ニューディール体制の解体から アメリカン・グローバリズムの展開へ

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 第 2 次世界大戦後の世界経済システム パクス・アメリカーナの成立・動揺・ 再編 Pax Americana : Establishment, Decline, Restructuring.
Advertisements

マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチ. マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチの 特徴 内外資産が不完全代替( ← 為替リス ク) 分散投資(ポートフォリオ)によって リスクを軽減可能。 経常収支黒字累積 → 外国資産流入 → 国 際ポートフォリオ → 為替相場.
経常収支とは?  一国の国際収支を評価する基準の一つ。  この 4 つのうち、 1 つが赤字であっても他で賄え ていれば経常収支は黒字となる。 貿易収支 モノの輸出入の 差 所得収支 海外投資の収益 サービス収支 サービス取引額 経常移転収支 対価を伴わない 他国への援助額 これらを合わせたものが経常収支.
1 国際金融市場 伝統的金融市場 オフショア市場 ユーロ市場 デリバティブ市場. 2 国際金融市場の意義 資金過剰部門から資金不足部門への, 国際的な資金の調達や運用が行われる 場 個別経済次元 ①再生産に関わる資本 の節約や有給貨幣資本の動員 ②ヘッ ジ,投機,裁定のための取引 ③手数 料稼ぎ 国民経済次元.
制度経済学Ⅰ ①. 制度経済学とは何か 制度 institutions 最も根本的な制度は・・・・ 言語、法、貨幣 いずれも経済、そして経済学に関係する それらなしに、経済は成立しない.
第5章 どのように 国際的に 資金が 流れるのか 加藤 栞.
2 国際収支と国際貸借 2-1 国際収支と国際収支表 2-2 国際収支と国民経済 2-3 国際収支と国際貸借.
21世紀のアメリカ経済 藤女子大学人間生活学部 内田 博
Ishige.H Matsumoto.D Shimane.K Shi.T Matsudaira.K
国際収支表をどう読むか 国際収支の均衡 国際収支とGDP
15 パクス・アメリカーナの時代 1 アメリカの戦後構想とIMF体制 2 IMF体制の成立と発展,ドル危機 3 固定相場制の崩壊と変動相場制
労働市場マクロ班.
1. Departamento de Consultoria e Assessoria
第6章 3節 2011/7/1 09BC053J  新井友海.
二、高度経済成長期 神武景気 年代後半の民間設備投資 岩戸景気 2 2 国民所得倍増計画 オリンピック景気 いざなぎ 景気.
丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2006年11月16日
中国バブルの          真実.
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
第3章 実態経済に大きな影響を及ぼす金融面の動向
<キーワード> 景気循環 総需要・総供給モデル
国際収支と為替相場 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
量的質的金融緩和は 日本にとってプラスか? 否定派.
第8章 家計部門でいま起こっていること.
第2章 バブル崩壊後における経済の長期停滞の原因をどうみるか
戦時中の高度成長期 高度成長期にはいくつかの制度がある。 一つ目は金融機関の専門化戦中に金融機 関が均質化したのとは著しくことなり、 高度成長期の金融制度は各金融機関ごと の分業主義に沿って組織化された。
世界金融危機と国際通貨体制 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
第8章 国際収支と国際投資ポジション 対外経済関係の鳥瞰図.
3章 なぜ政府が必要なのか 渡辺真世.
スペイン財政支援の是非 <否定派> 田中・棚倉・川村・石塚.
ニュー・エコノミー論 雇用なき繁栄 中間層の崩壊
7: 新古典派マクロ経済学 合理的期待学派とリアル・ビジネス・サイクル理論
マクロ経済学 II 第9章 久松佳彰.
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
セルビア共和国 経済・構造改革 ー挑戦と達成ー
(景気が良くなり)ハンバーガーの需要が拡大すると
GDPに関連した概念.
三、安定成長期(1973年~1986年) 1 高度成長の挫折 2 産業構造の変化 3 円高と貿易摩擦 4 逆輸入と内需拡大.
マクロ経済学 II 第5章 久松佳彰.
第4回講義 マクロ経済学初級I  白井義昌.
通貨統合と最適通貨圏 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
<キーワード> 景気循環 総需要・総供給モデル
関西学院大学産業研究所所長・経済学部教授 伊藤 正一
インフラ政策の推進による経済再生 公益社団法人 日本青年会議所 2017年度 経済再生グループ 防災大国日本確立委員会.
マクロ経済学 II 第10章 久松佳彰.
マクロ経済学初級I 第4回.
マクロ経済学初級I 第5回講義.
中国の資金循環モデルによる 財政・金融政策の考察
最近の中国と通貨に関する動向 08ba231c 松江沙織.
公共政策大学院 鈴木一人 第7回 政治と経済の関係 公共政策大学院 鈴木一人
世界金融危機とアジアの通貨・金融協力 日本国際経済学会関東支部研究会2010年1月9日.
バブルの発生と崩壊 2年9組495番 2309495       矢吹太一郎.
バブルの発生と崩壊 4年9組495番 2309495       矢吹太一郎.
前期ゼミまとめ スラックス経済.
国際貿易の外観.
経済入門 ⑦ 西山 茂.
2008年までの好景気がつづいた 世界経済が現在同時不況 日本経済?
中国の経済統計と国際的統計水準 ―第7回日中経済統計専門家会議の閉会にあたって―
V. 開放経済のマクロ経済学.
VI 短期の経済変動.
V. 開放経済のマクロ経済学.
第8回講義 マクロ経済学初級I .
日本の経常収支黒字  → 外国に失業輸出? 高齢化の進展 → 日本の国内貯蓄超過の減少         → 日本の経常収支黒字は減少へ.
元高の原因を追求    九州産業大学 金崎ゼミ 張 雷 徐 雲飛 .
バブルの発生と崩壊 2年9組495番 2309495       矢吹太一郎.
経済学(第7週) 前回のおさらい 前回学習したこと(テキストp.16,19) ◆ マクロ経済学における短期と長期 ◆ 完全雇用とはなにか ◆ 短期のマクロ経済モデルの背後にある考え方 (不況の経済学/有効需要原理) ◆ 民間部門はどのように消費や投資を決定するか ◆ ケインズ型消費関数とはなにか ◆
2009年7月 為替相場講演会資料 株式会社三菱東京UFJ銀行/東アジア金融市場部
80年代のアメリカ経済 現代資本主義分析.
マクロ経済学初級I 第12回 今学期のまとめ.
現代資本主義分析 フォード主義的蓄積体制の危機 藤女子大学人間生活学部 内田 博.
経済学入門 ミクロ経済学とマクロ経済学 ケインズ経済学と古典派マクロ経済学 経済学の特徴 経済学の基礎概念 部分均衡分析の応用.
Presentation transcript:

