聖マリアンナ医科大学 救急医学 福田 俊輔
背景1(肺塞栓の診断方法) 2014 ESC guidelines on the diagnosis and management of acute pulmonary embolism
背景1(肺塞栓の診断方法) 2014 ESC guidelines on the diagnosis and management of acute pulmonary embolism
背景1(肺塞栓の診断方法) 2014 ESC guidelines on the diagnosis and management of acute pulmonary embolism
背景2(肺塞栓の診断方法) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)
序 論 肺塞栓(PE)は多彩な疾患。 原因不明の呼吸困難、胸痛、失神、ショック/低血圧、心停止の鑑別として考慮 PEの検索 序 論 肺塞栓(PE)は多彩な疾患。 原因不明の呼吸困難、胸痛、失神、ショック/低血圧、心停止の鑑別として考慮 PEの検索 検査前確率[低]+D-dimer陰性:安全に除外可能 検査前確率[高] or D-dimer高値:検索が必要 診断におけるMultidetector CT pulmonary angiography(MCTPA) PEの診断数は向上↔非PE患者への施行 一部の患者で慎重使用(妊娠、腎不全 etc.) 診断における超音波 肺・心臓・下肢静脈:単一では比較的感度[低] →除外に不十分 肺塞栓は多様な疾患であり、原因が明らかでない呼吸困難、胸痛、失神、ショック/低血圧、心停止の鑑別として常に考慮されるべき。 肺塞栓低リスク 検査前確率の低い患者ではDダイマー陰性を用いて安全に除外可能である。 一方、検査前確率の高い患者や、Dダイマー高値の患者はさらなる検索が必要である。 PEの診断 近年MCTPAにが標準的なPE診断ツールとなり、わずかにPEの診断は向上した。一方、PEではない患者が施行されることはそれ以上に増加している。 MCTPAは被爆や造影剤副作用などの有害事象を持つ。 さらにMCTPAは高コストであり、安定しない患者には施行できず、全ての施設で24時間使用可能ではない。 また一部の患者:腎不全、妊娠 では使用に注意が必要である。 超音波検査はベッドサイドで迅速に施行可能であり、身体診察を補完してくれる。 多くの著者がPEが疑われる患者への超音波検査を診断力を評価しているおり、 肺エコーにおける胸膜下の梗塞巣、心臓エコーにおける右室拡大、下肢静脈エコーにおけるDVTなどがある。 しかし、比較的低い感度のため、単一の超音波検査では独立した方法として安全にPEを除外することはできない。 また、これまでに肺・心臓・静脈の組み合わせによる診断制度を検討した研究はない。
目 的 PEを疑う症状のある患者に複数臓器にわたる超音波検査(Multiorgan US)を施行し診断精度の検討した。また、超音波結果と臨床評価またはDダイマー値を統合した診断モデルを作成し、安全性を担保しながら、MCTPAの施行数を減らせるかの評価を行なった。 複数臓器の超音波検査でPEを疑う症候性患者の診断精度を検討し、複数臓器の超音波検査と臨床評価及びDダイマー値を統合した診断モデルMCTPAを受ける患者数を減らし、安全性を担保できるか評価する。
方 法 1 研究期間:2012年6月~2012年12月 研究デザイン:multicenter prospective accuracy study 研究施設:3病院のED(イタリア) 2つ大学附属病院(120,000 and 50,000 visits) 1つの市中病院(50,000 visits) 対象症例 EDに来院したPEを疑う症状のある症例 除外項目: Wells score ≦ 4 かつ D-d <500ng/ml、 妊婦、MCTPA禁忌
方 法 2:超音波判定法 施行時期 MCTPA施行前3時間以内 施行者: 方 法 2:超音波判定法 施行時期 MCTPA施行前3時間以内 施行者: 13名の救急医うち1人 肺超音波専門の救急医(1) 5年以上の救急超音波歴のある救急医(8) 救急超音波レジデント(4) 肺→心臓→下肢静脈の順番に施行 Multiorgan USにおけるPE診断基準 以下のうち一つでも陽性 肺:少なくとも1つの subpleural infarctの所見 心:右室拡大 or 右心系血栓 下肢静脈:DVT
方 法 3:肺超音波 4- to 8-MHz linear or 3.5- to 5-MHz curved array probe 方 法 3:肺超音波 4- to 8-MHz linear or 3.5- to 5-MHz curved array probe 胸郭の前面・後面を縦走査・斜走査: subpleural infarctを検出 ※肺炎、胸水、間質病変を示唆するconsolidationも評価
方 法 4:心臓超音波 2- to 5-MHz phased-array probe 右室拡張:以下の少なくとも1つ 方 法 4:心臓超音波 2- to 5-MHz phased-array probe 右室拡張:以下の少なくとも1つ RVEDD/LVEDD>0.9 心尖部四腔像 or 剣状突起下四腔像 RVEDD>30mm 傍胸骨像 ※右心系の血栓、心嚢液、大動脈解離の所見があれば評価
方 法 5:下肢静脈 4- to 8-MHz linear probe 方 法 5:下肢静脈 4- to 8-MHz linear probe 総大腿静脈・浅大腿静脈・膝下静脈:短軸で圧迫 静脈が完全に潰れなければDVTと判断
方 法 6:standardized form 肺USのalternative US diagnosis の基準は International recommendations on point-of-care lung ultrasonography
方 法 7:最終診断とサンプル数 最終診断 MCTPA 2人の放射線医による判断 臨床データ、超音波結果について盲検 方 法 7:最終診断とサンプル数 最終診断 MCTPA 2人の放射線医による判断 臨床データ、超音波結果について盲検 不一致→第3の放射線医の判断 サンプル数 Type 1 error(偽陽性率)(multiorgan USの) : 5%と設定 90% of power multiorgan US で90%の感度を見出す (過去の研究ではsingle-organ USの感度の最高値は約80%) n=330
