事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -

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事例研究(ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 - 2016年 4月18日 戒能一成

0. 本講の目的 (手法面) - 現実の分析手順の流れを把握する - 部分自由化の場合の「費用・便益分析」の応用 手法を理解する (内容面) - 典型的な規制料金制度(総括原価方式)の概要を 理解する - 部分自由化による経済厚生改善効果を理解する (⇔ 規制料金制度の弊害を理解する) - 部分自由化による弊害(分配問題)を理解する

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要   1-1. 産業概況 (2007FY)     電気事業   都市ガス事業 . 売上高   15.5兆円    3.0兆円 総資産 39.1兆円      5.5兆円 経常利益     0.41兆円 0.14兆円 経常利益率 2.7%       4.7% 従業員数 12.9万人      3.3万人      企業数        10 213 うち公営 0 33 需要家数     7,748万 2,838万

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要   1-2. 事業形態               電気事業    都市ガス事業 . (原材料) 総費用の約20-30% 原・燃料      石炭・LNG・核燃料 LNG・LPG (上流部門) 総費用の約20% 転換設備 発電所(火・原子力)  気化設備 需給調整設備 発電所(揚水発電) ガスタンク (下流部門) 総費用の約50% 流通設備 送配電網         導管網

- 電気・都市ガス事業とも典型的な「規模の利益」 が働く産業であり、放置すると「独占の弊害」発生 電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要   1-3. 料金・価格規制の存在理由(1) (古典的規制論) - 電気・都市ガス事業とも典型的な「規模の利益」  が働く産業であり、放置すると「独占の弊害」発生 - 特に送電網・導管網などは「二重投資の弊害」  が非常に大きい   - また電気・都市ガスは家計・中小企業にとって  必需品であり「安定供給の確保」が経営面でも  不可欠   

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要 1-4. 料金・価格規制の存在理由(2) [一般産業] [電気・ガス事業他] 費用 C 費用 C   1-4. 料金・価格規制の存在理由(2)   [一般産業]   [電気・ガス事業他] 限界費用 MC 費用 C 費用 C 平均費用 AC 平均費用 AC 限界費用 MC Qmax Qmax Qevn 数量 Q 6

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要   1-5. 事業規制の概要  - 電気・都市ガス事業とも、1990年代中盤迄は 電気・ガス事業法による事業規制が適用され 独占禁止法は適用除外とされていた    - 小売地域独占 ← 二重投資防止    - 一般供給義務 ← 安定供給確保    - 料金認可規制 ← 独占弊害防止・安定供給確保  - 1995~2015年迄に産業部門の大部分が自由化されたが家計・小口産業向料金規制は存置  - '16年4月電力, '17年4月都市ガス完全自由化

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要   1-6. 料金認可規制(1) 「総括原価方式」とは  - 電気・都市ガス事業とも、1990年代中盤からの 制度改革開始前は、料金認可規制を「総括原価 方式」による所管省庁の査定に依拠していた - 「総括原価方式」とは、財サービスの供給に要し  た費用の総計(総括原価)に、適正な資本報酬と  公租公課を加え料金を査定する方法である  - 電気・都市ガスのみならず、「総括原価方式」は  規制産業の料金・価格制度で広く用いられてきた

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要   1-7. 料金認可規制(3) 「総括原価方式」の論点  (総括原価方式の利点) - 料金・価格の決め方が解りやすい - 政府の恣意的な裁量の余地が少ない - 過小投資が回避され長期投資が確保される (総括原価方式の欠点) - 現実需要に対し費用・設備が適正とは限らない - 将来の費用低減・効率化への動機がない - 過大投資を誘発する傾向がある - 需要や費用の変化に対する料金の追従が遅い

電気・都市ガス事業の料金・価格制度概要 1-8. 料金認可規制(3) 総括原価方式 費用 C 費用 C Qmax Qmax 数量 Q   1-8. 料金認可規制(3) 総括原価方式 [一般産業] [電気・ガス事業他] 限界費用 MC 費用 C 費用 C 平均費用 AC 平均費用 AC 需要 D (現実需要) 需要 D (現実需要) ③需要決定 ②価格先決 P* Preg 規制料金 Preg (= ACreg x (1+α)) AC* ACreg 平均費用 AC 限界費用 MC Qmax Qmax Qevn Q* (Qregevn) Qreg Q* 数量 Q    ↑ ①需要想定 ○ 価格・需要 逐次均衡 10

