アジアの安全保障 ーハブ・スポークスからコンバージェンスへ?-

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アジアの安全保障 ーハブ・スポークスからコンバージェンスへ?- 安全保障論 (第8回) 担当:神保 謙

第8回講義のねらい アジアにおける安全保障の重層的構造と役割分担を理解する(ポスト冷戦・ポスト9.11) アジア・太平洋地域における同盟関係と多国間安全保障協力の基本構造を学ぶ 近年の新しい4つの構造変化(同盟・ウェブ型安全保障・多国間安全保障・アドホック型協力)について問題提起する

欧州の安全保障(第7回)レビュー a1 抑止・対抗型 (同盟) b1 域外脅威対処型の同盟 a2 (COCOM型) b2 域外平和構築型             脅威の性格     特定                不特定 NATO非5条任務 a1 抑止・対抗型 (同盟) b1   域外脅威対処型の同盟 a2 (COCOM型) b2 域外平和構築型 c1 危機管理 d1 集団安全保障型 c2 共通の安全保障 d2 協調的安全保障  非包括     包括      非包括   包括 外 部          内 部 脅威の所在 EUペータースベルク任務 NATO・EU加盟国拡大 (出所)山本吉宣「協調的安全保障の可能性—基礎的な考察」      『国際問題』第425号(1995年8月)4頁を基に修正

冷戦期の2戦域(theater) ワルシャワ 北大西洋条約機構 条約機構 アジア戦域 欧州戦域 (第2戦域) (第1戦域) 米国との二国間安全保障関係

サンフランシスコ体制 サンフランシスコ条約 なぜ「ハブ・スポークス」なのか? 日米安全保障条約(1951年~、60年改訂) 米比相互防衛条約(1951年~) ANZUS条約(1951年~) 米韓相互防衛条約(1953年~) 米華相互防衛条約(1954年~1979年) なぜ「ハブ・スポークス」なのか? アジアにおける脅威認識(ソ連・中国・北朝鮮・その他の共産圏)の多様性 異なる戦後経験

欧州における二項対立的世界観と比較して・・・ “Checker Board” (Z. Brzezinski) 欧州戦域とアジア戦域の比較(冷戦期) ワルシャワ条約機構 北大西洋条約機構 米中和解 (1971) 中ソ対立 (1950s~89) 中国 北朝鮮 中・ベトナム対立 (1979~) 北ベトナム 米国との二国間安全保障関係 欧州における二項対立的世界観と比較して・・・ 複雑な東アジアの「戦域」! “Checker Board” (Z. Brzezinski) 冷戦(欧州)⇒「長い平和」 熱戦(アジア)⇒朝鮮戦争・ベトナム戦争 リンケージ・ポリティクスの可能性 中ソ対立⇒米中(日中)和解 (1971-2)

欧州戦域とアジア戦域の比較(冷戦後) ワルシャワ 条約機構 北大西洋条約機構 朝鮮半島 台湾海峡 米国との二国間安全保障関係 南シナ海 領有権 冷戦構造の残滓 ①朝鮮半島:北朝鮮(先軍政治と瀬戸際外交) ②台湾海峡:中国(武力行使オプションを維持) 「ハブ・アンド・スポークス」構造の継続 ①サンフランシスコ体制(二国間同盟)の継続 ②米軍のプレゼンスの維持

冷戦後の世界秩序と「平和の配当」論 東アジア戦略報告(EASI: 1990, 92) 多国間安全保障論の台頭 3段階の米軍撤退提案 米軍撤退後のコミットメントは不明確? ⇒東南アジアを中心に「力の真空」論の浮上 多国間安全保障論の台頭 1990年「CSCE型安全保障機構」提案(カナダ) 1990年「CSCA」提案(オーストラリア) 1991年「中山提案」(日本) 1992年「シンガポール宣言」(ASEAN)

米国国防総省の東アジア安全保障政策(EASI-1990) Our friends and allies in East Asia are reluctant to enter into multilateral consultation on security concern for a variety of reasons. Foremost is the wide cultural, political and economic diversity among most of the Asian states which makes bilateral security arrangements much more appropriate                ―February 1990   US Department of Defense, A Strategic Framework for the Asian Pacific Rim: Looking toward the 21st Century. April 19, 1990.

