病院」に名称変更)」を各二次医療圏に1つずつ5年以内に設置することが書かれ、各拠点病院では緩和ケアが提供できるようにすることも書かれている。 「がん対策基本法」(2007年4月施行) 議員立法により2006年6月18日成立。緩和ケアに関しては、より具体的に規定している 第3次対がん10カ年総合戦略では、がん診療連携拠点病院における緩和ケアの位置づけはあいまいであったが、がん対策基本法ではより具体的に「疾患の早期から緩和ケアが提供できる体制を備えること」と規定している。 しかし、国会会期末の最終日に駆け込みで成立させたこともあり、統計の基本となる「がん登録制度」が盛り込まれないなど、議論が不十分なまま成立してしまったという印象はぬぐえない。
4-3) 国が考えるこれからの緩和ケア 疾患の早期から緩和ケアを受けられるように体制を整備する →疾患の早期から緩和ケアを受けるには医療側も利用者側も意識改革が必要 自宅でも緩和ケアを受けられる体制を、各二次医療圏で構築する →開業医(在宅療養支援診療所など)を含む地域の緩和ケアネットワークの構築 国が考えている緩和ケア体制の柱はこの2点。 ・緩和ケアの概念を、今までのような(以前のWHOの定義に従った)終末期がんの人のための医療という位置づけでなく、疾患の全経過を通じて、症状をはじめとした困ることに対応する医療という位置づけにしていきたい(2002年の定義を定着させたい)。 ・各地域で、疾患の治療だけでなく緩和ケアも、地域差なく受けられるようにしたい。また、緩和ケアは自宅でも受けられる体制を作る。 (自宅で亡くなることができるようにというのは昨年から厚生労働省が打ち出している方針。30年前までは自宅で亡くなる人のほうが病院で亡くなる人より多かったが、現在病院で亡くなる人が多いのは、病院が頼りにされるようになってきた証拠。「死ぬ時は家に帰ろう」キャンペーンをやっても、30年前と同じ医療では患者や家族は満足しない。
5-1) 緩和ケアチームがするべきこと 病院内で緩和ケアを提供する 地域で緩和ケアネットワークを組み、その中心的な存在となる 病院内で「がん」「緩和ケア」に関する理解を広め、自分たちの存在意義を確実なものにして働きやすくする 地域の人たちに緩和ケアの理解を広め、緩和ケアを適切に利用できるようにする
5-2) 緩和ケアチームがするべきこと 病院内で緩和ケアを提供する ・症状コントロールを身につける →基本は難しくありません →基本は難しくありません ・緩和ケアの需要を掘り起こす →需要はどこにでもあります ・他職種と柔軟にチームを組む →必要に応じてどんな形でも
5-3) 緩和ケアチームがするべきこと 地域で緩和ケアネットワークを組み、その中心的な存在となる ・「がん診療連携拠点病院」は地域のがん診療の要である。緩和ケアに関しても中心的な役割が求められる ・「在宅療養支援診療所」と協力し合ってネットワークを作り、地域の人が病院でも家でも緩和ケアを受けられる体制が求められている
5-4) 緩和ケアチームがするべきこと 病院内で「がん」「緩和ケア」に関する理解を広め、自分たちの存在意義を確実なものにして働きやすくする ・がん診療の中での緩和ケアの重要性が認められれば、気持ちよく仕事ができる ・基本的な緩和ケア手法が行き渡れば、多くの患者が痛みから早期に解放される ・信頼される医療へ
5-5) 緩和ケアチームがするべきこと 地域の人たちに緩和ケアの理解を広め、緩和ケアを適切に利用できるようにする ・「がんになって困ったことがあったら、緩和ケアに相談して良い」ことを定着させる (相談内容が福祉の範囲だと思えば福祉に回せば良い。その窓口になることで、存在のアピールと、がん医療に必要な分野であることが次第に理解されてくる)。
5-6) 緩和ケアチームがするべきこと 基本的な心構えとして「緩和ケアはどこにでもあるべきもの」と考える 今は日本の緩和ケアの黎明期であり、自分たちが将来それを花開かせる原動力となるんだという気概を持つ 今いる地域に最も適した緩和ケア体制はどのような形かを考え、実現に努力する これらのことができないと思ったら、メンバーチェンジした方がいいかもしれない