背景 著しい肥満者ではほかの因子が認められなくても、しばしば腎障害をきたすことが知られている。これまで、肥満と腎機能障害の発症との関連性については、きわめて限られたデータしかなく、関連性が示唆されているにもかかわらず信頼度の高い裏づけデータが乏しかった。

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メタボリックシンドロームの考え方. 危険因子の数と心臓病のリスク 軽症であっても「肥満(高 BMI )」、「高血圧」、「高血糖」、「高トリグリセリド(中性脂肪) 血症」、または「高コレステロール血症」の危険因子を2つ持つ人はまったく持たない人に比べ、
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三例の糖尿病性腎症導入例 仁和寺診療所 田中 貫一 仁和寺診療所.
糖尿病患者におけるPWV (脈波伝播速度) 当院通院糖尿病患者648名からの解析
生活習慣病の予防.
体重減少 ◎食欲があるのに体重が減る ⇒糖尿病、甲状腺機能亢進症、吸収不良症候群などを疑う ◎食欲がなくて体重が減る ⇒その他の疾患を疑う
体重増加 短期間で 急に太った いつもと同じ食生活をしているのに… 定期的に運動をしているのに…
全身倦怠感 全身倦怠感はさまざまな病気にみられます 疲れやすい… だるい…
メタボリックシンドローム (内臓脂肪症候群)
Yokohama City Save Hospital ☆Emergency and Critical Care Medicine☆
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 地域医療長寿学講座、腎・膠原病内科学講座 若杉 三奈子、風間 順一郎、成田 一衛
CKDの問診 若杉 三奈子 腎検討会リサーチ発表 2014年12月4日
I gA腎症と診断された患者さんおよびご家族の皆様へ
糖尿病の病態 中石医院(大阪市) 中石滋雄.
聖マリアンナ医科大学救命救急医学教室 今西 博治
骨格筋のインスリン抵抗性が肥満の引き金 1 参考 最近、エール大学のグループは、骨格筋のインスリン抵抗性がメタボリック症候群を引き起こす最初のステップであることを報告した。BMIが22-24の男性をインスリン感受性度で2グループに分け、食事(55%炭水化物、10%蛋白質、35%脂肪)を摂取してから、筋肉のグリコーゲン量をMRI(核磁気共鳴画像法)で調べたところ、インスリン感受性群に比べて、抵抗性群ではグリコーゲン生成が61%減少していた。肝臓のグリコーゲン量は2群間で有意差はみられなかった。しかし、肝臓の
食事療法の摂取エネルギーを、いわゆる 「隠れ肥満」と「太りやすい体質」 を考慮して求める方法
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
第37回ハイリスク児フォローアップ研究会 極低出生体重児の学童期以降の予後 生活習慣病のリスク
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1.職場における産業保健活動 (1) 産業保健は予防医学
第2回栄養セミナー 川崎医科大学 糖尿病内分泌内科 衛藤 雅昭 生活習慣病(肥満,糖尿病,高脂血症)の 食事療法
高血圧 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 二次性高血圧を除外 合併症 臓器障害 を評価 危険因子 生活習慣の改善
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
糖尿病 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 検査 診断 治療
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疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
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腎不全になったら 医療法人クムダ会 大正クムダクリニック 近藤 昭彦.
@Minako Wakasugi, MD, MPH, PhD
表1 糖尿病性腎症の組織像 Ⅰ.糸球体病変 1.び漫性糖尿病性糸球体硬化症 2.結節性糖尿病性糸球体硬化症 3.滲出性病変
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肥満の人の割合が増えています 肥満者(BMI≧25)の割合 20~60歳代男性 40~60歳代女性 (%)
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Interventions to Improve the Physical Function of ICU Survivors            (CHEST 2013;144(5): ) 聖マリアンナ医科大学 救急医学 田北 無門.
高脂血症.
平成29年国民健康・栄養調査結果の概要.
強皮症に伴う腎障害 リウマチ・アレルギー疾患を探る p142. 永井書店 強皮症に伴う腎病変には次の3パターンがある。
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St. Marianna University, School of Medicine Department of Urology 薄場 渉
わが国における血液透析患者の 大腿骨近位部骨折発症率は 一般住民の約5倍である
A-2 男性用 健診結果から今の自分の体を知る 内臓脂肪の蓄積 ~今の段階と将来の見通し~ 氏名 ( )歳 摂取エネルギーの収支
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高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
肺の構造. 肺の構造 肺の間質とは? IPF(特発性肺線維症)とは? IPF患者さんの肺の画像(胸部X線)
輸血関連急性肺障害 TRALI 神戸大学輸血部 西郷勝康.
A-3 女性用 健診結果から今の自分の体を知る 内臓脂肪の蓄積 ~今の段階と将来の見通し~ 氏名 ( )歳 摂取エネルギーの収支
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
自分のメタボ度を調べてみよう 1.肥満度として、Body Mass Index (BMI)を計算しましょう。 = =
「熊本県糖尿病性腎症重症化予防プログラム」 の推進について ~腎専門医の立場から~
(2)-ア-a-A 食事摂取基準.
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背景 著しい肥満者ではほかの因子が認められなくても、しばしば腎障害をきたすことが知られている。これまで、肥満と腎機能障害の発症との関連性については、きわめて限られたデータしかなく、関連性が示唆されているにもかかわらず信頼度の高い裏づけデータが乏しかった。

