1 アルミニウム関連素材等への 抽出クロマトグラフィーの応用 信越化学工業㈱ 群馬事業所 国谷 譲治 抽出クロマトグラフィーの応用 An Application of Extraction Chromatography for Trace Elements Analysis of Industrial Raw Materials - Alumininu, Alumina and Titandioxide 信越化学工業㈱ 群馬事業所 国谷 譲治 (Shin-Etsu Chemical Co., Ltd. Gunma Complex ; Joji Kuniya) 内容 : Contents 1. アルミニウム及びアルミナへの応用 U/TEVA Application : Th & U in Al & Al2O3 -U/TEVAによるThとUの定量 2. 二酸化チタン系への応用 TRU Application : Trace Impurities in TiO2 Materix -TRUによる微量不純元素の定量
2 1. U/TEVAを用いる金属アルミおよびアルミナのThとUの定量 1. 背景 2. Al系素材のThとUの定量について 抽出クロマトグラフィーの応用例-1 1. U/TEVAを用いる金属アルミおよびアルミナのThとUの定量 1. 背景 チップの能力向上 発熱量の増加 高熱伝導素材の配合(アルミニウム粉やアルミナ) チップのソフトエラー対策:Th, U の評価と管理 2. Al系素材のThとUの定量について (1)溶媒抽出系:TTAやTOPO, TBPOなど - 抽出条件に敏感,回収率が不安定(20~70%) - 処理が繁雑,所要時間が長い(≒1日~2日),廃液が多い。 (2)ICP-MSへの直接導入系 - 高感度分析が困難,感度変化が大きい。 (3)放射化分析 - 場所と時間の制約が大きい,迅速な測定は困難。 抽出クロマトグラフィーによる解決 2 U/TEVA Resin
3 1.1. U/TEVAの性能の把握-1 Th U U Th (A)ThとUの捕捉および脱着性能の調査 抽 出 溶 出 0.01N-HClではい ずれも溶出せず (樹脂から溶出せず) 抽 出 溶 出 U 回収率低下 U ≒5N-HNO3 HCl <1N Th 回収率一定 酸濃度(Mol) ●,■:HNO3, ○,□:HCl 図1 U/TEVA樹脂へのThとUの 分配と抽出-溶出条件の選択 (EiChrom社カタログから) 図2 U/TEVA樹脂からThとUを溶出させた 場合の2mL毎の分画液の測定結果 ( 20ppb-5mLを樹脂にロード)
4 1.2. アルミニウムおよびアルミナへの予備検討 U Th ★ Zn-B-酸化物充填剤系のThとUは評価できる? Zn とウランの定量結果(単位:ppb) 元 素 トリウム ウラン 検出量 回収率 検出量 回収率 添加なし 0.2 - 3.5 - 1.5ppb 1.4 78 4.2 47 5.0ppb 4.8 91 6.8 66 15 ppb 14 94 18 95 50 ppb 46 92 50 93 ブランク 0.18 - 0.06 - 平均値 - 92 - 92 検出量は,試料換算の濃度である。 次の手順で処理した:5.0gの試料を濃硝酸に加熱溶解して,5wt%の5N-硝酸溶液とした。この溶液の5mLにThとUを含む硝酸溶液を添加して,U/TEVAカラムで処理して回収率を確認した。 ⑤ ④ ③ ② ① Zn U ⑤ ④ ③ ② ① Th B2O3,AlやNaも ThとUの溶出に 影響しなかった。 図3 共存するZn量によるThとUの U/TEVAによる回収量への影響
5 1.3. アルミニウムとアルミナへの適用-1 Na Al Th U ★ バッチ法によるThとUの捕捉性能の調査 1.3. アルミニウムとアルミナへの適用-1 ★ バッチ法によるThとUの捕捉性能の調査 ロード 洗浄 溶出 Na 表2 金属-Alとアルミナに含まれるトリウム とウランの定量結果(単位:ppb) 元 素 Th U 金属Al(試薬:6-9品) 0.7 0. 3 金属Al(試薬:99.5%) 130 890 アルミホイル-1 40 220 アルミホイル-2 90 1.5 ppm 機械の廃棄部品 80 480 ブランク 0. 3,0.6 0.2,0.2 アルミナ(試薬:4-9品) < 5 < 5 アルミナ(α線標準品) < 5 360 ブランク 1.8,2.4 1.0,1.1 金属-Alは硝酸(6-9品)または塩酸に溶解して,Al 濃度が1wt%の5N-硝酸を20mL用いた。アルミナ はNa2CO3-HBO3で白金ルツボを用いて融解後, 硝酸 に溶解して,1wt%の5N-硝酸溶液を20mL用 いた。抽出-溶離および濃縮条件は,Zn-B-系に同 じである。 検出濃度(ppm or ppb) Al Th U 不安定なブランク 0 10 20 30 40 送液量(mL) ● ● ● ● ● ● ● ● ● -●- Th -●- U 白金ルツボ+ブランク ● 図4 アルミ系の溶出挙動とトリウム とウランの回収率への影響