アジア太平洋多国間安全保障形成前史 1986年 「ウラジオストク演説」(ソ) 1990年 CSCE型安全保障提案(加) 1986年 「ウラジオストク演説」(ソ) 1990年 CSCE型安全保障提案(加) 1990年 CSCA(豪) 1991年 「中山提案」(日) 1992年 「シンガポール宣言」(ASEAN) 1993年 「ARF設立合意」(ASEAN-PMC) 1994年 ARF設立

米国国防総省の東アジア安全保障戦略(EASR-1995) “Some in the United States have been reluctant to enter into regional security dialogues in Asia, but I see this as a way to supplement our alliances and forward military presence, not to supplant them”  ー February 1995 ― US Department of Defense, The United States Security Strategy for East Asia-Pacific Region, February 1995

冷戦後の同盟と多国間安全保障 同盟関係 多国間安全保障 1990 東アジア戦略報告I (EASI-I) 1990 豪・加CSCA提案 1992  東アジア戦略報告II (EASI-II) 1995  東アジア戦略報告(EASR) 1996  日米安全保障共同宣言 1997  日米防衛協力のガイドライン見直し 1998  東アジア戦略報告(EASR-II) 2000  日米韓 ”TCOG” の発足 2001 第1回 Team-Challenge 2003  米韓同盟政策構想 (FOTA) 2004  日米戦略対話 (DPRI) 2005  「2+2」共同宣言(共通の戦略目標) 多国間安全保障 1990 豪・加CSCA提案 1991 中山提案(日本) 1992 ASEAN「シンガポール宣言」 1994 ASEAN地域フォーラムの設立 1996 上海ファイブ設立 2001 上海協力機構設立 2003 六者協議

日本外務省の東アジア安全保障認識『外交青書』-2003年 「アジア太平洋地域の平和と安定を確保するためには、この地域における米国の存在と関与を前提としつつ、二国間及びASEAN地域フォーラム(ARF)等の多国間の対話の枠組みを幾重にも重ねる形で整備し、強化していくことが現実的で適切な方策であると考えられる」 ー外務省『外交青書』(平成15年度版)

二軌道(Double Track)構造の成立?                  勢力均衡(抑止・対処)   同盟関係                  多国間安全保障協力 (日米同盟等)                     (ARF等)  協調的安全保障(信頼醸成・予防外交) 補完関係 基盤の提供

【東アジア安全保障の新展開 I】 同盟関係の「地域化」「グローバル化」 【東アジア安全保障の新展開 I】 同盟関係の「地域化」「グローバル化」 地域「安定化」機能の強化 EASR-II (1998) “Presence Plus” と地域安定化 MOOTWや平和維持機能の付与 Global Posture Review (2003-) Threat-based から Capability-basedへ 米軍の世界的展開のためのネットワーク化 グローバルな「共通の戦略目標」 日米「2+2」共同声明(2005.2) 国際平和協力 対テロリズム エネルギー安全保障 開発・復興支援・民生安定化

「防衛計画の大綱」にみる脅威認識・政策・制度 グローバル リージョナル バイラテラル ナショナル 脅 威 認 識 政 策 制 度 国際テロリズム ゲリラ・特殊部隊 北朝鮮 中国 島嶼部侵略 極東ロシア WMD・ミサイル拡散 弾道ミサイル攻撃 中東から東アジア      に至る地域 日米間の緊密な協力 日米防衛協力 統合運用強化 ODAの戦略的活用 情報機能強化 国連改革 ARF(信頼醸成・予防外交) 国際平和協力活動 国際平和協力法 日米防衛協力の ガイドライン 日米安保条約 自衛隊法 対テロ特措法 有事関連法制 周辺事態法 イラク支援特措法 国民保護法製

【東アジア安全保障の新展開 II】 協調的安全保障⇒制度化されたメカニズムへ 【東アジア安全保障の新展開 II】 協調的安全保障⇒制度化されたメカニズムへ ASEAN地域フォーラム 「信頼醸成」(第1段階)から「予防外交」(第2段階)へ ARF議長の役割拡大・専門家登録 ARF事務局・危険削減センター(RRC)設置・ASEAN+非ASEAN共同議長 上海協力機構 中国・ロシア・中央アジアでの安全保障政策協調 対テロリズム 六者協議 「共同宣言」(2005年9月17日)にて北朝鮮の完全な非核化を明示

