術後の低酸素血症 なぜ起きどう対処するのか 術後の低酸素血症 なぜ起きどう対処するのか 奈良県立医科大学 麻酔科学教室 松成 泰典
低酸素血症の定義 PaO2<60mmHg SpO2<90% 酸素解離曲線 (動脈血酸素分圧と 酸素飽和度との関係を 表したもの) 組織に供給される酸素が低下
低酸素の悪影響 低酸素性脳症 各臓器の障害 創部感染の増加 高度な低酸素血症に陥ると、約5分で脳は不可逆性の変化を来たす 末梢組織の酸素濃度が低下すると術後創部感染が増加する
低酸素血症の原因 首から上 ①肺胞低換気 ②吸入酸素濃度の低下 ③拡散障害 ④換気血流比の不均衡 ⑤シャント血流の増加 首から下
肺胞低換気 肺毛細血管 肺胞 正常 PaO2↓・PaCO2↑
肺胞低換気 術後肺胞低換気の主な原因 ①上気道閉塞 ②麻酔薬による呼吸抑制
上気道閉塞 咽頭筋トーヌスの低下 喉頭痙攣 気道浮腫
上気道閉塞の症状
上気道閉塞の症状 吸気に胸郭が挙上しない・挙上しにくい 肋間・剣状突起部の陥没 いびき 努力呼吸
咽頭筋トーヌスの低下 麻酔薬・筋弛緩薬の残存!
治療は・・・ まず気道確保! 気道確保を行いつつ麻酔薬・筋弛緩薬の影響が減少するのを待つ
後屈と下顎挙上
その他の治療 酸素投与 経口・経鼻エアウェイ 気管挿管
喉頭痙攣 声帯の筋が攣縮して声門が狭窄~閉塞した状態 浅麻酔の際に刺激が加わると起こりやすい 小児は成人に比べて起こる頻度が高い 治療 気道確保・酸素投与 マスク換気 分泌物の吸引 筋弛緩薬の投与
喉頭痙攣
気道浮腫 上気道に浮腫が起こると上気道狭窄・閉塞を起こす 術後遅発性に起こることがある 主な原因 喉頭鏡をや挿管チューブなどの機械的刺激 口腔・咽頭手術、頚椎前方固定、頸部郭清術などの術後浮腫 増悪因子:水分バランス過剰、上大静脈の鬱滞、頭頚部の放射線治療後、小児
喉頭浮腫
気道浮腫の治療 気道確保・酸素投与 副腎皮質ステロイドの静注 アドレナリンの吸入 気管挿管 外科的気道確保(輪状甲状靭帯穿刺・気管切開)
肺胞低換気 術後肺胞低換気の主な原因 ①上気道閉塞 ②麻酔薬による呼吸抑制
麻酔薬による呼吸抑制 全ての麻酔薬は呼吸中枢を抑制する 多くの麻酔薬は一回換気量が低下するが、オピオイドは呼吸数が著明に低下し一回換気量が上昇する 増悪因子 高用量、年齢(高齢者・新生児)、併用薬物(麻酔薬・アルコール)、腎不全、肝不全、過換気、疼痛など 治療 酸素投与・気管挿管
低酸素血症の原因 ①肺胞低換気 ②吸入酸素濃度の低下 ③拡散障害 ④換気血流比の不均衡 ⑤シャント血流の増加
吸入酸素濃度の低下 低流量システムの使用 フェイスマスク・鼻カニューレは周りの空気を吸い込むことにより、吸入酸素濃度が安定しない →ベンチュリーマスク(高流量システム)を使用すれば安定した吸入酸素濃度が得られる 酸素供給の低下 中央配管や流量計・加湿器もチェック
酸素マスク
流量計つき加湿器
低酸素血症の原因 ①肺胞低換気 ②吸入酸素濃度の低下 ③拡散障害 ④換気血流比の不均衡 ⑤シャント血流の増加
拡散障害 肺胞壁や毛細血管壁の肥厚、間質の拡大などによって、酸素が肺胞から毛細血管まで到達しにくい状態。 二酸化炭素は拡散能が高いため、通常PaCO2は上昇しない。 代表的な疾患:肺線維症、肺水腫
肺胞 肺毛細血管
低酸素血症の原因 ①肺胞低換気 ②吸入酸素濃度の低下 ③拡散障害 ④換気血流比の不均衡 ⑤シャント血流の増加
換気血流比の不均衡 肺胞換気と肺血流とが不均一であるためガス交換が非効率的になった状態 換気不全 血流不全
換気血流比の不均衡 立位 肺胞 r 肺動脈 肺静脈 重力の影響により 肺の上部では 換気>血流 肺の下部では 換気<血流
換気不全による不均衡 主な疾患:肺気腫、気管支喘息、肺水腫
血流不全による不均衡 主な疾患:肺塞栓、脱水
低酸素血症の原因 ①肺胞低換気 ②吸入酸素濃度の低下 ③拡散障害 ④換気血流比の不均衡 ⑤シャント血流の増加
シャント血流の増加 全くガス交換を受けない血流をシャント血流という 心内シャントを含む 肺胞 肺毛細血管
閉塞性無気肺 肺胞 分泌物など 肺胞
肺水腫 肺胞の中に水がたまり 正常な換気が出来ない 正常
圧迫性無気肺 <胸水>
横隔膜の位置の変化 立位 仰臥位 手術時 全身麻酔 導入後 麻痺
酸素が効かない!?
PEEPによる無気肺の改善
低酸素血症 何が起こっているか? 意識・呼吸パターン の観察 酸素投与のチェック 原因は? 下気道 上気道・呼吸中枢
まとめ 低酸素血症にはさまざまな原因がある 患者を診察し、病変部位を診断する 出来るだけ素早く処置を行う