電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 電磁波の物理 山田 博仁.

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電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 電磁波の物理 山田 博仁

講義について 1. 目的: 古典的な電磁場やMaxwell方程式について理解を深め、さらにそこから導かれる電磁波の性質を理解し、電磁気学の素養を身に付ける 2. 内容   - Maxwell方程式の意味、定常状態でのMaxwell方程式の扱い   - 波動方程式の導出と電磁波   - 平面電磁波の性質(伝搬速度、偏波、運動量、エネルギー)   - 誘電体中の電磁波(伝搬速度、インピーダンス、分散、異方性)   - 電磁波の反射、屈折、透過、回折、散乱現象   - 導波路中の電磁波伝搬   - 電磁ポテンシャルとゲージ変換   - 遅延ポテンシャルと先進ポテンシャル   - 電気双極子による電磁波の放射 3. 成績評価   出席、レポートまたは小テストの合計で約60点、定期試験で約40点 4. 参考書   太田昭男著、新しい電磁気学 培風館   砂川重信著、物理テキストシリーズ4 電磁気学、岩波書店   砂川重信著、理論電磁気学、紀伊国屋書店   日本語訳 ファインマン物理学Ⅲ、Ⅳ 岩波書店など 再試は行わないつもりです

講義日程 ・ 4/14(木)(初回) 講義について、遠隔作用と近接作用、Maxwellの方程式 ・ 4/28(木)(第3回目) 静電場、静磁場での基本方程式 (第1回レポート出題) ・ 5/12(木)(第4回目) 磁場の不思議 ・ 5/19(木)(第5回目) 電磁場のエネルギー、波動方程式 (第1回レポート〆切) ・ 5/26(木)(第6回目) 電磁波の性質 ・ 6/2(木)(第7回目) 電磁場の運動量 (第2回レポート出題) ・ 6/9(木) (第8回目) 電磁波の反射と透過 (第2回レポート〆切) ・ 6/16(木)(第9回目) 電磁波の反射と透過、偏波 ・ 6/23(木)(第10回目) 電磁波の共振器と導波路 (第3回レポート出題) ・ 6/30(木)(第11回目) 光導波路と光共振器 ・ 7/7(木) (第12回目) 電磁ポテンシャルとゲージ変換 (第3回レポート〆切) ・ 7/14(木)(第13回目) 電気双極子による電磁波の放射 ・ 7/21(木)(第14回目) 点電荷による電磁波の放射 ・ 8/2(火)? 定期試験

講義に関する質問や講義資料 講義に関する連絡および 講義資料のダウンロード または            または http://www5a.biglobe.ne.jp/~babe http://www.ecei.tohoku.ac.jp/yamada/Lecture/yamada/index.htm オフィスアワー: 随時    居室: 電気系2号館2階202号室 質問、問い合わせ等 E-mail: yamada@ecei.tohoku.ac.jp TEL: 795-7101 ※ 講義の際には、出席をとるためのB5またはA4のレポート用紙などを各自ご持参下さい

遠隔作用と近接作用 Coulombの法則 電場に関するGaussの法則 電場 (電界) 電荷 電荷 F F F F d r 力 力 力 +Q re(x) は位置 x での電荷密度 遠隔作用 遠隔作用→近接作用 近接作用 両電荷間の距離 r が残っているという意味において、これでもまだ遠隔作用的な考え方

遠隔作用と近接作用 クラシックコンサート タクトが上がった 前の席の人が大きくて指揮者が見えない 席が悪くて指揮者が見えない 距離: d あなたは、その「場」の雰囲気を感じ取っている 遠隔作用 近接作用 遠隔作用では、「場」という概念は必要ない 周りが静かになった 演奏が始まるぞ ! 演奏が始まるぞ !

