調査法B (心理カウンセリング学科・カウンセリング研究コース)

Slides:



Advertisements
Similar presentations
◎標本調査とその問題点 ● 何らかの情報を得たい全体集団(母 集団)から、ランダムに適当な数の標 本(サンプル)を抽出し、それに対す る調査結果から母集団に関する情報を 推定する方法 ● 全数調査(悉皆調査:国勢調査等) と比較して、費用・時間の面で極めて 効率的 ● 標本調査が十分にその機能を果たすためには.
Advertisements

数理統計学 西 山. 前回のポイント<ルート N の法則> 1. データ(サンプル)の合計値 正規分布をあてはめる ルート N をかけて標準偏差を求める 2. データ(サンプル)の平均値 正規分布を当てはめる 定理8がポイント ルート N で割って標準偏差を求める.
5 章 標本と統計量の分布 湯浅 直弘. 5-1 母集団と標本 ■ 母集合 今までは確率的なこと これからは,確率や割合がわかっていないとき に, 推定することが目標. 個体:実験や観測を行う 1 つの対象 母集団:個体全部の集合  ・有限な場合:有限母集合 → 1つの箱に入っているねじ.  ・無限な場合:無限母集合.
1標本のt検定 3 年 地理生態学研究室 脇海道 卓. t検定とは ・帰無仮説が正しいと仮定した場合に、統 計量が t 分布に従うことを利用する統計学的 検定法の総称である。
生物統計学・第 5 回 比べる準備をする 標準偏差、標準誤差、標準化 2013 年 11 月 7 日 生命環境科学域 応用生命科学 類 尾形 善之.
生物統計学・第 4 回 比べる準備をする 平均、分散、標準偏差、標準誤差、標準 化 2015 年 10 月 20 日 生命環境科学域 応用生命科学類 尾形 善之.
2006 年度 統計学講義内容 担当者 河田正樹
数理統計学 西 山. 前回の問題 ある高校の 1 年生からランダムに 5 名を選 んで 50 メートル走の記録をとると、 、 、 、 、 だった。学年全体の平均を推定しなさい. 信頼係数は90%とする。 当分、 は元の分散と一致 していると仮定する.
統計学 西山. 平均と分散の標本分布 指定した値は μ = 170 、 σ 2 = 10 2 、データ数は 5 個で反復 不偏性 母分散に対して バイアスを含む 正規分布カイ二乗分布.
4. 統計的検定 ( ダイジェスト版 ) 保健統計 2014 年度. Ⅰ 仮説検定の考え方 次のような問題を考える。 2014 年のセンター試験、英語の平均点は 119 点であった。 T 高校では 3 年生全員がセンター試験を受験したが、受験生の中から 25 人を選んで調査したところ、その平均点は.
1 調査法B (心理カウンセリング学科・カウンセリング研究コース) 第 1 講 2007 年 9 月 28 日 担当:岡田佳子.
エクセルと SPSS による データ分析の方法 社会調査法・実習 資料. 仮説の分析に使う代表的なモデ ル 1 クロス表 2 t検定(平均値の差の検定) 3 相関係数.
●母集団と標本 母集団 標本 母数 母平均、母分散 無作為抽出 標本データの分析(記述統計学) 母集団における状態の推測(推測統計学)
マーケティング情報の収集と活用.
マーケティング機会分析: マーケティング・リサーチ
数理統計学  第9回 西山.
看護学部 中澤 港 統計学第5回 看護学部 中澤 港
様々な仮説検定の場面 ① 1標本の検定 ② 2標本の検定 ③ 3標本以上の検定 ④ 2変数間の関連の強さに関する検定
確率と統計 平成23年12月8日 (徐々に統計へ戻ります).
確率・統計Ⅰ 第12回 統計学の基礎1 ここです! 確率論とは 確率変数、確率分布 確率変数の独立性 / 確率変数の平均
社会調査とは何か(3) 調査対象者の選定方法
検定 P.137.
統計学 12/3(月).
標本の記述統計 専修大学 経済学部 経済統計学(作間逸雄).
第4回 (10/16) 授業の学習目標 先輩の卒論の調査に協力する。 2つの定量的変数間の関係を調べる最も簡単な方法は?
経済統計 第三回 5/1 Business Statistics
統計的仮説検定の考え方 (1)母集団におけるパラメータに仮説を設定する → 帰無仮説 (2)仮説を前提とした時の、標本統計量の分布を考える
統計学 11/30(木).
疫学概論 母集団と標本集団 Lesson 10. 標本抽出 §A. 母集団と標本集団 S.Harano,MD,PhD,MPH.
心理統計学 II 第7回 (11/13) 授業の学習目標 相関係数のまとめと具体的な計算例の復習 相関係数の実習.
本時の目標 標本調査の意味を知り、全数調査と標本調査の違いを理解する。
統計的推論 正規分布,二項分布などを仮定 検定 統計から行う推論には統計的( )と統計的( )がある 推定
疫学(Epidemiology) 第4回 標本抽出法 誤差やバイアスの制御 中澤 港(内線1453)
確率・統計Ⅱ 第7回.
統計学勉強会 対応のあるt検定 理論生態学研究室 3年 新藤 茜.
マーケティング情報.
行動計量分析 Behavioral Analysis
統計学 12/13(木).
因果関係3原則 2009年月曜日・3時限 社会理論と調査法.
統計学 10/19 鈴木智也.
マイクロシミュレーションにおける 可変属性セル問題と解法
調査対象の決定 (今日の目標) 1. 全数調査と標本調査の違いを理解する。 2. 標本調査の種類と特徴を理解する。 3.
1時限で理解する 統計の基礎 応用情報処理II 2015/12/4 講師:新居雅行.
数理統計学 第11回 西 山.
統計リテラシー育成のための数学の指導方法に関する実践的研究
マーケティング情報の収集と活用.
マーケティング情報収集と活用.
早稲田大学大学院商学研究科 2016年1月13日 大塚忠義
母集団と標本:基本概念 母集団パラメーターと標本統計量 標本比率の標本分布
第2日目第4時限の学習目標 平均値の差の検定について学ぶ。 (1)平均値の差の検定の具体例を知る。
疫学概論 標本抽出法 Lesson 10. 標本抽出 §B. 標本抽出法 S.Harano,MD,PhD,MPH.
第8回授業(5/29日)の学習目標 検定と推定は、1つの関係式の見方の違いであることを学ぶ。 第3章のWEB宿題の説明
第3章 統計的推定 (その1) 統計学 2006年度.
統計学 西 山.
市場調査の手順 問題の設定 調査方法の決定 データ収集方法の決定 データ収集の実行 データ分析と解釈 報告書の作成 標本デザイン、データ収集
藤田保健衛生大学医学部 公衆衛生学 柿崎 真沙子
数理統計学 西 山.
市場調査の手順 問題の設定 調査方法の決定 データ収集方法の決定 データ収集の実行 データ分析と解釈 報告書の作成 標本デザイン、データ収集
第4章 統計的検定 (その2) 統計学 2006年度.
「アルゴリズムとプログラム」 結果を統計的に正しく判断 三学期 第7回 袖高の生徒ってどうよ調査(3)
米国GAISEプロジェクトにおける 統計教育カリキュラムと評価方法
クロス表とχ2検定.
母集団と標本抽出の関係 母集団 標本 母平均μ サイズn 母分散σ2 平均m 母標準偏差σ 分散s2 母比率p 標準偏差s : 比率p :
統計学  第9回 西 山.
数理統計学 西 山.
推定と予測の違い 池の魚の体重の母平均を知りたい→推定 池の魚を無作為に10匹抽出して調査 次に釣り上げる魚の体重を知りたい→予測
藤田保健衛生大学医学部 公衆衛生学 柿崎 真沙子
確率と統計2007(最終回) 平成20年1月17日(木) 東京工科大学 亀田弘之.
サンプリングと確率理論.
数理統計学  第12回 西 山.
Presentation transcript:

調査法B (心理カウンセリング学科・カウンセリング研究コース) 第2講  2008年10月10日 担当:岡田佳子

先週の感想より 統計が苦手なので、統計の箇所は丁寧に解説してほしい・・・ ⇒という要望が多かったので、今日は、少し統計的なことの復習をしながら、「調査」というものについて考えてみたいと思います。

第2講  母集団と標本・ サンプリングの方法

今日の授業の予定 記述統計と推測統計の復習  (母集団と標本) サンプリングの方法

記述統計と推測統計の復習 (母集団と標本)

データ解析の流れ データの記述 (記述統計) 統計的推測 (推測統計) ⇒検定・推定 (t検定・分散分析・・・等) データの収集 データの記述 (記述統計) 統計的推測 (推測統計) ⇒検定・推定 (t検定・分散分析・・・等) ⇒度数分布、平均値、標準偏差、相関・・・等

記述統計と推測統計の違い 記述統計と推測統計の実例 (うん年前の私の修論より)

私の卒業論文より 中学生のストレスを調査(550人の中学生にアンケートを実施) この1週間の間に,次のような状態をどのくらい経験しましたか. 1.まったくなかった,2.たまにあった,3.しばしばあった,4.大体いつもあった, の中からひとつだけ選んで数字に○をつけて下さい まったくなかった あった たまに しばしばあった 大体いつもあった 1.ゆううつだ 1 2 3 4 2.気分が沈む 3.不安を感じる 4.いらいらする 5.はらがたつ 6.泣きたい気分だ 7.気がめいる 8.むなしい感じがする ・・・・・