6 1.3. アルミニウムとアルミナへの適用-2 10 廃 液 ICP/MS (A) FI法による分析システムの組み立てとシステム評価 標準:5ppb-Re Peak Hight:2.5×104cps 溶離溶液 (1N-HClsoln.) 232Th バルブ 1 0.15mLのU/TEVA 1.0×104cps 手動で切り換え 試料溶液 (5N-HNO3soln.) 2.0ppb 238U 187Re 1.0×103cps 洗浄・平衡化 (5N-HNO3soln.) 0.2ppb 20ppb 1.0×105cps 250cps 5ppb-Re標準溶液 (2N-HNO3soln.) バルブ 2 0.02ppb 2.0ppb 250cps 廃 液 0.2ppb Blank 180 360 540sec ICP/MS Blank 180 360 540sec 図5 抽出クロマトを用いたFIA/ICP-MS のフローダイアグラム 図6 4N-HNO3標準溶液を0.5mLを左のFI系 を用いて測定した結果。凡そ11分/ラン。 流量は≒1mL/min,試料≒0.5mL
7 1.3. アルミニウムとアルミナのFI法の検討-3 238U 187Re 232Th (B) FI法によるアルミニウムのThとUの測定結果 232Th 表3 1mLの2wt%の金属-Al溶液を用いたFIA/ICP-MS による各種の金属-Al中のThとUの定量結果 元 素 トリウム(Th) ウ ラン(U) 99.5%-粒 (0.13±0.01) ppm (1.3 ±0.04) ppm 3-9%-ワイヤ (6.5 ±0.3 ) ppb (0.54±0.01) ppm 5-9%-ワイヤ (75±3) ppb (28 ±4) ppb 5-9%-粉末 (1.0±0.03) ppb (0.7±0.05) ppb 5-9%-粒 0.53 ppb 0.60 ppb ブランク (0.36±0.06) ppb (0.28±0.05)ppb 3-9%は99.9%, 5-9%は99.999%を示す(試薬表示値)。 ±の値はn=3で測定したσn-1を示す。 表4 5mLの2wt%の金属-Al溶液を用いたFI/ICP-MS による金属-Al中のThとUの定量結果(図7) 元 素 トリウム(Th) ウラン(U) 5-9%-粒 ( 1.1 ±0.03 ) ppb (0.71 ±0.041 ) ppb 5-9%-粒精製 (0.032±0.003) ppb (0.0021±0.0005) ppb 5-9%-粉精製 (0.010±0.003) ppb (0.0015±0.0005) ppb ブランク ( 0.0003 (0.0000 (溶液状態) ±0.0004) ppb ±0.0001) ppb 5-9%-粒と粉は,2wt%-5N-硝酸溶液を2.5mL-U/TEVAに 3mL/minで通して精製した。 238U 187Re 20ppt添加 6ppt添加 2ppt添加 無添加 ブランク 0 115 230 345 460sec 図7 5mLの2wt%-Alの5N-硝酸 溶液にThとUを表示量添加 して得たFI/ICP-MSによる マスクロマト
8 2. TRUを用いる二酸化チタンの微量不純元素の定量 1. 背景 2. TiO2系の不純元素測定の問題点 抽出クロマトグラフィーの応用例-2 2. TRUを用いる二酸化チタンの微量不純元素の定量 1. 背景 二酸化チタン(TiO2) の利用:光触媒作用等の付与 (1)物理化学的性質(設計性能)-半導体的特性や反応性の評価 (2)構成元素の把握(材料評価)-含有不純元素や構造の評価 2. TiO2系の不純元素測定の問題点 (1)発光分光法(ICP-AES):Tiは発光線が多く強度も強い 他の元素スペクトルへの妨害大 (2)質量分析法(ICP-MS):ArプラズマやTiの妨害が大きい 通常,シールド法は弱マトリクス系に制限 Ti-マトリクスの除去 TRU-Resin
9 2.1. TRUの性能の把握 Ti4+ 【試料の前処理】 0.25g-HNO3/HF-Microwave処理 → 酸置換 → 25mL-8N-HCl 【樹脂性質の把握】 試料溶液:処理処理:濃塩酸=1:1(8N-HCl), ≒2mL/min, TRU樹脂:PFAチューブ- 4mm id x 24cm は回収困難な元素 Bi, Hgも回収不可 一般の元素 Li In Co Ba Na Ni Mg Cu Ca Sr Ga Cd B Zn Mn Fe Cr Al Feの回収 Ti4+ Ti 試料導入 8N-HCl洗浄 4N-HCl 洗浄 1N-HNO3 脱着 図9 10ppmを加えたTi4+溶液の18 元素の溶出挙動(3mL-TRU樹脂) の確認結果(ICP-AES測定) 図8 3mLのTRU樹脂でのTi4+の溶出 プロファイル(4mm-id X 24cm)
