皮下鋼線吊り上げ法による腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術の治療成績 第10回 東海産婦人科内視鏡懇話会 2008.10.18 皮下鋼線吊り上げ法による腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術の治療成績 岐阜県立多治見病院産婦人科 竹田明宏
LAM術式の適応拡大に際しては、子宮が血流の豊富な実質臓器であるという再認識が重要 子宮周辺の血管分布 子宮は、子宮全摘術のみを行ってるときには、認識されないが、非常に血管に富んだ組織であるということを筋腫核出術を行う際には認識する必要がある。 LAM術式の適応拡大に際しては、子宮が血流の豊富な実質臓器であるという再認識が重要
LAMを希望する患者さんのタイプ 不妊治療中の方 未婚の方 妊娠希望(未婚・既婚)は無いが子宮を残したい方 既に子供さんが居て、40代以降で子宮を残したい方 技術的に可能であれば、患者さんの希望をかなえてあげる必要がある。 LAMを希望する患者さんのタイプを分けると、このようになります。いろいろな背景を持っている方の集団ですので、技術的に可能であれば、患者さんの希望に添って治療を進める必要があります。ただし、最後のスライドに出てきますが、限界はありますので、出来ないときは出来ないと伝えてあげましょう。
個数・大きさには制限を設けず(ただし、leiomyomatosisを除外) 子宮筋腫手術対象症例の管理方針 子宮温存希望有 粘膜下筋腫 漿膜下、筋層内筋腫 腔内突出度50%以上 筋腫長径5cm以下 腔内突出度50%以下 筋腫長径5cm以上 個数・大きさには制限を設けず(ただし、leiomyomatosisを除外) 現在の多治見病院産婦人科での腹腔鏡補助下筋腫核出術の適応です。無数に筋腫が存在するleiomyomatosisを除いて、基本的に、この条件の方に手術を行います。 挙児希望例 子宮鏡下筋腫摘出術(HM) 腹腔鏡補助下筋腫核出術(LAM)
皮下鋼線吊り上げ法によるLAM 臍上部5mm(スコープ用)、臍左右に5mm(手術操作用)処置孔作製 恥骨上1横指の位置に15-40mmの横切開(手術の進行状況で適時拡張)を加え、AlexisTM Wound Retractorを装着 筋腫核出部にピトレッシンを局注 ハーモニックスカルペルによる筋層切開 筋腫核出と細切による回収 へガール持針器による体腔外よりの縫合結紮 筋腫核出創面へのタココンブの貼付 症例によりインフォメーションドレーン留置 皮下埋没縫合により処置孔閉鎖 皮下鋼線吊り上げ法による手術法を示します。
皮下鋼線吊り上げ法によるLAM G0P0。38歳。未婚。術前リュープリン3回投与。 摘出重量:376g(11個)。術中出血量:870g。 術前貯血自己血:1600g。術中回収式自己血:400g。 手術所要時間:113分。
アメリカ内視鏡学会雑誌のJournal of Minimally Invasive Gynecologyに掲載されたLAMの論文です。
LAM209例の治療成績(2001-2005年) 2001-2005年までのLAM施行例209例をまとめています。最大筋腫核直径3−17cm、個数1から17個でした。開腹移行例は、2例でした。
LAM209例での摘出重量と手術時間・術中出血量 摘出重量が増加すると、手術時間の延長、出血量の増加を認めています。
LAM209例での筋腫部位による摘出重量・術中出血量・手術時間
