2001年公共経済学(院) 『ネットワーク・エコノミクス』 第10章 インセンティブ規制 の経済理論 発表者:手島健介

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第5章第5章第5章第5章 競争的な市場が望ましくない場合. ①公益事業のかかえる問題 市場の失敗 ・問題が競争では解決しない ・競争状態の到達点が望ましい状態と 言えない 費用逓減産業問題 ( 自然独占問題 ) 圧倒的コスト優位のため市場が競 争的にならず、自然と独占状態になる 産業.
Advertisements

公的年金 (3) 公共政策論 II No.9 麻生良文. 公的年金制度改革 公的年金バランスシートと通時的予算制 約 年金純債務と暗黙の租税 年金制度改革をめぐる誤解 – 積立方式の優位性 – 「二重の負担」 – 財源調達:税と社会保険料の最適な配分? – 賦課方式も積立方式も output をどう分配する.
IS-LM 分析 マクロ経済分析 畑農鋭矢. 貨幣の範囲 通貨対象 M1M2M3 広義流動性 現金通貨(日銀券 +補助通貨) 預金通貨 (普通預金・当座 預金など) 主要銀行・信 用金庫など ゆうちょ銀 行・信用組合 など 準通貨 (定期預金など) 主要銀行・信 金など ゆうちょ銀 行・信用組合 など.
経済の仕組みと経済学. 経済学とは 「経世済民」経済 世の中を治め、民の苦しみを救うこと 人々が幸せに暮らすためのしくみでありその活動 = 経済学とは: 「希少な資源を競合する目的のために, 選択・配分 を考える学問」 2.
6章 7章 インセンティブ. モラルハザード よくある誤解(誤訳):倫理の欠如 私の好きな意訳:倫理の落とし穴 よくある定義 情報の非対称性があり、代理人の 行動が観察できない がゆ えに、代理人が 依頼人の意に即した行動を取らず 、自ら の利得を最大化する問題。 例:保険、負債を背負った経営者.
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
乗数効果 経済学B 第6回 畑農鋭矢.
市場の失敗と政府の役割.
第2章 費用・便益分析の考え方の基礎 前半 政策評価(06,10,06)三井.
甲南大学『ミクロ経済学』 特殊講義 新旧産業組織論と ネットワーク・エコノミックス 2Kyouikukatudou/3Hijyoukin/2000/Konan2000.html 依田高典.
入門 計量経済学 第02回 ―本日の講義― ・マクロ経済理論(消費関数を中心として) ・経済データの取得(分析準備) ・消費関数の推定
Network Economics (1) 新旧産業組織論と ネットワーク・エコノミックス
M.E.ポーターの競争戦略論 M.E.ポーターの競争戦略論は、「競争優位」に関する理論的フレームワークを提示した基本的理論である。SCPパラダイムという考えをもとに持続的な競争優位を確立するための戦略である。 SCPとは、市場構造(structure)、企業行動(conduct)、業績(performance)の略語であり、市場構造と企業行動が業績を決めるという考えである。
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
市場の失敗と政府の役割 公共経済論 II no.1 麻生良文.
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 III) - 規制産業と料金・価格制度 -
ミクロ経済学の基礎 経済学A 第1回 畑農鋭矢.
経済原論II  ミクロ経済学入門 2016年度 麻生良文.
現代の経済学B 伊東光晴「ケインズ」第3回 一般理論の骨組み(ii) 現代資本主義とケインズ経済学 京大 経済学研究科 依田高典.
市場の効率性と政府の介入.
4 公共部門の経済学.
第7章 市場と均衡.
3章 なぜ政府が必要なのか 渡辺真世.
短期均衡モデル(3) AD-ASモデル ケインジアン・モデルにおける物価水準の決定 AD曲線 AS曲線 AD-ASモデル
プロジェクトの選択基準 と CBAの役割と限界
国際経済3 多国籍企業 6-1.直接投資と多国籍企業の現状 6-2. 多国籍企業と直接投資の理論 6-3. 多国籍企業とM&A・国際提携
第12章 外部性.
産業組織論 9 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2014年1月9日
特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ経済学
ミクロ経済学 10 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2015年7月16日
プロジェクトの選択基準 と CBAの役割と限界
第4章 投資関数.
市場の失敗と政府の役割 経済学A 第8回 畑農鋭矢.
生産要素への需要と生産要素価格: 労働市場・資本市場・土地の市場
ボンドの効果 ―法と経済学による分析― 桑名謹三 法政大学政策科学研究所
2012年度 九州大学 経済学部 専門科目 環境経済学 2012年11月28日 九州大学大学院 経済学研究院 藤田敏之.
第9章 独占.
経済学とは 経済学は、経済活動を研究対象とする学問。 経済活動とは? 生産・取引・消費 等 なぜ、経済活動を行うのか?
デフレ・スパイラル 2009年以降の事例から 長谷川 正
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
経済原論IA 第9回 西村「ミクロ経済学入門」 第8章 企業の長期費用曲線と 市場の長期供給曲線 京都大学経済学部 依田高典.
市場の失敗と政府の役割 経済学A 第9回 畑農鋭矢.
VI 短期の経済変動.
第8回講義 マクロ経済学初級I .
Network Economics (11) インセンテイブ規制
論文の概要 (目 的) ○アメリカ・火力発電事業者の全要素生産性の推計(1950~ 1978)。
市場均衡と厚生経済学の基本定理 部分均衡分析での結果 厚生経済学の基本定理 消費者余剰,生産者余剰,社会的余剰 Pareto効率性
16.独占的競争.
中級ミクロ経済(2004) 授業予定.
航空輸送産業:参考資料 2002年度企業論講義 川端 望.
市場の分類 完全競争 独占的競争 (供給)独占 (供給)複占 (供給)寡占 双方独占 買い手独占 (需要独占) 製品差別化なし
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
『組織の限界』 第1章 個人的合理性と社会的合理性 前半
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 III) - 規制産業と料金・価格制度 -
5章 プライマリー・マーケットにおけるCBA
5. プライマリー・マーケットにおけるCBA
第4章 プライマリー・マーケットにおけるCBA
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
契約法の経済分析 麻生良文.
経済学(第7週) 前回のおさらい 前回学習したこと(テキストp.16,19) ◆ マクロ経済学における短期と長期 ◆ 完全雇用とはなにか ◆ 短期のマクロ経済モデルの背後にある考え方 (不況の経済学/有効需要原理) ◆ 民間部門はどのように消費や投資を決定するか ◆ ケインズ型消費関数とはなにか ◆
財務管理 2010年1月13日 業績評価と経営者報酬 名古屋市立大学 佐々木 隆文.
都市・港湾経済学(総) 国民経済計算論(商)
航空輸送産業:参考資料 2004年度企業論講義 川端 望.
マクロ経済学初級I 第12回 今学期のまとめ.
公共経済学 完全競争市場.
経済学入門 ミクロ経済学とマクロ経済学 ケインズ経済学と古典派マクロ経済学 経済学の特徴 経済学の基礎概念 部分均衡分析の応用.
事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
Presentation transcript:

