2008年5月23日(月) tsuji@nira.or.jp 人口経済論 第5回 2008年5月23日(月) tsuji@nira.or.jp
長期的人口成長の趨勢と展望: 世界人口の動向 世界人口の規模 出生率の現状 先進地域の出生率の低下 死亡率と平均寿命の動向 人口の年齢構造の変化と高齢化 都市化と人口移動 国際人口移動
国連の将来人口推計:参考 World Population Prospects 推計方法コーホート要因法による 国連加盟国それぞれについて、将来の出生、死亡、移動の仮定をたて、人口の規模・構造などを推計している。 最新は2006年版で1950-2050年までのデータが掲載されており、2005-2050年までが将来の人口推計(projection)結果、それ以前は推計(estimate)人口。
1.世界人口の規模(1/4) 2006年の推計結果では、人口は、2050年までに90億人を越えることが予測されている。 2007年67億人→2050年92億 増加の大きさはちょうど1950年の人口サイズと同じ。 ・そのほとんどがless developed ・増加の半分は以上が60歳以上のもの ・一方15歳以下は微減 先進国では ・60歳以上の人口が2倍になることが予測(2005年2億4500万人→4億600万人) ・60歳未満は、 (2005年9億7100万人→8億390万人)
LDC:後発開発途上国の増加がすごい
1.世界人口の規模 このように、途上国において人口増加が顕著なのは、途上国では死亡率が地すべり的に低下したが、その出生率が先進国に比べてまだかなり高く、したがって人口増加率が先進国に比べて格段に高いため。 →出生と死亡の変化(具体的には低下)にはタイムラグが観察される。
2.出生率の現状(1/5) 世界の出生率動向の大まかな特徴 1.先進地域と途上地域の格差が非常に大きいこと 2.数量的には途上地域の低下が大きいこと 6.17(1950-55年)→2.90(2000-05年)
2.出生率の現状(2/5)
2.出生率の現状(3/5) 先進地域以外でも、合計特殊出生率が現在2.2以下の国として、中国、韓国、シンガポール、タイ、アルメニア、バハマ、キューバ、プエルトリコ、トリニダードなどがある。 東アジア、東南アジアおよびカリブ海の島国が多い。 これらの地域の特徴としては、 1.教育程度が相対的に高いこと、 2.島国は外からのアプローチが容易なこと、 3.概して人口が同質的であること が上げられる。
2.出生率の現状(4/5) さらにモールデン(P.W.Mauldin)によれば、これらの国々は、平均所得、工業化、教育程度、都市化、マスコミの普及などの「近代化の指標」が高く、政府が家族計画の普及に熱心でかつ実施のための行政組織が存在する。 近年では、経済社会開発が遅れていた中央アジア(インド亜大陸など)や西アジア(中近東)においても低下し始めた。
2.出生率の現状(5/5) アフリカにおいては、依然として高い水準。 特にサハラ砂漠以南の地域では、高い水準を保っている。 その理由としては、サハラ以南のアフリカが他の地域と比べて、社会開発が遅れ、女性の教育程度が低く、社会的役割が制限され、家族計画の考え方と方法技術があまり普及されていないことがあげられる。その背景には政情の不安定、社会・経済インフラの脆弱などがある。
3.先進地域の出生率低下(1/3) 日本を含めたすべての先進国において、合計特殊出生率は、人口置換水準以下にある。
3.先進地域の出生率低下(3/3) 欧米諸国では1965年ごろから一斉に低下した。 ヨーロッパの中で、旧ソ連圏の東ヨーロッパの国々と南ヨーロッパの国々の出生率が低い。 旧ソ圏においては、ソ連圏崩壊に伴う経済の窮迫と経済制度返還に対する適応不全に伴って生じた一時的出生崩壊の可能性がある(要検討) 南ヨーロッパ(イタリア、スペイン、ポルトガル)における低下は、日本に見られるような女性の社会進出と出産活動との矛盾・不調和によるところが大きい。 (就業と出産育児の両立の支援体制の不備)
4.死亡率と平均寿命の動向(1/2)
