経管栄養が必要となる疾患や病態
経管栄養が必要となる疾患や病態 ○嚥下障害に対する理解 1)高齢者の嚥下に関与する形態的特徴 2)嚥下障害を疑う症状 3)嚥下障害をおこす主な疾患 4)対処方法 ○関連する症状(下痢・便秘)
嚥下障害に対する理解 ・致命的問題は、誤嚥性肺炎、窒息、脱水、低栄養 ・肺炎は、死因の第4位 (抗菌薬はあるが・・・) ・死亡者の9割以上は高齢者 → うち3割が誤嚥性肺炎 嚥下障害に対する理解 嚥下障害が引き起こす問題点は、誤嚥性肺炎や窒息、脱水、低栄養などがあげられます。これらは、時に致命的な状態となることがあります。 我が国の死因の第四位は肺炎です。肺炎による死亡者の9割が高齢者で、そのうち3割程度が誤嚥性肺炎によるものと考えられています。
1)高齢者の嚥下に関与する形態的 特徴(予備能力低下) ・義歯のため粉砕能力の低下 ・加齢による筋力の低下 → 咀嚼時間の延長 口腔内より食物がこぼれ落ちる ・加齢による唾液腺の委縮、脂肪変性 → 唾液の分泌量が減少 口腔内の清潔度の低下 ・加齢による喉頭の位置の低下 → 嚥下にかかる時間の延長 1、高齢者の嚥下の関与する形態的特徴 総義歯装着者は、歯が良い人に比べ、粉砕能力が3分の1から6分の1程度しかないと言われています。 また、加齢による筋力低下で、咀嚼時間が延長したり、口腔内より食べ物がこぼれ落ちます。 加齢によって、唾液腺の委縮や脂肪変性などがおこり、唾液の分泌量が減少し、口腔内の清潔度も落ちてきます。 そして、喉頭の位置も加齢により解剖学的に下降するため、嚥下時の喉頭挙上距離が長くなり、時間も延長します。 食道入口部の弛緩が緩慢となり、咽頭喉頭粘膜の知覚が低下します。 以上のように、高齢者では嚥下に対する予備能力が少なくなっているため、軽度の状況の変化で誤嚥を起こしやすい状態にあるといえます。
2)嚥下障害を疑う症状 ・食事中のむせ、咳、痰 ・食後のがらがら声 ・食欲低下、食事時間の遅延 ・食事中の疲労、口腔内の汚れ、発熱、 体重減少 ・むせのない誤嚥(サイレントアスピレーション) ・夜間や食後の胃食道逆流による誤嚥(重度) → ビデオ嚥下造影、ビデオ内視鏡 2、嚥下障害を疑う症状 嚥下障害を疑う症状には、食事中のむせ、咳、痰、食後のガラガラ声、食欲低下、食事時間の延長、食事中の疲労、口腔内の汚れ、発熱、体重減少などがあります。 また、高齢者では、むせのない誤嚥(サイレントアスピレーション)、夜間や食後の胃食道逆流による誤嚥も念頭に置く必要があります。 嚥下障害の正確な評価に関しては、ビデオ嚥下造影や、内視鏡検査などが必要です。 ビデオ嚥下造影とは、造影剤を嚥下するところをX線透視下で観察し、ビデオに記録する方法です。 ビデオ内視鏡検査とは、鼻腔よりファイバースコープを咽頭に挿入し、実際に食物を嚥下させ、咽頭や喉頭の状態を観察し、ビデオに記録する方法です。
3)嚥下障害をおこす主な疾患 ・脳梗塞・脳出血などの脳血管障害(多い) ・仮性球麻痺 → 中枢性 ・脳幹病変による球麻痺 → 中枢性+末梢性 完全な球麻痺は嚥下反射が消失 ・仮性球麻痺・球麻痺とも、嚥下困難、構音障害、咀嚼 障害 ・無症候性脳梗塞(潜在的仮性球麻痺)脳MRIで発見 ・パーキンソン病・筋委縮性側策硬化症 ・薬剤の副作用 ・認知症・うつ病 3、嚥下障害をおこす主な疾患 嚥下障害をおこす主な疾患としては、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が多いです。 多発性脳梗塞などによる仮性球麻痺や、嚥下中枢がある脳幹の病変による球麻痺が、嚥下障害を残す病態としてあげられます。 また、無症候性脳梗塞(潜在的球麻痺)の存在があり、まったく神経症状がないにも関わらず、脳MRIなどで小梗塞が認められることがあります。 そのほか、パーキンソン病、筋委縮性側策硬化症や、薬剤の副作用、認知症、うつ病で嚥下障害を引き起こします。
