光化学 6章 6.1.2 Ver. 1.0 FUT 原 道寛.

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光化学 6章 6.1.2 Ver. 1.0 FUT 原 道寛

光化学I 序章 1章 2章 3章 4章 5章 6章 7章 8章 9章 10章 “光化学”を学ぶにあたって 光とは何か 分子の電子状態 電子励起状態 3章 分子と光の相互作用 4章 光化学における時間スケール 5章 分子に光をあてると何が起こるか 1化学反応機構の概略 2光反応とポテンシャルエネルギー曲線 6章 光化学の観測と解析 7章 どのように光を当てるか 8章 光化学の素過程 9章 光化学反応の特徴 10章

6.1.2.光反応における反応活性種 化学反応(光反応、暗反応) 中間体を経由しない協奏反応(原子団の転移や異性化) 開環・閉環反応,環化付加反応などのペリ環状反応と中間過程に反応活性種が介在する段階的反応 A B C D E F G H

6.1.2.光反応における反応活性種 ラジカル種発生の一般的方法の一つに光反応. ラジカルを与える結合の開裂=ホモリシス. 発色団に結合する その近傍の最も弱い結合の開裂が反応の主形式. ラジカルを発生させる光反応 ケトンのノリッシュ型反応「式(6・22)」 “芳香族ケトンのノリッシュⅠ型反応” 典型例:(6・1)ヨードベンゼンのベンゼン溶液を光照射すると ビフェニルが比較的収率よく生成 光反応初期過程で,ヨードベンゼンのC-Ⅰ結合が開裂してフェニルラジカルとヨウ素原子を与え(式(6・1)).他のアリールヨウ化物でも同様. a. ラジカル種 A B C D E F G

6.1.2.光反応における反応活性種 a. ラジカル種 ビニル化合物の熱的ラジカル重合開始剤: アゾビスイソプチロニトリル(AIBN)を室温で光分解すると, 熱反応とは異なりケテンイミンが主として生成(式(6・2)). 光反応:過剰のエネルギーによってC-N結合開裂と 引き続く窒素分子の脱離が速やかに起こる 二つの(Me)2(CN)C・が溶媒分子に囲まれた かご溶媒(solvent cage)の中で対として生成 A B C D E このラジカル対がカップリングする確率は高い. しかし,三級ラジカル間のC-C結合生成は      のために起こらず,式(6・2)の反応が進行した F

6.1.2.光反応における反応活性種 a. ラジカル種 有機亜硝酸エステル(R-ONO):弱いO-N結合が 光励起により速やかに開裂し,アルコキシラジカル(RO・)とNOを与える RO・:C-H結合から水素を引抜く能力が高いので, 立体的に引抜かれやすい分子内のC-H結合が 選択的に引抜かれ,特定位置の炭素ラジカルが生成. この一連の反応が「かご溶媒」の中で進行すれば,この炭素ラジカルは近傍に存在するNO分子と結合し,ニトロソ化合物を経て最終的にオキシムが生成. A B C D E F G H バートン反応(Barton reaction) :特定の炭素に官能基を導入することができ,合成化学的に有用

6.1.2.光反応における反応活性種 b. ビラジカル 孤立した二つのラジカル中心が一つの分子の中に存在する活性種=ビラジカル 磁気的な相互作用があれば,一重項と三重項の二つのスピン状態が存在する(図6.3) A B C

I型反応 II型反応 ノリッシュ反応 ケトンまたはアルデヒドが光照射を受け、 カルボニル炭素と、α炭素または水素との結合がホモ開裂して 2個のラジカルとなる。 II型反応 ケトンが光照射を受け、 カルボニル基の酸素がラジカル的に γ位の水素を引き抜いてビラジカルを与える。 このビラジカルからさらに α位と β位の炭素-炭素結合がラジカル的に開裂し、 エノール(速やかにケトンに異性化する)とオレフィンに変わる。 または、ビラジカルが分子内で再結合してオキセタン環に変わる。 オキセタン:飽和の4員環で酸素をひとつ含む構造を持つ環状エーテルである

6.1.2.光反応における反応活性種 b. ビラジカル 光化学においてビラジカル中間体を仮定:ノリッシュII型反応 アリールアルキルケトンから生成する三重項1,4-ビラジカル:分光学的に直接検出 寿命:ラジカル中心の置換基により異なるが,だいたい10~200 ns. これらは異なった反応挙動を示す. (式(5・4)や図6・16) 反応では,1nπからは一重項ビラジカルが, 3nπからは三重項ビラジカル が生成し, ケトンのnπ*カルボニル酸素による分子内水素引抜きで生じる 1,4-ビラジカル中間体を経る 光化学においてビラジカル中間体を仮定:ノリッシュII型反応 A B C D E

6.1.2.光反応における反応活性種 b. ビラジカル 脂環式ケトンの光反応: 初期的にC-CO結合のノリッシュⅠ型開裂が起こり, ビラジカルが生成する. A B

