食糧と国際関係 「世界史における牛疫の影響はローマ帝国衰退の引き金になった」ほど大きなものであった」ように、人々の生活基盤を揺るがす食糧危機は政権崩壊を招くだけでなく、世界支配をめぐる国際紛争をもたらす。1920年に牛疫が欧州全域に広がり、その制御における国際協力の必要性から、1924年のOIE設立を導く契機となった。 1930年代の世界不況 関税引き上げ 貿易数量制限 為替制限 自国の産業保護 第二次世界大戦 国際復興開発銀行( IBRD ;1945) 1944年 ブレトン・ウッズ会議(米国) 国際通貨基金( IMF ;1947) 世界戦争の回避策 ガット体制(GATT; 1948 ) 「関税及び貿易に関する一般協定」 経済紛争の元となる貿易障壁をなくし、自由貿易を確保する基本原則 (i)貿易制限措置の削減 (ii)貿易の無差別待遇(最恵国待遇、内国民待遇)
「自由貿易」によって、伝染病が世界に蔓延する恐れは? GATT 第20条 一般的例外: 動植物防疫に係る検疫等の措置 「衛生植物検疫措置の適用に関する(SPS)協定」 いかなる加盟国も、恣意的若しくは不当な差別の手段となるような態様で又は国際貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用しないことを条件とし て、人、動物若しくは植物の生命若しくは健康を保護するために必要な措置を採用し又は実施することを妨げられるべきでないことを再確認し、 加盟国が人、動物又は植物の生命又は健康に関する自国の適切な保護の水準を変更することを求められることなく、食品規格委員会及び国際獣疫事務局を含む関連国際機関並びに国際植物防疫条約の枠内で活動する関連国際機関及び関連地域機関が作成した国際的な基準、指針及び勧告に基づき、加盟国間で調和のとれた衛生植物検疫措置をとることが促進されることを希望し、 ウルグアイ・ラウンド(1986 ~1994)妥結: 農産物貿易の原則自由化 全ての品目の自由化が達成された(関税措置は残った) 1995年 世界貿易機関( WTO ) ← ガット体制 「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)」 「農業に関する協定」
自由貿易の枠組み(WTO)と衛生基準の関係概念図 危害因子についての国の衛生基準 B国 A国 非関税障壁 (WTO訴訟) 国 際 基 準 E国 C国 D国 自由貿易の枠組み(WTO)と衛生基準の関係概念図 衛生および食物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定) 貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)
◆ 食料の国際取引における衛生基準 WTO体制とSPS協定 ヒトの入国、動物、植物および食品の輸入時に、「検疫」が実施されるが、その基準は? ◆ 食料の国際取引における衛生基準 WTO体制とSPS協定 ヒトの入国、動物、植物および食品の輸入時に、「検疫」が実施されるが、その基準は? 世界貿易機関(WTO) WTO組織図 閣僚会議 貿易政策検討機関 一般理事会 紛争解決機関 上級委員会 小委員会[パネル] 様々な物資が国際流通しており、それらの国際取引上のトラブルを解消するための組織
陸生動物衛生規約 (the Terrestrial Animal Health Code) 国際獣疫事務局(OIE) OIEの目的 1.世界で発生している動物疾病に関する情報を提供すること。 2.獣医学的科学情報を収集、分析及び普及すること。 3.動物疾病の制圧及び根絶に向けて技術的支援及び助言を行うこと。 4.動物及び動物由来製品の国際貿易に関する衛生基準を策定すること。 5.各国獣医組織の法制度及び人的資源を向上させること。 6.動物由来の食品の安全性を確保し、科学に基づき動物福祉を向上させること。 陸生動物衛生規約 (the Terrestrial Animal Health Code) 第1巻: 総則 第2巻: OIEリスト疾病 第8部 多種動物が罹患する疾病:口蹄疫など11疾病 第10部 鳥綱が罹患する疾病: 鳥インフルエンザなど13疾病 第11部 ウシ科が罹患する疾病: BSEなど15疾病 第14部 羊科と山羊科が罹患する疾病: 小反芻獣疫など10疾病 第15部 イノシシ科が罹患する疾病: アフリカ豚コレラなど7疾病