Body Mass Index and Risk for End-Stage Renal Disease 今回は、米国カリフォルニアにおける32万人余りの成人を 対象にBMIとEnd-Stage Renal Diseaseとの関連性を 検討した文献を読みました。 Body Mass Index and Risk for  End-Stage Renal Disease Ann Inter Med. 2006;144:21-28

目的 overweightとobesityがESRDの 危険因子になるかどうかを検討。

対象:1964年から1985年に健康診断をうけた18歳 以上の320252人。患者の詳細はTable1。 対象:1964年から1985年に健康診断をうけた18歳       以上の320252人。患者の詳細はTable1。      BMI categoryについては、           -18.5       Underweight            18.5-24.9     normal            25-29.9      over weight            30.0-34.9     classⅠobesity            35.0-39.9     classⅡobesity            40.0-        classⅢobesity  と設定している。   ・normal BMI:58%, BMI≧25:39%を占めていた。

方法:ESRD(血液透析・腹膜透析・腎移植の適応になる)発症または死亡するまで、または2000年12月31日まで経過を追跡した。

Table2: ・8347955人・年のフォローアップで、末期腎不全を 発症したものが1471例あった。BMIが高くなればな るほど末期腎不全の発症が増えている。 ・年齢・性別・人種を一致させても、Table2の右端 のようにBMIが高かければ高いほど末期腎不全の 割合が増加している。

Figure:年齢・性別・人種・教育レベル・喫煙の有無・MIの既往・コレステロールレベル・尿蛋白・尿潜血・血清Crnレベルを一致させた時のBMIと末期腎不全の発症危険度を示している。 ・normal BMIの末期腎不全発症リスクを1とすると、BMI が増加するにしたがい発症リスクが増加している。 ・またTable3のように、男女・人種・年齢別でみても BMIの増加は末期腎不全の発症リスクを増加させていた。

血圧・DMの有無についても一致させた場合  normal BMIの末期腎不全発症リスクを1とすると  overweight :1.72  classⅠobesity:2.98  classⅡobesity:4.68  classⅢobesity:4.99

このStudyでは、baselineのデータのみでESRDの 発症リスクを検討している。Secondary分析:途中 でBMI・血圧・血糖を2回以上評価できた134705人で はbaselineデータによるESRDの発症リスクとUpdate したデータによるESRDの発症リスクに違いがあるか 検討した。 Baselineデータとupdateしたデータでの末期腎不 全の発症リスクはほぼ同じであった。

まとめ ・ ・他の因子を補正してもBMIが高ければ高いほどESRDの発症が高いことが分かった。 ・baselineのデータのみで発症リスクを検討している。 しかし、時間が経過しても体重が重い人は重く、 データをupdateして検討してもほぼリスクは変わりな かった。

肥満関連腎症 ・肥満患者にみられる腎病変としては、同時に合併することの多い糖尿病,高血圧を原因とするものの頻度が多い。しかし、それだけでは単純に説明できない腎病変があることが1974年頃から報告されており、近年肥満関連腎症(obesity-related glomerulopathy)と呼ばれている。 ・臨床的特徴:ネフローゼレベルの蛋白尿にもかかわらず、血清Alb値が低下しない、血清総コレステロール値の上昇が軽度。  女性と比較し男性に出現しやすい。

・病理組織学的:糸球体腫大が特徴的であり、多くの例で巣状糸球体硬化(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)を示す。 ・病因:正確な病因は不明であるが次の病態が考えられている。

肥満 心拍出量や循環血液量の増加 インスリン抵抗性により輸出細動脈が収縮 hyper filtration インスリン抵抗性により輸出細動脈が収縮 睡眠時無呼吸症候群による低酸素血症が、交感神経やRAS系を刺激して輸出細動脈が収縮 糸球体硬化 高レプチン血症→糸球体内皮細胞増殖やコラーゲンの増殖をうながす 腎機能低下

・治療:現在のところrandomized controlled trialで証明された治療法はない。体重減少で蛋白尿が減少することはいくつかの文献で報告されている。 ・予後:66例を平均27ヶ月フォローし、5年腎生存率は85%。(Kambham N,et al:obesity-related glomerulopathy:An emerging epidemic .Kidney Int59:1498-1509,2001)   15例を82±57ヶ月フォローし、5年腎生存率77%,10年腎生存率51%。    (Praga M,et al:Nephrotic proteinuria without hypoalbuminemia :Clinical feature and long-term outcome of obesity-associated focal segmental glomeruloscrerosis. Nephrol Dial Transplant16: 1790-1798,2001)

レプチン:脂肪組織から分泌されるアディポネクチンの1つ。主に視床下部食欲中枢に作用して、食欲の抑制作用,エネルギー消費増強作用を介して体重を減少させる。 ・肥満者では体脂肪量に比例してレプチン産生が増加し、血中レプチン濃度が上昇するにもかかわらず食欲上昇,エネルギー消費の低下が見られ”レプチン抵抗性”があると考えられている。