子どもを取り巻く環境と医療 子どもの幸せとは 2012.7.10. 神戸大学医学部保健学科講義 子どもを取り巻く環境と医療 子どもの幸せとは 公益財団法人 阪神北広域救急医療財団理事長 中 村 肇 http://www.kcc.zaq.ne.jp/dfayd405/ hajime_home/lectures/kankyo2012.pdf
今日のお話 なぜ、小児医療が破綻したか? 阪神北広域こども急病センターでの取り組み 但馬圏域と都市部の医療環境の違い 日本は、子どもの貧困率ワースト9、先進35カ国中で こどもを守る環境とは
なぜ、小児医療が破綻したか? 核家族化、少子化による育児不安 小児科医受診へのニーズの増大 医事紛争の増加 病院経営改善への圧力 軽症患者が時間外に病院小児科へ 地域病院小児科医への負担の増大 地方病院から都市の病院への移動 医師の偏在 医事紛争の増加 病院経営改善への圧力
こどもの救急医療体制 三次救急 二次救急 一次救急 電話相談 #8000
阪神北広域こども急病センター http://www.hanshink-kodomoqq.jp/
阪神北広域こども急病センター概要 伊丹市、宝塚市、川西市、猪名川町の3市1町と兵庫県により設立する財団で、3市医師会、3市薬剤師会の協力により運営 人口60万、小児人口9万人を対象に 阪神北圏域における時間外一次小児救急医療のみを担う 兵庫県伊丹市に平成20年4月開院 はじめに当センターの概要を紹介します。 当センターは兵庫県伊丹市に位置し、平成20年4月に開院しました。 伊丹市、宝塚市、川西市、猪名川町の3市1町と兵庫県により設立され、3市医師会、3市薬剤師会の協力により運営しています。 阪神北圏域における一次小児救急医療を担っており、診療だけでなく電話相談や両親教室の啓発事業も行っています。
コンプライアンス(応形能)の大きい組織での 二次病院は一次を兼ねることができない 一次患者の医療ニーズは、生死の心配ではなく、ひどくな らないように。 親子の苦痛・不安を解消すため。 救命救急医療とは異質のもの。 医療設備・機器などのハードは必要のない。 多すぎる患者数 常勤医師のみでは対応できない。 病院には医師・看護師などを補充する余裕がない。 勤務医の賃金体系では外部からの医師確保できない。 コンプライアンス(応形能)の大きい組織での 対応が必要
小児初期救急医療がもつ3つの特性 救命救急医療でなく、重症化するのを避けるための医療。 限られた小児科医数では、時間外診療を支えることができない。 いかに、医療資源、社会資源を活用するか? 日替わりの患者と日替わりの医療者 いかに、患者と医療者の信頼関係を築くか? いかに、医療の質を担保するか?
円滑なセンター運営のための具体的な対策 看護師を核にした診療体制の構築 電子カルテ導入による医療の標準化 トリアージ・ナースによる効率的な診療 トリアージ・ナースのための研修カリキュラムの作成と実践 看護師による電話相談への対応 電子カルテ導入による医療の標準化 地域病院小児科、地元救急隊との定期的な会合 トリアージ基準を明確にして、適切な搬送体制 住民への啓発活動 HP,マスメディアを通じての情報提供 母親教室の開催、ニュースレターの刊行など
小児救急患者のトリアージ センターへ 電話相談 症状出現 119番 コール 二次病院へ
受診数の推移 H23年度 1日平均患者数 平日 35.4人 土曜 119.7人 日祝 240.5人
主要症状と来院方法 H23 主要症状 計 うち救急車で 01発熱 19,632 61.7% 69 02発疹 2,319 7.3% 9 03咳 2,169 6.8% 13 04呼吸困難 989 3.1% 18 05鼻水 181 0.6% 06嘔吐 2,212 7.0% 25 07腹痛 1,091 3.4% 31 08下痢 513 1.6% 1 09けいれん 323 1.0% 134 10痛み 1,027 3.2% 11機嫌が悪い 131 0.4% 12意識レベル 11 0.0% 4 13その他 688 2.2% 19 14事故 171 0.5% 3 99不明 348 1.1% 総計 31,805 100.0% 346
トリアージ緊急度分類 総数31,805名
3市立病院の 小児科時間外救急患者数の推移 H20.4に急病センター開設
過疎地における医療
但馬圏域と阪神北圏域の医療状況の違い
但馬圏域の医療状況 < < > 但馬圏域 全県 人口 18万7千人 560万人 15歳未満の割合 14.6% 14.2% 出生率 8.1 8.7 周産期死亡 10人 192人 周産期死亡率 出生千対 6.5 3.9 < < >
