SKAによって展開される天体位置計測に基づくサイエンス 日本版SKA Science Book 第7章: 近傍宇宙時空計測

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SKAによって展開される天体位置計測に基づくサイエンス 日本版SKA Science Book 第7章: 近傍宇宙時空計測 今井 裕(鹿児島大学大学院理工学研究科) SKA-JP Astrometry sub-Working Group Photo provided by NAOJ/Chile Observatory

基調講演内容 電波アストロメトリの重要性 SKAアストロメトリの実現可能性 (1 mas – 1 μas) 日本から探求する近傍宇宙時空計測

日本版SKA Science Book 第7章 「近傍宇宙時空計測」 著者(アルファベット順) Burns, Ross Alexander (鹿児島大学) 次の講演者 戸次賢治(ICRAR/西オーストラリア大学) 郷田直輝(NAOJ JASMINE推進室) 今井 裕 (鹿児島大学) 亀谷 收(NAOJ 水沢VLBI観測所) 新沼浩太郎(山口大学) Orosz, Gabor(鹿児島大学) 辻本拓司(NAOJ JASMINE推進室) 矢野太平(NAOJ JASMINE推進室) 山田良透(京都大学) SKA-JP Astrometry sub-WG 17名 (2015年3月現在)

時代が経っても揺るがない 天体位置計測継続の重要性 11%の距離不確定性  23%の光度不確定性 Melis et al. (2014)より改変

波長横断的な宇宙時空計測は不可欠 c.f. BICEP2

SKAによる天体位置計測への期待 大集光力 SKA1-MID: 口径15 m鏡 130台(全体の70%) (JVLAの1.7倍) SKA1-SUR:15 m鏡 60台+12m鏡36台(JVLAの1.1倍) SKA2-MID: コア局(<200km) 口径15 m鏡 ~1000台         リモート局 口径15 m鏡 ~28カ所×36台(例) 瞬間撮像+位置計測 10 kpc以内にある天体〜105個の年周視差測量 1 Mpc以内の天体の固有運動計測 広視野・同時複数視野(≥4ビーム) SKA1-SUR Band-2の視野:18平方度 同一視野内にある複数天体に対する同時測量 大角度を使った高精度絶対座標計測 課題:マイクロ秒角台の高精度位置計測の実現性

SKAアストロメトリの実現性 1/6: 感度 データ校正に使える参照電波源の検出感度 (baseline sensitivity) mJy-level continuum calibrators Here RSN=10 c.f. SEFD=42 Jy @Parkes 64-m L-band 画像上の感度 (core-remote baselines only) 10 mJy-level OH maser detectable 実際に得られる信号雑音比(RSN)はリモート局配置で決まる合成ビームパターンによって制限されるdynamic range で決まる ⇩ 像合成に依らない電波源位置推定の手法が必要?

SKAアストロメトリの実現性 2/6: 位置決定精度 熱雑音で決まる統計的位置誤差(Moran et al. 1993) 6000 km の基線、波長18cm、信号雑音比300⇒ 誤差10 μas SKA1の測量対象 (10分積分) 800 mJy 以上のOHメーザー源 100 mJy 以上のCH3OHメーザー(6.7 GHz)源 SKA2の測量対象 (10分積分) 160 mJy 以上のOHメーザー源 20 mJy 以上のCH3OHメーザー(6.7 GHz)源 熱的放射源のアストロメトリも視野へ (誤差1mas程度から) c.f. VERAアストロメトリ対象(σ≲100μas) (H2Oメーザー源) >5000 mJy SKA1: 1桁増える測量対象 SKA2: 2桁増える測量対象

SKAアストロメトリの実現性 3/6: 天体サイズ 1665 MHz OH メーザー源は測量対象 (e.g. Vlemmings et al. 2003, 2007) 1665&1667 MHz OH towards U Her 1612 MHz OHメーザー源も測量 対象へ (e.g., Imai et al. 2013) 2000—3000 km程度の 高感度基線が必要 π=3760±270 μas

SKAアストロメトリの実現性 4/6: 広視野・同時複数視野 銀河面:   同一視野に複数のメーザー源 参照電波源: 同時に複数観測 大気遅延残差(主に電離層)補正

SKAアストロメトリの実現性 5/6: 測量対象密集度 SKA-mid 15-m dish beam SKA1-survey PSF FoV 課題: VLBI基線を成す既存望遠鏡の視野(<0.3°) PAF搭載? 高速視野切り替え? SPLASH=Southern Parkes Large Area Survey of Hydroxyl (Dawson et al. 2014)

SKAアストロメトリの実現性 6/6: 同一視野内で観測される参照電波源 Total number of references sources on the Sky (plot by Gabor Orosz) Radio sources in FoV (SKA Memo 135) 160 000 calibrators at 2.2 GHz  2.9 個/ビーム  for OH masers, pulsars 130 000 calibrators at 8.4 GHz  0.05 個/ビーム  for CH3OH masers

