牛丘疹性口炎 (Bovine papular stomatitis) 届出伝染病: 牛、水牛。 動物衛生研究所 「家畜の監視伝染病」 病原体: ポックスウイルス科、コルドポックスウイルス亜科、パ ラポックスウイルス属、ウシ丘疹性口炎ウイルスで、2本鎖DNAウイルス。 疫学: 本病は、1969年に輸入肉用牛に初めて発生した。主要症状は丘疹及び発痘、病変は口、乳房、乳頭に形成される。特に初期病変は水胞形成等、口蹄疫に類似するため類症鑑別が重要であることから、疫学的状況も考慮しつつ、基本的には海外悪性伝染病防疫要領に沿った防疫対応を図る必要がある。 世界中で発生がみられる。感染は接触感染により伝播し、病変部が接触した牧草、餌、飼育施設、放牧地などによる間接接触による場合もある。感染牛では潜伏感染が起こり持続的感染源となる。放牧中に発生をみることが多く、全ての牛が感染するが発症は若齢牛に多い。発病率は高いが、死亡率は低い。 人畜共通伝染病であり、人にも接触感染する。
症状: 流涎がみられ、口、鼻鏡周囲および口内に丘疹、水疱を形成する(口蹄疫との鑑別)。まれに膿疱、潰瘍まで進行するが、全身症状や死亡することは少なく、30日程度で外見上治癒する。潰瘍性乳頭炎を呈することがある。 口腔粘膜の潰瘍 舌の丘疹形成
水疱ではなく実質的な丘疹、いわゆるイボであり、成牛、子牛すべての検温を実施したところ体温に異常がなく、また成牛には全く異常が認められなかったため口蹄疫は否定した(兵庫県) 通常、牛、羊ともに重症化することはないが、ニホンカモシカが本ウイルスに感染すると、口部周辺に形成された丘疹が水疱、膿疱に進行し、さらに眼瞼まで拡大することがあり、採食不能となり餓死する場合がある。 硬口蓋および歯齦の病変
牛丘疹性口炎の国内発生状況 年 戸数 頭数 発生県(月) 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2 6 7 1 6 11 10 2 101 1 兵庫(7)、群馬(9) 北海道(5, 7, 8, 9)、岩手(11)、長野(12) 北海道(1, 2, 5, 7, 8, 9) 北海道(5, 11) 愛知(3)、北海道(7) 北海道(7) 長野(10)、広島(12) 2004年に北海道千歳市で100頭の集団発生があったが、それ以外は散発性である。家畜市場で不顕性感染牛が売買されて全国各地に広がっているものと思われる。 予防・治療: 特別な予防法、治療法はなく、感染牛と非感染牛の隔離飼育、消毒、二次感染の防止を行う。
酪農家が搾乳の際に乳頭病変に触れることで感染し、手に結節が形成されることがある。しかし、水疱化、膿疱化することは少なく、数週間以内に自然治癒する。 Bovine papular stomatitis incidence in veterinary students. 1980 牛の口内に手を入れた頻度についての回答 なし 5 まれ 51 + 8 頻繁 51 Human parapoxvirus infections 一人は過去に、もう一人は1年の観察期間に、手に結節ができた。血清学的検査において感染が強く示唆された。 免疫不全者の場合には重篤化する可能性があり、そうでなくても、他の重篤な疾病と間違われる可能性がある。
牛丘疹性口炎の検査チャート 病性鑑定指針 農水省消費安全局 家畜保健衛生所 (1) 疫学調査 (2) 臨床検査 (3) 剖検 病性鑑定施設 病性鑑定指針 農水省消費安全局 家畜保健衛生所 (1) 疫学調査 (2) 臨床検査 (3) 剖検 病性鑑定施設 (4) 病理組織学的検査 (5) 血清学的検査 (6) ウイルス学的検査 (7) PCR 検査 (+) (ー) (+) (ー) (+) (ー) (+) (ー) (+) (ー) (ー) (+) (ー) (+) (ー) 判定 1.病理組織学的検査又はウイルス学的検査を判定の基準とする。 2.牛丘疹性口炎ウイルス、偽牛痘ウイルス及びオルフウイルスは非常に近縁であり 血清学的に区別できないため、鑑別は臨床所見及び遺伝子検査を総合して行う。
(1)疫学調査 ① 性別、年齢に関係なく発症する。 ② 免疫能が有効な期間は短いので、同一牛での再発がある。 ③ 不顕性感染のキャリアー牛が多く、未汚染地域からの導入牛に発症する。 ④ 放牧中に発生することが多い。 (2)臨床検査 ① 主に口腔粘膜、口周辺部の皮膚に小豆大ないし大豆大の丘疹を形成。水疱、膿疱に進行していくこともある。 ② 丘疹は褐色の壊死部の周囲に紅色の充血部がリング状に形成される。潰瘍状となることもある。 (3)剖 検 鼻鏡、鼻孔、頬粘膜、歯茎、口唇内面、硬口蓋に丘診。それ以外に、食道及び前胃の粘膜表面に丘疹が生ずることがある。
(4)病理組織学的検査 ① 上皮細胞の増殖と風船様変性による上皮の肥厚。風船様変性した上皮細胞質内に好酸性封入体形成。慢性化病巣では角化亢進。 ② 病変部の組織を透過型電子顕微鏡で観察するとウイルス粒子を確認できる。
(5)血清学的検査 ペア血清について実施。寒天ゲル内沈降反応、蛍光抗体法、ウエスタンブロット等により、特異抗体を検出。中和試験は不適。 (6)ウイルス学的検査 培養細胞: 牛又はめん羊由来細胞。精巣細胞が感受性が高い。 接種材料: 発病初期の病変組織乳剤 培養方法: 37℃静置培養 成 績: CPEの確認。細胞質内封入体の観察。初代培養はCPE出現まで10日以上かかることが多い。継代が進むと接種後2~3日でCPEが生ずる。 同 定: 電子顕微鏡により感染細胞中にウイルス粒子を確認、寒天ゲル内沈降反応により感染細胞乳剤中のウイルス抗原を検出、培養細胞中の細胞質内封入体の確認、培養細胞中の特異蛍光を呈する細胞の確認 (7)PCR検査(PCR-RFLP) 丘疹、潰瘍などの病変部の組織より抽出したDNAを用いる。