但馬圏域の医療状況(2) < < > > > 但馬圏域 全県 医師数 人口対10万 176.4 213.8 医師数 人口対10万 176.4 213.8 小児科医師数 人口対10万 7.9 11.9 助産師 人口対10万 23.3 17.5 看護師 人口対10万 789.0 617.3 保健師 人口対10万 52.4 22.1 < < > > >
兵庫県下の地域別65歳健康余命 65歳健康余命 男 女 兵庫県 14.84 16.46 神戸市 14.39 15.92 阪神北 16.40 但馬 15.80 17.45 年齢階層別介護保険者数をもとに試算 by 健康コミュニティ研究会
過疎地における医療は いかにあるべきか
過疎地域において、患者への質の高い医療サービスを効率的・効果的に提供するには
利用者からみた遠隔医療の類型 ➄コミュニティモデル [PtoP] ➁医対患モデル [DtoP] 特定機能病院 地域中核病院 総合診療科 診療所 患者・ 住民 医師以外の 医療従事者 (看護師、保健師) ➀医対医モデル [DtoD] ➂医対コメディカルモデル [DtoN] ➃コメデフィカル対患モデル [NtoP]
周産期遠隔医療は「助産院ねっと・ゆりかご」で遠隔妊婦健診 〜 岩手県遠野市の例 〜 周産期遠隔医療は「助産院ねっと・ゆりかご」で遠隔妊婦健診 〜 岩手県遠野市の例 〜 遠野市内では、平成16年4月から市内で出産を取り扱う医療機関がなくなり、妊婦は車で片道1時間程度の遠距離通院する中で、出産への不安と通院負担を余儀なくされていた。 そこで市では、妊婦の不安解消と通院負担を解消すると共に、安心・安全に子供を産み育てる環境拠点として平成19年12月に公設公営の遠野市助産院「ねっと・ゆりかご」を開設。
周産期遠隔医療は「助産院ねっと・ゆりかご」で遠隔妊婦健診 〜 岩手県遠野市の例 〜 周産期遠隔医療は「助産院ねっと・ゆりかご」で遠隔妊婦健診 〜 岩手県遠野市の例 〜 助産師を市職員として採用し、そのマンパワーを活用して妊婦主治医と連携協力のネットワークをつくり、小型軽量で携帯可能なモバイル胎児心拍転送装置(モバイルCTG)を活用した遠隔妊婦健診を主軸に、妊産婦支援を展開しています。 助産院の活動: ●助産師活動フィールドの拡大 ●かかりつけ医との連携拡充 ●モバイルCTGの安定運用 ●妊婦健診の徹底(リスク低減と 飛込み出産の防止)
過疎地域における小児救急への対応 限られた医療資源の中で、地域医療格差を是正し、患者への医療サービスの質的な向上を実現するためには、 ICTを活用した診療体制 遠隔医療の活用 地域における相談者の確保 看護師、保健師、総合診療科医師 専門医のいる都市部医療機関とのネットワーク 日常的な住民への情報提供と疾病予防の啓発活動 電子カルテ、電子母子手帳の交付とデータベース化 医師、コメデイカルと患者間での信頼関係の形成
子どもを守る環境とは 相対的貧困からの脱却 児童虐待、非行、犯罪のスパイラル 低出生体重児の増加 物質的な豊かさが、子どもの幸せでない
児童相談所における虐待相談対応件数の推移 平成 11/09/25 資料:厚労省大臣官房統計情報部「社会福祉業務報告
毎日新聞1998.10.30-31 毎日新聞1998.10.25 毎日新聞1998.10.26
子供の貧困率(Child poverty rate) 日本ワースト9位 先進35カ国中で
子供の貧困率(Child poverty rate)とは つまりここで扱う「子供の貧困率」とは相対的貧困率のことで、可処分所得が全世帯平均収入の50%未満である世帯に暮らしている子ども(0歳~17歳)の割合を示しています。
日本の子ども(18歳未満)の貧困率は14.9%で、先進35カ国のうち悪い方から9番目の27位 (ユニセフ報告書) 日本の子ども(18歳未満)の貧困率は14.9%で、先進35カ国のうち悪い方から9番目の27位 (ユニセフ報告書) 2000年12.2% 2007年14.3% 2012年6月10日 朝日新聞記事より
患者のQOLの向上をいかに図るか ブータンはなぜ、国民幸福度No1か
「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GNP)よりも重要である」と,1970年代にGNHの概念を提唱したのは,先代のジグミ・シンゲ国王。 ブータンの1人当たりの国民総所得は1,920米ドル(世界銀行,2010年)であるにもかかわらず,国民の約97%が「幸せ」と回答。
国民総幸福量(GNH)の考え方 GNHは,経済成長を重視する姿勢を見直し,伝統的な社会・文化や民意,環境にも配慮した「国民の幸福」の実現を目指す考え方。 その背景には、仏教の価値観があり,環境保護,文化の推進など4本柱のもと,9つの分野にわたり、「家族は互いに助け合っているか」、「睡眠時間」、「植林したか」、「医療機関までの距離」など72の指標が策定されている。
