透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症 熊本中央病院心臓血管外科 中津太郎、田村暢成、柳茂樹、許敞一 京都大学心臓血管外科 坂田隆造 福井大学第二外科 腰地孝昭
目的 大動脈弁置換術を行った透析患者の遠隔期において、脳出血、消化管出血などの出血性合併症は生命予後を大きく左右する 本研究では、透析患者の大動脈弁置換術後の出血性合併症の発生頻度について調べることを目的とした
対象 1991年~2011年8月 大動脈弁置換術を行った透析患者59例(Bentall手術4例を含む)
患者背景 年齢 67.0±9.5 歳 男性 32(54%) 術前透析歴 11.9±9.2年 高血圧症 44 (75%) 高脂血症 7 (12%) 糖尿病 11 (19%) COPD 6 (10%) PAD 2 (3%) 脳血管障害の既往 5 (8.5%) 術前のLVDd 53.8±8.0mm 術前のEF 58±16% 感染性心内膜炎 5 (8%) 大動脈弁狭窄症 47 (80%)
手術 生体弁 16 (27%) 人工弁サイズ 21±1.8mm 同時手術 僧帽弁手術 15(25%) CABG 15 (25%) 大動脈手術 3 (5%) Bentall手術 5 (8.5%) 手術時間 385±171分 体外循環時間 187±76分 大動脈遮断時間 124±50分
合併症及び術後死亡 再開胸 4 (6.8%) 肺炎 3 (5.1%) 脳梗塞 2 (3.3%) 前縦隔 敗血症 11 (19%) 入院死亡 急性胆道炎 1 (1.7%) PMI
長期生存 平均追跡期間: 3.4±3.3年、199人年 20% 40% 60% 80% 100% 2 4 6 8 10 12 14 16 長期生存 平均追跡期間: 3.4±3.3年、199人年 20% 40% 60% 80% 100% 2 4 6 8 10 12 14 16 3年 5年 7年 67.7%±6.9% 57.9%±7.9% 34.0%±9.0% No. at risk 55 32 21 11 6 4 1
出血回避曲線 出血性合併症: 4.8% /人年 20% 40% 60% 80% 100% 2 4 6 8 10 12 14 16 年 出血回避曲線 出血性合併症: 4.8% /人年 20% 40% 60% 80% 100% 2 4 6 8 10 12 14 16 年 非透析患者70歳以下、機械弁、当院のData、0.5% / 人年 3 years 5 years 7 years 87.8%±4.7% 73.2%±8.8% No. at risk 55 30 19 10 6 4
脳梗塞回避曲線 脳梗塞: 1.1% / 人年 100% 80% 60% 40% 20% No. at risk 55 30 19 10 6 脳梗塞回避曲線 脳梗塞: 1.1% / 人年 非透析患者、70歳未満、機械弁、当院Data、0.7% /人年 100% 80% 60% 3 years 5 years 7 years 100% 90.6%±6.3% 79.3%±12% 40% 20% No. at risk 55 30 19 10 6 4 年 2 4 6 8 10 12 14 16
出血イベント 出血を来たした患者のうち60%の患者は死亡 出血は生命予後に大きな影響を与える 出血 9例(15%) 死亡 5/9 出血 9例(15%) 死亡 5/9 脳出血 6例 4/6 消化管出血 3例 1/4 出血時のPT INR : 3.0 (脳出血を来たした患者) 6.1 (消化管を来たした患者) 出血を来たした患者のうち60%の患者は死亡 出血は生命予後に大きな影響を与える
出血性合併症に対する単変量解析 (Cox proportional hazard model) 弁の種類やワーファリンの投与は出血の発生に関与しない Hazard Ratio 95%CI P 女性 0.706 0.183 ~ 2.723 0.6131 年齢 0.934 0.864 ~ 1.010 0.0874 透析歴 1.018 0.939 ~ 1.103 0.6711 機械弁 0.465 0.103 ~ 2.096 0.3189 Warfarin 0.532 0.100 ~ 2.844 0.5320 大動脈弁狭窄症 0.352 0.086 ~ 1.446 0.3520
出血の発生率 非透析患者 透析患者 非透析患者よりも3~10倍の出血の発生率 4.4% /人年(本研究) 1.20~1.60% /人年 Chan et. al: JTCS 2010;140:1053-8 0.36% /人年 (22 cases/ 6180 patients-year) Aupart MR et.al: J Heart Valve Dis. 2006 Nov;15(6):768-75 0.5% per/人年 (70歳以下、機械弁、当院) 透析患者 4.4% /人年(本研究) 非透析患者よりも3~10倍の出血の発生率
脳梗塞の発生率 非透析患者 0.7% /人年(70歳以下、機械弁、当院) 透析患者 1.1% /人年(本研究) 透析患者と非透析患者の間に脳梗塞の発生率に大きな差はなさそう。
Discussion PT-INRの変動は非透析患者と比較すると有意差をもって透析患者の方が大きい Phelan PJ et al: Clin Nephrol. 2011;75(3):204-11 透析患者は非透析患者よりも弁置換術後にし出血を来たすリスクが高く、透析患者にとって出血を生じること自体が生命の危険を伴う 透析患者は非透析患者と比較し脳梗塞を生じるリスクはほぼ同等である 大動脈弁置換術を行った透析患者はワーファリンによる抗凝固療法をマイルドに行ったほうがよいと考えられる
結語 透析患者は大動脈弁置換術後に出血を生じるリスクは4.8%/人年であり、これは非透析患者の3~10倍の危険性となる。 大動脈弁置換術後の透析患者にとって出血は生命の予後を大きく左右する事象である 大動脈弁置換術後の透析患者の脳梗塞の発生率は非透析患者の発生率と変わらない 大動脈弁置換術後の透析患者はマイルドな抗凝固療法にすべきである。