中学校の校長先生に「結果を報告してください」と言われた時・・・ データそのまま(row data)・・・550人分 ・・これだけ見てもなんにもわからない ⇒記述統計

記述統計ってなに? ひとことで言うと「データを要約すること」 ⇒度数分布、平均値、分散、相関係数といった数値要約の指標を用いてデータを記述する ⇒データから最大限の情報を獲得する

度数分布・平均値(1)

平均値(2) 性別や学年でストレスの度合いは違うんじゃないかな(仮説)? 男女、学年ごとにストレス得点の平均値を出して比べてみる 今回データをとった550人では、1,2年生より3年生の方が怒りの平均値が高い 今回データを取った550人では、男子より女子の方が怒りの平均値が高い

グラフで表現する

ここまでが「記述統計」の話だった 復習OK?

でもちょっと待って!! 私の卒業論文のタイトルは 「中学生のストレスに関する研究」 “日本の中学生全般”について研究したい でも、550人のデータを集計して記述統計出しても 「今回データをとらせてもらった550人の中学生のストレスに関する研究」 “データをとらせてもらった550人”についてしか研究できていない!

記述統計はデータをとらせてもらった学校の校長先生に「おたくの学校の生徒さんのストレスは~~といった特徴がありますよ」と報告する場合にはよい しかし、「中学生(全般)のストレスには~~といった特徴がある」といった議論はできない 別の中学生550人に調査したら、結果が異なるかもしれない

たまたまじゃない? 1,2年生より3年生の方がイライラしているのは、この学校の3年生がたまたま荒れている学年でイライラしている子が多かったのでは? この学校の地域が特別受験熱が熱い地域だからじゃない? 男子より女子の方がイライラしているのは、この学校の女子がたまたまストレスが溜まっている子が多かっただけでは?  このような可能性に対して、記述統計だけではなにも言えない。 かといって、日本の中学生全員に調査することは時間的にもお金的にも不可能に近い

そこで「推測統計」の出番

記述統計と推測統計 記述統計  数量的データを整理要約し、そのデータが表す集団の性質を出来るだけ簡潔に、また明確に記述表現して、伝えることを可能にすることが目的 推測統計  得られた標本から母集団についての推測を行うことが目的 サンプリング 得られた標本 そのデータが表す集団 550名 全中学生 (母集団) 推定・検定

手元にあるデータの背後にある、さらに大きな対象(母集団)について推測することを試みる 記述統計は・・・ 550人分のデータの度数分布を求めたり、平均や標準偏差を求めたり・・・ 手元にあるデータについて、そこだけを対象とした分析 手元のデータの中だけで完結した分析 推測統計は・・・ 手元にあるデータの背後にある、さらに大きな対象(母集団)について推測することを試みる

記述統計と推測統計(つづき) 知りたいこと 手元のデータ(標本) 一部をサンプリング 千葉の中学生 550人 母集団 (日本の全中学生) 真の平均 ? (神のみぞ知る) 推測統計 550人の平均から母集団の平均を推測する 記述統計 手元のデータから計算される 平均・標準偏差・・・

標本調査の身近な例 (推測統計の考え方を使った調査) 内閣支持率 「私、聞かれた覚えないけど?」 ⇒有権者全員を調査対象として調査するのは時間的にもお金的にも無理 ⇒統計の理論を用いて、サンプリング ⇒有権者の一部(サンプル)に調査して「支持率は○%でした」と報告 テレビの視聴率 「うちのテレビに何の機械もついてないけど?」 ⇒関東の場合、たった600世帯のデータから視聴率を出している ⇒600世帯は統計の理論を用いて、サンプリング ※例外 国勢調査(=全数調査)

サンプリングの方法について見ていきましょう サンプリングって大事 標本調査の結果から出来るだけ正確に母集団の姿を推定するには・・・ いかに、母集団を代表するサンプリングが行えるか・・・が大切 いかに、偏りのないミニチュアが作れるか? そこで・・・ サンプリングの方法について見ていきましょう

サンプリングの方法

調査の手順

調査対象者を定義する 調査目的や方法に応じて調査対象の範囲を決める 例)子どものストレスを調査する  調査目的や方法に応じて調査対象の範囲を決める 例)子どものストレスを調査する ・子どもとは?小学生?中学生?高校生も含む?⇒中学生 ・学校に来ていない生徒は含めるのか?⇒通学している生徒に限定 ・中高一貫校や私立も含めるのか?⇒高校受験のある公立校に限定…など

母集団を決める 母集団 調査で情報を得たいと考えている対象者全員 例)日本全国の中学生/東京の中学生/○○中学校の生徒

調査対象者を決める サンプリング方法を決める 1.全集調査か標本調査か? 全数調査 母集団の構成員全員から調査する方法 標本調査 母集団から一部の人々を取り出し、それらを対象者として調査し、その結果から母集団の姿を推定する方法 サンプル(標本):取り出された一部の対象 サンプリング(標本抽出):サンプルを取り出すこと