【東アジア安全保障の新展開 III】 「ウェブ型安全保障」の台頭 【東アジア安全保障の新展開 III】 「ウェブ型安全保障」の台頭 「ハブ・スポーク」から「ウェブ」へ? Team-Challenge “Cobra Gold” “Tandem Thurust” “Balitakan”の融合 アジア型 CJTFの可能性? 日米韓「北朝鮮に関する政策調整」(TCOG) Trilateral Coordination Oversight Group

Hub-Spokes Systems からWeb へ TCOG Team Challenge

【東アジア安全保障の新展開 Ⅳ】 意志ある主体同士の連携(Coalition of the Willing) 地域概念にとらわれない、問題領域に応じたグルーピング(Barry Buzan: “Security Complex”の形成 同盟・多国間安全保障の従来の構造を超えた自律的な協力メカニズムの形成      →対テロリズム協力        拡散安全保障イニシアティブ(PSI)

多国間安全保障の新展開 日米安保 米韓安保 (Collective Security) TCOG 上海協力機構 チームチャレンジ構想 PSI    メンバー 機能 非排他的・包含的・地域的 (地理的概念に基づくグルーピング) 排他的・限定的・機能的 (Regional Security Complex) 強制力 有 競争的力学 (抑止・対処型) (Collective Security) 日米安保      米韓安保     TCOG 強制力 無 協調的力学 (予防・対話型) 上海協力機構 ASEAN地域フォーラム シャングリラ・ダイアローグ チームチャレンジ構想 PSI Coalition of the Willing

中国とアジア太平洋多国間安全保障 あらゆる軍事ブロックの形成、それに関連する安全保障枠組みの拒否(1982-1993) 多国間安全保障への「消極的参加」 (1993-1995) 多国間安全保障への「主体的参加」 (1996-2000) 多国間安全保障への「選択的提案化」(2000-) ASEAN+3と「東アジア共同体」提案 米軍事演習「コブラ・ゴールド」へのオブザーバー派遣(非伝統ミッション) 「新安全保障観」と”Position Paper” ARFにおける「安全保障政策会議」提案 多国間安全保障への「準秩序構築」(2003-) 上海協力機構における軍事協力 イラン・パキスタン・インド参加の慫慂 ASEAN+3における安全保障協力提案

【参考A】 中国の国際安全保障協力 SCO 六者協議 ASEAN+1,3 ARF 出典:『2004年の中国の国防』 【参考A】 中国の国際安全保障協力 中露戦略対話 合同軍事演習 中英海上 SAR(04) 中仏戦略対話 中仏海上SAR 中蒙防衛安全協議 SCO 六者協議 米中対話 国防部長訪問(03) 中・キルギス・カザフ戦略的協議 中日防衛部門安全協議 中パ防衛・安全協議 中パ軍事演習(04) ハイチPKO 中タイ安全協議 米タイ「コブラ・ゴールド」参観 リベリアPKO 印・国防部長訪問(03) 中・パ・印海上共同SAR(03) コンゴPKO ASEAN+1,3 ARF 中豪戦略的防衛協議 中豪海上SAR(04) 出典:『2004年の中国の国防』     『東アジア戦略概観』(各年度)     『アジアの安全保障』(各年度)     各種報道等

【参考B】 日本の国際安全保障協力 六者協議 日米韓防衛実務者協議 ASEAN+1,3 ARF 防衛当局フォーラム 日露防衛交流 【参考B】 日本の国際安全保障協力 日露防衛交流 海上合同SAR 日英防衛交流 六者協議 日韓防衛交流 海上合同SAR ゴラン高原PKO 日中防衛交流 日米同盟関係 イラク部隊派遣 日米韓防衛実務者協議 日印防衛交流 コブラ・ゴールド参加 タイ・空幕長訪問 比・長官訪問 イ・シ・マ 長官訪問 ASEAN+1,3 インド洋部隊派遣 ARF 防衛当局フォーラム 日豪防衛交流 ピッチ・ブラック参観

空間横断の安全保障? National Level Security 日本有事 Regional Level Security 周辺事態 イラク支援特措法 テロ特別措置法 PKO協力法 Global Level Security?

「空間横断型」 「多層型」 安全保障の構造 日米同盟「共通の戦略目標」 上海協力機構 六者協議 同盟関係のネットワーク化 ASEAN安全保障共同体 ASEAN地域フォーラム 「空間横断型」 「多層型」      安全保障の構造