Maxwellの方程式 物質中の電磁場を規定する基本法則 ファラデーの電磁誘導則 アンペール・マクスウェルの法則 電場に関するガウスの法則 磁場に関するガウスの法則 MKSA(SI)国際単位系 E(x, t): 電界 or 電場 (V/m) H(x, t): 磁界 or 磁場 (磁場の強さ) (A/m) D(x, t): 電束密度 (C/m2) 変位電流 B(x, t): 磁束密度(磁場) (Wb/m2) ie(x, t): 伝導電流密度 (A/m2) re(x, t): 真電荷密度 (C/m3)

Maxwell方程式とそれを使いこなす極意 電磁気学の諸問題を扱うのに、非常にシンプルかつ便利な道具である 従って、まずはMaxwell方程式を正しく覚えて、その道具を手にしよう 次に、その意味を正しく理解し、道具の使い方を覚えよう 空間のどんな場所でも成り立つ微分形式で記述されているため、具体的な問題を扱う場合には、それを対象物で空間積分することにより、あらゆる問題に対応できる 即ち、Maxwell方程式は近接作用の立場に基づいた微分形式で記述されているので Almightyである。それを対象物で積分することであらゆる問題に適用可能 しかし、そのままの形では、実際には考慮する必要の無い現象まで全て盛り込まれているために、オーバースペック(overengineer)でもある 従って、工学の問題を解く場合には、 Maxwell方程式の中から必要な項だけを取り出してCustomizeすることにより、よりシンプルに扱うことができる

Maxwell方程式の意味 1. ファラデーの電磁誘導則 (微分形式) 磁場(磁束密度)の時間的減少が、その周りに電場の渦を右ネジ方向に作る B(x, t1) E(x, t1) B(x, t2) E(x, t2) B(x, t3) E(x, t3) 変化する磁場の周りの電界は、そこに導線(コイル)が有る無しに関わらず生じる I コイル たまたま導線が有ると、導線内の自由電子が電界により動き、電流 I が流れる

Maxwell方程式の意味 2. アンペール・マクスウェルの法則 (微分形式) ie(x, t) H(x, t) 定常電流が、その周りに磁場の渦を右ネジ方向に作る さらに、電場(電束密度)の時間的増加が、その周りに磁場の渦を右ネジ方向に作る E(x, t1) H(x, t1) E(x, t2) H(x, t2) E(x, t3) H(x, t3)

Maxwell方程式の意味 3. 電場に関するガウスの法則 (微分形式) D(x) 電荷密度が電場(電束密度)の発散を引き起こす re(x) 4. 磁場に関するガウスの法則 (微分形式) B(x) rm(x) 磁場(磁束密度)の発散源(磁荷)は存在しない

その他の関係式 電荷保存則 (電流連続の式) オームの法則 ローレンツ力 媒質中での扱い (構造関係式) P(x, t): 分極ベクトル M(x, t): 磁化ベクトル ce: 電気(比)感受率 cm: 磁化率(磁気感受率) er : 比誘電率 ms : 比透磁率 e : 誘電率 m : 透磁率 e0 : 真空の誘電率 m0 : 真空の透磁率

古典(ニュートン)力学の復習 ニュートンの運動法則 (第一法則) 慣性の法則 (第一法則) 慣性の法則 外力が働かなければ、静止している物体はいつまでも静止を続け、運動している物体はいつまでも等速直線運動を続ける (第二法則) 運動の法則 物体に外力が働くとき、物体には外力と同じ向きの加速度が生じる。その加速度の大きさ a は、働いている外力の大きさ F に比例し、物体の質量 m に反比例する。つまり、F = ma (第三法則) 作用反作用の法則 物体AがBに力 F (作用)を働かせてると、BはAに同じ大きさで逆向きの力 -F(反作用)を同一作用線上で働き返す 万有引力の法則 [m と m’ は二質点の質量、r は両者の間の距離、Gは重力定数]

古典物理学の法則総決算 (ファインマン物理学第Ⅲ巻第18章) Maxwell方程式 電磁気学の法則 電荷の保存則 ニュートン力学の法則 力の法則 (ローレンツ力) ← ニュートン力学と電磁気学を関係付ける式 運動の法則 万有引力