2001年公共経済学(院) 『ネットワーク・エコノミクス』 第10章 インセンティブ規制 の経済理論 発表者:手島健介 2001年公共経済学(院) 『ネットワーク・エコノミクス』 第10章 インセンティブ規制 の経済理論 発表者:手島健介

本章の構成 伝統的規制(その長所・問題点) →インセンティブ規制 *利潤分配規制 *プライスキャップ規制 *ヤードスティック規制 *ベイズ型プリンシパルエージェントモデル

伝統的規制 費用積み上げ方式 (営業費用+資本費用)/需要 →費用節約の誘因なし →公正報酬率規制へ 事業資産に公正報酬率を乗じる。  事業資産に公正報酬率を乗じる。  (事業資産:真実有効な資産:Rate Base)

公正報酬率規制 P=(C+ρK)/Q,ρ=iD/K+rE/K 考え方:①事業資産Kのうち負債Dに相当する部分に負債利子率iを、自己資本Eに相当する部分に自己資本利益率rを設定し公正報酬率ρを定める。 ②価格はρKをコストCに上乗せして総需要で割った水準に設定する。

伝統的規制の長短 長所 *社会的受容性、公平性 *規制のラグ効果 *投資の安定性とサービス水準の確保 短所 *非効率性(X非効率性とアバーチジョンソン効果) *規制の失敗 →インセンティブ規制への流れ

