教育改革は どこに向かうのか  苅谷剛彦 東京大学大学院教育学研究科.

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教育改革は どこに向かうのか  苅谷剛彦 東京大学大学院教育学研究科

先進国で進む教育改革 「21世紀型スキル」を求めた教育競争 教育のマネジメントをめぐる改革:いかにコストをかけずに、効率的な教育システムを、「参加」や「選択」を通じて作り上げるか。

共通するいくつかのキーワード 「アカウンタビリティ」=コスト問題 「選択」=顧客満足:消費者民主主義 「参加」=権限委譲(参加民主主義) 「ハイスタンダード」=評価とテスト 「ハイステークス」=競争原理・アメとムチ 「新しい学力・スキル」=変化への適応

背景としてのポスト福祉社会化 財政難による福祉国家の転換 1990年代の「人的資本論」再発見(トムリンソン)イギリス・ブレア首相「教育。教育。教育」:「第三の道」 1960年代との違い:社会的包摂と経済的自立・成長との両立 新自由主義的改革との親和性:自己責任を基盤にした自助と「機会の平等」

グローバル化の脅威 経済のグローバル化への対抗としての教育競争 しかし、21世型スキルと経済の競争力との関係については疑問符が付けられている。:例外としての日本、韓国、違う意味でのアメリカ。 「格差問題」への収斂

教育改革の進行と教員 政策 「教育三法」の制定 今後の動向 よりいっそうの分権化 教員免許更新制の導入 主幹制の導入 教育改革の進行と教員 政策 「教育三法」の制定 教員免許更新制の導入 主幹制の導入 今後の動向 教員評価と待遇との関連づけ よりいっそうの分権化 人事権の中核都市への移譲 教育財政?

学習指導要領の改訂 授業時数の増加と教育内容の増加 小学校6年間で350単位時間増 3、4年生「総合」1時間減らし他の教科に  3、4年生「総合」1時間減らし他の教科に  5、6年生総合を1時間減らし「外国語活動」  さらに「週27コマから1コマ増加し、週28コマを年間35週以上にわたって行う」 中学校:3年間で総授業時数を105単位時間(週3コマ相当)程度増加

「審議のまとめ」と腰砕け 「子どもと向き合う時間の確保」:教職員定数増の要求(主幹制向けほか) 3年間で2万1千人増(主幹職等) ただし、地方公務員の削減( 5年間で1万人減)を決めた法律との矛盾 「千人の純増と7千人の非常勤」で決着

条件整備の追加的措置なき 教育改革の続行か? 大量退職・大量採用時代の課題 教育への要求は、質量ともに高まっている にもかかわらず、教育への財政支援について国民的支持が大きく広がらないのはなぜか? 学校現場・教員はそれにどう応えられるのか

増え続ける要求: 「ポジティブリスト」の発想 ポジティブリストとネガティブリスト ポジティブリスト:いいと思うものは何でもリストに加えていく発想 基礎基本 発展的な学習 「自ら学び、自ら考える力」 「徳育」「豊かな心」「国や郷土を愛する態度」 小学校からの英語の必修化

公立小中学校校長調査より 「改革が早すぎて現場がついて行けない」

20年前と比べ 社会の学校への理解・支持は?

20年前と比べ家庭の教育力は?

「欲張りすぎる教育改革」 ポジティブリストの発想で増え続ける期待→教師の負担増・過剰期待 支援増がないなかでの「失敗」の可能性の増大(ギャップの認識の欠如) 「期待はずれ」はつくられる 「失敗」がさらなる教育改革呼び込む つぎは? 英語必修化、規範意識 適切な期待水準の設定が不可欠 ツケとしての教育格差

就学援助を受給生徒30%以上の学校比率との相関係数 07年 文科省全国学力調査都道府県別の再分析

都道府県別にみた全国学力テストの得点を 規定する要因(小学校6年生国語)

都道府県別にみた全国学力テストの得点を規定する要因(小学校6年生算数)

セーフティネットとしての教育 「義務教育」というセーフティネット 「義務教育」における資源配分の原理 「標準化」による累進的な資源配分から「市場原理」による配分(バウチャー)へ?? セーフティネットの漏れ 「全国学力テスト」から見えてくるもの 就学援助を受けている生徒の比率が高いほど、「学力」の平均正答率が低く、散らばりが大きい

1954年の財政力(都道府県)と 児童一人あたり教育費の関係

2003年 財政力指数と児童一人あたり教育費

教育の質を支える教師 大量退職・大量採用の時代の到来 全体としての風当たりの強さ:「人材確保法」の見直し;地方公務員の削減;評価と処遇との連動;免許更新と研修;授業時数10%増への対応と多忙化 次世代教員をいかにリクルートし、「一人前」にするか 地域間格差の拡大と連動

国公立大学の 教員養成課程の志願者の変化 1988年度入試:10万7797人=同世代の5.7% 志願倍率5.7倍 1988年度入試:10万7797人=同世代の5.7% 志願倍率5.7倍 1998年度入試:志願者数6万4202人 06年度=5万2507人: 4.9倍 07年度=4万6814:人: 4.4倍         同世代の3.6%

公立小学校の採用倍率の変化 2000年 12.5倍 01年 9.3倍 02年 6.3倍 03年 5.3倍 04年 4.8倍 05年 4.5倍 2000年 12.5倍 01年    9.3倍 02年    6.3倍 03年    5.3倍 04年    4.8倍 05年    4.5倍 06年    4.2倍 →07年 4.6倍に

教職課程入学者の「学力」変化

教育改革の波紋 ポジティブリストの増加による「はみ出し」と「しわ寄せ」 教育の質の格差が拡大しないか 教師の質の格差が拡大しないか 次世代教師の「質」問題 時間とコスト 大学・社会へのツケ回し