マイコプラズマ感染による豚の 慢性呼吸器疾病 豚マイコプラズマ肺炎 マイコプラズマ感染による豚の 慢性呼吸器疾病
豚マイコプラズマ肺炎 本菌は豚のみに感染し、病原性は自然発生例では呼吸器のみに限られ、本病で豚が死亡することはない。 養豚が営まれる全ての国で発生しており、わが国では、1986年の調査では出荷豚の61%(759/1244)に本病の病変が認められ、1993年の調査でも、出荷豚の61%(570/950)に本病の病変が認められた。 伝播は接触感染の他、発咳時の飛沫の吸引による気道感染が主である。 本菌の感染により呼吸気道の感染防御機能が低下し、他の感染症に罹りやすくなる、いわゆる易感染化が起こる。 特にPasteulla multocida, Actinobacillus pleuropneumoniaeなどの細菌性肺炎の発生率が高まると言われている。
原因菌 原因菌はMycoplasma hyopneumoniaeである。 寒天培地上で、いわゆる目玉焼き状の典型的なマイコプラズマのコロニーを作らず、極めて小さな扁平なコロニーを形成する。 本菌の分離培養には4日~3週間を必要とし、マイコプラズマの中でも、最も分離培養が困難な菌種のひとつである。 本菌は、単一な抗原性を示し、血清型は認められていない。 本菌の菌体表面は莢膜多糖体で覆われており、この莢膜により宿主細胞に付着すると考えられている。 本菌は莢膜以外にも、蛋白質性の付着因子を発現し、感染の成立に重要な役割を担っていると考えられている。
豚マイコプラズマ肺炎の症状 発咳の他には顕著な症状を認めず、驚かせたり、急激な動作をさせた時に発咳が著しい。 二次感染がなければ、食欲減退もないが、発育は遅れて飼料効率が低下する。 気道に侵入した本菌は気管支上皮細胞の線毛に付着して増殖し、線毛運動は減弱し、やがて線毛が脱落する。
豚マイコプラズマ肺炎の病変 肺病変部は健康部と境界が明瞭な、暗褐色または薄桃色の肉様の無気肺として認められる。 病巣の好発部位は前葉と中葉であり、左右対称に認められることが多い。 活面を入れると気道からカタル性滲出物が漏出する。 気管支周囲のリンパ組織の増生が小結節として認められることがある。 組織学的には、気管支、細気管支および血管周囲にリンパ系細胞が高度に浸潤したカタル性肺炎像を示す。
豚マイコプラズマ肺炎の診断・予防 肺病変部あるいは気管支肺胞洗浄液からマイコプラズマを分離するか、肺組織切片の免疫染色により病原診断を行う。 血清学的診断には、CF反応とELISAが実用化されている。 不活化ワクチンが市販されているが、その効果は、感染・発症を抑えるのではなく、病変の軽減化とそれに伴う飼料効率の改善による、経済的損失の軽減化にある。 経済的被害軽減のために、マクロライド系、テトラサイクリンン系、ニューキノロン系の抗菌剤が投与される。 飼育密度の適正化、換気、畜舎消毒、分娩舎や離乳豚舎のオールイン・オールアウトなどの衛生管理対策は本病予防に重要である。