ILOM計画の科学目標と観測精度 国立天文台 花田英夫

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ILOM計画の科学目標と観測精度 国立天文台 花田英夫 国立天文台 花田英夫 ILOM研究グループ(国立天文台・RISE推進室、JASMINE検討室、JAXA、岩手大学、北海道大学、東京大学、鹿児島大学、NICT)

最近の話題(1): 回転から水星の流体核の存在を示す 地球からのレーダー観測で水星の回転運動を計測し、水星に溶融コアがあることを示した。 ・マントルのみの慣性モーメントは全体のそれの0.5以下。 ・液体核があるときの、秤動の振幅は固体核のときの2倍。 ・秤動の振幅から核の溶融状態を制約。 Large Longitude Libration of Mercury Reveals a Molten Core J. L. Margot, S. J. Peale, R. F. Jurgens, M. A. Slade, I. V. Holin Science (2007) 316, 710-714

最近の話題(2): 月の内部に部分的に溶けた層が存在 【2002年2月21日 国立天文台・天文ニュース (526)】より抜粋                                                                                                                                          ジェット推進研究所のウイリアムズ(Williams,J.)たちのチームは、月レーザ測距(LLR)によって測定された月までの距離のデータを解析し、月には、部分的に溶けた状態の層が、中心核を取り巻いて存在するらしいことがわかってきました。これは、月までの距離をレーザーで測り、月の回転による潮汐変形を観測した結果に基づいて推定したものです。

Molten core ?  Solid inner core ?? MOON

消散を入れた月回転 流体核の回転の遅れ(コア・マントル結合パラメータK) 回転変形の時間遅れ(k2,ω,Q) 角速度の差→トルク 潮汐変形の時間遅れ(k2,Q)  k2/Q:月内部の消散の分布を反映 Q:全球一様、周波数依存性の有無k2:半径方向に変化            r→r(t-Δt)    ω→ω(ω-Δω) → 1/Q 軌道の加速

月の回転変動の振幅と周期 振幅 周期 極運動 約3~8秒角? 74年 歳差 約0.02秒角? 24年 自由ひょう動(経度成分) 約1.8秒角 1056日 物理ひょう動(経度成分)の消散項 約0.001~0.027秒角 206~1095日 物理ひょう動(緯度成分)の消散項 約0.007~0.264秒角 27.6日 自由コア章動 0.001秒角以下? 300~700年 自転軸のカッシニ状態からの進み 0.26秒角

LLRで検出された消散項 振幅(mas) 誤差(mas) 相対誤差 τ206 -1.0 1.6 160% τ365 4.1 1.8 45% τ1095 -26.7 5.9 22% Iσ27.6 7.5 1.0 13% Iσconst -264.0 5.0 2% LLRによる月回転の観測精度はまだ約1桁足りない

消散項の解釈(流体核無しのモデル) 5個の消散項が交わる点がない、つまりこのモデルは成り立たない Williams et al., 2001

消散項の解釈(流体核あり) 4個の消散項はこの点でほぼ交わる。1項が大きくずれる。さらに高精度の観測がないとモデルの正否は言えない。 Williams et al., 2001

月面天測望遠鏡計画 ILOM(In-situ Lunar Orientation Measurements)   「生卵かゆで卵かは回転のふらつきからわかる」  月回転の高精度観測は月の科学にとって重要であるばかりでなく、将来の月面からの超高精度位置天文観測を行う場合の座標系を確立する上でも不可欠の観測である。 10

期待できる科学成果 ◆月の自転変動の高精度観測によるサイエンス   27日周期の回転変動を1ミリ秒角の高精度で観測。これから月の流体核が存在の確認を行う?     →1月以上の観測(少なくとも2昼)が必要   月の流体核の存在は内部が今でも高温であること、イオウなどの含有により融点が低いことを示す。月内部の物質の条件や、初期温度を通じて、月の起源と進化に大きな制約条件を与える。 ◆将来の長期間、大型望遠鏡観測に向けて   月面での技術実証と目標観測精度の達成     →2週間(1昼)の観測が必要

月回転の観測精度を高める: ILOM 月の自転はILOM、月の軌道はLLR

測定原理  着陸船に天測望遠鏡を設置して、視野を固定する。個々の星に対してCCDの複数のピクセルに記録された星像の中心位置を1ミリ秒角(1mas)以下の精度で決定し、それらの星の長期間にわたる軌跡を解析することで、月回転の物理秤動各成分の振幅や位相をこれまでの月レーザ測距(LLR)より一桁以上高精度に推定する。

Star trajectory and Effects of Librations Trajectory of a star observed at the Lunar pole (June 2006– Sep.2007) Decomposition of the trajectory After Heki Polar motion and Librations extracted from the trajectory

1ミリ秒角の精度を達成するための仕様 口径 0.2m 焦点距離 2m 形式 PZT 検出器 CCD 1画素の大きさ 10mm×10mm (1"×1") 画素数 4,096×4,096 視野 1°× 1° 積分時間 10s 観測星の等級 M < 12 読みとり精度 1画素の1/1,000 (1mas) 15

BBMモデルの開発 ・口径0.1m、焦点距離1m(1/2モデル) ・姿勢制御は2軸 ・傾斜計、姿勢制御は水 銀皿の下 (岩手大学と共同開発)     (岩手大学と共同開発) 0.1m 対物レンズ 鏡筒 モーター ・口径0.1m、焦点距離1m(1/2モデル) ・姿勢制御は2軸 ・傾斜計、姿勢制御は水 銀皿の下 フレーム 0.5m 水銀皿 傾斜計 脚 17

観測精度のシミュレーション: 軌跡観測と通過時刻・天頂距離観測の比較 1.星の軌跡を追跡(日置、2005) (極望遠鏡式観測)    軌跡観測と通過時刻・天頂距離観測の比較 1.星の軌跡を追跡(日置、2005)  (極望遠鏡式観測) 振幅の与え方:各成分について順行、逆行それぞれの cosine、sine係数、計4係数 観測期間:2006年1月1日~2007年1月1日、 データ数:3634、観測場所:極 2.通過時刻・天頂距離の観測  (アストロラーブ式観測) 観測方式:子午線を通過する緯度と時刻を観測する 成分は1と同様、ただし18.6年の歳差は含まない。 振幅の与え方:各成分について緯度変化と経度変化 それぞれの振幅と位相、計4係数

軌跡の観測と時刻・天頂距離の観測の比較 望遠鏡は極に設置 周期(日) 27.212 27.555 13.606 時刻・天頂距離観測 軌跡観測

大型月面望遠鏡に向けた新しい技術 ◆ Ion流体を用いた液体鏡 ◆ 特徴:真空中でも蒸発しない 低温でも液体(175kまで) ◆ 特徴:真空中でも蒸発しない       低温でも液体(175kまで) ◆ 銀蒸着に成功(Nature, June 21, 2007) ◆ 真空中での潤滑にも有効

まとめ ◆ILOMでは物理ひょう動、自由ひょう動をLLRと独立な方法で、かつこれまでより一桁以上高精度に観測し、回転変動に関係する月内部の消散過程を明らかにし、月の中心核の状態(流体核か?、粘性率は?)を明らかにする。同時にこれまでの観測の系統誤差の評価を行い、各種の観測を矛盾無く説明できる月の新しいモデルを構築する。 ◆現在、BBMモデルを開発中。姿勢制御精度の評価、月面環境での正常動作実証等を行う。