人口経済論 第4回 2006年5月15日(月) tsujicom@nifty.com tsuji@nira.go.jp   人口経済論 第4回            2006年5月15日(月)            tsujicom@nifty.com            tsuji@nira.go.jp.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
年金制度 地域文化3回生 渡邉 裕貴. 目次 日本の年金制度の現状 日本の今後 政策提言 シミュレーション 参考文献 論点.
Advertisements

大きな政府と 女性の社会進出について 平田 彩貴. 他の先進国との比較 ※仕事と家庭の両立度 … OECD が作成した指標で標準化されている指数のこと。 1) 託児所・育児施設の利用率 2) 政府の保証する育児休業 3) 民間の雇い主が自発的に与える育児休業 4) フレックスタイムでの就業の程度 5)
井手 鑑人 岡村 佳祐 中嶋 仁 橋本 佳奈.  生活水準の向上には、物価上昇しないことが関係  衣料費の場合 ファストファッションブランドが多数誕生  その背景には 安価 安価 良質 安い労働力を提供する中国などの発展途上国が役割担う安い労働力を提供する中国などの発展途上国が役割担う.
なぜ貧しい国はなくならないの か 第 1 章 開発経済学とは何か 1. まず定義から始めよう 筆者による定義 「貧しい開発途上国 の貧困削減に貢献する 戦略を研究する学問分 野」 2.
Copyright © 2009 Pearson Education, Inc. Publishing as Pearson Addison-Wesley 第 4 章 人口と経済成長.
ケインズ型「短期消費関数」とクズネッツ 型 「長期消費関数」を矛盾なく説明する理論 フランク・モジリアニとアルバート・ア ンドウは ライフ・サイクル仮説を提唱した。 個人の消費行動は、今期の所得によって 決めれると言うよりも、貯蓄を通じて、そ の個人が一生の間に消費することのできる 所得の総額 ( 生涯所得.
少子高齢化 高橋香央里 加藤裕子 松本結 海老澤優.
~国民経済的な視点から見た社会保障~ 2000/6/14 木下 良太
定年制とは 1.定年制 ①定義: 従業員が一定年齢に到達した時に自動的かつ無差別的に雇用関係を終了させる仕組みのことである。
 公的年金・定年  引き上げの是非 小瀬村  柏嶋 阿部  藤田.
労働市場マクロ班.
拡大成長する海外市場への 販路拡大が急務 鳥取県農林水産物等輸出促進WG 2014年8月 日本貿易振興機構(ジェトロ) ©2014JETRO
札幌市の少子化  その特徴と背景 札幌市立大学 デザイン学部 教授  原俊彦.
通信情報化社会の進展.
2008年5月23日(月)   人口経済論 第5回            2008年5月23日(月)
森町まち・ひと・しごと 人口ビジョン概要 15/08/31【資料1】 森町人口ビジョン(抜粋) 総合戦略へ向けた、現状・課題の整理(案)
少子高齢化 고유진.
実証分析の手順 経済データ解析 2011年度.
子ども手当の是非 ~肯定派~ 上町悠哉 工藤祐之介 蔵内雄大 棚倉彩香.
年金・定年引き上げの是非 否定派 棚倉 彩香 林 和輝 西山 夏穂 水田 大介.
母子保健の現状及び取り巻く環境の 変遷について 厚生労働省.
アジア開発銀行(ADB)の 融資による途上国の経済成長への影響
現代人口政策の可能性 島根大学 廣嶋清志 シンポジウム「歴史の中の『少子化』」 コメント2 比較家族史学会研究大会 第51回大会
ケニアで見たもの ~アフリカ、HIV/AIDS,女性~
人口経済論: 人口高齢化と諸問題 2005年10月31日(月) 担当:辻 明子.
The seminar of policy science
なぜ貧しい国はなくならないのか 第2章 貧困は減っているのか
第5章 東アジアから何を学ぶか?.
国と熱海市における人口ビジョン・総合戦略の構成(イメージ)
2005年5月9日(月)   人口経済論 第4回            2005年5月9日(月)
第7章 途上国が「豊か」になるためにすべきこと
わが国の社会福祉現場における 人材確保の動向と今後の展望
[ パパは何でも知っている (FATHER KNOWS BEST)] NTV 1958年8月~1964年3月
米日のITベンチャー企業とベンチャーキャピタル
Ooshiro.R Sanada.H Nishimura.A Miyamoto.A Wakabayashi.A
日本の農業の問題点 1126599c 野喜崇裕.
なぜ貧しい国はなくならないのか 第3章 なぜ貧困を撲滅できないのか?.
日本の少子化問題:その原因と対策 ~県別のパネルデータでの分析~.
産める国フランスの子育て事情 ~出生率はなぜ高いのか~
『大阪府人口ビジョン(案)』の概要 ■はじめに ■人口の将来見通し(シミュレーション) ■大阪府の人口の潮流 c ■基本的な視点
中国の少子高齢化問題 バートルゼミ 萩原・小原・前田・澁谷  1.
貧困と出産の関係.
大阪府の将来推計人口の点検について 平成26年3月 大阪府政策企画部企画室計画課
少子高齢化について 商学部 2307068 李海燕.
6月14日 経営学部経営学科 Ishii Fumiya
障害者と貧困: フィリピンの調査事例から 日本貿易振興機構 アジア経済研究所 森 壮也 READ公開講座:障害者の教育と経済活動
第1回家計班 これからの日本の経済成長は 可能であるか
手に取るように金融がわかる本 PART6 6-11 09bd139N 小川雄大.
2004年度入門経済学2A 担当教員:奥井克美.
フランスの年金調整会議 年金調整会議は、2000年に創設された。常設の団体であり、メンバーは国会議員、経営者・労働組合の代表、専門家、国の代表である。その主たる目的は、フランスの年金制度を監視すること、年金に関連する公的政策への勧告をすることであり、専門的知識と全ての参加者による協議に基づいている。
資源ナショナリズムについて 2012/01/20 長谷川雄紀.
経済情報入門Ⅱ(三井) 公共事業と社会保障.
日中自動車産業と環境問題 第一章 中国自動車企業の発展 01w713 コウシュンエン 第二章 日本自動車メーカーの中国戦略
離婚が出生数に与える影響 -都道府県データを用いた計量分析
The seminar of policy science
東アジア文化論(11/6) 『成長するアジアと日本の位置づけ』.
60歳台になった団塊世代の経済行動 長谷川 正 学籍番号 
開発援助のための国際資金とHIVへの見方
「ベトナムにおける協同組合とマイクロインシュアランスを活用した保険市場開拓の可能性」
人口統計 人口静態統計:人口の規模、構成 人口動態統計:出生・死亡などの人口再生産 人口移動統計:人口の移動 人口の推計:コーホート変動.
国家構築の際におけるタイの「標準化」、 国民の統一化
世界の食糧問題 ~国際社会という視点から慢性的飢餓に どう立ち向かうか~
2008年6月16日(月)   人口経済論 第8回            2008年6月16日(月)
グローバリゼーションと 人の移動 移民・難民問題.
我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
(C)2011女性にやさしい職場づくりナビ.
最近のデータセット事情 JST/CREST 安形 康 AGATA, Yasushi
厚生白書 人口減少社会の到来と少子化への対応 971221 波多野宏美.
‐サブタイトル‐ 都市農業大国キューバ・リポート 06A2137C 長谷川泰史
2019年7月 主な流行推計スライド.
Presentation transcript:

人口経済論 第4回 2006年5月15日(月) tsujicom@nifty.com tsuji@nira.go.jp   人口経済論 第4回            2006年5月15日(月)            tsujicom@nifty.com            tsuji@nira.go.jp            http://tsujicom.tea-nifty.com/pop/

長期的人口成長の趨勢と展望: 世界人口の動向 世界人口の規模 出生率の現状 先進地域の出生率の低下 死亡率と平均寿命の動向 人口の年齢構造の変化と高齢化 都市化と人口移動 国際人口移動

国連の将来人口推計:参考(1/2) World Population Prospects 推計方法コーホート要因法による 国連加盟国それぞれについて、将来の出生、死亡、移動の仮定をたて、人口の規模・構造などを推計している。 最新は2004年版で1950-2050年までのデータが掲載されており、2005-2050年までが将来の人口推計(projection)結果、それ以前は推計(estimate)人口。

国連の将来人口推計:参考(2/2) 基本となる仮定 出生:TFRはすべての国において1.85へ収斂する。しかし2050年までにその水準に達するかどうかは2000-05年の出生力による。 死亡:死亡の水準は、すでに経験された水準をもとにより寿命が長くなるようモデルを組む。ただし、HIV/AIDSの感染の深刻な60カ国に関しては死亡率の低下は緩やかとしている。 移動:過去の水準とその国の方針をもとに仮説を設定。