SKAアストロメトリを巡る世界の情勢 「アストロメトリ」という国際Science WGは存在しない VLBI/Milky Way Focus Groups 創設(2014年6月) SKA Science Book 等に見られる関連記述 VLBI with the SKA (Paragi et al.) Maser astrometry with VLBI and the SKA (Green et al.) OH masers in the Milky Way and the Local Group of galaxies (Etoka et al.) Three-dimensional tomography of the Galactic and extragalactic magneto-ionic Medium with the SKA (Han et al.) 関連重要文献 Secular Galactic aberration (Titov et al. 2011) Annual parallaxes in pulsar timing (Smits et al. 2011)

VLBI with the SKA (u,v)-plane coverage 1 hr sensitivity (1σ) (Paragi et al. 2015) For 12 hours 24 telescopes SKA1-mid EVN, CVN, LBA AVN(Africa) δ=-20° 1 hr sensitivity (1σ) 9 μJy/beam (50% SKA1-mid) 0.05 μJy/beam (Full SKA)

VLBI with SKA1-MID (and SKA2) and SKA1-SUR 実現する角分解能と感度、天体位置測定精度については シミュレーションによる調査が必要

Annual parallaxes in pulsar timing パルス周期の年周変化 年周視差 (上図は200 pcの場合) 年周視差測定精度 の黄緯依存性 (5年間 or 10年間測定) Smits et al. (2011)

Spiral Arm Tomography 1/2 Lorentz Center Workshop — Galactic Science with the SKA & Its Pathfinders on 2014 May 19—23 (Green et al. 2015) 現在: ○渦状腕が見える     ○天の川銀河の      力学パラメータ      (R0, Θ0)が決まる 20 pc メッシュで天の川銀河面の 星形成領域の配置を把握する 測量電波源の前後にある 星形成領域の距離推定 再結合線・分子スペクトル線 の輝線・吸収線利用 SKA1アストロメトリ: 50 pc メッシュでの測量 南天もカバー 現測量事業の到達点:1 kpc四方に数個 Reid et al. (2014)

Spiral Arm Tomography 2/2 もし「密度波理論」が(Lin & Shu 1964)正しいならば….. 自発的な 腕形成? 進化段階が異なる星形成領域が 密度波の上流から下流にかけて 連続的に並んでいるはず (co-rotation radiusの内側・外側で上流・下流が入れ替わる) tevolve~106yr |Θ-ΩpR|~20 km/s 20 pcに渡って進化段階の異なる 星々が並んで見えるはず See Ross Burns’s talk Baba et al. (2011)

天の川銀河 全体を俯瞰: OHメーザー源 星周 星形成領域 OHメーザー OHメーザー 星周1612 MHz OHメーザー源 2245 catalogued source, http://www.hs.uni-hamburg.de/~st2b102/maserdb

Galactic thick disk, bulge (halo) SPLASH (Southern Parkes Large Area Survey for Hydroxyl) 掃天OH放射探査 (Dawson et al. 2014) 1665/1667 MHz OH: 大質量星形成領域・赤色超巨星 Galactic thin disk 1612 MHz OH: AGB/post-AGB星(・赤色超巨星) Galactic thick disk, bulge (halo) 1720 MHz OH: 超新星残骸

1612 MHz OHメーザー源の特徴 (SPLASHデータより) 分布の銀河面垂直方向スケール長: ~600 pc (品野&今井 私信) 銀河面全体に存在する1612 MHz OHメーザー源(>0.4 Jy) ~5 000個 OHメーザー領域における星周ガス縁の膨張速度:ほぼ一律に15 km/s (銀河系外縁部・バルジのものに似ている, Sjouwerman 2000) 膨張速度は金属量にのみ依存?

広域HI放射撮像との協調 HIマップ解像度: 10″(GASKAP); 1″(SKA1-MID); 10 mas (SKA1-MID-VLBI) OHメーザー源を取り巻くHIガス縁の探査物質循環経路の把握 GASKAP (Galactic ASKAP Spectral Line Survey, Dickey et al. 2013)

近傍銀河の 固有運動計測 M33, IC10 4-σ motions M31 now ongoing with HSA ~30μas/yr (Brunthaler et al. 2006) 4-σ motions M31 (Sjouwerman et al. 2010; Daring 2011) now ongoing with HSA ~30μas/yr 銀河内の メーザー源が少ない 銀河回転分の 運動の除去が課題 感度的に厳しい測量 近傍銀河の 固有運動計測

太陽系の永年 (銀河)光行差 (QSO相対固有運動) 測定値 (相対運動) モデル 6.4±1.5μas yr-1 (Titov et al. 2011) 測地VLBI観測 (大角度位置計測) 絶対座標誤差σ〜0.1 mas   10 μasへ (VGOS) 今後問題となる誤差要因 天体構造(QSO ジェット、等) マイクロレンズ効果 新しい研究分野として開拓

