葉の寿命は何によって決まる? 地球温暖化と葉寿命の関係を推測する 平均気温 振幅 北海道大学大学院環境科学院 環境起学専攻 高田 壮則 卒論のテーマ:高温超伝導と種間競争方程式の解析 博士論文:積分的相互作用の数理的解析 専門:理論生態学、数理生態学
地球環境問題へのアプローチ 温暖化 解決策の検討 現状の把握 原因の究明 エネルギー問題 オゾン層 物理化学的過程 酸性雨 未来予測 生態学的過程 (生態系の反応) 種、群集レベル
葉寿命 = 落葉日−展葉日 樹種間で大きい変異 菊沢喜八郎「葉の寿命の生態学」より
常緑性・落葉性の地理分布 落葉性 温帯 常緑性 広葉樹(照葉樹林帯 熱帯 ) 針葉樹(冷温帯、寒帯 )ー落葉性のものも 常緑ゾーン 落葉性 温帯 常緑性 広葉樹(照葉樹林帯 熱帯 ) 針葉樹(冷温帯、寒帯 )ー落葉性のものも 常緑ゾーン 常緑ゾーン ??? 常緑ゾーンはなぜ離れたところにあるのか ???
葉の性質 常緑広葉樹 落葉広葉樹 針葉樹 硬く光を通さない 薄く光を通す 硬く細い 葉の構成コストは大きく違う ハルニレ(ニレ科) 常緑広葉樹 落葉広葉樹 針葉樹 ハルニレ(ニレ科) クロマツ(マツ科) ミズナラ(ブナ科) 硬く光を通さない 薄く光を通す 硬く細い 葉の構成コストは大きく違う
葉は光合成工場 夏場 冬場(5℃以下) 操業 Photosynthesis 休業・メンテ Maintenance 立ち上げ Construction 老化 光合成速度の減少 廃棄 単純化 ーーー> 数理モデルへの応用
生態学における数理モデル 動態モデル:Malthusモデル、Logisticモデル、競争方程式、 Lotka-Volterraモデル、推移行列モデル、 拡散方程式モデル、格子モデル・・・ 最適戦略モデル:卵サイズモデル、展葉・落葉戦略モデル (Optimal strategy model) 繁殖スケジュールモデル、採餌戦略モデル ESSモデル:タカハトゲーム、性比モデル、分散モデル (Evolutionarily Stable Strategy) 進化的に安定な戦略
最適戦略・ESSモデルの分類
最適戦略モデルとは? 仮定:現存する生物の形質や行動(一般に「戦略」と呼ぶ)が自然選択の結果、最も適応的なものになっている。 方法 (1)目的関数を設定する(適応度、光合成速度、訪花昆虫率etc…) (2)目的関数を着目する戦略や、その他のパラメーター(Ex.資源量、環境条件など)の関数として定式化する (3)目的関数を最大にする戦略(optimal strategy)を求める。 (4)最適戦略はパラメーターの関数になっているので、どのようなパラメーターの値の時にどのような最適戦略になるのかを議論する 注:適応度 = 1個体あたりの子の数の平均 × その子達の繁殖齢までの生存率
最適戦略として葉寿命を考える 光合成工場立ち上げと閉鎖の最適戦略とは? 1.展葉期間の儲け (総生産量ー構成コスト−総維持コスト) (総生産量ー構成コスト−総維持コスト) がゼロになった時点でやめる これでは成長できない 2.毎日の儲け(生産量−維持コスト)が ゼロになった時点でやめる 構成コストはどうなる?冬場になったら終わり? 3.ではどうしたら???
単位時間あたりの効率 (構成コストを考慮して) 総生産量 構成コスト C 総維持コスト 単位時間あたりの効率最大を 最適戦略としたらどうなるか?