ニューディール体制の解体から アメリカン・グローバリズムの展開へ 第3章 アメリカ経済 ニューディール体制の解体から アメリカン・グローバリズムの展開へ

3.1 ニューディール経済体制の揺らぎ アメリカン・グローバリズムの起点に a ドル危機から金=ドル交換停止へ 第2次世界大戦後: 3.1 ニューディール経済体制の揺らぎ a  ドル危機から金=ドル交換停止へ 第2次世界大戦後: パクス・アメリカーナ(Pax Americana : アメリカ主導による平和的秩序) 1960年代:「ドル危機」頻発 1971年8月15日 R.M.ニクソン大統領「新経済政策」発表 ①金=ドル交換停止 ②10%の輸入課徴金 ③賃金・物価の90日間凍結 金ドル交換停止によって,アメリカ企業の対外活動や 政府の政策にとっての国際収支の制約をなくす 経常収支赤字:国内景気対策優先することが可能に 資本収支赤字:多国籍企業・銀行の対外進出を促進 アメリカン・グローバリズムの起点に 2

ニューディール経済体制(ケインズ主義連合)の崩壊 b スタグフレーションとSSEの台頭 スタグフレーション:インフレーションと不況(スタグネーション)の並存 ケインズ主義政策の見直しが図られ,SSEが台頭した サプライ・サイド・エコノミクス: 経済の供給面を重視する経済学 労働供給,資本供給,技術,資源などの供給を増加 需要重視の経済学  不況と失業は有効需要の不足に起因 財政政策と金融政策で総需要創出を行う ニューディール経済体制(ケインズ主義連合)の崩壊 ケインズ主義財政策⇒スタグフレーションによって効力を失う 寡占企業,労働組合,政府のトライアングル構造⇒崩れる 経済理論では,反ケインズ経済学としてSSE,新自由主義が台頭 3

3.2 レーガノミクスと国際競争力問題への取組み 3.2 レーガノミクスと国際競争力問題への取組み a レーガノミクス レーガノミクス:歳出削減,大幅減税,規制緩和による「小さな政府」で国民や企業の供給側面を刺激,労働供給,生産能力を高めることが目的。 SSEを基礎にした政策 成果 財政赤字の拡大によって,政府規模が大きくなり,「小さな政府」は失敗 マクロ経済成長は好成績だが,拡大する内需に国内の供給能力が対応しきれず、財の貿易収支赤字は増加し,供給面の強化も失敗 →アメリカ製造業の国際競争力の低下が問題に 4

