2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討

Slides:



Advertisements
Similar presentations
糖尿病の診断 関東労災病院 糖尿病内分泌内科 杢保敦子 2007 年 10 月 21 日 第 2 回市民公開講座 2007 年 10 月 21 日 第 2 回市民公開講座 「糖尿病を知ってその合併症を防ぎましょう」 「糖尿病を知ってその合併症を防ぎましょう」
Advertisements

今 日 の ポ イ ン ト今 日 の ポ イ ン ト 糖尿病人口は予備群を含めると 2,050 万人1.1. 糖尿病は血糖値が高くなる病気 ただし自覚症状がほとんどありません 2.2. 血糖値が高い状態を「高血糖」といいます3.3. インスリンの作用が弱くなったために高血糖に なったのですが、高血糖は必ず改善できます.
糖尿病は世界全体で急増 1995年 2010年(予測) 1億1800万人 2億2100万人 *15年で2倍近くに増加 日本でも・・・ 630万人 850万人 *ちゃんと受診している人は210万人 糖尿病患者さんの数.
血糖値の調節 膵臓 肝臓 筋肉 血 糖 脳 インスリン ↑ 200 g/ 日 120g/ 日 乳 酸 乳 酸 グリコーゲン グリコーゲン グリコーゲン グリコーゲン ( 食事 ) 脂肪組織 Plasma Glucose Blood Glucose 尿糖 血糖値は制御された値 であり制御機構が正常 なら全く血糖は上昇し.
基礎インスリン増量による 空腹時血糖値是正の意義. | 2 HbA1c 8%以上は空腹時血糖値の是正が必要 Monnier L. et al;Diabetes Care (30), 2, 2007.
11-2 知っておくと役立つ、 糖尿病治療の関連用語 一次予防、二次予防、三次予 防 1.1. インスリン依存状態 インスリン非依存状態 2.2. インスリン分泌 3.3. 境界型 4.4. グルカゴン 5.5. ケトアシドーシス、ケトン体 6.6. 膵島、ランゲルハンス島 7.7. 糖代謝 8.8.
鎮静管理 JSEPTIC-Nursing.
保存期腎不全患者の病識の現状把握と看護介入の今後の課題
非専門医のために役立つ 糖尿病患者日常診療のコツ(1) -診断を中心として- 関東労災病院 腎臓代謝内科 (現 糖尿病内分泌内科) 杢保敦子
インスリン治療費に関する 医師・患者意識調査結果
DM・ HYBRID療法 (簡単・糖尿病初期寛解療法) (内科開業医御用達バージョン)
糖尿病の成因と病期 1型糖尿病 2型糖尿病 ・右向きの矢印は糖代謝の悪化、左向きの矢印は糖代謝の改善を表しています
当院健診施設における脂肪肝と糖尿病リスクの統計学的な検討
糖尿病患者におけるPWV (脈波伝播速度) 当院通院糖尿病患者648名からの解析
動悸にはこんな種類があります 心臓の動きが 考えられる病気 動悸とは、心臓の動き(心拍)がいつもと違って不快に感じることをいいます。
磁気治療機器が、線維筋痛症患者の痛みを抑制 できるかどうかを検討する。 同時に機器の安全性を検討する。
糖尿病の病態 中石医院(大阪市) 中石滋雄.
エビデンスレベルと推奨形成の実際 –臨床医、患者の視点に立って?-
より多くの人に糖尿病予防の生活指導ができるように
Conflict of interest 発表者名:松田 昌文 演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
骨格筋のインスリン抵抗性が肥満の引き金 1 参考 最近、エール大学のグループは、骨格筋のインスリン抵抗性がメタボリック症候群を引き起こす最初のステップであることを報告した。BMIが22-24の男性をインスリン感受性度で2グループに分け、食事(55%炭水化物、10%蛋白質、35%脂肪)を摂取してから、筋肉のグリコーゲン量をMRI(核磁気共鳴画像法)で調べたところ、インスリン感受性群に比べて、抵抗性群ではグリコーゲン生成が61%減少していた。肝臓のグリコーゲン量は2群間で有意差はみられなかった。しかし、肝臓の
食事療法の摂取エネルギーを、いわゆる 「隠れ肥満」と「太りやすい体質」 を考慮して求める方法
糖尿病とは インスリン作用不足による 慢性の高血糖状態を主徴とする 代謝疾患群 まず糖尿病とはどんな病気か知ってしますか?
B-15.
1. 病気になると血糖値が 高くなりやすくなります 2. 最も注意が必要なのは 糖尿病の「急性合併症」 3. シックデイの対応
1. 経口薬(飲み薬)による治療が 必要なのは、どんなとき? 2. 糖尿病の飲み薬の種類と特徴 3. 飲み薬による治療を正しく
8班[7(mod24)] 井村(7) 黒島(31) 田代(55) 野田(79) 宮田(103)
ビデュリオン vs リキスミア ~インスリンと併用ができるかどうか~ HDC アトラスクリニック院長 日本医科大学客員教授
