20分で分かる生物多様性 2009年5月現在
「温暖化」が 今日の新聞見出しをにぎわしている。 明日の紙面をにぎわすのは 「生物多様性」 になるであろう。 WRI:世界資源研究所 WRI:World Resources Institute 地球の環境と開発の問題に関する政策研究と技術的支援を行う機関。本部はワシントンDC
「生物多様性」を取り巻く様々な動き 日本経団連が、「生物多様性宣言」を発表 2009年3月17日 環境省が、「国民行動リスト」を発表(2009年3月)。 7月には「企業活動ガイドライン」を発表予定
「生物多様性」を取り巻く様々な動き エコプロダクツ展2008のメインシンポジウムのテーマは、「生物多様性」 ※2008年12月に開催。約500名が参加 電通が発行する「アドバタイジング」で、「生物多様性号」が発刊 2008年6月発行
「生物多様性」を取り巻く様々な動き 2010年10月、名古屋で 「COP10(生物多様性条約・第10回締約国会議)」が開催予定。 閣僚級会合 本会議場 企業展示ブース ※上の写真は、2007年にドイツ・ボンで開催されたCOP9の様子
生物多様性とは何か
「生物多様性」の位置づけについて 環境省の位置づけ =「持続可能な社会づくり」を実現させるための3大テーマの1つ 生物多様性 ※低炭素社会、循環型社会と並立するテーマ 温室効果ガス大幅削減 低炭素社会 生物多様性 「持続可能な社会」 の実現 3Rを通じた資源循環 自然の恵みの享受と継承 循環型社会 自然共生社会 自然との共生 智恵と伝統を 現代に活かす 国づくり 「環境立国・日本」に向けた施策の方向 アジアと 世界に発展、 日本の 智恵と技術 「日本モデル」の構築 環境保全と 経済成長の 両立 地域活性化 「21世紀環境立国戦略」を参考
「生物多様性」の位置づけについて 1992年の「地球サミット」において採択された2つの条約の1つ ⇒世界が取り組まなければなない2つの大きな重点課題の1つ 気候変動枠組み条約 生物多様性に関する条約 ・187か国およびECが加盟 ・188か国およびECが加盟 ・目的 「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすことにならない水準において、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させる」 ・目的 (1)生物の多様性の保全 (2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用 (3)遺伝資源から生ずる利益の公正な配分 ※先進締約国に温室効果ガス削減策実施の義務が課せられている。 ⇒2010年10月に、名古屋でCOP10が開催
「生物多様性」とはどんな課題なのか? ■「生物多様性」とは・・・ 生物科学用語: 「Biological Diversity」 を直訳した言葉 ・「Biological」=生物学的な、生物学上の ・「Diversity」=相違、多種多様性、変化 ※この言葉に対し、「分かりにくい」「何が課題なのかイメージできない」などの声も多い。 環境省 「生物多様性」とは、生き物の「個性」と「つながり」です。・・・生物多様性のたくさんの「恵み」によって、私たち人間を含む生きものの「いのち」と「暮らし」が支えられています。 生物多様性条約 「生物多様性」とは、人類の生存を支え、人類に様々な恵みをもたらすもの。 WWF 「生物多様性」とは、地球上の生物が、バラエティに富んでいること(複雑で多様な生態系そのものを示す言葉)。それは、人類を含めた多くの生命にとって欠かすことの出来ない「命の土台」。
「生物多様性」とはどんな課題なのか? ■「生物多様性」とは・・・ (要は) 私たちの生活やビジネスは、自然界からもたらされる (要は) 私たちの生活やビジネスは、自然界からもたらされる 様々な「恵み」によって成り立っている。 その恵みは、多様な「生態系(森林、湿地、海など)」、多様な「生物種」、 多様な「遺伝子」によってもたらされるものである。 ところが現在、その「恵み」が、質・量ともに急激に劣化している。 将来世代にその「恵み」を残していくために、 生物種・生態系の保全や保護を行なっていこうとする取組みのこと。
「生物多様性」とはどんな課題なのか? ■私たちの生活が受けている、生物からの恩恵 ※一般的な「衣・食・住」の事例 衣食住を支える様々な生物 ※一般的な「衣・食・住」の事例 生活 衣食住 衣食住を支える様々な生物