4)対処方法 ・・・① ・食事内容の調整 食事でむせる時 ・・・増粘剤の使用・ゼリー・嚥下補助食品 ・口腔ケア ・・・汚染された分泌物は誤嚥性肺炎の原因 ・体位(口からこぼす、口に溜める、むせるなどの場 合) ・・・頭頚部を少し前屈、リクライニング等 4、対処方法 嚥下障害の対処方法として、むせが激しい時、食事内容を調整するなどの対応が必要です。 水分がむせる時は、増粘剤の使用が効果的です。 口腔内の汚染された分泌物は、誤嚥性肺炎の原因となるので、口腔ケアを行うことは極めて重要です。 また、口からこぼす、口に溜める、むせるなどの場合、頚部を少し前屈した姿勢をとるとスムーズに嚥下できることがあります。
4)対処方法 ・・・② ・誤嚥性肺炎 原因は、口腔内細菌、胃内細菌など 繰り返す場合 経管栄養や胃ろう造設 口腔ケア必須 4)対処方法 ・・・② ・誤嚥性肺炎 原因は、口腔内細菌、胃内細菌など 繰り返す場合 経管栄養や胃ろう造設 口腔ケア必須 誤嚥性肺炎の原因は、口腔内細菌や、胃内細菌で、抗生剤に反応しにくいと言われています。 誤嚥性肺炎を繰り返す場合、経管栄養や胃ろうの造設が適応となります。また、先にも述べましたが、いずれにしても口腔ケアを行うことが重要です。
4)対処方法 ・・・③ 誤嚥性肺炎を起こした場合 症状が穏やかな時 ・・・禁食し抗生剤を投与、頻回の痰の吸引 呼吸困難時 ・・・気管切開 窒息の防止 → 緊急時の対応(ハイムリッヒ法、吸引) 誤嚥性肺炎を起こした場合、症状が穏やかな時は、禁食にし、抗生剤を投与し、頻回の痰の吸引を行います。呼吸困難を起こしている時は、気管切開が必要な場合もあります。 窒息を起こしている時の手立てとして、ハイムリッヒ法や吸引があります。 ハイムリッヒ法は、誤嚥で喉がつまった人の背後から、その人の腹部に腕をまわし、片手で握りこぶしを作り、もう一方の手でその握りこぶしを重ね、胸骨とへその間にあてて、持ち上げるように強く、5回ほど連続して圧迫する方法です。
関連する症状(下痢・便秘) 下痢 便の水分量が増加し水様、あるいは泥状の便が排 出され、排便回数が増加。 急性下痢と慢性下痢がある。 下痢 便の水分量が増加し水様、あるいは泥状の便が排 出され、排便回数が増加。 急性下痢と慢性下痢がある。 関連する症状 嚥下に関連する症状として、下痢、便秘があります。 下痢は、便の水分量が増加し、水様あるいは泥状の便が排出され、排便回数が増加します。 固形の便が一日数回排出されるのは頻便といい、下痢と区別します。 下痢には急性下痢と慢性下痢があります。
関連する症状(下痢) 急性下痢 原因 症状 急性炎症 大腸や小腸の炎症、数日で回復 食中毒 下痢、嘔吐、発熱など 急性下痢は、急性炎症や食中毒などがあります。
関連する症状(下痢) 慢性下痢 原因 症状 神経症 長年にわたり下痢が断続的に続くが、体重減少などがなく、社会生活にも支障をきたさないことが多い 食物アレルギー たんぱく質がアレルゲンとなることが多い 過敏性腸 症候群 下痢型、便秘型、下痢と便秘の交互型などのタイプがあり、ストレスにより悪化 潰瘍性 大腸炎 反復性の粘血便や腹痛が主症状(発熱、体重減少) 吸収不良 膵臓、肝臓、胆嚢疾患や腸の疾患による消化吸収障害による下痢(低栄養、貧血、体重減少、浮腫など) 慢性下痢には、過敏性腸症候群や、潰瘍性大腸炎などが原因としてあげられます。
