特別推進研究事後評価ヒアリング 課題:法創造教育方法の開発研究 -法創造科学に向けて- (2007/9/25)

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特別推進研究事後評価ヒアリング 課題:法創造教育方法の開発研究 -法創造科学に向けて- (2007/9/25) 報告者 吉野一(明治学院大学大学院法務職研究科名誉教授) 加賀山茂(明治学院大学大学院法務職研究科教授) 新田克己(東京工業大学大学院総合理工学研究科教授) 「法創造教育方法の開発研究-法創造科学に向けて-」の研究成果につきまして、吉野が代表して説明させていただきます。こちらは、加賀山茂授と新田克己教授です。(各先生は頭を下げて頂く)

1.研究目的とその達成度(報告書1-2頁) 研究目的 達成度 本研究は、法適用においてより適切な法を創造する原理と方法の解明を行い、 それに基づいて、我が国における新しい法創造教育方法を開発することを目的とする。 そして、それを通じて、法創造の科学への道を拓く。 達成度 研究目的は、ほぼ目標通り達成された。 具体的には主な研究成果のところで示す。 【1.研究目的】 本研究の目的は、法適用においてより適切な法を創造する原理と方法の解明を行い、 それに基づいて、我が国における新しい法創造教育方法を開発することにあります{した}。 そしてそれを通じて、間接的に、法創造の科学への道を開くことを目指します{した}。 研究目的は、ほぼ目標通り達成された。 具体的には主な研究成果のところで示す。 %%「した」調がよいか「ます」調がよいか?%%

法創造とは何か(7頁) 法創造とは、法的問題解決のために適切な法文を新たに創り出すことである。  法創造とは何か(7頁) 法創造とは、法的問題解決のために適切な法文を新たに創り出すことである。 法創造は、立法ばかりでなく、法の適用過程においても行われる。 本研究は、法適用における法創造を取り扱った。 ここで、法創造とは何かについて触れておきます。 法創造とは、法的問題解決のために適切な法を新たに創り出すことであります。 法創造は、立法ばかりでなく、法の適用過程においても行われる。 本研究は、法適用における法創造を取り扱う{いました}。

2. 四つの研究課題と役割分担(4頁) 【2. 四つの研究課題と役割分担】 本研究は四つの分担研究課題から構成されます。すなわち、1 法創造基礎の理論的解明、2 実務と教育における法創造の実際の解明、3 法創造教育方法の開発および4 法創造教育支援システムの開発であります。 この図の示すとおり、4つの研究課題は相互に関係します(ポイント) 。共同研究者は10名で、このような役割分担をして、密な連携の下で協力して本研究目的を実現しました。

3. 主な研究成果 概要( 5-6頁) 法創造の基礎理論の構築 実務と教育における法創造の実際の解明 法創造教育支援システムの開発 法適用の推論の論理構造の解明 法仮説の反証推論による妥当性の評価推論の解明 評価基準の国民の価値意識の社会調査および法と経済学の観点による同定 実務と教育における法創造の実際の解明 プロブレムメソッド、ケースメソッド、ソクラティックメソッド、ディスカッションメソッドの機能と構造 契約書作成過程の法創造の契機 模擬裁判の教育方法 法創造教育支援システムの開発 プラットホームとしての法律e-learningシステム 法律知識ベースシステム ソクラティックメソッド支援システム 法的論争支援システム 法創造教育方法の開発 事例に基づく方法 法律知識ベースシステムを利用した法創造教育 論争システムを活用した法創造教育 ソクラティックメソッド支援システムを利用した教育 【3. 主な研究成果】 まず、成果の全体像を示し、その後研究代表者を中心とする幾つかの研究の成果について報告いたします。 研究課題【法創造の基礎理論の構築】ではこのような成果をあげました。 このうち「法適用の推論の論理構造の解明」および 「法仮説の反証推論による妥当性の評価推論の解明」について後に報告します。 【実務と教育における法創造の実際の解明】では このような成果をあげました。 【法創造教育支援システムの開発】では、 このようなシステムを開発しました。 【法創造教育方法の開発】では、 このような教育方法を開発しました。すなわち、 事例に基づく方法 法律知識ベースシステムを利用した法創造教育 論争システムを活用した法創造教育 ソクラティックメソッド支援システムを利用した教育 それぞれについて後ほど簡単に紹介します。 そのさい、開発された各法創造教育支援システムについても触れることにします。

