人口経済論第5回(2005年5月16日) 2005年5月16日(月) tsujicom@nifty.com 人口経済論 第5回 2005年5月16日(月) tsujicom@nifty.com
人口増加と持続可能な発展 持続可能な発展議論のはじまり 「持続可能な発展」の概念と人口増加 持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制 地球温暖化に見る人口増加と持続可能な発展のシナリオ:地球の人口扶養力
1.持続可能な発展議論のはじまり:1 持続可能な発展又は開発(sustainable development)に近い概念は昔から議論されてきた。 人口との関係で最初にこの議論が始まったのは、1798年のマルサス(T.R.Malthus)の『人口論』。 マルサスの主張 人口と食料のアンバランスな増加率が食糧の不足をもたらし、持続可能な条件をなくしてしまう。 →ローマクラブの『成長の限界』1972年へつながる議論
1.持続可能な発展議論のはじまり:2 「持続可能な発展」の概念が広く普及したのは1980年ごろ。国際自然保護連合(IUCN)が最初に「持続可能な発展」というキーワードを用いた。
人口経済論第5回(2005年5月16日) 1.持続可能な発展議論のはじまり:3 1987年に「環境と開発に関する世界委員会(通称ブルントラント委員会)」がまとめた報告書「われら共有の未来(our common future)のキャッチフレーズとなり特に広まる。 この報告書での定義:「将来の世代が自らのニーズを充足する能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような発展」 この報告書では環境政策の基本的方向を提案した。
1.持続可能な発展議論のはじまり:4 この概念が普及してきた背景には、 1.環境問題が先進国中心の議論が発展途上国を含めた議論に移り、経済発展を促すことにより環境問題や人口問題を解決していこうとする現実的路線が、環境政策の主流となったこと
1.持続可能な発展議論のはじまり:5 2.地球問題に対する政治的関心が高まり、これにより超長期の人類の発展のあり方そのものが政策決定の中で論じられるようになったこと 3.冷戦構造の崩壊により、先進諸国から途上国への外交政策の転換が求められるようになり、経済援助の性格が軍事的安全保障外交から環境外交や人権外交に重点をおいたものに変化していったこと
2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:1 持続可能な発展の概念の類型 1.強調する観点による分類 ・自然条件から設定する概念 人口経済論第5回(2005年5月16日) 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:1 持続可能な発展の概念の類型 1.強調する観点による分類 ・自然条件から設定する概念 (ピアスD.Pearceなど) ・世代間の公平性を強調する概念(ノーガード R.B.Norgaardなど) ・南の貧困や社会的正義を強調する概念(環境と開発に関する世界委員会World Commission on Environment and Development) 自然条件から設定する概念は、自然の再生能力の範囲内で自然資源を利用し、自然の浄化能力や処理能力の範囲内で汚染物質や廃棄物を排出することを条件としたもので、自然条件をまず設定した上で経済活動の最適化を考慮することを基本とする。人間活動の指標のひとつが人口 世代間の公平性を強調する概念は、自然資源利用に関する将来世代の権利を仮定することにより、持続可能な発展とは世代間の公平性の問題であるというもの。人口は世代間の分配を決定する要因。 社会的正義を強調する概念は、持続的発展は人類全体としても、個々の民族・国家・社会としても追求されるべきものであり、公正な政治・経済・社会システム構築ことが持続的発展の前提となる。ここでは人口増加は主に貧困との関係で論じられ、人口増加のもたらす悪循環の解消が重要な持続可能な発展のひとつの条件として考えられる。
持続可能な発展の概念の類型 2.学問分野のアプローチによる分類 ・経済学的アプローチ ・生態学的アプローチ ・社会文化的アプローチ 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:2 持続可能な発展の概念の類型 2.学問分野のアプローチによる分類 ・経済学的アプローチ ・生態学的アプローチ ・社会文化的アプローチ
ソロー(R.M.Solow1986)などによって提唱 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:3 経済学的アプローチ ソロー(R.M.Solow1986)などによって提唱 所得を生み出す資本のストックを維持した上で得られる所得のフローを最大化することを持続的発展の基本とする 環境は所得を生み出す資本の一部とみなされ、人口増加は労働供給の観点から評価されて、あくまでも経済的効率性の概念が重視される。
2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:4 生態学的アプローチ ペリングス(C.Perrings1991)などによって提唱 生物的及び物理的な系の安定性に焦点をあてて、全ての計を地球規模で安定させるために危険が目前に迫っているサブシステムを取り上げ、その維持可能性を特に重視する。そして生物学的多様性を中心的な評価視点とし、理想的な情的状態を保全するよりも、回復力や変化に適応するシステムの動学的能力の保存を強調し、その許容範囲内で人口収容力や増加のスピードが決定される。
2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:5 社会文化的アプローチ UNEP(1990)が提唱 社会システム及び文化システムの安定性の維持を追及する 現時点の公平性や世代間の公平性を重視し、世界の文化的多様性の保存、少数派の文化に見られる持続可能な監修に関する情報の活用を強調する。 ここでは人口の量的概念よりも質的概念が重要視される
