漢方基礎理論 ~弁証論治~ 鹿児島大学漢方医学研究会.

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漢方基礎理論 ~弁証論治~ 鹿児島大学漢方医学研究会

「弁証論治」の概要 “弁証” + “論治” 弁証 論治 弁証に基づいて治療すること 「理・法・方・薬」のステージ 四診(望・聞・問・切)によって把握した病態を 適切な方法で分析すること 論治 弁証に基づいて治療すること 「理・法・方・薬」のステージ

弁証の種類は多岐にわたる 八綱・気血・臓腑・経絡・六経・衛気営血・三焦…などがある 異なる視点から病証を分析するもの 相互補完する関係にある

とはいえ順序はある 八綱弁証が出発点 八綱弁証によって病状を大きく捉える 詳しい病態を外感病弁証、または内傷病弁証(あるいは両方)で検証していく

八綱弁証による分析 臨床所見を4本の軸から分類 虚実 表裏 寒熱 陰陽

八綱弁証(1) – 表裏 表裏 - 病変部位と病勢を区別する 表 – 体表面に近い浅い部位(皮毛・腠理など) 裏 – 深い部位(臓腑・血脈など) ☆「半表半裏」は裏のうちで表に近い部位

八綱弁証(2) – 寒熱 寒熱 – 体の熱い/冷たいではない 寒証 – 患者が寒がり、暖まるのを好む 熱証 – 患者が暑がり、冷えるのを好む 寒邪の実(実寒)と陽気の虚(虚寒)に細分 熱証 – 患者が暑がり、冷えるのを好む 実熱と虚熱に細分 寒熱錯雑 – 寒と熱が同時にみられる 真寒仮熱・真熱仮寒

八綱弁証(3) – 虚実 病気は病邪が正気より勝ると起こる 実証 - 外邪の侵入や体内の病理産物が原因 虚証 – 正気(気血津液・陽気・精)などの不足

八綱弁証(4) – 陰陽 すべての症状・疾患は陰陽に分けられる 裏・寒・虚 – 陰証 表・熱・実 – 陽証 これらの総合的判断とする考えや、General Appearanceとする考えがある

内傷病弁証 体の内部にどんな異常があるかを検討 病因病邪弁証 気血津液弁証 臓腑弁証

病因病邪弁証 病邪 - 外邪・病理産物・食積などの総称 どんな病邪による症状かを分析する 邪気に特有の症状との対応を見る

病因病邪弁証 – 外邪・内因 外邪 - 風・寒・熱(火)・暑・湿・燥の6種類 内因 不内外因 それぞれが特徴的な症状を呈する 治法もそれぞれに異なる 内因 七情(感情の大きな振れ: 喜怒思悲憂恐驚) 病理産物(瘀血・痰飲) 不内外因 (具体例 – 飲食失調、労逸)

気血津液弁証 生体の基本物質の生成・循環・代謝の失調という側面から病態をみる 気の病証 – 気虚・気陥・気滞・気逆 血の病証 – 血虚・血熱・血寒・血瘀 津液の病証 – 不足・停滞

臓腑弁証 病因病邪弁証・気血津液弁証で扱った異常が起こっている臓器を特定する 主として五臓の機能失調をみる 病状の長期化などで全身症状になった場合などは省略されることもある

臓腑弁証 – 五行照応の確認 陰陽五行説による臓腑との対応 各臓腑の失調は特有の症状を呈する 膀胱 大腸 胃 小腸 胆 五腑 腎 肺 脾 心 肝 五臓 水 金 土 火 木 五行

臓腑弁証 – 各論(1) 肝・胆病弁証 肝の常見症状 胆の常見症状 [ 本来は - 疎泄・蔵血を主る ] 胸脇・少腹部の脹痛・放散痛・煩燥・易怒・めまい 痙攣・目疾・月経不順・睾丸脹痛・口苦 胆の常見症状 [ 本来は – 胆汁の貯蔵と排泄, 決断を主る ] 口苦・黄疸・驚悸