4.死亡率と平均寿命の動向(2/2) 途上地域の平均寿命の延びが著しい。地域的にはアジアの伸びが著しい。 その理由として、 1.平均寿命の延びはもともと低いところで大きく、それが高くなると鈍化する傾向を持つ。 2.医療技術に関する後続国の有利性。 がある。
5.人口の年齢構造の変化と高齢化(1/6) 出生率と死亡率の低下を受けて、世界人口は大きく変化している。 その特徴の一つが「人口高齢化」である。
5.人口の年齢構造の変化と高齢化(2/6) 出生率と死亡率の低下を受けて、世界人口は大きく変化している。 その特徴の一つが「人口高齢化」である。
5.人口の年齢構造の変化と高齢化(3/6) 従属人口指数を、見ると、1950年、2000年は途上国のほうが高い。これは年少人口従属人口指数が途上国で大きいためである。逆に老年従属人口指数は、途上国では小さい。 特にアフリカの年少従属人口指数及び全体の従属人口指数はきわめて大きい。 一般に途上国の高い従属人口指数は、経済発展のために不利な人口学的条件をもたらすものと考えられている。
5.人口の年齢構造の変化と高齢化(4/6) 先進国の老年従属人口指数を見ると、特に2050年の44.42は大きい値となる。仮に15-64歳人口が65歳以上人口の社会保障を負担すると仮定すると、1人の老人を2.27人の現役で支えることとなり、現役に対する社会保障の負担の重みは非常に大きくなると予測される。 ちなみに日本の老年従属人口指数(2050年)は72.40なので1人の老人を1.38人の現役で支えることとなる。
5.人口の年齢構造の変化と高齢化(5/6) 老年人口の増加、老年従属人口指数の増加は、主に出生率の低下によってもたらされている。 そのため、現在出生率が急激に低下し始めている国々においても、日本同様の人口構造は将来的にはもたらされる。 国によってはそのスピードは日本以上である。
5.人口の年齢構造の変化と高齢化(6/6) アジアの人口高齢化を考えてみると、日本を除いたアジアの国々では、年金をはじめとする社会保障制度の整備が十分ではない。皆年金は達成されていない。 そのため、アジア諸国における人口高齢化の問題は日本以上に深刻となる可能性がある。 社会保障制度の不備と、近代化しつつあるライフスタイル、そして寿命の延長にという現状において、こうした国々が保っていた、三世代同居による私的扶養という仕組みが堅持できるであろうか。
6.都市化と人口移動(1/4)
6.都市化と人口移動(2/4) 20世紀後半の人口現象の特徴の一つに「都市における人口増加」がある。 世界では、都市化比率(総人口に占める都市人口)は、1950年には30%であったが、2000年には47%にまで増加した。2030年には61%に達すると見込まれる。 先進地域のほうが途上地域よりも都市における人口集中は顕著である。
6.都市化と人口移動(3/4) 都市化、あるいは農村から都市への人口流入は、プラスの側面とマイナスの側面がある。 アフリカ、アジア、ラテンアメリカにおいては、農村から都市への大量の人口集中は都市の収容・管理能力を超え、流入者に必要な職と住宅を供給できない場合が多く、都市の周辺部にスラムを形成し、環境の破壊、犯罪の助長要因となる場合がある。
6.都市化と人口移動(4/4) 一方で、アジアでは、都市化と1人当たりGNPの伸びとの正の相関が高い。またラテンアメリカでは農業成長との間に不の相関が認められる。都市化は一般的に農村と都市との間の労働力の分布を調整し、農村の人口過剰と貧困を軽減し、経済発展を促進する効果がある。
7.国際人口移動(1/3) 国際人口移動は、現在、西欧諸国(市場経済のもとにある北部アメリカ、ヨーロッパの国々、そしてオーストラリア、ニュージーランド)が非常に大きな比率で外国、特に途上国からの移動者を吸収している。 世界には220近い国があるが、そのうち4分の1の国で国際人口移動の4分の3を吸収している。
6.都市化と人口移動(2/3) 世界最大の移民受入国のアメリカは1995-96年
6.都市化と人口移動(3/3) 途上国→西欧先進諸国への人口移動のほかに、貧しい途上国から比較的所得が高く資源の豊かな途上国へと移動するケースもある。 中近東湾岸石油産出国への外国人労働者の移動は多い。(外国人労働者数1970年110万人→1990年520万人) このほか「難民の移動」もある。