この理念を元に具体的な政策を立てようとするとあいまいな点が多く残されている。 1.持続可能性を如何に定義し、計量できるか 人口経済論第5回(2005年5月16日) 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:6 持続可能な発展という概念の問題点 この理念を元に具体的な政策を立てようとするとあいまいな点が多く残されている。 1.持続可能性を如何に定義し、計量できるか 2.将来の世代のニーズとは一体どのようなものなのか 3.持続可能性という理念のもとで我々が資源の利用等を制限しなくてはならないのか明らかでない この持続可能な発展という概念にはあいまいさが付きまとい、多くの終末論者たちによって謝って解釈される
持続可能な発展とは、経済開発を止め、ゼロ成長を意味するのか? クズネッツ(S.Kuzunets)曲線 人口経済論第5回(2005年5月16日) 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:7 持続可能な発展とは、経済開発を止め、ゼロ成長を意味するのか? クズネッツ(S.Kuzunets)曲線 環境悪化の程度 持続可能な発展とは、経済開発を止め、ゼロ成長になれということではないのでは。 多くの生態学者、エーりっくなどは、ゼロ成長を主張するが、開発が行われ、平均所得が上昇し、環境保全技術が発達し、またそのような保全技術へのアクセスが容易になることによってより良い状況がもたらされる可能性が高い。 経済発展が行われ、所得が上昇し、生活が豊かになると、むしろ環境の悪化を食い止めることができる。 開発が常に自然環境を破壊し、開発と環境がトレードオフの関係にあるとは限らない。 成長と環境の悪化については、環境のクズネッツ曲線と呼ばれる関係がある。 そのアイデアは、一人あたり所得が増加するにつれてはじめのうちは、環境劣化が進むがさらに所得が増加すれば環境劣化が減少するというもの。 この逆U字曲線は、人々が豊かになってはじめて郊外のレベルを下げる余裕が出てくることを示唆する。 一人あたり所得水準
3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:1 持続可能な発展のための戦略 デイリー(H.E.Daly)の4原則 1.環境容量の範囲内に人間の活動を抑える 2.効率を上げる方向で技術を進歩させる 3.再生可能資源は維持しながら最大の利益を生むように使う 4.再生不可能な資源の利用は、再生可能な代替資源を創出した範囲に抑える
3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:2 人口経済論第5回(2005年5月16日) 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:2 世界銀行の途上国援助に際しての戦略(1994年報告) 1.人材開発への投資や効率の向上によって、開発と環境の間にプラスの相互作用を作り出すこと 2.環境への投資、環境計画の支援及び知識ベースの構築などにより、途上国の環境管理を支援すること 3.アセスメントの徹底、強制移住問題への配慮、貧しい弱者への配慮などによって、環境への悪影響を軽減すること 4.地球規模及び広域の問題に配慮すること 教育や環境への投資により環境への負荷を減らすことができるばかりでなく、人口増加さえも抑制できるという強い主張が盛り込まれている。 このような主張の背景には、経済発展により一人あたりの豊かさが増し、教育や環境に投資ができるようになれば、人口もおのずと減るという関係の認識がある。→人口転換理論
3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:3 人口増加と経済成長の間には負の相関関係があるのか? 負の相関があるというの考え方: 経済状態が良くなると出生率が低下し、結果として人口増加率が低くなるというものである。関係する見方として、人口増加は資源及び資本の制約をもたらし、その結果1人あたりのGDPが減少するというもの。(Dixon and Steer 1994)
3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:4 人口増加と経済成長の間には負の相関関係があるのか? 正の相関があるという考え方: 急速な人口増加は高い経済成長を伴う(あるいは穏やかな人口増加は低い経済成長を伴う)という見方もある(byボズラップ:E.Boserup、1981) ボズラップは、人口密度が高いと社会的生産基盤に対する投資が高まり、技術的な発展と金融制度の発展を刺激するとした。
3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:5 人口増加と経済成長の間には負の相関関係があるのか? 相関がないという考え方: 発展途上国における最近の調査によれば、経験的な証拠によって正の相関、負の相関のどちらも裏付けることができず、多くの国における出生率は、どの経済指標よりも女性の教育レベルと家族計画プログラムの存在に関係している。(byUnitedNations1987、Luts1994)
3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:6 人口経済論第5回(2005年5月16日) 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増加の抑制:6 人口増加と経済成長の間には負の相関関係があるのか? 少なくとも人口と所得の関係は文化によって異なりうる 両者の相互関係は、実際には社会の発展の異なった段階に対応して見られる可能性がある。 人口増加の要因は経済や文化など他の要因との相互見解の中で総合的に描かれるのが最近の傾向 人口増加の要因は経済や文化など他の要因との相互見解の中で総合的に描かれるのが最近の傾向
4.地球温暖化に見る人口増加と持続可能な発展のシナリオ:地球の人口扶養力 有限な地球と成長の限界 ローマクラブの『成長の限界』 人口扶養力の試算例