臓腑弁証 – 各論(2) 心・小腸病弁証 心の常見症状 ☆小腸は本来、泌別清濁を主るが… [ 本来は – 血脈・神志を主る ] 心悸・心痛・不眠・多夢・健忘・譫語 ☆小腸は本来、泌別清濁を主るが…

臓腑弁証 – 各論(3) 脾・胃病弁証 脾の常見症状 胃の常見症状 [ 本来は – 運化・統血を主る ] 消化不良 食欲異常 倦怠感 水湿・痰飲の内生 胃の常見症状 [ 本来は – 水穀の受納・腐熟、通降を主る ] 消化不良 食欲異常 吐き気 おくび

臓腑弁証 – 各論(4) 肺・大腸病弁証 肺の常見症状 大腸の常見症状 [ 本来は – 主気・通調水道・朝百脈 ] 咳嗽 喘鳴 胸痛 ☆外邪に触れる機会が五臓のうち最も多い 大腸の常見症状 [ 本来は – 伝化を主る ] 便秘 泄瀉

臓腑弁証 – 各論(5) 腎・膀胱病弁証 腎の常見症状 膀胱の常見症状 [ 本来は – 蔵精・主水・納気 ] 腰・膝のだるさ・疼痛 耳鳴り 難聴 白髪 脱毛 陽萎 遺精 男性不妊症 月経量の減少 閉経 浮腫 二便異常 膀胱の常見症状 [ 本来は – 貯尿・排尿 ] 頻尿 尿痛 尿閉 遺尿 小便失禁

外感病弁証 傷寒 – 風寒の邪による病気 六経弁証によって分析 温病 – 湿熱の邪による病気 衛気営血弁証・三焦弁証によって分析

六経弁証 張中景『傷寒論』にその記述がある 風寒の邪が侵襲して発症した病気を、 発症の時点からの変化によって分類 太陽・陽明・少陽・太陰・少陰・厥陰 一般的には太陽病から上記の順番で進行していくが、急激な症状は別のステージから始まることがある(「直中の少陰」など) 前3段階を陽病、後3段階を陰病という

衛気営血弁証 風熱や湿熱の邪による病気(温病)の進行を体の外から内に衛分・気分・営分・血分の4つに分類する 病気は一般に衛分から始まって順に進行していく

三焦弁証 衛気営血弁証の気分証を細分したもの 病態を三焦(上焦・中焦・下焦)に分類 気分証は時間経過が比較的長くかかる 横隔膜・臍部で区分される 属する臓腑・経絡の失調が症状に現れる

三焦弁証 – 各論(1) 上焦 – 初期の病証、肺衛・肺・心包 肺衛 → 発熱・悪寒・咳嗽・口渇・脈浮数 肺 → 身熱・口渇・咳喘・舌苔が黄 肺衛 → 発熱・悪寒・咳嗽・口渇・脈浮数 肺 → 身熱・口渇・咳喘・舌苔が黄 心包 → 意識障害・うわごと・四肢の冷え 重症のものは「逆伝心包」 肺衛の邪が直接営分に入り、高熱、意識障害を引き起こす。血の構成成分である営気の障害は心に波及

三焦弁証 – 各論(2) 中焦 – 中期~極期の病証、胃・大腸・脾 胃の症状 (胃経熱盛→燻蒸外迫) 大腸の症状 (腸道熱結→腑気不通) 壮熱・多汗・口渇し水を欲する・舌苔黄燥・脈洪大 大腸の症状 (腸道熱結→腑気不通) 潮熱便秘・舌苔が黄黒で燥・脈沈有力 脾の症状 (湿熱困脾→気機欝阻) 身熱不揚・上腹部の痞え・舌苔膩・脈濡

三焦弁証 – 各論(3) 下焦 – 末期の病証、腎・肝 腎の症状 (熱邪久留→腎陰耗損) 肝の症状 (水不涵木→虚風内動) 手足心熱・口乾・咽乾・倦怠・脈虚 肝の症状 (水不涵木→虚風内動) 手指の蠕動あるいは痙攣・舌質乾