2. 電気・都市ガス事業の制度改革 2-1. 制度改革の契機 - 内外価格差問題 - - ’90年代前半において、海外進出した製造業から 規制料金・価格での内外価格差による国際競争 力上の問題が指摘される - 実際に政府が内外価格差を検証した結果、著し い内外価格差が確認された 電気料金で欧州・米国の約 2倍 都市ガス料金で欧州・米国の約 3倍 ← 「総括原価方式」の限界が認識され、料金規制 方法の改良や段階撤廃による「競争」の導入へ

- 政府の「規制緩和・改革」政策の進展に伴い、 ‘90年代中盤から段階的に「部分自由化」を実施 - 電力・都市ガスとも産業用大口から自由化 2. 電気・都市ガス事業の制度改革   2-2. 制度改革の実施 (‘95-’00) - 政府の「規制緩和・改革」政策の進展に伴い、    ‘90年代中盤から段階的に「部分自由化」を実施 - 電力・都市ガスとも産業用大口から自由化                   電気事業   都市ガス事業 . ヤードスティック査定化 ‘95 ’94 発電部門入札化     ‘95  --- 部分自由化(小規模供給) ‘95(特定)   (’94) 部分自由化(産業用大口) ‘99(特高) ’94 部分自由化(対象範囲拡大) ‘03-05 ’99 完全自由化 '16 '17(予定)

2. 電気・都市ガス事業の制度改革 2-3. 部分自由化前後の料金・価格変化(1) - 自由化部門の価格は電力・都市ガスとも低下 費 用 産業用価格

2. 電気・都市ガス事業の制度改革 2-4. 部分自由化前後の料金・価格変化(2) - 非自由化部門の料金は電力でのみ低下 家庭用料金 費 用

2. 電気・都市ガス事業の制度改革 2-5. 部分自由化後の議論(’02-’04年頃) (政府公式見解(当時)) - 1990年代中盤からの電気・都市ガス料金・価格 の低下は全て「規制改革」の効果である (“エコノミスト”の意見) - 当該低下は、長期金利低下や需要鈍化など外 部要因の影響で、逆に過小投資によるカリフォル ニア州大停電(’00-’01)類似の弊害が懸念される → 制度改革の効果に関する定量的評価が必要に

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-1. 費用-便益分析による政策評価 - 部分自由化の便益: - 電気・都市ガスの料金・価格低下による 経済厚生の向上 → 金銭換算した余剰変化(消費者余剰 変化・生産者余剰変化)を分析 - 部分自由化の費用: - 投資抑制による停電・停ガスリスク増加 → 停電・停ガスの期待値(確率 x 想定 被害)を推計

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-2. 費用-便益のうち「便益」の評価方法 - 1) 電気・都市ガス事業の簡単な経営対応モデ ルを作り、需要鈍化・金利変化など外的要因 変化による投資・経費への影響を推計 - 2) 制度改革前後での投資・経費の変化のうち、 外的要因変化で説明できない残差を、部分 自由化などの制度改革の効果分と見なす - 3) 投資・経費を平年度の費用に換算、制度改 革前後の費用変化と料金・価格変化を比較

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-3. 電気・都市ガス事業の経営対応モデル 供給費用低減努力 投資合理化 経費節減他   外的要因 供給費用変化 需要増加鈍化 長期金利低下 原燃料費変化 経営余力の変化 経営体質の強化 料金・価格引下努力 市場競争 (自由化部門) 経済厚生の向上 制度改革(’95~) 料金・価格変化 産業用(自由化) 家計(非自由化) 競争への対応 18

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-4. 電気・都市ガスの制度改革と費用変化 - 費用は外的要因などにより変動して推移

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-5. 電気・都市ガスの制度改革と投資変化 - 設備投資は全般に減少して推移