3.2.1.法創造推論の論理構造( 7頁) 法的正当化の推論 法創造の推論 法原則 法規 法常識 解釈 認定された事実 記述された事実 創造(体系化) 法原則 選択 法規 法の目的 法常識 確認 法的正当化の推論 創造(具体化) 法創造の推論 解釈 視線の 往復 認定された事実 創造 記述された事実 法創造基礎の理論的解明の成果として、 まず「法適用における法創造推論の論理構造」が解明されました。 法適用の推論は、相互に連関する法的正当化の推論と法創造の推論から成り立つ。 法の適用では、ある出来事を法的に解決する決定自体が目標文として創設される。 出来事のデータから事実を記述する命題が創設される。 目標文を証明するために、法データから法規が選択され、 法規の意味を具体化する解釈命題と 諸法規を体系化する法原則が創設される。 これらの法文は法的決定が正当化されるように創設される。各法文の創設は相互に関連する。 学生がこれらの法創造推論をする能力を身につける教育方法を本研究は開発したのであります。 (65秒) 出来事 具体的妥当性 創造 法的決定

反証推論とその繰り返しによる法文の評価 {(法仮説 ⇒ 結果) & ¬結果} ⇒ ¬法仮説 %%%20秒以内%%%% {(法仮説 ⇒ 結果)  &  ¬結果}  ⇒ ¬法仮説            %%%20秒以内%%%% 創設される法文は仮説として創設されるが、それは正しいものでなければならない。法仮説の妥当性の評価する推論の構造が具体的に解明された。 その基本構造は反証推論である。それはModus Tollensの構造を持つ。すなわち、法仮説を定立された場合、それを事例に適用した結果を推論し、その結果が否定的に評価されるときに、すなわち、反証されるとき、もとの法仮説自身が否定的に評価される、すなわち反証されるという推論構造である。 この反証推論を、事例を入れ替えて、繰り返すことによって、反証されない、すなわちより妥当な法仮説を同定していく。 学生がこの反証推論を適切に行う能力を育成する教育が法創造教育であります。

3.2.2.法創造教育支援システム(6頁) 全体構造 法律 e-learning システム 法的仮説ルール生成・検証システム  3.2.2.法創造教育支援システム(6頁) 全体構造 法的仮説ルール生成・検証システム 法的論争システム 法的論争支援システム (新田) 仮説生成検証システム (櫻井) 法律知識ベースシステム (吉野・櫻井) ソクラティックメソッド支援システム (櫻井・吉野) 法律 e-learning システム 法創造教育支援システム(のプロトタイプ)が開発された。 開発された法創造教育支援システムの全体はこの図のような構造を有する。 (プラットホーム上に法律データベースとWEB教材および事例問題と問答集を搭載した法律e-learningシステムを構築した。 それと連関させて、法的論争システム、ソクラティックメソッド支援システムおよび法律知識ベースシステムを構築した。 仮説の生成と検証を自動的に行うシステムについては基本設計を完了できた。) 法律データベース・WEB教材 法規・判例・学説・制約知識・立法事由・外国法 (加賀山・吉野・河村・坂本) 事例題集・問答集 (加賀山・吉野・河村・坂本) プラットホーム 法情報調査・Web教材作成支援機能・動画収録・(オンデマンド)放映・LMS機能 (第一法規出版・日本電気)

システムのポータルサイト(9頁) 法創造教育支援システムのポータルサイトです。ここから、各項目(ポイント) をクリックすることにより個々の支援システムに入ります。 作成された支援システム用いた法創造教育方法の開発例を以下において四つ紹介します。

3.2.3.法創造教育方法 (1)事例に基づく方法 基本的方法 発展 事例問題を解決するという仕方で教育するプロブレムメソッド 3.2.3.法創造教育方法 (1)事例に基づく方法 基本的方法 事例問題を解決するという仕方で教育するプロブレムメソッド 発展 事実性の豊かな事例問題を与える 解決を学生自身に考えさせる 法的知識の獲得は問題解決過程で習得 事実性豊かな事例問題の例 事件資料の形の事例問題(付録1: 事例問題3b、46頁以下) e-learning上のビデオによる事例問題教材(次図) 【(1)事例に基づく方法】 法創造教育の基本的方法は、事例に基づく方法であります。すなわち、事例問題を解決するという仕方で教育するプロブレムメソッドであります。 これは米国のロースクールの教育方法ですが、われわれはこれをさらに次の方向で発展させました。 事実性の豊かな、リアリティのある事例問題を与える 解決を学生自身に考えさせる 法的知識を問題解決過程で獲得させる 事実性豊かな事例問題の例として、例えば、お手元の報告書の46頁以下に付録として付した事例問題3bのような事件資料の形の事例問題(群)を作成しました。      