第8.6章 口蹄疫 8.6.1条 国際陸生動物衛生規約において、口蹄疫(FMD)の潜伏期間は14日とする。 第8.6章 口蹄疫 8.6.1条 国際陸生動物衛生規約において、口蹄疫(FMD)の潜伏期間は14日とする。 本章において、反芻動物にはラクダ科の動物(ヒトコブラクダを除く)を含む。 国際貿易のため、本章はFMDVによる臨床徴候の発現のみならず、臨床徴候が発現していないFMDV感染についても取り上げる 8.6.2条 ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国 ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国における感受性動物は、隣接する汚染国から、物理的または地理的な障壁を考慮に入れて、ウイルスの侵入を効果的に防ぐ動物衛生措置の適用によって、防御されなければならない。 1. 定期的および迅速な動物疾病報告の記録を保持する。 2. 次の事項を明言した宣言書をOIEに送付する。 a. 過去12ヶ月間に口蹄疫の発生がなかった。 b. 過去12ヶ月間にFMDV感染の証拠が全く見つからなかった。 c. 過去12ヶ月間に口蹄疫に対するワクチン接種を行っていない。 d. ワクチン接種を中止して以降、ワクチン接種動物を全く入れていない。 3. 以下の事項について文書化された証拠を提出する。
家畜伝染病予防法 当然のこととして、OIE基準に準拠していなければならない。それに反しておれば、「不当な差別の手段」や「偽装した制限」でなことをWTOの法廷で立証しなければならない。OIE基準の範囲内であれば、自国の衛生状態に基づいた規則を定めることができる。 OIEリスト疾病以外については、自由に定めることができる。ただし、その国内基準を輸入検疫基準とした場合には、問題が生じる場合がある。たとえば、輸入牛肉について「VTEC陰性であること」とした場合、食品衛生法ではそうなっているものの、実態として汚染がない訳ではないので、どこまで厳密に要求するかが問題となる。「農場段階で保菌がなく、食肉センターで交差汚染がないことの証明」を求めれば、自国内の実態を超える要求となりWTOで敗訴する。すなわち、輸入検疫の検査でVTECが検出された場合に廃棄処分や積戻しを要求することしかできない。 家畜伝染病予防法はそれらを踏まえて、リスト疾病以外を含め、制御のための基準を定めている。
家畜の監視伝染病 家畜伝染病 監視伝染病 届出伝染病 新疾病 届出義務のある疾病 家畜伝染病 :口蹄疫など22疾病 監視伝染病 届出伝染病 :牛流行熱など71疾病 新疾病 :家畜が既に知られている家畜の伝染性疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なる疾病にかかり、又はかかつている疑いがある場合。 (定義) 第二条 この法律において「家畜伝染病」とは、次の表の上欄に掲げる伝染性疾病であつてそれぞれ相当下欄に掲げる家畜及び当該伝染性疾病ごとに政令で定めるその他の家畜についてのものをいう。 伝染性疾病の種類 三 口蹄疫 牛、めん羊、山羊、豚 二 牛肺疫 牛 一 牛疫 家畜の種類 水牛、鹿、いのしし 水牛、鹿 政令で定めるその他の家畜
2 この法律において「患畜」とは、家畜伝染病にかかつている家畜をいい、「疑似患畜」とは、患畜である疑いがある家畜及び牛疫、牛肺疫、口蹄疫、狂犬病、豚コレラ、アフリカ豚コレラ、高病原性鳥インフルエンザ又は低病原性鳥インフルエンザの病原体に触れたため、又は触れた疑いがあるため、患畜となるおそれがある家畜をいう。 (特定家畜伝染病防疫指針等) 第三条の二 家畜伝染病のうち、家畜が患畜又は疑似患畜であるかどうかを判定するために必要な検査、当該家畜伝染病の発生を予防し、又はそのまん延を防止するために必要な消毒及び家畜等の移動の制限その他当該家畜伝染病に応じて必要となる措置を総合的に実施するための「特定家畜伝染病防疫指針」を作成し、公表するものとする。 (飼養衛生管理基準) 第十二条の三 2 飼養衛生管理基準が定められた家畜の所有者は、当該飼養衛生管理基準に定めるところにより、当該家畜の飼養に係る衛生管理を行わなければならない。
