ベンチマーキングと クリニカルインディケーター ベンチマーキングと クリニカルインディケーター 東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科 新田章子
ベンチマーキングとは 質改善の1つの方法 ベストプラクティスの探求 根拠のある目標と方法を見つける
「痛んだりんご理論」 トップダウン 「(日本型)改善」(CQI) ・ボトムアップ ・ミドルの活性化 ・リーダーシップの強化
ベンチマーキングのポイント 第1段階 ベストから学ぶ 第2段階 継続的改善 第3段階 自分がベストになる
日米の骨頭置換術パス比較 日本 抗生剤 排泄 アメリカA アメリカB 標準退院日数 30~50日 6~7日 7日 退院時状況 リハビリ開始 日本 アメリカA アメリカB 標準退院日数 30~50日 6~7日 7日 退院時状況 自立ステッキ歩行 リハビリ開始 POD7 POD1 歩行器歩行訓練開始 POD11~13 POD2 階段歩行訓練開始 POD5週目 POD4 POD5 抗生剤 POD5まで POD2まで 24~36時間まで 排泄 POD5 バルン抜去 トイレ介助・夜間尿器使用 POD1
ベンチマーキングの意義 ① 医療機関としての相対的な位置付けを把握する ② アイディア発掘の手段 ③ 組織が変革の意義、ゴールを納得する
ベンチマーキングの種類 1.病院間での比較 ①近隣、似た特性の病院の業績比較 ②部分的な比較 ラパコレのパスの比較 2.病院以外との比較 ①近隣、似た特性の病院の業績比較 ②部分的な比較 ラパコレのパスの比較 2.病院以外との比較 ディズニーランドの接遇 セブンイレブンの商品管理 3.病院内での比較 病院内のほかのパスとの比較
簡単なベンチマーキングの導入 ベルボーイのような気遣い 荷物を置けるカウンターの設置 訴えの多い患者こそニーズ把握のチャンス 美容院での洗髪 “クリニカルパス”ベンチマーキングそのもの
ベンチマーキングのすすめ方 仮説を立てる ステップ1 こんなゴールなのではないか?の設定 どうすればよいの? 仮説を立てる こんなゴールなのではないか?の設定 どうすればよいの? →ベストプラクティスの要素、関連要因
ベンチマーキングのすすめ方 ステップ2-1 何をベンチマーキングするのか? ① 全体像を知るための指標
例:急性心筋梗塞 病院 比較対照 在院日数=4.5 5.2 days ケースあたりの合計請求額= $16,198 $12,545 30日以内の再入院率=5.95% アスピリンの退院時処方= 100% 比較対照 5.2 days $12,545 6.80% 100%
ベンチマーキングのすすめ方 何をベンチマーキングするのか? ステップ2-1 ① 全体像を知るための指標 ② クリニカルインディケーター ① 全体像を知るための指標 ② クリニカルインディケーター ③ 良くないことの確率
質の指標(QI: Quality Indicator) Markers that signal the presence or absence of potentially poor care practices or outcomes Wisconsin-Madison大学のCHSRAが開発し、カンザス、サウスダコタなど96年時点4州で定期監査に使用されている 視点 入所者レベルか施設レベルか プロセスかアウトカムか リスクの調整 入所者レベルのQIは、あるconditionの有無であり、入所者レベルのQIを集計すると施設レベルのQIになる。施設レベルは、施設間の比較、平均との比較に使用できる。 例)入所者レベルのQIは、その入所者にⅠ度からⅣ度の褥瘡があれば1、なければ0になる。対応する施設レベルのQIは、1箇所以上の褥瘡のある入所者の割合になる。 プロセス指標:アセスメントされた入所者の状態に対応してプロバイダーが行った内容、行動、手順。医療者と患者の間で継続しているものも含む。 アウトカムは、適用されたプロセスの結果(改善したか、同じか、悪化したか) プロセスとアウトカムの境は不明瞭。両方を反映するQIもある。 例)指示された対応がないうつ症状がある ほとんどアクティビティがないは結果(入所者がアクティビティに従事できないという結果)、プロセス(施設スタッフはアクティビティを提供しないことを選んだ) この場合は、保守的に結果とし扱っている。 リスク調整は、同程度のリスクをもった人の間で比べたほうがよいこと、とスタッフにとってハイリスク者を認識して、よりよくケアを提供できる意味がある。 標準との比較の意味 転倒2、損傷1、身体抑制26、向精神薬21、ADLの低下18がわかれば リスクごとの比較 ハイリスク者における褥瘡の発生と、ローリスク者における発生では、取り組みが異なる 他施設や標準との比較による、質の改善に取り組むべき領域の把握 CQI(Continuous Quality Improvement)へ 慶応大学 山田ゆかり
現在使用されているQI 1.新たな骨折の発生 13.体重減少 2.転倒 14.経管栄養 3.他者に影響する行動 15.脱水 4.うつ症状 16.寝たきり 5.うつ症状があり、抗うつ薬を使用していない 17.最近のADL低下 6.9種類以上の薬剤使用 18.可動域の低下 7.新たな認知障害の発生 19.精神症状がない抗精神病薬の使用 8.尿、便失禁 20.抗不安薬/催眠薬の使用 9.時々失禁し、かつ排泄計画がない 21.催眠薬を週に3回以上使用 10.留置カテーテル 22.毎日身体抑制 11.便の詰まり 23.活動量が少ないか、全く活動していない 12.尿路感染症 24.Ⅰ度~Ⅳ度の褥瘡 (Facility Guide for the Nursing Home Quality Indicators, National Data System, Set.28,1999, Center for Health Research and Analysis, University of Wisconsin-Madison ) ©慶応大学 山田ゆかり