事例問題e-learning教材 (弁護士と依頼人の対話シーン) この事例に基づく方法は、次に述べる三つの方法においても用いられる法創造教育の基本的方法であります。

(2)法律知識ベースを活用した法創造教育 開発されたシステム:LES7 (2)法律知識ベースを活用した法創造教育 開発されたシステム:LES7             われわれは本研究で国際売買契約法の法律知識ベースシステムLES-7およびLES-8を開発した. 法律知識ベースは,法の知識を論理構造化して搭載していて,事例問題に対する法の適用の推論を行い,法的判断とその根拠となる推論過程を示すとともに,法的知識(の構造)自体を参照することのできるコンピュータシステムである.

設例8gのような事例問題に対して、

問を選択して、

例えば、契約が成立したか、

成立したとすれば何時かという問を選択して 推論を実行しますと、(推論実行をクリック)

法的正当化の推論を行い、証明されたゴール、すなわち、結論としての法的判断を導出するとともに、 その根拠を示します。 ここでは、契約が4月9日に成立したという解が証明されています。 そして、その根拠として申込みが4月8日に効力が生じ、 それに対する実質的でない変更を加えた承諾が4月9日に効力を生じた ということが示されています。 この証明のために適用された知識は何かと尋ねますと、(2a1をクリック)

法ルール自体の要件・効果の構造を示してくれます。 (戻るをクリック)

事例問題を解決する 法的知識の体系化教育(10-12頁) (4) 統合ルールの確立: 法規の実際の意味を 正しく理解し、説明する (3) 発見: 諸ルールの相互関係(メタルールを含む) 諸ルールの内部関係 (2) 学生によるルールの構成 法律知識ベースシステム 法律知識ベースはいろいろな教育利用の仕方があります、 われわれは、その一つとして、法律知識ベースを用いて、学生自身に法的知識をボトムアップに体系化する法創造能力を育成する方法を開発した。 (1) 学生には制定法の諸条文と事例問題が与えられる。 (2) 学生は、知識ベース上に、事例問題の法的解決を論証できるルールを構成していく。   一つの事例問題を解決するルールが構成されたら別の事例問題が与えられ、それを正しく解決するようにルールを再構成する。 (3) このような作業を通じて学生ルールの内部関係と相互関係を発見する。 (4) 最後に、統合ルールを確立する。法の生きた意味を正しく理解し、説明できるようになる。 (45秒) (1) 制定法と事例問題

(3)論争システムを活用した法創造教育 開発された法的論争システム(13頁) われわれは(新田教授)法的論争システムを開発しました。そして論争システムを活用した法創造教育方法を開発しました。

論争システムを活用した サイバー模擬裁判を通じた法創造教育 法律構成と論争の知識構造の解説 原告の立場で目標文の創設 プロブレム(事実資料)から法事実文の創設 法データからの法ルール文群の創設 法律構成と準備書面の作成 被告の立場で2-5を行う    (教師による準備書面の評価と添削) サイバー模擬法廷での論争    (論争の、自己、他の学生および教師による評価) 授業のシナリオ 論争システムを活用した、サイバー模擬裁判を通じた法創造教育の方法 (学生全員がノートPCを持って授業に参加します) ①「法律構成と論争の知識構造の解説」   その知識構造の理解が、以下の学習の枠組みとして妥当する。 ②「原告の立場で目標文を創設」 ③「事実資料から法事実文を創設」 ④「法データからの目標を証明する法ルール文群を創設」 ⑤「法律構成を行い、それを準備書面の形にまとめる」 ⑥被告の立場で2-5を行う 「教師による準備書面の評価と添削」 ⑦「サイバー模擬法廷での論争」  サイバー模擬法廷は、論争システムまたは電子掲示板上で行われます。  【その長所は、多数のものが論争に参加できること、論争が記録に残ること、遠隔模擬裁判も可能であること等です。】 論争の、自己、他の学生および教師による評価 %%このスライドは省略した方がよいか?%%