「生物多様性」とはどんな課題なのか? ■企業(ビジネス)が受けている、生物からの恩恵 ※食品メーカーの「原料調達」の事例 ※食品メーカーの「原料調達」の事例 製品 原料となる生物 生物を育む生態系・生物
「生物多様性」とはどんな課題なのか? ■企業(ビジネス)が受けている、生物からの恩恵 ◇遺伝資源の活用 ◇廃棄・排出物の浄化 「原材料調達」以外にも、「遺伝資源の活用」や「排出物の浄化」まで、生物は産業に対してさまざまな形で貢献している。 ◇遺伝資源の活用 抗がん剤 ニチニチソウ ニチチニソウの遺伝成分が抗がん剤に使用されている。 ◇廃棄・排出物の浄化 きれいな水 微生物の 分解 汚れた水をたくさんの微生物が分解し、浄化しています。 ◇技術開発のヒントに 電車の パンタグラフ ふくろうの 足 音もなく着地するフクロウの足の構造を参考にしました。
「生物多様性」とはどんな課題なのか? ■生物・生態系が私たちにもたらす、その他様々な影響・恩恵 ◇人間生存の基盤(酸素・水) ・植物による酸素の供給、CO²の吸収 ・水の循環と浄化 ◇安全・安心の基礎 ・災害の防止(洪水抑制、気候調整など) ◇心身の健康 ・清浄な大気と水の供給 ・自然がもたらしてくれる精神的な快適さ ◇文化の根源 ・多様な料理や酒、祭り、民謡、美術 生物多様性は「いのちのインフラ」
生物多様性の危機
「生物多様性」が直面する危機 急激な速さで劣化する「自然からの恵み」 ■自然に絶滅するスピードの「1000倍」の速度で絶滅が進行。 ※世界で「18分に一種」が絶滅。(年間約3万種が絶滅) ※日本でも、哺乳類、両生類、魚類、シダ植物等の25%前後が絶滅の危機。 ■世界では毎年、日本の国土の1/3の森林が消失。 ※特に多様な生物が生息している「熱帯雨林」の減少が顕著。 ※過去60年間に、中国とインドをあわせた面積に匹敵する土壌が著しく劣化。 ■このままいけば2030年には、サンゴ礁の60%が消失。 ※サンゴ礁は魚類、貝類、プランクトンの貴重な生息地。 (サンゴ礁が消失するということは、海中の生物種が消失することでもある)
「生物多様性」が直面する危機 ■生物・生態系がもたらしてくれる、様々な恩恵の「劣化」 大気質の調節 土壌浸食抑制 水の浄化 淡水 漁獲量 大気の汚染物質浄化能力が減退 土壌浸食抑制 土壌の劣化と侵食が激化 水の浄化 自然による浄化能力が劣化し水質が悪化 淡水 利用できる淡水量が減少 漁獲量 1990年ごろより海洋漁獲量が急激に減少 花粉媒介 花粉媒介者の個体数が地球規模で減少 害虫の抑制 天敵による害虫制御力の低下 遺伝資源 種の絶滅・作物の品種喪失により遺伝資源が減少 審美的価値 美的に満足のいく自然景観の大きさと質が低下 出典:ミレニアム生態系評価
「生物多様性」が直面する危機 劣化が顕著な地域は均等ではなく、偏在している。 ・地図の赤色の部分が、緊急かつ戦略的に保全が必要な地域(=ホットスポット)。 ・自然資源が豊富で、先進国の原料調達先になっている地域でもある。 ※コンサベーション・インターナショナルは、地球規模での生物多様性再評価を実施した結果、緊急かつ戦略的に保全すべき地域として世界34ヶ所の「生物多様性ホットスポット」を発表しました。
「私たちが享受している自然資源量」 > 「生物が生み出す自然資源量」 「生物多様性」が直面する危機 ■何が原因なのか? 再生スピードを超えた「乱獲」 「私たちが享受している自然資源量」 > 「生物が生み出す自然資源量」 ・現代人の生活は、地球の資源が1.4個必要な状態。 ※「0.4個分は、未来世代からの前借りと言われている。
「生物多様性」が直面する危機 ■何が原因なのか? 生息生物や生態系を考えない、場当たり的な開発 ↓ 「人口の増加」と「経済成長」によって、開発ペースが加速度的に上昇 ↓ 「生物の生息域」が加速度的に改変・破壊されている。 ・地球上の陸地のうち、約1/4を農地として開拓。(森林減少の主要因は、農地への転換) ・化石燃料やレアメタルの資源採掘も広範囲化。
「生物多様性」が直面する危機 ・人口は産業革命以降7倍に ・人口の増加と産業化の進展により、資源消費が爆発的に増加。
「生物多様性」が直面する危機 開発と生物の関連。例えば・・・ 缶コーヒー スマトラサイ コーヒー農場を拡大するため、スマトラサイの生息地である熱帯林が消失。 携帯電話 マウンテン ゴリラ 電池用レアメタルを探すため、マウンテンゴリラの生息地が採掘地に。 ポテト チップス トラ スマトラトラの生息地がアブラヤシ(パームオイル)の畑になっています。 刺身 クロマグロ 乱獲の代表。地中海では絶滅。日本も8割を海外から輸入。 出典:WWFジャパン