電磁場とは何か? 場とは、空間の歪み 一体何が歪むのか? 重力場: 空間の重力的な歪み? 電磁場: 空間の電気的な歪み? よくこんな図を見かけるが、、、 ゴムシートの上に重い球を乗せると、シートが窪む この場合、歪む「もの」が実体としてある ゴムの分子 しかし電磁場の場合、或いは重力場の場合、そのような歪む「物質」が実体としてある訳ではない そのような物質をエーテル(ether)と称して、19世紀の末にMichelsonとMorleyが実験的に検出しようとした(マイケルソン・モーリーの実験)が、結局見つからなかった。 そのことが、アインシュタインが特殊相対性理論を着想するきっかけとなった。

ローレンツ力 導線 ローレンツ力 B x y z E = 0なら +q F F v 電流 I B F フレミングの左手の法則 アンペールの法則 (右ねじの法則) 同一方向に流れる電流には引力が働く B v 電子 -e F I B v 電子 -e F I I v B フレミングの右手の法則 これらは全てローレンツ力で説明できる

Maxwell方程式で考えてみよう [1] 一様な磁場の中を速度vで移動しているコイルに電流は流れるか? コイルによって囲まれる面Sに対してファラデーの電磁誘導則を面積分 B 一様な磁場 ストークスの定理 コイル I ? v 速度 v で移動 コイルに生じる電圧 B 一様な磁場 [答] 1) 図の方向に流れる 2) 図と反対方向に流れる 3) 流れない E S dS dr C

ファラデーの単極誘導 [2] 起電力は発生するのか? 導体円板内部には自由電子が存在 V + - B ω -e B v F ω 回転する導体円板 一様な磁場 個々の自由電子に働くローレンツ力を考えると [答] 1) 図の方向に電圧が発生する 2) 図と反対方向に電圧が発生する 3) 発生しない 単極誘導 全ての自由電子には円板の中心に向かう力が働く 参) 大田昭男著 新しい電磁気学    p.120 例題8.1参照

磁場の本質とは? [3] [2]で、円板は固定して、磁場 の方を回転させたらどうなるか? 回転する一様な磁場 V ω 静止した導体円板 B + - V B + - S N ω 回転する磁石 静止した導体円板 [答] 1) 図の方向に電圧が発生する 2) 図と反対方向に電圧が発生する 3) 発生しない

磁場の本質とは? V B + - S N ω 回転する磁石 静止した導体円板 V B + - ω I コイル 両者は等価

ファラデーの単極誘導と単極誘導モータ [4] 起電力は発生するのか? [5] 単極誘導モータ 回転する導体円盤 V B + - S N w 回転する磁石 + - w S N 永久磁石と円盤が一体になっていても回る 単極誘導モータに関しては、以下のURLを参照 http://sysplan.nams.kyushu-u.ac.jp/ gen/hobby/elec/Motor/UniMotor.html [答] 1) 図の方向に電圧が発生する 2) 図と反対方向に電圧が発生する 3) 発生しない http://www.youtube.com/watch?v=7CiEFsQstsI

ローレンツ力と相対運動 Fy’ = q v×Bz x y z K E Bz x’ y’ z’ K’ v q Fy’ -v 電場が無く、z 方向の磁場 Bz しか存在しない場合 x’ y’ z’ K’ v + q 粒子はいつまでも静止し続ける Fy’ それなら、粒子にはローレンツ力が作用するのか? Fy’ = q v×Bz -v ところが、座標系 K に対して –x 方向に速度 v で運動をしている座標系 K’ から見ると、荷電粒子 q は +x 方向に速度 v で運動をしていることになる

ローレンツ力と相対運動 [6] 磁場中を運動している荷電粒子のパラドクス x y z 一様な磁場 B0 v F +q x y z F = q v B ローレンツ力が働き、粒子はこちらに近づいて来る 荷電粒子と同じ速度で運動している観測者から見ると v = 0 従って、ローレンツ力Fは働かず、粒子はこちらには近づいて来ない。本当か?