(4) ソクラティックメソッド支援システムを活用した法創造教育 教師 学習のガイド(設例や質問の選択) 知識の提供 問題集 支援システム 設例や質問の提示 質問集 学生の入力した 回答の蓄積 回答入力 学生 (4) ソクラティックメソッド支援システムを利用した法創造教育方法 この支援システムは、事例問題に対するソクラティックメソッドの問答を、教師または学生に提供するものである。 (適用事例として、上述の盗難バックホー引渡請求事件の最高裁判決(最三判平12・6・27民集54巻5号1737頁)を素材にして)、盗品トラクター返還請求事例を作成し、システムを用いて、最高裁判例を批判的に考察し、さらに民法194条の解釈案または改正案の妥当性を反証推論を行って吟味するソクラティックな問答過程をシステム化した。 反証推論過程を繰り返し行うことで、学生に法反証推論の思考習慣を身につけさせるというのがねらいである。 【このシステムの利点は、教室外で学生が自習に用いることが出来ること、教室で利用する場合は、通常のソクラティックメソッドの場合は教師の質問に応えるのは同時には一人の学生に限られるが、授業に参加するすべての学生が同時に回答を入力できること、利用を重ねるに連れて学生の回答が蓄積されていくので、システム自体とソクラティックメソッドを用いた教育準備(以後の教授戦略の立案や設問の立て方の検討)がより充実したものとなることなどにある。】 回答集 学生の理解度把握、設例や質問の作成および教授戦略立案に利用 学生の法的思考力の育成に利用

適用結果の否定的評価から改正案の反証推論 学生は自分の解釈案や改正案の妥当性を、システムとの問答により反証推論を行い吟味することができる。画面は、学生の創設した民法194条の改正案が、その適用結果の否定的評価から反証されたところである。 (13,14: 55秒)

4. 当該学問分野及び関連分野への貢献度(32-33頁) 法曹教育の分野 法創造教育方法は創造的思考力を有する法律家の育成に貢献する 法学教育の分野 従来のトップダウンの知識供与型教育から、学生が興味をもって主体的思考と知識獲得を習得する教育への転換 高等教育全般への共通性・拡大性 事例問題を解く過程で知識を体系的に獲得 知識と推論の構造を枠組みとして習得 サイバー空間での論争を通じての教育 創造性教育へのITの有効活用 ⇒文部科学大臣賞受賞(2006年全国IT活用教育方法研究発表会) 【4. 当該学問分野及び関連分野への貢献度】 法曹教育の分野 われわれの開発した法創造教育方法は創造的思考力を有する法律家の育成に貢献する 大学学部の法学教育の分野 従来のトップダウンの知識供与型教育から、学生が興味をもって主体的思考と知識獲得を習得する教育への転換を可能とする 高等教育全般へ共通性・拡大性 事例問題を解く過程で知識の体系を獲得すること 知識と推論の構造を枠組みとして理解させること サイバー空間での論争を通じての教育 創造性育成教育へのITの有効活用、等の点で 高等教育全般へ共通性・拡大性を有する その評価の一つとして     2006年度の文部学大臣賞の受賞(2006年全国IT活用教育方法研究発表会)もあると思う

5. 研究成果の公表の状況(34-45頁) 関連学会へ特集(英2,和2)、論文(英38,和91)等で貢献 関連学会には、論文、口頭発表等でも貢献しています。 とくに国際ジャーナル等の論文38点、国際学会での口頭発表19点のように国際学会にも大いに貢献しました。

むすび 有り難うございました 今後の課題 スパイラルな法創造教育 開発された法創造教育方法の普及 1年次から3年次までのスパイラルな法創造教育の実現 解明された知見を法の基礎理論としてまとめる 法創造の科学を具現していく 終わりに 今後の課題を述べます。 開発された法創造教育方法の普及 1年次から3年次までのスパイラルな法創造教育の実現 (ポイント) 解明された知見を法の基礎理論としてまとめる 開かれた解明された知見を法の基礎理論としてまとめる 法創造の科学を具現していく 質問:法創造の科学を具現化するとは何か? 例えば、法的知識と推論の論理構造を厳密かつ詳細に解明し、コンピュータ上に法律知識ベースとして法的正当化の推論をシミュレート可能としたこと、あるいは法仮説の評価基準を法社会学的調査により同定したこと等、法創造の科学が実際に展開された 「法創造の科学」への道を、本研究成果に基づき、具体的にまとめること。 可能性が開かれたので、著作の形で明確に示していく。 吉野一「レクチャーメソッド」・『Logical Jurisprudence』 加賀山茂「現代民法・入門」 太田勝造編著「チャレンジする東大法科大学院生-社会科学における家族法・知的財産法の探究」(商事法務) %%「法創造の科学へ」について触れなくてよいか?%% 有り難うございました