日本が狙うサイエンス: 近傍宇宙時空計測 VERAが進めてきた日本初の系統的 宇宙電波源測量からの発展 From northern to southern sky From the thin to thick disk From present-day MW geology to MW archeology From local MW to global MW system GAIA/JASMINEが狙うサイエンスとの 棲み分け・協調 Galactic heart and inner bulge 他分野との協調(特にパルサー・星間物質・突発天体) 瞬時の電波源位置計測 Galactic tomography 手法の確立

天の川銀河中心域の本格的測量 Central Molecular Zone 銀河中心ブラックホールとバルジの共進化 大域的な物質降着及び噴出流の検出 Sgr A*から2 pc以内: VLTI/Keck; SKA (パルサー) Sgr A*から2 pc以遠 ALMA: 多数天体が混在、分離が困難 SKA (OH, CH3OH); JASMINE 多数点源(赤色巨星・OB型星、パルサー、BH)

天の川銀河バルジの本格的測量 リンドブラッド共鳴半径前後の恒星群軌道 (位相空間, [x, y, z, vx, vy, vz])の把握・統計的分析 SKA測量対象(OHメーザー源)結果との 比較(〜5000星)と補間 中型JASMINE測量範囲(~107星)      銀河中心付近 恒星群軌道

天の川—マゼラン銀河系の動力学構造 マゼラン銀河の軌道 (HST, LBA, SKA) 潮汐力による HIガスの拡散+集積 天の川銀河及び HI分布モデル HI観測データ          マゼラン銀河の軌道 (HST, LBA, SKA) 銀河の軌道と回転の 分離が課題 ⇩ 潮汐力による HIガスの拡散+集積 天の川銀河及び 大小マゼラン銀河の 力学的履歴の解明 Bekki et al. (2012)

大小マゼラン銀河の軌道決定へ(σ~10 μas yr-1) 収束しないHST計測結果 (e.g., Kallivayalil et al. 2013) 銀河回転と測定対象天体の                運動の差分が問題 LBAによるH2Oメーザー源 固有運動計測天体数不十分 SKAによる~200個の 星間・星周OHメーザー源固有運動計測 Diaz & Bekki (2012)

日本からSKA-VLBIに参加する方向性 1—2 GHz帯(SKA MID Band-2; SKA1-SUR PAF Band-2) 主にOHメーザー源、パルサー、コンパクトHIガス塊 SKA1-SUR + 環太平洋リモート局 (日本も含む(臼田・鹿島・早稲田 & 新望遠鏡?)) タイVLBI観測局(3台)、GMRT-VLBI RFI対応が課題(受信機さえ飽和しなければ…. ) 2—15 GHz帯(SKA Mid Band-3, 4, 5  WBSPF) 主にCH3OH, OHメーザー源、パルサー、熱的放射源 (分子輝線、再結合線、大型ダスト放射) SKA1-MID, SKA2-MIDがコア局 アフリカ・欧州・環インド洋リモート局 (JVN?) <40 GHz帯(SKA High): 未計画 南天VERA計画? North American Array?

今後の課題 1—3 GHz帯における観測的研究の発展 1.6 GHz帯VLBI測量における手法確立 SPLASH (1.6 GHz OH) (by Imai et al.) GASKAP(1.4 GHz HI, 1.6 GHz OH)掃天探査 (by Imai et al.) パルサー、YSO等非熱的連続波電波源の利用 (by Terasawa et al.) 非周波数等間隔多数分光点データの創出 (by Nakanishi et al.) 1.6 GHz帯VLBI測量における手法確立 1612 MHz OHメーザー源の年周視差計測 (by Orosz et al.) 湿潤大気・電離層補正手法の今後の見通し  VERA 突発天体即時位置計測のための仕様・手法の確立 VGOS (VLBI2010 Global Observing System)への関与 “VLBI2010”仕様の国際広帯域測地VLBI観測網 参照電波源探査 広帯域受信(WBSPF)・伝送(周波数基準信号含む)・ 記録方式の開発と試験

超広帯域記録VLBIの明るい見通し λ=2.1-5.0 cm

SKA コア局+全地球的規模VLBI観測網の構築 日本の科学的・技術的・地理的貢献の重要性と 妥当性の評価が必要 まとめ 高精度宇宙測量・座標系構築: 10マイクロ秒角台 (SKA1):      現行事業(VERA等)の2桁の測量対象 天の川銀河天文学の諸重要課題解明のための連携実現 1マイクロ秒角台 (SKA2): 宇宙論・相対論・惑星科学との連携 SKA コア局+全地球的規模VLBI観測網の構築 日本の科学的・技術的・地理的貢献の重要性と 妥当性の評価が必要 Photo provided by NAOJ/Chile Observatory