「生物多様性」が直面する危機 ■何が原因なのか? 外来種や汚染による生態系のかく乱・破壊 ・外来種・・・海外からの移入種、クローン作物などによる生態系の破壊 ・汚染・・・農薬や化学肥料の使用などによる生態系の破壊 ブラックバス アライグマ 農薬の散布
「生物多様性」が直面する危機 ■何が原因なのか? 気候変動(地球温暖化) ・気温の上昇や気候が不安定になることによって、生息環境が変化(劣化)。 ※平均気温1.5~2.5℃上昇 ⇒ 動植物の約20~30%が絶滅のリスク ※海面温度が1~3℃上昇 ⇒ サンゴの白化や広範囲な死滅が頻発。
「生物多様性」が直面する危機 気候変動と生物多様性の比較 気候変動(温暖化) 生物多様性 生物多様性悪化の「原因」の一つ 主に「結果」 対処すべき「敵」が明確 (温室効果ガス) 「敵に対処」という課題ではない 主に「減らす」取組み (温室効果ガス) 主に「増やす(保つ)」取組み (バランスを崩した生態系、生物種・数) 主に「再生不可能な資源」の問題 (化石燃料) 主に「再生可能な資源」の問題 (自然資源) 現象が科学的に証明 科学的な不確実性要素が多い 具体的な対策目標あり 対策目標があいまい
「生物多様性」が直面する危機 ■私たちの生活への影響(リスク) -「将来世代」が得られる利益の大幅な減少 ・食料、水、医薬品などの不足または質の低下 ・原料価格高騰による物価の高騰 ※日本の消費は、「世界」の生物多様性の恩恵の上に成立 -希少な自然資源の争奪戦(国際紛争の原因) -発展途上国(資源原産国)における悪循環が加速 ⇒先進国によるさらなる資源採取 ⇒生活のために農地開拓・違法伐採を実施 ⇒生物多様性のさらなる悪化
「生物多様性」が直面する危機 ■企業への影響(リスク) -原料調達に関するリスクの増加 -訴訟や損害賠償に関するリスクの増加 ・必要な自然資源が調達できない、または価格が高騰 ※「自然はビジネスを成り立たせるための資本である」 -訴訟や損害賠償に関するリスクの増加 ・生態系の破壊が訴訟(損害賠償)の対象となる ※海外では、山火事を起こした企業が、森林のCO²吸収量 相当額の損害賠償を求める判決がでた。 -企業ブランドに関するリスクの増加 ・消費者団体などからの抗議の対象に
基本的な認識の確認 生物が生み出してくれる果実や作用を、 人間が作り出したり担うことはできない。 一度絶滅した生物は、復活できない。 (できたとしても膨大なエネルギーが必要となる) 一度絶滅した生物は、復活できない。 絶滅種:フクロオオカミ どの地域のどんな生物が、 私たちの生活に必要などんな恵みに影響しているか まだ分かっていない。 (人間が把握できているのは、ごく一部の生物の、ごく一部の営みのみ)
基本的な認識の確認 「Web of Life」 様々な生物は、あたかも「クモの巣」のように つながりあっている つまり、 ~生物分類表(樹形図)のように生物は存在していない~ つまり、 「人間に直接役立つ生き物」は、 膨大な数の「直接は役に立たないと思われる生き物」によって 支えられている。 直接は役立に立たない (と思われる)生き物 人間の福利 直接役立つ 生き物 「直接役立つ生き物」だけを守ることはできない。
必要な自然資源が残せない状況になっている 基本的な認識の確認 このままいけば「未来世代」に、 必要な自然資源が残せない状況になっている だから、「自然からの恵みの重要性に目をむけ、 将来世代に恵みを残していくため、多様な生物の保護や保全を 行なっていこう」という活動が世界規模で起こってきた。 これが生物多様性。 ※日本は本来、自然との共生を志向してきた国。 (だからそれほど新しい概念ではないかも知れない) ※「生物多様性」は、今まで自然を搾取することだけを考えてきた欧米が騒ぎ出したことで注目された課題(とも言える)。
対応に向けての動き
