パート 3 リスクに基づく判断と行動 インフルエンザのリスク要因、感染防御 A香港型(H3N2)とAソ連型(H1N1) による日本の死亡者数

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パート 3 リスクに基づく判断と行動 インフルエンザのリスク要因、感染防御 A香港型(H3N2)とAソ連型(H1N1) による日本の死亡者数 健康者の死亡数: 毎年 約1000名 癌や糖尿病等の基礎疾患がある患者の死亡数: 毎年 約1万名 インフルエンザ流行に関連する肺炎死亡数は人口10万人当り10人を越え(96/97、98/99シーズンの超過死亡数)、そのほとんどが65歳以上の高齢者であった。インフルエンザに関連すると考えられる脳炎・脳症で死亡した子供達は、年間100~200人に及ぶ。 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1) による世界の死亡者数 2003年から現在までの5年余において 患者数: 320名 死亡者数: 200名 リスクに基づく判断と行動

癌や糖尿病等の基礎疾患がある患者の死亡数を除く 現在発生しているソ連型と香港型に対する予防が重要であり、将来起きるかも知れない新型インフルエンザと現在のH5N1を混同して危機感を煽ることは良くない! 1818名 1171名 癌や糖尿病等の基礎疾患がある患者の死亡数を除く

罹患率は年少者が高く、 死亡率は高齢者が高い

1997年の香港におけるH5N1患者発生時のパニック時に書いた「安全と危険:御存じですか?」の状況は、その後、どうなっているか・・・

1997年の香港におけるH5N1患者発生時のパニック時に書いた「安全と危険:御存じですか?」の状況は、その後、どうなっているか・・・

安全性に関する意識が国際社会とかけ離れている日本 人口1000人当りの年間流通量 安全性に関する意識が国際社会とかけ離れている日本 リスク音痴 ワクチン接種率の推移(’80―95) 倉根修二、「インフルエンザ(最近の話題) 」、日本医科大学雑誌 (2002)

平成18年度インフルエンザワクチン流通状況調査報告 社団法人細菌製剤脇会

ワクチン製造の存続が危ぶまれたが、何とか持ちこたえて復興を果たした! 1980 第8回インフルエンザワクチン需要検討会の検討結果について(平成16年、厚労省)

1962年 学童を対象に集団接種を勧奨。 1976年 予防接種法に基づく接種開始。 1987年 保護者の同意が必要となる。 1962年 学童を対象に集団接種を勧奨。 1976年 予防接種法に基づく接種開始。 1987年 保護者の同意が必要となる。 1994年 予防接種法改正により任意接種となる。 2001年 予防接種法改正により、65歳以上の者等については、インフルエンザが定期の予防接種の対象疾患と位置づけられ、高齢者への予防接種促進が図られた。 本川 裕 の 「社会実情データ図録」

1796年 英国のE. Jennerが天然痘の予防法として種痘(牛痘法)を発明。日本にこの牛痘由来の痘苗が到着したのは1848年のことである。それまでは、患者のカサブタを健康児に接種する「人痘法」が行われていた。副作用の少ない「牛痘法」は人々に光明をもたらした。日本の痘瘡患者数は1946年に約1万8千人、死亡者3千人であった。 「七五三」のいわれを知ってますか? 患者数が減った1950年以降になって、それまで隠れていた種痘後脳炎が発見された。10~50万人接種当り1人の割合で、その致死率は40%と高く、社会問題化した。 1980年5月WHOは天然痘の世界根絶宣言を行い、種痘も中止となった。インフルエンザに関しては、ヒトしか感染しない痘瘡とは違って、野生動物が関与しているため根絶は不可能であり、将来ともワクチンは不可欠である。

高齢者に限っても、ワクチン接種率は先進諸国の中では低い 本川 裕 の 「社会実情データ図録」 高齢者に限っても、ワクチン接種率は先進諸国の中では低い

インフルエンザ予防接種対象者についての勧告の有無と費用負担(1995年) ワクチン 配布用量 (人口千対) 国または 社会保険による 費用負担 国 高齢者 (≧65) 老人施設  入所者 保健医療  従事者 米国 イタリア フランス オーストラリア オランダ ノルウェー イギリス フィンランド 韓国 ドイツ スイス デンマーク 日本 239 136 119 117 114 105 102 96 95 80 64 56 8 ○ - ○ - ○ - ○ - 「インフルエンザ対策の国際動向」 廣田良夫大阪市立大学教授(医学研究科公衆衛生学)  (Link)