日本の豊かさ、「働き過ぎ」で21位にダウン 経済協力開発機構(OECD) 「より良い暮らし指標」最新版より OECDは昨年から、国民の幸福度を国際比較する狙いで指標の作成 日本は36か国中21位となり、昨年の19位からやや順位を下げた。トップは 昨年に続いてオーストラリアだった。 指標は住居や仕事、教育など11項目の豊かさを点数化している。日本は、 「安全」が10点満点中9・9点で1位、 「教育」が8・8点で2位 「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」が3・0点で34位 週に50時間以上働く長時間労働者が全体の約3割に上り、トルコの4割に 次いで多いことなどが低評価の理由となった。
The Conscience of a Liberal The Great Gatsby Curve Integrational earnings elasticity vs. inequality Paul Krugman 2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが今年の1月15日付けでニューヨークタイムズ紙に. アメリカにおける社会的流動性の低下を「グレート・ギャツビー・カーブ」と呼び、警告を発した。
所得の世代間の弾力性 所得分配の不平等さ
The Great Gatsby Curve:Integrational earnings elasticity vs. inequality このグラフの横軸はジニ係数、社会における所得分配の不平等さを測る指標であり「不平等の尺度」で0から1の間の小数値になり、0ならば完全な所得平等を示し1に近づくほど格差が顕在している社会で、社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4であると言われています。 図で見る限りアメリカは近年急速に0.4に近づいていることが理解できます。
The Great Gatsby Curve:Integrational earnings elasticity vs. inequality 一方、縦軸には所得の世代間の弾力性の指標が使われています、これは父親の収入が1%上昇するとその子供の予想される収入にどの程度影響するかを示す指標で、この数値が高いほど格差が次世代に渡り固定化している、すなわち社会的流動性が低くなっていることを示します。 この縦軸においてもアメリカは近年急速に社会的流動性(social mobility)が失われつつあることが示されています。
アメリカ合衆国では「アメリカの夢(アメリカン・ドリーム)」がま さに夢物語として過去のものになりつつあるということです。 低所得の家庭に生まれた子供が最も裕福なアメリカ人になる 機会は100に1つしかありません。反対に、豊かなアメリカ人の 「後継者」の22%は豊かなままに留まることが可能です。 今アメリカでは日本以上に中流家庭の崩壊が進んでおり、ま さに「1%の勝者と99%の敗者」という構図に近づいているとい うことでしょう。
アメリカにおいて格差の固定化が進行している原因のひとつは、市場原理主義の経済思想に基づき、低福祉、低負担、自己責任を基本として小さな政府を推進してきた「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策にあると指摘されています。
日本がアメリカの轍を踏まないためには、 歴史を紐解けば、生まれながらに将来の可能性が固定される「不平等」な階級固定社会は、必ず衰退をしています。 社会全体を向上させるような活力が生まれないからです。 今アメリカの経済構造は瀕死の状態だといえます。 アメリカが主導してきた「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策はその限界性を明確に露呈し始めています。格差を生みそれを固定化する「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策から決別すべきです。 日本は「グレート・ギャツビー・カーブ」に追従してはなりません。 アメリカの後を追うことは地獄への道です。 日本政府は国家の意思として二つの政策を断固打ち立てなければなりません。ひとつは税と社会保障による富の再配分の確立と、もうひとつは幼年期少年期の教育・福祉等の徹底的な機会平等の実践です。
これからの医療のあり方 患者 行政 医療者 医療参加 理解・納得 長期展望 先見・合意 行動規範 公開・誠意 2012.4.20. 日本小児科学会 金沢一郎氏より
http://www.kcc.zaq.ne.jp/dfayd405/ hajime_home/lectures/kankyo2012.pdf