「生物多様性」に向けての動き ■これまでの主な動き 世界の動き 日本の動き 1992年:生物多様性条約(CBD)採択 ■これまでの主な動き 世界の動き 日本の動き 1992年:生物多様性条約(CBD)採択 1995年:生物多様性国家戦略決定 ※同年に「気候変動枠組み条約」も採択 2001年:ミレニアム生態系評価開始(05年まで) 2002年:CBD・CPO6開催(オランダ) 2002年:第2次・生物多様性国家戦略決定 ※2010年目標の採択 2005年:ミレニアム生態系評価成果発表 2007年:第3次・生物多様性国家戦略決定 2008年:CBD・CPO9開催(ドイツ) 2008年:生物多様性基本法施行 ※2010年目標の進捗確認 ※企業の積極参加・・・「ビジネスと生物多様性イニシアチブ」 (日本企業からは9社が署名) 2009年:日本経団連・生物多様性宣言 CBD=Convention on Biological Diversity(生物多様性条約) COP=Conference of Parties (締約国会議)
「生物多様性」に向けての動き 環境省 生物多様性 コミュニケーションワード 「地球生き物応援団」の発足 2/24の宣言式の様子 (左から、西尾哲茂・環境事務次官、滝川クリステル、生物学者の養老孟司、タレントの大桃美代子、東京海洋大学客員准教授のさかなクン、涌井史郎・桐蔭横浜大学教授)
「生物多様性」に向けての動き ■これからの動き 世界の動き 日本の動き 10月:CBD・CPO10開催(名古屋) 09年 5月~ 9月 ■これからの動き 世界の動き 日本の動き 09年 5月~ 9月 5/22:国際生物多様性の日 5月:名古屋で生物多様性イベント開催 7月:G8サミット 7月:生物多様性企業ガイドライン発表(予定) 8月:2010年目標に関する国際協議 09年 10月~ 12月 10月:COP10ロゴマーク募集 10月:名古屋で生物多様性イベント開催 12月:エコプロ展 10年 1月~ 10月 2010年=国際生物多様性年 3月:ポスト2010年目標提示予定 5月:生物多様性総合評価発表(環境省) 10月:CBD・CPO10開催(名古屋)
「生物多様性」に向けての動き ≪前提≫ ■生物多様性のために、何を行なうことが必要なのか? 企業、団体、個人など、主体ごとに 取り組むこと(取り組めること)は異なる *「温暖化の対策」は、温室効果ガスを減らすこと。(全ての主体に共通した取組み) *「生物多様性」は、対象(生物・生態系)が多様で、地域性が非常に強い課題のため、 主体ごとに取り組むべきこと(取り組めること)が異なる。 政治 -資源の有限性を前提とした社会・経済システムの再構築。 -資源を得ている途上国への利益還元のしくみづくり。(ABS)
「生物多様性」に向けての動き ■生物多様性のために、何を行なうことが必要なのか? 企業 -まず現状を把握する。自社と生物多様性との関連(影響と依存の関係)の把握 ※自社のビジネスリスクを把握することでもある -改善のための取り組みと小さな成功の積み重ね ・取り組みは、企業によって異なる ・「本業」を通した保全活動の実施 ※本業で影響を与えている部分を把握し、負荷を減らすための取組みを ※「生物種の保全」だけではなく、生息環境である「場(生態系)の保全」が重要 -情報の発信。「黙っていい活動を」よりも積極的に発信を! -ネットワーク化による情報の共有、取組みの連携 ・ステークホルダーとの連携、NGOや専門家との連携、同じ資源を使っている企業同士の連携
「生物多様性」に向けての動き ・一次産業と連携した、生態系に負荷を与えない 農・畜・水産産業を促進・支援。(資源循環型農業) ・一次産業と連携した、生態系に負荷を与えない 農・畜・水産産業を促進・支援。(資源循環型農業) ・「バードサンクチュアリ」の創出 ・住宅の庭や街路に、地域の自生種・在来種の樹種を植える「5本の樹」計画を実施。 ・生態系に配慮した樹木の利用。 ・「FSC認証パルプ」の利用拡大。 ・主要取引先に「生物多様性保全」を要請。 ・日本野鳥の会と提携し、「野鳥と緑の信託」を取り扱い。 ・野鳥保護区の設置。 ・ヤシノミ洗剤の原料調達地「ボルネオ」の保全活動を実施。「ボルネオはあなたが守るキャンペーン」実施。
「生物多様性」に向けての動き ■生物多様性のために、何を行なうことが必要なのか? コミュニケーション会社 -生活者が、「生き物からの恵み」「生き物とのつながり」を知ること(興味をもつこと) ・「つながる命」・・・見えないつながりを見せることが必要。 ・危機感を煽るだけではなく、楽しく興味をもってもらえるように。 (「増やすこと」は本来楽しいこと) ※環境省の4つの基本戦略の第一は、「生物多様性を社会に浸透させる」こと。 -企業の情報発信支援、ブランディング支援 ・生物多様性に取り組んでいる企業のメリットづくり。 -企業、団体、生活者の連携(マッチング)支援 ・コミュニケーション会社は、多様な企業・団体との「ハブ」になれる機能を持っている。