全数調査・標本調査の例 全数調査の例 教師が自分の学級のストレスの実体を知りたい、管理職が自分の職場のストレスの実態を知りたい 国勢調査(母集団の規模が大きい全数調査。例外的) 標本調査の例 日本の公立中学に通う中学生のストレスを知りたい ⇒全国から1000名の中学生をサンプリングし ⇒1000名の結果から日本の全中学生の姿を推定

2.無作為抽出法か有意抽出法か? 無作為抽出法 有意抽出法 *「母集団をできるだけ代表するようなサンプル」を抽出するために… 調査者の主観が入らないようにランダムにサンプリング ⇒調査結果から母集団の姿を統計的に推定可能 有意抽出法 調査者が主観的に選び出す方法(数学的裏づけなし) ⇒調査結果から母集団の姿を統計的に推定不可能 (結果を過度に一般化することは避けなければならない)

無作為抽出の方法

無作為抽出のために必要なもの 母集団構成員のリスト(サンプリング台帳) 例)住民基本台帳・選挙人名簿   電話帳・同窓会名簿・企業などの名簿

無作為抽出の方法 母集団から直接サンプルを抽出する方法 ・単純無作為抽出法 ・系統抽出法 大規模な母集団からサンプリングする方法 ・多段抽出法 ・層化抽出法 母集団がかなり大きい場合 ・層化2段抽出法(層化抽出と2段抽出の組合せ)

具体例で考えてみましょう 長野県の○○市の中学1年生を対象に学校ストレスの調査をしたい。 サンプリングしたい人数:約100名程度 学校の構成(架空) 中学校9校(1年生21学級・生徒数636名) 小規模校(1学年2学級以下):5校 中規模校(1学年3学級以上):4校

単純無作為抽出法 636名全員分の名簿を用意 ↓ 1番から通し番号をつける 乱数表などを用いて100人分抽出 1.○○○○ 2. ○○○○ 3. ○○○○ 4. ○○○○ 100. ○○○○ 636. ○○○○ 636名全員分の名簿を用意 ↓ 1番から通し番号をつける 乱数表などを用いて100人分抽出 ・・・・・・・ ・・・・

系統抽出法 636名全員分の名簿を用意 ↓ 1番から通し番号をつける 1番目のサンプルをランダムに定める 一定の周期で100人分抽出 1.○○○○ 2. ○○○○ 3. ○○○○ 4. ○○○○ 100. ○○○○ 636. ○○○○ 6人 ・・・・・・・ 6人 ・・・・

多段抽出法 第1段階 第2段階 D組(32名) B組(34名) A組(33名) 9校から無作為に3校選ぶ 1学級ずつ無作為に選ぶ 約100名 各学級全員を調査する

2:1 層化抽出法 4校・416名 5校・220名 学校規模で層化 70名 37名 中規模校 小規模校 学校規模が学校ストレスに影響する要因であった場合 学校規模で層化 中規模校 小規模校 4校・416名 2:1 5校・220名 名簿を用いて それぞれ 1/6を系統抽出 70名 37名 約100名

層化2段抽出法 学校規模で層化 第1段階 第2段階 D組(32名) E組(30名) A組(33名) B組(30名) 中規模校 小規模校 各層から無作為に2校抽出 第2段階 D組(32名) E組(30名) A組(33名) B組(30名) 1学級ずつ無作為に選ぶ 約120名

有意抽出の方法

有意抽出法 割り当て法:考え方は層化抽出と同じだが、主観でやる。 典型法:主観で典型的なメンバーを選ぶ。 縁故法:友だちにお願い。自分の生徒にお願い。 募集法:新聞などを使って募集。 便乗法:塾のセミナーに来た母親に、子どものソーシャルスキルの調査を依頼。 偶然法:駅で電車を待っている人、街を歩いている人。

演習 大学生の調査(実習や卒論)では、「有意抽出法」を用いることが多いです。 確かに、調査対象へのアクセスが容易で、費用・労力・時間が少なく、台帳も必要ないので便利ですが、注意点を十分に押さえておくことが重要です。 有意抽出法を用いる場合の注意点を話し合ってみましょう。

有意抽出法を用いる場合の注意 本来は「統計的検定が適用できるのは無作為抽出されたサンプルだけ」であることを忘れずに。 なるべく母集団を代表するように抽出する 結果を過度に一般化することは避ける。 以下の点に注意 母集団と仮定しているものは何か? 抽出されたサンプルはそれを代表しているか? 得られた調査結果をどの範囲に適用したいのか? もちろん、無作為抽出が可能であればできるだけそれを用いた方がよい。