定期の予防接種(二類疾病) 任意の予防接種 予防接種ガイドライン (Link) 対象年齢: ① 65歳以上の者、 ②60歳以上65歳未満の者であって,心臓、腎臓又は呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活行動が極度に制限される程度の障害を有する者及びヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常の生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者。 回数: 毎年度1回 接種量:  0.5ml 方法: 皮下 任意の予防接種 任意の予防接種は,被接種者及び医師の責任と判断によって行われるものであり、行政が勧奨するものではない。 対象年齢:  二類の対象者を除く全年齢 回数: 1回又は2回 間隔:  1~4週(3~4週が望ましい) 接種量:  1歳未満0.1ml、 1~5歳 0.2ml、 6~12歳0.3ml、 13歳以上0.5ml 方法: 皮下

厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班編集 乳幼児に対する効果は、高齢者と同様に、発病率や重症化する率を低くする効果が期待される。 学童は「学校保健法」により解熱後2日まで出席停止となり、学級閉鎖や学校閉鎖も行われる。 厚生労働省インフルエンザ脳炎・脳症研究班編集 『「インフルエンザ脳症」の手引き』

ワクチンにより副作用が発現する確率は、子供達におけるインフルエンザによる死亡や脳症の確率より遥かに低いのだが・・・

脳炎はウイルスが直接脳細胞に障害を起こすが、脳症は感染に対する生体反応の結果引起されるものであり、解熱剤の関与が示唆されている。

ワクチン接種(2回)をした人としていない人のインフルエンザ罹患率状況比較 平成10年度の調査結果 ( 医療法人社団慶友会) 平成10年度の調査結果 ( 医療法人社団慶友会) 不幸なことに、ネット上には、「昨今、インフルエンザワクチンの接種を薦める風潮があり、メディアもこぞって推奨している。これらメディアに登場するしたり顔の医療ジャーナリストは薬屋の回し者と言うべきであろう。」といったページが山ほどある。

インフルエンザワクチンの有効性 (Link) 廣田良夫 大阪市立大学教授(医学研究科公衆衛生学) 20% 接種群(500人、罹患率6%) 6% 30人 非感染者:94%(470人) 14% 70人 0.3 オッズ比: 相対危険は「発病リスクを0.3に下げる」 1.0 非接種群(50人、罹患率20%) 非感染者:80%(40人) 20% 10人 医療関係者でも、こうしたリスク査定方式に慣れていない! 集団免疫が有効である条件: 接種率80%以上 医療機関の受診者 6% 30人 20% 10人 「40人の患者のうち30人、実に75%がワクチン接種を受けていた」という実態をもとに、「ワクチンは無効」と錯覚した。 6% 30人 20% 10人

インフルエンザワクチンの有効性 (Link) 廣田良夫 大阪市立大学教授(医学研究科公衆衛生学) 「ワクチンの有効性は,集団調査では認めても個人においては明確でない」、「接種しても罹る人がいる」といった理由により、ワクチンの有効性を否定する意見があります。ここで注意を要するのは「コインを1,000回投げた時に表が出る確率は50%であるが、今投げたコインが表である確率は0%か100%である」という点です。前者を事前確率,後者を事後確率と言っており、事後確率は常に0%か100%になります。薬剤や治療法の選択は集団データから得られた事前確率に基づいて行われており、事後確率が常に100%であることを保証する医療行為は存在しません。事後確率によりワクチンの有効性を否定することは、現在行われている多くの医療行為の合理性を否定するのと同様であり、科学的根拠はありません。 「100%安全でなければ、安全とは言えない」という「ゼロ・リスク」の主張は、全ての社会活動を否定するものです。「リスク」の語源はイタリア語で「勇気をもって試みる」という意味だそうです。リスクを許容しない社会に発展はありません。(岡本)