結 果 1 結 果 1:対象症例の選出 510人のPEが疑われる症例が検討され、357名が研究参加。 結 果 1 結 果 1:対象症例の選出 510人のPEが疑われる症例が検討され、357名が研究参加。 除外基準の主な内容(153症例に関して) 97症例 : Wells score≦4 かつD-d陰性 4症例 : 研究に同意せず 3症例 : 妊娠 20症例:muiti-organ USが施行されず 23症例:MCTPAが禁忌 6症例:MCTPAの結果が判断困難 ※25症例で肺USは胸郭前面のみ施行 5症例で心臓USは判断困難
結 果 2 : Study population
結 果 3: Final diagnosis
結 果 4 : Table 3 Multi-organ USの感度はsingle-organ US単独よりも優れていた。 Negative Multi-organ + alternative diagnosis は感度100(96.7-100)
考 察 1 Multi-organ US ほぼ全ての患者に施行可能であった Single-organ US単独に比べ高い感度であった 考 察 1 Multi-organ US ほぼ全ての患者に施行可能であった Single-organ US単独に比べ高い感度であった →Wells score やD-dの結果を補完し、MCTPAを施行するかの判断に有用かもしれない。 MCTPA PE検索の標準的方法 使用が拡大し、被爆・造影剤S/Eが危惧される MCTPA施行患者のうちPEの有病率: アメリカ:5-10%、ヨーロッパ:20-30% →本研究では30.8%であり同様であった
考 察 2 Single-organ US 過去の研究での感度/特異度: 肺:70-98%/50-99%, 心臓:31-72%/87-98%, 下肢静脈:39-55%/96-99% 本研究でもsingle-organ USの感度は低く、PEを除外するには限界がある Combination of vein and heart US Grifoni S at al. 117症例。感度:89%、特異度:74% validation studyがされていない Mansencal N et al. 76症例。感度:87%、特異度:69% 右心不全を評価する複雑なパラメーターを用いており、 ERのルーティーン検査としては難しい
考 察 3 Bedside Lung Ultrasound in Emergency(BLUE) 考 察 3 Bedside Lung Ultrasound in Emergency(BLUE) Lechtenstein and Meziere 重症急性呼吸不全患者に対するプロトコル 静脈US陽性所見と他の疾患の除外によりPEを診断可能 PEに対する感度:81% 本研究におけるalternative US diagnosis 超音波診断でPEの所見がなく、かつ他の診断が見つかったものは全体の3分の1 その中で最終診断がPEの症例なし 肺超音波と心臓超音波の有用性を示している Multiorgan US 陰性+ D-d 陰性 最終診断がPEの症例なし Wells score陽性の患者でMCTPA施行前の検査として有効かも
考 察 4 本研究でどの程度MCTPA症例が減らせたか 考 察 4 本研究でどの程度MCTPA症例が減らせたか 国際ガイドラインでは、PEを疑う症状があり、DVTがUSで検出された症例はさらなる診断の検査は必要ないとしている。 本研究におけるDVTと診断された割合(17%)+ multiorgan US陰性 かつ alternative US diagnosis or D-d陰性(37%) →約50%の症例で安全にMCTPAを避けることができたかもしれない PEを疑う症例に対するmultiorgan USのアルゴリズムを提案。 今後検証する必要がある。
考 察:Limitation 本研究では、超音波施行者は少なくとも2年以上の超音波経験のある救急医であった。 もっと経験の浅い医師による施行では安全性・正確性を下げるかもしれない。 Multiorgan USの正確性は外来や病棟など異なる場所で施行された場合、本研究と異なるかもしれない。 MCTPAが禁忌である患者は本研究から除外されている
考 察:Conclusions Multiorgan US はベッドサイドで施行可能であり、PEを疑う救急外来患者のほぼ全例で施行でき、MCTPAを受けるべき患者を効果的に選別できるかもしれない。 MCTPAが施行できない状況において、Multiorgan USはsingle organ USよりもより効果的で信頼できる代替手段である。
考察(個人) Multiorgan US陰性のみでは、PE除外の安全性が十分ではない 感度 90(82.8-94.9) ・ Negative multiorgan+alternative US diagnosis: 感度 100(96.7-100) →超音波の質が担保できれば積極的に利用できるのではないか ・ Negative multiorgan+Negative D-d 本研究では感度 100であるが 95% CIの記載なし →現時点で実臨床に利用するにはリスクが高い 今後さらなる検討が必要 超音波施行者の質の担保 ・ 本研究のプロトコル実施だけでなく、超音波は救急領域に必須の 診断ツール。(低侵襲、point-of-care、unstable patient) 今後、救急超音波を体系的に学ぶプログラムが求められる
聖マリアンナとしての方針 PE診断におけるMultiorgan US Multiorgan USはPE診断において比較的高い感度 90(82.8-94.9)・特異度86.2(81.3-90.3)を持つ。しかしながら、致死的疾患であるPEを除外するには安全性は十分ではなく、現時点では肺塞栓を疑う症例では確定診断としてのMCTPAの立ち位置は揺るぎない。 PE診断におけるNegative multiorgan+alternative US diagnosis 本研究ではNegative multiorgan+alternative US diagnosisで高い感度100(96.7-100)を示した。 MCTPAが禁忌・慎重使用となる症例(造影剤アレルギー、腎機能障害、妊娠、unstable patient) では、 Negative multiorgan+alternative US diagnosisを用いてPEを除外することは可能かもしれないと考える。 引き続き、当院での救急超音波の研磨が求められる。