不飽和結合間の環化付加反応(例:二つのC=C結合間の付加によるシクロブタン環の形成) 6.1.2.光反応における反応活性種 b. ビラジカル 不飽和結合間の環化付加反応(例:二つのC=C結合間の付加によるシクロブタン環の形成) 励起一重項における環化付加反応は立体保持である:多い 三重項での反応は一般的に非立体保持 光反応における立体化学(6・1・5項) 一例として式(6・5)に示すシクロへキセノン(CH)への 1,1-ジメトキシエチレン(DME)の光環化付加反応. A B C D

6.1.2.光反応における反応活性種 b. ビラジカル 反応の特徴 反応のレギオ特異性 二つの異性体が生成 付加の方向が一種類でレギオ特異的(regiospecific)(配向選択制) 立体異性の二つの付加体が生成すること(非立体特異的)およびCHの三重項状態(3CH*)を経由すること 反応のレギオ特異性 3CH*がDMEと形成する励起状態を保った分子性錯体の立体配置を反映 (励起錯体:6・1・5項) 二つの異性体が生成 中間に三重項ビラジカルが生成し,そのスピン反転の間に結合回転が起こったため 三重項励起錯体から協奏的な付加反応が起こるとすれば, スピン保存則に従い付加体は三重項でなければならない しかし,このような過程は著しく吸エルゴン的であるので起こり得ない. A B C D E

6.1.2.光反応における反応活性種 c.ラジカルイオン エネルギー的条件が満たされる →励起分子は1個の電子が移動する電子移動反応を行う。 中性分子M -*励起状態*→ ラジカルイオン 電子1個を受け取ると,負の電荷と不対電子を同時にもった ラジカルアニオンM・‾ (アニオンラジカル)が生成(M + e‾→M ・‾ ). 電子が1個奪われると正の電荷と不対電子をもった ラジカルカチオンM・+(カチオンラジカル)生成(M→M ・+ +e‾). 励起状態「励起エネルギーという駆動力」 電子受容性分子(A)と電子供与性分子(D)との間で電子移動が起こり, A・-とD・+を同時に生成(式(6・6)). A B C D E すなわち,光電子移動反応は,A・-またはD・+のいずれかを発生させる電気化学反応や,一電子酸化・還元試剤による反応と異なった特徴を有している。

6.1.2.光反応における反応活性種 c.ラジカルイオン 励起状態における電子移動=一般的光化学初期過程の一つ ラジカルイオン:光化学における一般的反応活性種 図6.4は,励起状態電子移動で生成したナフタレンラジカルカチオンの反応性を巧みに利用した,ナフタレンへの求核試剤の付加反応 求核試剤は,中性のナフタレン分子に付加することはなく, 正電荷をもったラジカルカチオンと速やかに反応し, その付加によって中性のラジカルを生成する. 電子移動で生じたジシアノベンゼンラジカルアニオンによって一電子還元,続くプロトン化を経て付加体に至る. A B C D E

6.1.2.光反応における反応活性種 c.ラジカルイオン 芳香族ハロゲン化物(Ar-X)をアミン共存下,極性溶媒中で光照射するとハロゲン原子が脱離する 還元反応(式(6・7)). アミンからAr-Xへの電子移動によるAr-Xの ラジカルアニオン(Ar-X・‾)の生成 ハロゲン化物イオンの脱離 生成したアリールラジカルAr・による水素引抜きなどの 還元という過程を経て進行し Ar-Hを生成 A B C D E

その挙動が後続反応を支配するという反応機構は,光化学の特徴の一つである 6.1.2.光反応における反応活性種 d.イオン種 光反応の初期過程でイオンが生成する例は多くない. ハロゲン化物の加溶媒反応を説明 初期的にはラジカル対がかご溶媒の中で生成し, 還元性の炭素ラジカルと酸化性のハロゲン原子が速やかに電子移動を行い, 二次的に炭素陽イオンとハロゲン化物イオンになる. 最終生成物:溶媒による炭素陽イオンの求核反応によって生成. この反応と競争して,活性種がかご溶媒から脱離すると, ラジカル生成物を与える. A B C D かご溶媒の中で活性種が生成し, その挙動が後続反応を支配するという反応機構は,光化学の特徴の一つである

6.1.2.光反応における反応活性種 e.カルベンおよびナイトレン ジアゾ化合物やジアジリジンを光励起または三重項増感すると窒素を脱離してカルベンを与える このほかに,光結合組換え反応や二次過程で生成する反応(式(6・4))もある. ナイトレン:NH 有機アジドは光脱窒素によりナイトレンを与える。 特徴 一つの原子(CおよびN)が二つの反応活性点を有しているため, 不飽和結合への付加やC-H結合への挿入を行うことができ, プロトン性溶媒による加溶媒反応も起こる. 活性種は,二つの異なったスピン状態, すなわち一重項と三重項をとることができ,それぞれの状態で反応挙動が異なる(10章図10.2). 熱反応によっても発生させることができ, その反応挙動の解明や合成反応への応用などについて膨大な研究がなされ,一つの分野を形成している.反応例(10章) A B C D

参考文献 光化学I 井上ら 丸善(株)