関連する症状(下痢) ブリストル便性状スケール 便の状態 一般的表現 1 木の実のようなコロコロした硬い塊の便 兎糞便 2 短いソーセージのような塊の便 塊便 3 表面にひび割れのあるソーセージの様な便 普通便 4 表面がなめらかで柔らかい(バナナ状)あるいは蛇のようなとぐろを巻く便 〃 5 はっきりとした境界のある柔らかいお粥のような便 軟便 6 境界がほぐれて、ふわふわと柔らかいお粥のような便 泥状便 7 塊のない水のような便 水様便 便の性状を詳しく把握するために、ブルストルスケールが用いられます。便の状態を7段階に分類しています。
関連する症状(便秘) 便秘 ・排便習慣は人それぞれ。排便習慣からみて、異常 に排便が遅延した状態 ・排便の回数、便量の減少、硬い便、排便困難、残 便感などの状態やこれらの状態が組み合わさった 状態 ・目安 → 3日に1回以下の排便、 1週間に2回以下の排便 次は便秘についてです。 排便習慣は人それぞれ違います。排便習慣から以上に排便が遅滞した状態を便秘と言います。 一般的には、排便の回数、便量の減少、硬い便、排便困難、残便感などの状態や、これらの状態が組み合わさった状態を言います。 大まかな目安としては、3日間に1回以下の排便、あるいは1週間に2回以下の排便であれば便秘と考えられます。
関連する症状(便秘) 便秘の分類 ・器質性便秘 ・機能性便秘 弛緩性便秘 けいれん性便秘 直腸性便秘 医原性便秘 産科的便秘 便秘の分類 ・器質性便秘 ・機能性便秘 弛緩性便秘 けいれん性便秘 直腸性便秘 医原性便秘 産科的便秘 便秘には、器質性便秘と機能性便秘があります。
関連する症状(便秘) 便秘の分類・・・器質性便秘 原因・誘因 メカニズム・特徴 ・腸管内外の腫瘍(大腸癌、大腸ポリープ、大腸憩室、子宮筋腫など) ・結腸の狭窄および捻転 ・痔核・肛門裂傷、肛門周囲腫瘍 ・脊髄損傷、脊髄腫瘍 ・甲状腺機能低下症 ・脱水・全身衰弱 ・急な発症で症状が進行性、血便、体重減少、貧血などの症状を伴うことも多い ・脊髄神経、抹消神経障害により排便反射の中断 ・腸の平滑筋緊張の低下、腸蠕動低下 器質性便秘の原因は、腸管内外の腫瘍や結腸の捻転などがあります。
関連する症状(便秘) 便秘の分類・・・機能性便秘 原因・誘因 メカニズム・特徴 弛緩性便秘 食事量、繊維性食品の摂取不足 高齢者、経産婦 運動不足 旅行などによる食事、排泄習慣の変化 胃・結腸反射の低下、排便反射の低下 腹筋力の低下によるいきみの不足 腸蠕動の低下 けいれん性便秘 ストレスや自律神経のアンバランス 腹痛を伴う 直腸性便秘 下剤、浣腸の乱用 便意の意識的抑制 腹圧の減弱 便意を感じる域値の上昇 女性に多い 医原性便秘 抗コリン薬・向精神薬、モルヒネ 臥床、便器の使用 手術侵襲、脱水 腸蠕動の抑制 胃・腸管の筋緊張、肛門括約筋の収縮の増強 産科的便秘 妊娠中、分娩後 プロゲステロンの増加による腸蠕動に低下、分娩時の軟道の裂傷、会陰切開の痛みなど 機能性便秘は、食事量や食物繊維の摂取不足による弛緩性便秘、ストレスや自律神経の乱れによるけいれん性便秘などがあげられます。
関連する症状(便秘) 大腸癌やイレウスの疑いのある所見 →早急に対応を ①便に血や粘液が混じっている ②黒ずんだ便や赤っぽい便、あるいは 灰白色の便が出る ③形の整った便が出なくなった ④便が細くなった ⑤強い腹痛やおう吐を伴う 便秘でも、早急に対応が必要な状態があります。 それは、大腸癌やイレウスの疑いのある場合です。 便に血液や粘液が混じっている、黒ずんだ便や赤っぽい便が出る場合は出血の可能性があります。 灰白色の便がでる場合は、胆道が閉塞している可能性があります。 また、形のある便が出ない、便が細い、強い腹痛や下痢を伴う場合にも注意が必要です。