気温の季節的変動 気温 T + a ave 平均気温 気温 T ave 振幅 a T - a ave 180 360 時間(日数)
光合成速度の気温依存性 光合成速度 最大光合成速度 (Lmax) 光合成速度 最適気温(30℃) 5 T opt 気温(摂氏)
葉の老化は 展葉後の経過日数に依存 葉の老化率 G(t) 1 t 展葉日 e
いつ展葉し、いつ落葉させると効率を最大化できるのか? モデル 維持コスト 総純光合成産物量 5℃以下のときにはゼロ 単位時間あたりの 効率(N(e,s)) いつ展葉し、いつ落葉させると効率を最大化できるのか? (最適戦略の考え方)
枠組みの整理 Question どのようなパラメーター値のもとで、 どのような戦略が、 目的関数を最大にするか? 目的関数 : 単位時間あたりの光合成効率 戦略 : 展葉日、落葉日 関連パラメーター: 気候条件(平均気温、振幅) 葉の生理学的条件(最大光合成速度、葉の構成コスト 、葉の老化率、光合成の最適気温、葉の維持コスト) Question どのようなパラメーター値のもとで、 どのような戦略が、 目的関数を最大にするか?
Nの等高線図 あるパラメーター値 を与えて e > s Optimal Point 開葉日 (day, e) 落葉日(day, s)
気温の振幅と葉寿命の関係 °C 平均気温 = 14°C
なぜ寿命が不連続に変化するのか? 振幅を10, 4, 2℃と変えると s–e 毎日の純光合成量 10 4 上図の積算ー構成コスト 2 日数 傾きが効率 最大効率線 開葉日 大きく変化 日数 最適 落葉日 s–e 日数
使用されたパラメーター 気候条件 葉の生理学的条件 平均気温(Tave) -10 〜 40°C (2度毎) 880通り 振幅 (a) 0 〜 40°C (2度毎) 546 通り 葉の生理学的条件 最大光合成速度 Lmax (gC/day/m2) 0.1 〜 5 葉の構成コスト Cm (gC/m2) 10 〜 100 葉の老化率 b (/day) 0.001 〜 0.005 光合成の最適気温 Topt (°C) 30 葉の維持コスト C (gC/day/ m2) 0.05 880通り
最適解の三つのパターン 落葉 常緑 ビギナー 0 180 360 540 720 日数
常緑パターンの割合 各気候条件における880通りの生理学的条件のうち、常緑が最適解である割合 割合 振幅 (°C) 平均気温 (°C)
ビギナーパターンの割合 各気候条件における880通りの生理学的条件のうち、ビギナーが最適解である割合 割合 振幅(°C) 平均気温 (°C)
好適期間の割合 (f) と常緑性 5°C line (year) 100 80 割合 (%) 60 40 20 0 0.2 0.5 0.75 1 好適期間の割合 (f)
ハバロフスクでの常緑パターン の生理学的条件 ハバロフスクでの常緑パターン の生理学的条件 平均気温 = 2°C 振幅 = 20°C 葉の老化率 葉の構成コスト 最大光合成速度
ヤクーツクでの常緑パターン の生理学的条件 平均気温 = -10°C 振幅 = 30°C 葉の老化率 葉の構成コスト 最大光合成速度
赤道地域での常緑パターン の生理学的条件 平均気温 = 40°C 振幅 = 2°C 葉の老化率 青色:ビギナー 葉の構成コスト 最大光合成速度
まとめ 葉の寿命は気候条件と葉の生理学的条件によって決まる 気温振幅が葉の寿命に大きく影響を与える 葉の寿命は気候条件と葉の生理学的条件によって決まる 気温振幅が葉の寿命に大きく影響を与える 常緑パターンは、寒さの厳しい地域と気温が高い地域 で割合が高い。 ビギナーは好適期間の割合が1の地域であらわれる。 好適期間の割合が低いところと高いところで 常緑性が多い 最大光合成速度が低く、老化率の低いところで、 常緑性が現れやすい。
今後の研究 各種パラメーターの変化に対して最適展葉日・落葉日は どう変化するのか? 平均気温や振幅の変化に対して最適展葉日・落葉日は 各種パラメーターの変化に対して最適展葉日・落葉日は どう変化するのか? 平均気温や振幅の変化に対して最適展葉日・落葉日は 地球温暖化 ------ > 平均気温だけの変化 -------> 振幅が変化しない分、温帯では大きく 常緑が増えることは無い? 寒帯領域が狭くなり、タイガが減少する? 平均気温や振幅の変化に対して葉が可塑的な変化を示し、 大きく変化することは無い?
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