表3-1 戦後アメリカの景気循環 (出所)NBER(全米経済研究所)の景気循環データ. 5

製造業の国際競争力強化のための企業の行動 日本的経営の導入 :協調主義的労使関係、ジャスト・イン・タイム方式の導入 b 国際競争力強化と貿易摩擦の頻発 1985年 ヤング・レポート(産業競争力委員会) 1989年 Made in America(MIT産業生産性委員会) 国際競争力の意味  国民の生活水準と輸出とを結ぶ能力 アメリカの国際競争力低下の基本的要因  ① 企業レベルの問題   ② 政府の政策 製造業の国際競争力強化のための企業の行動 日本的経営の導入 :協調主義的労使関係、ジャスト・イン・タイム方式の導入 6

製造業の国際競争力強化のための国内経済政策 ① 独占禁止法の緩和 ② 1984年国家共同研究法で企業間の共同の研究開発促進 b 国際競争力強化と貿易摩擦の頻発 製造業の国際競争力強化のための国内経済政策 ① 独占禁止法の緩和 ② 1984年国家共同研究法で企業間の共同の研究開発促進 製造業の国際競争力強化のための対外経済政策 プラザ合意 ⇒ドル安による貿易赤字削減 新通商政策 ⇒大統領が外国の不公正貿易を提訴 1988年包括通商・競争力法 ⇒「不公正貿易」を摘発し制裁措置を発動 ⇒貿易摩擦の頻発 7

3.3 IT革命・グローバリゼーションとバブル経済 a ITバブルから不動産バブルへ 1990年代:「ニューエコノミー」        (IT化によるインフレなき持続的な経済成長) ・ IT消費とIT投資増加⇒IT財関連の製造業とIT関連サービス業の急成長  ・ IT利用による生産性の上昇 1990年代後半以降ITバブル化→2000年代初頭 ITバブル崩壊 1990年代繁栄期:クリントン政権の経済実績 インフレなき成長と低失業率 小さな政府化と堅調な個人消費 まれにみる黒字達成 8

表3-2 大統領政権期ごとのマクロ経済指標 (出所)U.S. Dept. of Commerce, NIPA tables; U.S. Dept of Labor, BLS, Databases, より作成. 9

資産効果: 逆資産効果: 1990年代の経済成長の構図 ① 雇用増大の裏側 ① 雇用増大の裏側 ・ 雇用保障がもろくなったからこそ,(インフレ要因になる)賃金上昇を抑制しな     がら、雇用を拡大することができた ② 個人消費増大の裏側 ・ 資産効果を引き当てに,貯蓄を取り崩すか借金を増加させながら消費拡大 資産効果: キャピタルゲインの増加を引当てに,過去の貯蓄を取り崩したり, 新たに債務を拡大することによって消費を拡大 逆資産効果: 資産減価により消費者信用や住宅金融の債務負担が過重となり消費が急減 10

図3-1 家計部門の資産の値上がり益と実質個人消費伸び率の推移 (1975年-2008年) 図3-1 家計部門の資産の値上がり益と実質個人消費伸び率の推移 (1975年-2008年) (注)実質個人消費支出(2000年ドル表示)伸び率は対前年比.家計部門のデータには非営利団体も含まれる. 金融資産とは,株式,ミューチュアルファンド,非株式会社出資金,生命保険・年金資産の合計を指す. (出所) Flow of Funds Accounts in the United States, various issues; NIPA tables より作成. 11

図3-2 資産価格上昇による資産効果の例 12

金融持株会社による 銀行・証券・保険の相互参入を認可 21世紀不動産バブル サブプライム・ローンの拡大とその重層的証券化 金融自由化 「1933年銀行法」(グラス=スティーガル法)の撤廃と 1999年金融近代化法(グラム=リーチ=ブライリー法)の成立 金融持株会社による 銀行・証券・保険の相互参入を認可 21世紀不動産バブル サブプライム・ローンの拡大とその重層的証券化 FRBによる低金利政策(図3-3) 13

図3-3 金利と株価・住宅価格 (注) NY ダウ工業株指数平均は,ニューヨーク証券取引所のダウ・ジョーンズ工業株30銘柄の平均.住宅価格指数(S&P/Case-Shiller(r)Home Price Index: 季節調整済み)は,Composite-10(CSXR-SA)を使用. (出所)FRB, S&P Standard & Poor’s, CEAのデータより作成 14

株主資本主義(Stockholder Capitalism) b アメリカン・グローバリズムの展開と挫折 アメリカン・グローバリズム 貿易・投資・金融の三位一体的自由化 株主資本主義(Stockholder Capitalism) 1993年 NAFTAの議会における批准,アメリカによるAPEC首脳会議の開催 1995年WTO成立 2001年中国のWTO加盟認可 しかし 21世紀にはいり,アメリカングローバリズムは厳しい批判の対象に 「ワシントン・コンセンサス」に対する批判 NAFTAの南方拡大頓挫 WTO体制の軋轢 2008年9月,アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとする世界金融危機と世界不況のなかで批判はさらに高まった. 15

16

17