一般診療所における インスリン外来導入について
図1 対象症例 H20.1/1-1/31までの入院・外来糖尿病患者総数 入院患者 15203名(内 透析患者 622名)
自律神経の研究成果 神経生理 平山正昭.
高LDLコレステロール血症患者の栄養指導上の問題点について
高血圧 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 二次性高血圧を除外 合併症 臓器障害 を評価 危険因子 生活習慣の改善
1. 血糖自己測定とは? 2. どんな人に血糖自己測定が 必要なのでしょうか? 3. 血糖自己測定の実際 4. 血糖自己測定の注意点
インスリンの使い方 インターンレクチャー.
特定保健指導値の血糖100mg/dl、HbA1c5.2以上適用後のインスリン測定の意義
糖尿病 かかりつけ医 紹 介 専門医 医療連携の紹介・逆紹介のポイント 逆紹介(返送を含む) 専門的な治療や指導等
糖尿病 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 検査 診断 治療
糖尿病患者においては、 胃排出能が、本当に 亢進しているのか? HDC アトラスクリニック院長 日本医科大学客員教授    鈴木 吉彦 
東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科
日本糖尿病学会のアクションプラン2010(DREAMS)
ヒトインスリン混合製剤30から 二相性インスリン アスパルト30/70への 切り替え時における食後高血糖および 動脈硬化の改善
スギ花粉とダニの重複抗原例の 舌下免疫療法について-副作用の検討- はじめに 対象と方法 シダトレン®、 ミティキュア®重複投与例
肥満の人の割合が増えています 肥満者(BMI≧25)の割合 20~60歳代男性 40~60歳代女性 (%)
糖尿病とインプラント治療~ HbA1cより末しょう循環障害に注意せよ, 尿中微少アルブミンの意義 平成28年11月16日 健学の会 帯広.
『学術講演会』のお知らせ ~新薬の適正使用のために~ ~薬剤師が知らねばならないこと~』 日時/ 平成29年10月19日(木) 19時~
奥越調剤研究会 開催のご案内 『慢性腎臓病患者における動脈硬化』 日時/ 平成28年12月8日(木)19:15~ 場所/ 大野商工会議所
基礎インスリンや追加インスリンの、特徴差別化
糖尿病治療における次のstageを考える
今 日 の ポ イ ン ト 1. 子どもの糖尿病と大人の糖尿病の 違いを知りましょう 2. 1型糖尿病では、毎日のインスリン
「糖尿病」ってどんな病気?? ★キーワードは・・・「インスリン」!!!
Diabetes & Incretin Seminar in 福井
喫煙者は糖尿病に なりやすい!! 保険者機能を推進する会 たばこ対策研究会 003_サードハンドスモーク(3).pptx.
特定保健指導に先駆けた 受診勧奨者への外来栄養指導
小児に特異的な疾患における 一酸化窒素代謝産物の測定 東京慈恵会医科大学小児科学講座 浦島 崇 埼玉県立小児医療センター 小川 潔、鬼本博文.
福島県立医科大学 医学部4年 実習●班 〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇
高脂血症.
研究内容紹介 1. 海洋産物由来の漢方薬の糖尿病への応用
1. 糖尿病の自覚症状は あてにならない 2. 主な検査の種類 3. 検査値の意味と 基準値・コントロール目標 4.
1.
UFT服薬に関しての注意事項 ☆ 患者さんには「UFT服用のてびき」をお渡し下さい。.
糖尿病患者さんの数 糖尿病は世界全体で急増 1995年      2010年(予測) 1億1800万人   2億2100万人   *15年で2倍近くに増加
開発本部 メディカル&サイエンスアフェアーズ部 角田 良孝(YTSU) マーケティング本部 インスリン部 八田真以子(HATT)
『学術講演会』のお知らせ 参加 ・ 不参加 住所:福井市手寄1丁目4番1号 Tel: 『過活動膀胱の治療
1. 糖尿病予備群って、なに? 2. 糖尿病って、どんな病気? 3. どんな時に糖尿病予備群と 言われるの? 4. 糖尿病予備群と言われたら
糖尿病をよく知るための検査 ★血糖:けっとう、グルコース、Glu ★HbA1c:ヘモグロビンエーワンシー
合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系)
1. 糖尿病の合併症としての 性機能障害 2. 性機能障害と糖尿病治療 3. 性機能障害、とくにEDの 原因について 4.
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3. ご高齢の糖尿病患者さんの
新しい医療機器の治験にご協力いただける方を募集しています。
Presentation transcript:

2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討 武田クリニック 武田 浩

はじめに これまで糖尿病や耐糖能異常の診断や治療効果の判定は主に空腹時血糖値を用いて行われてきたが,最近では,空腹時血糖値よりも食後血糖値と死亡リスクとの関連性が強いことが明らかにされた 2型糖尿病患者では,インスリンの基礎分泌は保たれていても,食後のインスリン追加分泌が認められず,食後高血糖を引き起こす例が多く認められる.食後高血糖がもたらす糖毒性によって膵β細胞は機能不全を来たし,末梢ではインスリン抵抗性が増強され,さらに病態を悪化させる可能性も懸念される.そこで,軽症の2型糖尿病患者の薬物療法においては,膵β細胞のインスリン追加分泌不全を改善させるとともに,末梢におけるインスリン抵抗性をも改善して,耐糖能の悪化を抑制することが重要である.

ナテグリニド 速効・短時間型インスリン分泌促進薬であるナテグリニド(商品名:スターシス)は腸管からの吸収が速いために効果発現時間が約30分と短く,また膵β細胞のSU受容体との解離が早く,血中半減期が短いために,作用持続時間は2~3時間と短い.すなわち食直前に服用することで,生理的状態に近似したインスリン分泌が得られ,食後高血糖を抑制し,HbA1c値を改善することができる薬剤である.

メトフォルミン ビグアナイド薬であるメトホルミンは古くから糖尿病治療に用いられてきた薬剤である.その作用は膵外作用であり,膵β細胞のインスリン産生を刺激せずに,糖代謝を亢進させる.インスリン抵抗性の改善作用も期待されている.海外では肥満を合併した2型糖尿病患者における有効性が大規模臨床試験で実証され、わが国でもその有用性が見直されている.

日本人の2型糖尿病患者を対象に,食後高血糖と糖代謝の改善を期待してナテグリニドとメトホルミンの併用療法を試み,その有効性とともに,ナテグリニド用量の違いによる安全性についても検討した

方 法 本施設に外来通院中の2型糖尿病患者で,インスリン分泌能(食後Cペプチド4ng/ml以上)は保たれている症例を対象とした. 方     法 本施設に外来通院中の2型糖尿病患者で,インスリン分泌能(食後Cペプチド4ng/ml以上)は保たれている症例を対象とした. ナテグリニド用量は90mgあるいは120mgを1日3回投与とした.メトホルミンの1日用量は250~1,000mgとした.試験薬の投与順には特に制限を設けなかった.また,併用薬についても特に制限を設けず,原則として継続投与とした. 投与前および投与後1ヵ月ごとに外来にて採血を行い,血糖値(随時),HbA1c値,GPT,γ-GTP,LDHを測定した.また,来院時に体重を測定した.

表1 患者背景 (平均値±SD)

試験薬投与量と期間 ナテグリニドは90mg(1日3回)が13例に,120mg(1日3回)が5例に投与された.メトホルミンの1日平均用量は750mg(500mg3例、750mg8例、1,000mg7例)であった.メトホルミン投与例にナテグリニドを併用投与した症例は6例,ナテグリニド投与例にメトホルミンを併用投与した症例は12例,であった.また,6ヵ月間追跡できたのは16例で,1例は4ヵ月,もう1例は5カ月まで追跡した.

ナテグリニドとメトホルミン併用時の 血糖値とHbA1c値の推移 (mg/mL) (%) * p<0.05 * p<0.05 * * * * * * * * * * * 投与期間(月) 投与期間(月)

ナテグリニドとメトホルミン併用時の 血糖値およびHbA1c値の前後比較(n=18) (mg/mL) 血糖値 HbA1c 値 (%) 193.3±47.3 7.8±1.8 6.5±0.5 141.8±25.1 △ 1.3 p<0.05 △ 51.5 p<0.001

ナテグリニド用量別のHbA1c値の前後比較 ナテグリニド90mg×3回 13例 ナテグリニド120mg×3回 5例 (%) (%) 8.0±2.0 6.5±0.6 7.2±0.5 6.4±0.5 △ 1.5 p<0.05 △ 0.8 p<0.05

ナテグリニドとメトホルミン併用の体重の変化 全症例 18例 ナテグリニド90mg×3回 13例 ナテグリニド120mg×3回 5例 (kg) (kg) (kg) NS NS NS

ナテグリニドとメトホルミン併用のBMIの変化 全症例 18例 ナテグリニド90mg×3回 13例 ナテグリニド120mg×3回 5例 NS NS NS

【結    論】  日本人の2型糖尿病患者において,ナテグリニドとメトホルミンの併用療法は,食後高血糖を改善し,肝臓や末梢の糖代謝を亢進させることで,全身の耐糖能を改善し,血糖パラメータを改善することが示された.また,安全性にも問題ははく,ナテグリニド90mgあるいは120mgを用いても,安全性に違いは認められなかった.