口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針 平成23年10月1日 国、地方公共団体、関係機関等が連携して取り組む発生及びまん延防止等の措置を講ずるための「特定家畜伝染病防疫指針」が定められた伝染病: 牛海綿状脳症(BSE)、牛疫、牛肺疫、口蹄疫、狂犬病、豚コレラ、アフリカ豚コレラ、高病原性鳥インフルエンザ 口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針 平成23年10月1日 第1 基本方針 第2 発生の予防及び発生時に備えた事前の準備 1 農林水産省の取組 2 都道府県の取組 3 市町村・関係団体の取組 第3 異常家畜の発見及び検査の実施 第4 病性の判定 第5 病性判定時の措置 第6 発生農場における防疫措置 第7 通行の制限 第8 移動制限区域及び搬出制限区域の設定 第9 家畜集合施設の開催等の制限 第10 消毒ポイントの設置 第11 ウイルスの浸潤状況の確認 第12 予防的殺処分 第14 家畜の再導入 第15 発生の原因究明 「発生の予防」、「早期の発見・通報」、「初動対応」、「清浄化」について誰がどのように行動するかが定められている。
飼養衛生管理基準 宮崎県における口蹄疫の発生を踏まえて設けられた口蹄疫対策検証委員会の報告書において、飼養衛生管理基準については、畜産農家へのウイルスの侵入防止を日頃から徹底する観点から、より具体的なものとする必要がある旨、提言されています。このため、今般、飼養衛生管理基準を改正し、 ① 農家の防疫意識の向上 ② 消毒等を徹底するエリアの設定 ③ 毎日の健康観察と異状確認時における早期通報・出荷停止 ④ 埋却地の確保 ⑤ 大規模農場に関する追加措置の新設 等について、畜種ごとにより具体的に定めることとしました。 Ⅰ 全体 Ⅱ 衛生管理区域関連 Ⅲ 小規模飼養者関連 Ⅳ 消毒関連 Ⅴ 野生動物等との接触防止 Ⅵ 家畜の健康管理関連 Ⅶ 埋却等関連 牛、豚、鶏、馬について、基準とともにパンフレットとチェック表が付けられている。 Ⅷ 記録の保存関連 Ⅸ 大規模農場関連 Ⅹ 水際関連 Ⅺ その他
衛生管理区域とは、病原体の侵入を防止するために衛生的な管理が必要となる区域をいう。一般的には畜舎やその周辺の飼料タンク、飼料倉庫及び生乳処理室等を含む区域が衛生管理区域になる。作業者は畜舎や飼料倉庫周辺を通行するので、それらを含めて出入り制限・消毒義務化を徹底する。
口蹄疫に関する特定症状 次に掲げる1~3のいずれか一つ以上の症状を呈していることを発見した獣医師又は家畜所有者は、都道府県知事にその旨を届け出なければならない。 1-① 39.0 ℃以上の発熱を示した家畜が、 1-② 泡沫性流涎、跛行、起立不能、泌乳量の大幅な低下又は泌乳停止のいず れかを呈し、 1-③ かつ、その口腔内、口唇、鼻腔内、鼻部、蹄部、乳頭又は乳房のいずれかに水疱、びらん、潰瘍又は瘢痕を呈している場合 症状※ 鹿にあっては、1-①及び1-③を呈している場合。 2 同一の畜房内(一の畜房につき一の家畜を飼養している場合にあっては、同 一の畜舎内)において、複数の家畜の口腔内等に水疱等があること。 3 同一の畜房内において、半数以上の哺乳畜(一の畜房につき一の哺乳畜を飼 養している場合にあっては、同一の畜舎内において、隣接する複数の畜房内の 哺乳畜)が当日及びその前日の二日間において死亡すること。ただし、家畜の飼養管理のための設備の故障、気温の急激な変化、火災、風水害その他の非常災害等口蹄疫以外の事情によるものであることが明らかな場合は、この限りではない。
「早期の発見・通報」が初動活動の鍵を握っている! 14 飼養する家畜が特定症状を呈していることを発見したときは、直ちに家畜保健衛生所に通報すること。また、農場からの家畜及びその死体、畜産物並びに排せつ物の出荷及び移動を行わないこと。必要がないにもかかわらず、衛生管理区域内にある物品を衛生管理区域外に持ち出さないこと。 Ⅵ 家畜の健康観察と異状が確認された場合の対処 14 特定症状が確認された場合の早期通報並びに出荷及び移動の停止 22 大規模所有者は、従業員が飼養する家畜が特定症状を呈していることを発見したときにおいて、当該大規模所有者の許可を得ず、直ちに家畜保健衛生所に通報することを規定したものを作成し、これを全従業員に周知徹底すること。家畜の伝染性疾病の発生の予防及びまん延の防止に関する情報を全従業員に周知徹底すること。 Ⅸ 大規模所有者に関する追加措置 22 通報ルールの作成等