国連の将来人口推計:参考 中位、高位、低位、出生率一定、死亡率一定、人口移動なしの6種類の推計結果が提示されている。 中位 高位 低位 出生一定 死亡一定 移動なし 出生 将来 1.85 2.35 1.35 2000-05水準 中位に同じ 死亡 死亡の水準は、すでに経験された水準をもとにより寿命が長くなる。 移動 過去の移動トレンドとその国の政策によって仮定設定 移動ゼロ

1.世界人口の規模(1/4)

1.世界人口の規模(2/4) 世界人口は、2005年7月までに65億人(6.5billion inhabitants)に達する。2050年には90億人にまで達する。 現在まで、先進地域と比べ、途上地域の人口増加が圧倒的に大きい。途上地域においては2050年にかけて人口が増加し続ける。   先進地域においては、人口増加は緩慢で、将来、減少に転ずる。            1950年   2005年   2050年   先進地域   32.3%   18.7%    13.7%   途上地域   67.7%   81.3%    86.3% 地域別に見ると、現在約60%がアジアの人口である。次にアフリカ(13.8%)、ヨーロッパ(11.2%)の人口が占める。アフリカの人口の増加が大きい。そのため2050年にはアフリカが世界人口の20%を占める。ヨーロッパ、そしてアジアのうち東部アジア(east asia)は減少。

1.世界人口の規模(3/4) 国別の人口ビッグ20の推移を見ると 1.先進地域の減少 (1950年6カ国→2050年1カ国)) 2.2050年にはインドがナンバーワンとなる ことが特徴。

1.世界人口の規模(4/4) このように、途上国において人口増加が顕著なのは、途上国では死亡率が地すべり的に低下したが、その出生率が先進国に比べてまだかなり高く、したがって人口増加率が先進奥に比べて格段に高いため。  →出生と死亡の変化(具体的には低下)にはタイムラグが観察される。

2.出生率の現状(1/5) 世界の出生率動向の大まかな特徴 1.先進地域と途上地域の格差が非常に大きいこと 2.数量的には途上地域の低下が大きいこと    6.17(1950-55年)→2.90(2000-05年)

2.出生率の現状(2/5)

2.出生率の現状(3/5) 先進地域以外でも、合計特殊出生率が現在2.2以下の国として、中国、韓国、シンガポール、タイ、アルメニア、バハマ、キューバ、プエルトリコ、トリニダードなどがある。  東アジア、東南アジアおよびカリブ海の島国が多い。 これらの地域の特徴としては、  1.教育程度が相対的に高いこと、  2.島国は外からのアプローチが容易なこと、  3.概して人口が同質的であること が上げられる。

2.出生率の現状(4/5) さらにモールデン(P.W.Mauldin)によれば、これらの国々は、平均所得、工業化、教育程度、都市化、マスコミの普及などの「近代化の指標」が高く、政府が家族計画の普及に熱心でかつ実施のための行政組織が存在する。 近年では、経済社会開発が遅れていた中央アジア(インド亜大陸など)や西アジア(中近東)においても低下し始めた。

2.出生率の現状(5/5) アフリカにおいては、依然として高い水準。 特にサハラ砂漠以南の地域では、高い水準を保っている。 その理由としては、サハラ以南のアフリカが他の地域と比べて、社会開発が遅れ、女性の教育程度が低く、社会的役割が制限され、家族計画の考え方と方法技術があまり普及されていないことがあげられる。その背景には政情の不安定、社会・経済インフラの脆弱などがある。

3.先進地域の出生率低下(1/3) 日本を含めたすべての先進国において、合計特殊出生率は、人口置換水準以下にある。

3.先進地域の出生率低下(3/3) 欧米諸国では1965年ごろから一斉に低下した。 ヨーロッパの中で、旧ソ連圏の東ヨーロッパの国々と南ヨーロッパの国々の出生率が低い。 旧ソ圏においては、ソ連圏崩壊に伴う経済の窮迫と経済制度返還に対する適応不全に伴って生じた一時的出生崩壊の可能性がある(要検討) 南ヨーロッパ(イタリア、スペイン、ポルトガル)における低下は、日本に見られるような女性の社会進出と出産活動との矛盾・不調和によるところが大きい。 (就業と出産育児の両立の支援体制の不備)

4.死亡率と平均寿命の動向(1/2)