アバーチ・ジョンソン効果 規制企業によって決定された資本ー労働比率が、費用最小化水準における資本ー労働比率を上回ること。(資本過剰) 公正報酬率規制:ρ≧(PQ-wL)/K  ここでπ=PQ-wL-iKとおき、Kで割ると、  π/K= (PQ-wL)/K-i≦ρ-i  →π/K がρ-i を下回るまでKを増やす。

インセンティブ規制の分類 利潤分配規制(残余請求権) プライス・キャップ規制(上限価格内リバランシング) ヤードスティック規制(他企業指標との競争) フランチャイズ・ビッディング(事業免許競売) ベイズ型PA規制(企業の規制自己選抜) ハイブリッド規制(複数の規制の混合)

インセンティブ規制 実証研究の結果 経営効率化と消費者便益の向上 *ある水準以上におけるインセンティブ規制採用度と報酬率の正の相関。(地域ベル系) *インセンティブ規制→料金水準低い インセンティブ規制の現況 *最良の型はない *ゼロ・サムではない *競争政策との関連

利潤分配規制 公正報酬率を超える利潤率の達成に対して一定割合の利潤獲得を認める規制 最初:企業に社会厚生の残余請求権を認めることによる最適資源配分の達成 →(公平性の問題)   その期の消費者余剰の改善分だけ与えることだけでも最適性の達成証明

利潤分配方式の類型・実例 費用調整方式(実現コストと契約コストの差の一定割合を利潤として認める。) アメリカの電力産業(戦後)   アメリカの電力産業(戦後) 料金自動調整方式(公正報酬率に上下幅を設ける)NTTの幅公正報酬率  スライディングスケール方式(想定利益率を設定、それを上回る利益を企業と消費者で一定割合で山分け)ガス事業法の報償契約 

プライス・キャップ規制 料金上昇率を物価上昇率+不可抗力要因ー生産性上昇によるコスト上昇率の枠内におさめる。 このとき料金はラムゼイ価格に収束 利点  ①経営効率化②規制の透明化コスト削減  ③価格のリバランシング④アバーチジョンソン効果の回避

プライスキャップ規制 の問題点・実例 生産性向上率の測定の問題 →規制の政治化・利益の大幅な変動 過少投資・サービス劣化 英国の電気通信 日本の電気通信(NTT東日本・西日本の電話 ISDN専用サービス:)

ヤードスティック規制 地域独占企業の経営実績を比較して間接競争を作り出す規制 価格を他企業の平均的限界費用関数に、  補助金を他企業の平均的費用削減努力に  設定する。それを企業が知って努力水準を決定。実際観察された費用、努力に応じ価格、補助金を決定。

ヤードステッィク規制 の成功のポイント 費用・需要条件の企業観等質性 企業間の共謀の不可能性 日本の私鉄・バスの標準原価方式 英国の水道事業 日本の電力・ガス産業に1996年から導入 (地域ごとの費用・需要条件の異質性を考慮)

ベイズ型プリンシパル・ エージェント規制 被規制者(企業)と規制者(政府)の情報の非対称性を明示的に分析 ①アドバースセレクション型(私的情報)  誘因両立条件(正しい情報を吐かせる条件)  参加条件を満たす料金設定は消費者余剰を少しでも重視する限り非効率になる。 ②モラルハザード型(隠れた行動)  費用削減努力が過小になる。

問題点・実例 直接的な政策応用がしにくい (Revelation Schemeの実用化は難しい) 米国地域電気通信の州際アクセスチャージ 企業がリスク(想定生産性上昇率)とインセンティブ(報酬率の幅)の組み合わせを選択するしくみ

インセンティブ規制を 考えるポイント(おまけ) インセンティブ向上に資するか  (費用削減努力のメリットが費用削減努力コスト、同業者との癒着、政府との癒着などのメリットを上回っているか) 費用調査コストを削減するか 消費者から企業への所得移転をどの程度  おさえることができるか。

フランチャイズ・ビディング (おまけその2) 一定期間の事業免許を入札方式にする。→免許再獲得のための効率的経営を期待。 問題点  -企業間の談合の可能性  -既存企業の技術的・情報的優位性  -既存企業が敗れたときの処理  -免許契約の不完備性