ベンチマーキングのすすめ方 ステップ2-2 どこをベンチマーキングするのか 似た病院だと・・・ 著名な大病院だと・・・
ベンチマーキングのすすめ方 ステップ2-3 情報交換会の開催 トップと話す 事前工作する
ベンチマーキングのすすめ方 ステップ3 目的に応じたデータの翻訳 ステップ4 比較→現状の把握・診断 ステップ5 論点と課題の抽出
ベンチマーキングのすすめ方 具体的変革案の作成 変革のアクション・プラン化 課題に対する変革の方向性の明確化 ステップ6 ステップ7 ステップ8 変革のアクション・プラン化
ベンチマーキングのすすめ方 実行 ベンチマーキングの再調整 ステップ9 ステップ10 Plan 計画 Action 処置 Check 確認 Do 実施 ステップ9 実行 ステップ10 ベンチマーキングの再調整
クリニカル・インディケーターとは 医療活動を「結果」から評価し、質の改善に役立てるための臨床評価指標
入院 手術 退院 バリアンスの発生 再手術 感染の発生 在院日数 再入院 5年生存率 中間的結果 最終結果 フォローアップ クリニカル インディケーター 中間的結果 最終結果 菅野由貴子:クリニカルインディケーターを用いた質の評価・改善に向けて,看護,50(3):192,1998.より改訂引用
海外でのクリニカル・インディケーター IM System (Indicator Measurement System) HEDIS (Health Plan and Employer Date Information Set) ACHS (Australian Council on Healthcare Standards) 術後、産科、心臓血管系、外傷、癌など 多くは率型のもの
日本でのクリニカルインディケーター 開発の取り組み 胃がん・結腸がんの在院日数 → 術後感染症発生との関連(直腸がんはなし) 胃がん・結腸がん・直腸がんの術後感染症 → 患者属性よりケア内容 Ex.ドレーンの留置日数、膀胱留置カテーテル日数、輸血・・・ ★術式、化学療法の有無による補正が必要
クリニカル・インディケーターの条件 データが取りやすい 多くの活動全体を評価できる 関連性がわかっている中間的結果 ベンチマークの指標として使う場合は時として翻訳が必要なこともある
クリニカルインディケーターになるか ① 褥瘡発生率 ② 全介助患者の身体清潔の保持 ③ 糖尿病患者の教育内容理解度 ④ 冠動脈バイパス術患者の抜管時間
腹腔鏡下胆嚢摘出術の インディケーターになるか ・術後感染率 (アメリカ、ハンガリー) ・手術時間(アメリカミシシッピ大学病院 1999 29分) ・コスト(アメリカミシシッピ大学病院 1999 $2,990) ・在院日数(アメリカ) ・胆管損傷(オーストラリア 1999:0.44% 1998:0.51%)
クリニカルインディケーターの利点 評価を簡略化できる 質改善の数値目標ができる 結果からより具体的な質改善ができる
ベンチマーキングの効果 1994-1995 1996-1998 1997-1998 公立クリニックの内科医 n=70 公立クリニックの内科医 n=70 その患者メディケアDM患者 N=2978 1994-1995 ランダム化割付 1996-1998 ベンチマーク フィードバック 医師への介入 患者のアウトカム 患者のアウトカム 1997-1998
ベンチマークフィードバックのランダム化比較試験 DMのQI ベンチマーク フィードバック オッズ比(CI) P 値 インフルエンザワクチン接種率 40→58% 40→46% 1.57 (1.26-1.96) <0.001 フットケアのテスト 46→61% 32→45% 1.33 (1.05-1.69) 0.02 長期血糖 コントロール 31→70% 30→65% (1.04-1.69) コレステロール 66→72% 66→69% 1.20 (0.95-1.51) 0.13 トリグリセリド 61→65% 57→60% 1.15 (0.92-1.44) 0.22 Kiefe C.I., Allison J. J., et al.: Improving Quality Lmprovement Using Achievable Benchmarks For Physician Feedback, JAMA, 285(22): 2871-2879, 2001.
行う前に知っておいたほうが良い ベンチマーキングのポイント やればやるほど見えてくる自分の欠陥 努力している割に 効果が出るまで時間がかかる → トップが腰を据えてやる! 日常的な改善ツールとして活用 → 一人一人が自分の指標を
ベンチマーキングを阻害する 3つのポイント ① 標準化より一発あてたほうが評価が高い ② その病院は特別である症候群 ③ 現状に何の疑問も抱いていない
ベンチマーキング成功の秘訣 患者が多く、経営が安定している特異な病院は選ばない 達成しやすい中間目標を置く
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