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-6. 費用からの外的要因変化の影響除去 - 単位供給量当費用について、投資分・経費分 別に外的要因変化があった場合・なかった場合 の想定費用をそれぞれ試算し、各外的要因の 影響による変化分を費用変化から除いていく 将来分は全て制度改革時点に現在価値換算 償却期間 費用 C 経費低減分(即効性) 合計費用低減分 (含外的要因分) 投資低減分(緩効性) 時間 t ▲ 制度改革

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-7. 電力の制度改革の影響評価結果   外的要因 供給費用低減努力 計 ▲\ 1.0/kWh (費用変化の31%相当) 供給費用変化 合計 ▲\ 3.2/kWh (▲16%) 外的要因 ▲11% 制度改革 ▲ 5% 需要増加鈍化 長期金利低下他 計 ▲\ 2.2/kWh (費用変化の69%相当) 経営余力の変化 経営体質の強化 料金・価格引下努力 産業用 ▲\ 3.0/kWh 家庭用 ▲\ 3.1/kWh 経済厚生の向上 制度改革(’95~) 料金・価格変化 産業用(▲17%) 家庭用(▲12%) 競争への対応

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-8. 都市ガスの制度改革の影響評価結果   外的要因 供給費用低減努力 計 ▲\ 4.7/m3 (費用変化の20%相当) 供給費用変化 合計 ▲\25.5/m3 (▲21%) 外的要因 ▲17% 制度改革 ▲ 4% 需要増加鈍化 長期金利低下他 計 ▲\20.7/m3 (費用変化の80%相当) 経営余力の変化 経営体質の強化 料金・価格引下努力 産業用 ▲\45.1/m3 家庭用 ( ? ) 経済厚生の向上 制度改革(’94~) 料金・価格変化 産業用(▲36%) 競争への対応 家庭用(+ 2%)

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-9. 費用-便益のうち「費用」の評価方法 - 制度改革による電力・都市ガスの投資削減が 大規模停電(・停ガス)に与えるリスクは 停電(・停ガス)発生確率 x 想定被害額 により、本来は金銭換算して評価できる - 電力については最大電力の実績値などが統計 調査され公開されており、停電発生確率を評価 できるが、都市ガスについては統計調査が実施 されておらず停ガス発生確率の評価ができない (ではどうやって投資の妥当性を判断していた?)

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-10. 停電発生確率の推計 - 毎年の最大電力が正規分布に従うと仮定し、 制度改革で削られた発電設備が仮に建設・存 置されていた場合の停電確率の低下分を推計 停電 ↑ 設備容量 最大電力需要

3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-11. 停電発生確率の推計結果 - 停電確率の低下分の推計結果は、2 3. 電気・都市ガスの制度改革の政策評価 3-11. 停電発生確率の推計結果 - 停電確率の低下分の推計結果は、2.26x10-4 (1万年に2回相当)となり、仮に想定被害額が 1回数兆円でも「費用」は極めて小さいと判明

4. 結果の整理 4-1. 電力・都市ガスの制度改革の便益 - 部分自由化前後において、電気事業で16%、 都市ガス事業で21%の費用低下が生じたが、 このうち制度改革の効果は少なくとも電気事業 で約 5%、都市ガス事業で約 4%と推定される (⇔ 「総括原価方式」下では費用が過大だった) - 部分自由化により電気事業では自由化・非 自由化部門の両方で料金・価格低下が生じた が、都市ガス事業では自由化部門でのみ料金・ 価格低下が生じた (⇒ 「分配問題」)

4. 結果の整理 4-2. 電力・都市ガスの制度改革の費用 - 部分自由化前後において、電気事業では大幅 な設備投資抑制などにより発電設備容量の減 少が生じたが、これにより大規模停電の発生 確率は 1万年に 2回程度しか拡大しておらず、 便益と比べて費用は十分小さいと考えられる (⇒ 但し当該評価はあくまで短期的なもの、 中長期的な影響はなお評価が必要)

0. 本講の目的 (再掲) (手法面) - 現実の分析手順の流れを把握する - 部分自由化の場合の「費用・便益分析」の応用 手法を理解する (内容面) - 典型的な規制料金制度(総括原価方式)の概要を 理解する - 部分自由化による経済厚生改善効果を理解する (⇔ 規制料金制度の弊害を理解する) - 部分自由化による弊害(分配問題)を理解する 29