より本質的な量としてのベクトルポテンシャル この問題は、磁場 B で考えると分からなくなる。何故なら、一様な静磁場 B(x, t) = B0 は 互いに等速度運動をするどの座標系から見ても B0 だからである。 しかし、ベクトルポテンシャル A(x, t) には違いがある。 従って、ベクトルポテンシャル A(x, t) で考えると理解できる。 一様な磁場 B ベクトルポテンシャル A ベクトルポテンシャル A は磁場 B よりも本質的な物理量である !!

より本質的な量としてのベクトルポテンシャル 一様な磁場 B を作っている根源(例えば電流の流れているコイルのようなもの)がロケットの中にある場合、同じロケットに乗っている観測者から見るとベクトルポテンシャルは時間的に変化しない。つまり、∂A/∂ t = 0 この場合、荷電粒子に力 F は働かない v x +q v F 一様な磁場 B0 z ベクトルポテンシャル A y

より本質的な量としてのベクトルポテンシャル ところが、一様な磁場 B を作っている根源(電流の流れているコイル)がロケットの外にある場合、ロケットに乗っている観測者から見るとベクトルポテンシャルは時間的に変化している。つまり、∂A/∂ t ≠ 0 この場合、荷電粒子に力 F が働く v x +q v F 一様な磁場 B0 z y ベクトルポテンシャル A

種明かし 電場や磁場は座標系によって見え方が変わる ベクトルポテンシャルが時間的に変化する場合、電場 E が見えてくる。 先のケースでは、座標系 K においては電場が無いと言っているから、ベクトルポテンシャルは時間的に変化していない。つまり、∂A/∂ t = 0。(電荷も無いとして、従って ϕ = 0としている)しかし、座標系 K に対して等速度運動している座標系 K’ から見ると、 ∂A/∂ t ≠ 0ために、式(1)より、電場 E が存在することになる。この電場が Fy’ を打ち消す方向に作用するために、座標系 K’ から見ても粒子はこちらには近づいては来ない。 座標系 K この場合の電磁場は、座標系 K から見ると 磁場 Bz に見える。 座標系 K’ ところが、別の座標系 K’ から見ると 磁場 Bz’ と電場 Ey’ に見える 電磁場 Bz 電場や磁場は座標系によって見え方が変わる。 Bz’ 普遍的なのは電磁場 !! Ey’ 砂川重信著 電磁気学 岩波書店 p.162参照

ベクトル解析の復習 重要なベクトル恒等式 ガウスの定理 ストークスの定理 dS F V S n dS F S dr C n

ガウスの定理の意味するもの F V は、ベクトル場 Fの局所的な湧き出し 従って、右辺の は、領域 Vの中で湧き出すベクトル場 Fの総量 一方、左辺の は、領域 Vを取り囲む面 Sから流れ出るベクトル場 Fの総量 dS F S n つまり、洞窟の中に泉がいくつかあるとすると、その泉から湧き出してくる水の総量は、 洞窟の外に流れ出る水の総量に等しいということを言っているだけ。

ストークスの定理の意味するもの dS n F S は、ベクトル場 Fの局所的な渦 従って、右辺の 一方、左辺の は、面 Sを取り囲む縁に沿って渦巻くベクトル場 F F dr C つまり、台風の中では風が複雑に渦巻いているが、台風の縁の方では、台風を取り巻くように大きな風の流れがあるだけであるということを言っている。

ベクトル解析の復習 演算子∇(ナブラ)と D(ラプラシアン)の意味 (ベクトルと見なせる) (スカラーと見なせる) 勾配(gradient) ‥ スカラー量に作用して、ベクトル量を導く演算子 発散(divergence)  ‥ ベクトル量に作用して、スカラー量を導く演算子 ナブラ∇と E(x)のスカラー積 スカラー積(内積)

ベクトル解析の復習 回転(rotation) ‥ ベクトル量に作用して、ベクトル量を導く演算子 ナブラ∇と E(x)のベクトル積 ベクトル積(外積)