問診のポイント① ・腹痛:痛みの部位、発症の仕方(いつから、食事や運 動などとの関係)、どのような痛みか、痛みの強さ、持 続時間、反復性、放散痛の有無と程度、アルコールや 薬物の内服との関係など ・食欲不振:程度、体重減少の有無、食事摂取量、倦怠 感、嘔気・嘔吐などの症状、疾患など 問診のポイント 腹痛の場合は、痛みの部位、いつから、食事や運動などとの関係など発症の仕方、どのように痛むか、痛みの強さや持続時間、反復性、放散痛の有無と程度、アルコールや薬物との関係、痛みに関連する既往歴について問診を行います。 食欲不振では、食欲不振の程度、体重減少の有無、実際の食事摂取量、倦怠感、嘔気・嘔吐、痛みなどの症状、食欲不振をきたす既往歴、ダイエットなどについて情報収集を行います。
問診のポイント② ・嘔気・嘔吐:始まった時期、推測できる原因(食事、便通、 ストレスなど)、頭蓋内圧亢進をきたすような外傷、癌、 腎不全といった病歴など ・肥満・やせ:いつからか、食欲、食事摂取量、易疲労感、 脱力感、無力感、筋力低下など 嘔気・嘔吐では、始まった時期、妊娠・食事・アルコール・便通・心理的ストレスなど推測できる原因、頭蓋内圧亢進をきたすような外傷、また、癌、腎不全など病歴について問診を行います。 肥満・やせの疾患に対しては、いつから肥満、やせが始まったか、食欲、食事摂取量、やせの場合は易疲労感、脱力感など情報収集を行います。
問診のポイント③ ・腹部膨満:程度、発現時期、原因の有無(摂取食品、既 往など)、消化器症状、(嘔気、嘔吐、食欲不振、腹鳴、 排ガス、腹痛、便秘、下痢)、腹部手術歴 ・吐血・下血:吐血のみ、あるいは吐血と下血を伴うか、下 血のみか。消化性潰瘍、肝疾患、胃切除の既往歴や飲 酒習慣、非ステロイド系の消炎鎮痛剤、ステロイド剤、 血小板凝集薬などの抗凝固薬、抗生物質などの内服 の有無など。悪心、胃部不快感、腹痛、めまいなどの症 状。 腹部膨満を訴える患者に対しては、問診によって腹部膨満の程度、発現時期、摂食食品や既往歴など原因の有無、嘔吐・食欲不振・腹鳴などの消化器症状、腹部手術歴などの情報収集を行います。 吐血・下血の患者に対しては、吐血のみ、あるいは吐血と下血を伴うか、下血のみかを確認します。また、消化性潰瘍や肝疾患、胃切除の既往や飲酒習慣、消炎鎮痛剤や抗凝固剤、抗生物質の服薬の有無も確認します。
問診のポイント④ ・下痢:排便回数、排便間隔・時刻、便の色、臭い、硬さ、 量、混入物、残便感、腹痛、裏急後重の有無。性格、薬 剤の使用、考えられる食品の有無など。食欲不振、口 渇、空腹感、悪心・嘔吐、腹痛、肛門部痛 ・便秘:排便回数、排便間隔・時刻、便の色、臭い、硬さ、 太さ、量、混入物、残便感、怒責、所要時間など。薬剤 の使用、食事摂取の内容と量、水分摂取量、活動量、 生活リズム、排泄環境、トイレの洋式など。食欲低下、 下腹部不快感、排ガス、鼓腸など。 下痢の患者に対しては、排便回数、排便間隔・時刻、便の色、臭い、硬さ、量、混入物、残便感、腹痛、裏急後重の有無など確認します。また、食欲不振、口渇、空腹感、悪心・嘔吐、腹痛などの随伴症状を確認します。 便秘の患者の問診では、排便回数、排便間隔、便の色、臭い、硬さ、太さ、量、腹痛などを確認します。また、食欲不振や排ガス、鼓腸など便秘の随伴症状についても情報収集を行います。
経管栄養法が適応となる状態 ・全身衰弱が強い場合 ・意識障害のある場合 ・誤嚥のリスクがある場合 ・摂食・嚥下障害がある場合 ・消化器の通過障害がある場合