LAMの適応拡大と合併症の増加の可能性 経験的に筋腫核出術が困難と予想される場合→頚部筋腫、広間膜内筋腫、多発性筋腫、巨大筋腫(500g以上) 術中出血のコントロール→ピトレッシンの使用、超音波凝固切開装置の使用、術中内腸骨バルーン留置による血流遮断 術後出血の早期診断とその対応→CTアンギオグラフィーでの診断とTAEによる治療 稀な子宮血管合併症の存在→子宮仮性動脈瘤や子宮動静脈瘻の形成 2005年頃より、紹介患者さんの増加、インターネット経由の患者さんが増加すると共に、経験的に筋腫核出が困難と思われる例が増加してきました。術後出血の早期の発見と動脈塞栓術による低侵襲性治療を確立しました。しかし、子宮仮性動脈瘤や子宮動静脈瘻といった稀な血管系の合併症の存在することを明らかにし、治療方針を確立してきました。
LAM術式の適応拡大に際しては、子宮が血流の豊富な実質臓器であるという再認識が重要 子宮周辺の血管分布 LAM術式の適応拡大に際しては、子宮が血流の豊富な実質臓器であるという再認識が重要
筋腫の発生による子宮血流の変化 卵巣動脈 子宮動脈 子宮動脈>卵巣動脈 子宮動脈=卵巣動脈 子宮動脈<卵巣動脈 Spies JB in Uterine Artery Embolization and Gynecologic Embolotherapyより改編 子宮動脈 ジョージタウン大学放射線科のスピーズが、子宮動脈塞栓術の経験から得た、筋腫発生時の子宮血流分布の変化を示します。筋腫は、子宮動脈からの血流だけではなく、卵巣動脈からの血流を受けていることが明らかとなっています。核出困難例では、このような血流の変化を考慮しつつLAMを行う必要があります。 子宮動脈>卵巣動脈 子宮動脈=卵巣動脈 子宮動脈<卵巣動脈
腹腔鏡下手術術後出血に対するTAEによる治療
LAM417例での術後出血7例への対応 卵巣嚢腫の手術や子宮外妊娠の手術では、殆ど、術後出血はありませんが、LAVHでやや増加し、LAMでは、1.68%に術後出血がありました。初期の1例は、開腹止血を行いましたが、その後の6例では、血管塞栓術で治療を行いました。
巨大・頚部・多発筋腫でのLAM 巨大・頚部・多発と難しい要因を全て持つ症例のLAMです。手術は、順調に終了しましたが。
巨大・多発筋腫でのLAM後のCTアンギオでの診断とTAEによる治療
稀な血管系の合併症である子宮仮性動脈瘤の2例を、アメリカ生殖医学学会雑誌であるFertility and Sterilityに報告しました。
LAM後核出瘢痕内に形成された子宮仮性動脈瘤
巨大な頚部筋腫に対して、内腸骨バルーンカテーテルによる一時的血流遮断を併用したLAMを行い1036gの筋腫核を摘出しました。
LAM後妊娠の帝王切開術時の所見 軽度の陥没瘢痕 軽度の膜様癒着
まとめ 皮下鋼線吊り上げ法による腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術は、子宮温存希望症例における低侵襲性治療法として有用な手段であった。 しかしながら、LAMの適応拡大と共に、頚部筋腫、多発筋腫、巨大筋腫等の開腹手術によっても困難が予想される症例において、術後出血、子宮仮性動脈瘤の形成等の血管系の合併症を経験し、やはり、筋腫核出術は、難しい手術であるとの再認識に至った。 血流の豊富な頚部筋腫等では、術中の内腸骨動脈の一時的なバルーン圧迫法を併用したLAMが、有効であったので、更に症例を重ねて、その有用性に付き検討していきたい。 挙児希望例での帝王切開術に際しても、筋腫核出創部に重大な異常を認めた例は無く、挙児希望例に対しても安全に行える手術手技と考えられる。 まとめです。
最後に どの様な手法においても、限界は、存在します。 自分の出来る範囲内で治療を行いましょう。 自分の能力を超える時は、その理由を説明し、潔く、断りましょう(あるいは、紹介しましょう)。 子宮温存が、全ての例において、あらゆる条件で可能ではありません。子宮摘出が必要であると判断した時は、その旨を、正直に患者さんに伝えましょう。 最後に、筋腫治療における私の考え方を述べさせていただきます。