10 2.2. TRU樹脂によるオンラインFI-ICP-AESシステム 一般元素条件 Feの条件 【オンライン手法の利点】 (1)被測定元素を含む溶離液の捕集(分画)が不要。 (2)一般的に,脱着する被測定元素の検出力が改善できる。 (3)CCD装備のICP-AESなら多元素の同時測定が行なえる。 一般元素条件 Feの条件 8N-HClの試料溶液と 樹脂洗浄溶液(2mL/min) 4N-HClの試料溶液と 樹脂洗浄溶液(2mL/min) TRU樹脂: 3mL TRU樹脂: 3mL 廃液 六方 バルブ 六方 バルブ Tiの捕捉 Fe-捕捉 脱着 脱着 脱着液 (0.1N-HNO3: 2mL/min) 廃液 (Ti脱着溶液) 脱着液 (0.1N-HNO3 : 2mL/min) TRU非吸 着の溶出液 TRU吸着後 の脱着溶液 ICP/AESへ(CCD装備) ネブライザー:スコットタイプ 測定:1.5-2sec/Scan
11 2.2. TRU樹脂によるFI-ICP-AESの測定結果 (A) 一般元素条件- TiO2を抽出除去する方法 Ni : 231. 604nm その他の測 定元素: Mn,Cu,Na,K,Al,Zn,Mg,Ca Cr : 267.716nm TiO2 S-5 S-4 S-3 Co: 267.716nm S-2 Blank? S-1 Blank TiO2 標準は線形 の応答 100ppb 30ppb Sample 10ppb 3ppb Blank 1ppb TiO2 None Sample Std. Blank 8N-HCl 平衡化 8N-HCl 洗浄 0.1N-HNO3 試料導入 Std. 図10 0.5wt%のS-5溶液に標準添加した元素の同時溶出プ ロファイル(3mL-TRU樹脂):1wt%-TiO2溶液-0.5mLを 8N-HCl-0.5mLで希釈した1mL。TiO2は測定後脱着除去。
12 2.2. TRU樹脂によるFI-ICP-AESの測定結果 (B) 鉄の測定条件- TiO2系から抽出・脱着する方法 Fe : 238.204nm Y= -0.051X2+53.4X+1150 R= 0.995 TiO2 ほぼ線形 の応答 S-5 S-4 S-3 S-2 S-1 Blank 300ppb 検出下限: ブランクの管理がよけ ればサブppbが可能 100ppb 30ppb 10ppb 3ppb 1ppb None 図11 0.5wt%のS-5溶液に標準添加した鉄 の抽出後の脱着プロファイル(3mL- TRU樹脂)と検量結果:1wt%-TiO2溶 液-0.5mLを4N-HClとした1mL。TiO2 は測定前に溶出除去した。 4N-HCl 洗浄 1N-HNO3 脱着 試料導入 4N-HCl 平衡化
13 2.2. TiO2系試料の不純元素の測定結果 表5 TiO2系混合物の不純物分析結果(単位:ppm) 元 素 Fe Ni Cu Cr Mn Ca Mg Al Na Zn K Co Sample-1 1 < 0.5 < 0.5 < 0.5 <0.2 1 < 0.2 < 1 0.5 8 < 0.5 <0.5 Sample-2 3 < 0.5 < 0.5 < 0.5 <0.2 1 0.4 < 1 0.5 4 < 0.5 <0.5 Sample-3 3 < 0.5 < 0.5 0.5 <0.2 2 0.4 < 1 0.8 16 < 0.5 <0.5 Sample-4 < 1 < 0.5 < 0.5 < 0.5 <0.2 1 < 0.4 < 1 <0.5 50 < 0.5 <0.5 Sample-5 1 0.8 < 0.5 < 0.5 <0.2 2 0.4 < 1 0.6 50 < 0.5 <0.5 TiO2 35 1 0.5 2 2 3 0.6 2 1 30 < 0.5 <0.5 注)ICP-AESの信号変化の高さから求めた。
14 3 まとめ ★★抽出クロマトグラフィーの特徴★★ ★★抽出クロマトグラフィーの今後の展開と課題★★ (1)U/TEVA樹脂 3 まとめ ★★抽出クロマトグラフィーの特徴★★ (1)U/TEVA樹脂 -ThとUの選択性が高く,特にU抽出の安定性がよい。 -濃硝酸系で操作でき,試料処理溶液への汎用性が高い。 -Thの抽出性能が経時的に低下する? (2)TRU樹脂 -Ti,Fe,Bi系元素の除去や抽出に有効。 -イオン交換樹脂が使えない系にも適用できる。 ★★抽出クロマトグラフィーの今後の展開と課題★★ (1)分析システムの性能改善 -分析系の微量・微小化 ・迅速化,環境負荷の低減,分析コストの低減 ・ICP-AES,ICP-MS等とFI法との組み合わせ (2)樹脂の高機能化 -配位子の特徴を活用した選択性の向上 ・有害金属(Cd,Pb,Hg,Crなど)や貴金属(Pt,Agなど) -樹脂の完全固相化や再利用性の向上