4.死亡率と平均寿命の動向(2/2) 途上地域の平均寿命の延びが著しい。地域的にはアジアの伸びが著しい。 その理由として、 1.平均寿命の延びはもともと低いところで大きく、それが高くなると鈍化する傾向を持つ。 2.医療技術に関する後続国の有利性。 がある。

5.人口の年齢構造の変化と高齢化(1/6) 出生率と死亡率の低下を受けて、世界人口は大きく変化している。 その特徴の一つが「人口高齢化」である。

5.人口の年齢構造の変化と高齢化(2/6) 出生率と死亡率の低下を受けて、世界人口は大きく変化している。 その特徴の一つが「人口高齢化」である。

5.人口の年齢構造の変化と高齢化(3/6) 従属人口指数を、見ると、1950年、2000年は途上国のほうが高い。これは年少人口従属人口指数が途上国で大きいためである。逆に老年従属人口指数は、途上国では小さい。 特にアフリカの年少従属人口指数及び全体の従属人口指数はきわめて大きい。 一般に途上国の高い従属人口指数は、経済発展のために不利な人口学的条件をもたらすものと考えられている。

5.人口の年齢構造の変化と高齢化(4/6) 先進国の老年従属人口指数を見ると、特に2050年の44.42は大きい値となる。仮に15-64歳人口が65歳以上人口の社会保障を負担すると仮定すると、1人の老人を2.27人の現役で支えることとなり、現役に対する社会保障の負担の重みは非常に大きくなると予測される。 ちなみに日本の老年従属人口指数(2050年)は72.40なので1人の老人を1.38人の現役で支えることとなる。

5.人口の年齢構造の変化と高齢化(5/6) 老年人口の増加、老年従属人口指数の増加は、主に出生率の低下によってもたらされている。 そのため、現在出生率が急激に低下し始めている国々においても、日本同様の人口構造は将来的にはもたらされる。 国によってはそのスピードは日本以上である。

5.人口の年齢構造の変化と高齢化(6/6) アジアの人口高齢化を考えてみると、日本を除いたアジアの国々では、年金をはじめとする社会保障制度の整備が十分ではない。皆年金は達成されていない。 そのため、アジア諸国における人口高齢化の問題は日本以上に深刻となる可能性がある。 社会保障制度の不備と、近代化しつつあるライフスタイル、そして寿命の延長にという現状において、こうした国々が保っていた、三世代同居による私的扶養という仕組みが堅持できるであろうか。

6.都市化と人口移動(1/4)

6.都市化と人口移動(2/4) 20世紀後半の人口現象の特徴の一つに「都市における人口増加」がある。 世界では、都市化比率(総人口に占める都市人口)は、1950年には30%であったが、2000年には47%にまで増加した。2030年には61%に達すると見込まれる。 先進地域のほうが途上地域よりも都市における人口集中は顕著である。

6.都市化と人口移動(3/4) 都市化、あるいは農村から都市への人口流入は、プラスの側面とマイナスの側面がある。 アフリカ、アジア、ラテンアメリカにおいては、農村から都市への大量の人口集中は都市の収容・管理能力を超え、流入者に必要な職と住宅を供給できない場合が多く、都市の周辺部にスラムを形成し、環境の破壊、犯罪の助長要因となる場合がある。

6.都市化と人口移動(4/4) 一方で、アジアでは、都市化と1人当たりGNPの伸びとの正の相関が高い。またラテンアメリカでは農業成長との間に不の相関が認められる。都市化は一般的に農村と都市との間の労働力の分布を調整し、農村の人口過剰と貧困を軽減し、経済発展を促進する効果がある。

7.国際人口移動(1/3) 国際人口移動は、現在、西欧諸国(市場経済のもとにある北部アメリカ、ヨーロッパの国々、そしてオーストラリア、ニュージーランド)が非常に大きな比率で外国、特に途上国からの移動者を吸収している。 世界には220近い国があるが、そのうち4分の1の国で国際人口移動の4分の3を吸収している。

6.都市化と人口移動(2/3) 世界最大の移民受入国のアメリカは1995-96年

6.都市化と人口移動(3/3) 途上国→西欧先進諸国への人口移動のほかに、貧しい途上国から比較的所得が高く資源の豊かな途上国へと移動するケースもある。 中近東湾岸石油産出国への外国人労働者の移動は多い。(外国人労働者数1970年110万人→1990年520万人) このほか「難民の移動」もある。