ウェブアクセシビリティの 社会的重要性と障害者政策について

Slides:



Advertisements
Similar presentations
個人情報保護講座 目 次 第1章 はじめに 第2章 個人情報と保有個人情報 第3章 個人情報保護条例に規定されている県の義務 第4章 個人情報の漏えい 第5章 個人情報取扱事務の登録 第6章 保有の制限 第7章 個人情報の取得制限 第8章 利用及び提供の制限 第9章 安全性及び正確性の確保 第 10.
Advertisements

The International Patent System 2016 年 7 月 1 日発効の PCT 規則改正.
資料1 情報関連政策体系の推移と現状分析 ・戦後 60 年の我が国情報関連政策・制度の推移一覧 ・戦後 60 年の我が国情報関連政策・制度の推移の概要 ・政府報告書の政策マップ ・ e-Japan 戦略 /e-Japan Ⅱ(コンテンツ関連)の政策マップ ・知的財産大網 / 知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画の政策マップ.
Copyright 2015, Nippon Telegraph and Telephone Corporation JIS規格 JIS X :2010 および総務省:みんなの公共 サイト運用モデル解説 2015年2月25日 渡辺 昌洋 NTTサービスエボリューション研究所 ユニバーサルUXデザインプロジェクト.
ウェブアクセシビリティ義務化は 合理的な政策か 2013 年 11 月 21 日 山田 肇 (東洋大学) 遊間和子 (国際社会経済研究 所)
1. 2 従来の割当雇用制度と雇用に対する差別禁 止法的アプローチの取り入れ方の問題 → 共存できるのか 福祉的雇用と一般雇用 → 差別禁止法的には考慮の必要 ex. 法的には福祉的就労者は労働者ではな い ex. 法的には福祉的就労者は労働者ではな い.
ウェブアクセシビリティ推進協会の概要 2010年4月23日 東洋大学 山田 肇 表示-非営利-改変禁止 2.1 日本.
国及び地方公共団体が分担すべき役割の明確化 機関委任事務制度の廃止及びそれに伴う事務区分の再構成
東京都30自治体サイトに おけるアクセシビリティ調査結果
~国民経済的な視点から見た社会保障~ 2000/6/14 木下 良太
障害者権利条約の批准と 情報アクセシビリティ
労使協定により65歳まで継続して雇用する社員を選別する基準を定めている場合は…
東京に拠点を置く公共性の高い 団体・企業Webサイトについての アクセシビリティ調査結果
2014年6月男女平等月間 学習会資料 連合総合男女平等局
社会福祉法人の財務諸表等開示システムの概要等①
障害者の雇用・就労促進のための 関係行政機関会議の開催について
地方公共団体オープンデータ推進ガイドライン および手引書の見直し(案)
電子行政オープンデータ推進のためのロードマップ(工程表)
【資料3】 条例検討会議について 平成28年8月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
【資料5】 条例の基本的な方向性について 平成28年8月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
障害のある人の相談に関する調整委員会の設置
宮城県内自治体サイトの アクセシビリティ調査結果
4 第3次障害者基本計画の特徴 障害者基本計画 経緯等 概要(特徴) 障害者基本法に基づき政府が策定する障害者施策に関する基本計画
インターネットの規制   最近の話題から メディアコミュニケーションⅢ 6/20/08.
障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針の概要
2016年3月10日(木) 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室
H28.7.8社会福祉法人制度改革の施行に向けた全国担当者説明会
於:大阪弁護士会館 2013年6月22日(土) 介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット 共同代表 弁護士 藤 岡 毅
現行の静岡市障がい者計画・障がい福祉計画の概要
学ぼう!総合福祉法 2011年8月27日 全通研集会学習会.
よりよい通訳・介助をするために福祉制度を知ろう
教職員学習資料 『部落差別解消法』より学ぶ 大分県教育庁人権・同和教育課.
知的障害・発達障害 と差別解消法 2013年9月28日(土) REASE公開講座:知的障害・発達障害と社会
東京都福祉のまちづくり推進計画改定の基本的考え方(意見具申の概要)
GDPRの適用開始に向けて 個人情報保護委員会事務局.
新規学卒者等の募集・採用にあたり、 「地域限定正社員制度」 の導入を検討しませんか?
実践型地域雇用創造事業 ≪概要≫ 実施スキーム 事業内容 厚生労働省 地域雇用創造協議会 外部有識者等 都道府県 地域の経済団体 市町村
第1章 日本の統計制度 ー 経済統計 ー.
血液事業と血液製剤 血液新法 鹿児島大学輸血部 古川良尚.
最先端ICT都市の実現に向け、「ICTの徹底活用」と「ICTの適正利用」を基本に取組をすすめます
主な人権課題から.
2014年6月男女平等月間 学習会資料 連合総合男女平等局
「政府標準利用規約(第2.0版)」の概要 「政府標準利用規約(第2.0版)」の概要は以下のとおり。 1.基本的なコンテンツの利用ルール
【資料3】 骨子案の検討事項について 平成28年9月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
地方公共団体実行計画を核とした地域の低炭素化 基盤整備事業
第4次障害者基本計画と公共調達による出版物アクセシビリティの推進
Kinjo-Gakuin Univ. © 2008 Motohiro HASEGAWA
エコアクション21で企業価値を高めることができます
地方公共団体オープンデータ推進ガイドラインの概要(案)
平成29年10月30日 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室
地方公共団体オープンデータ推進ガイドラインの概要
SCS研修「高等教育における障害者支援(2)」 国際的な障害者の権利保障と教育
資料10-1 エコアクション21  事業概要.
「政府標準利用規約(第1.0版)」の概要 「政府標準利用規約(第1.0版)」の概要は以下のとおり。 1.基本的なコンテンツの利用ルール
基礎技術ー3 : Webページの標準規格について
障害者差別解消法の概要について ~ 不当な差別的取扱いとは、合理的配慮の提供とは ~
総務省の各部局について説明します 行政 管理局 行政 評価局 統計局 自治 行政局 自治 財政局 自治 税務局 消防庁
【バリアフリー対応のバス(リフト付バス)】
地方創生に向けた自治体SDGs推進事業 平成30年度予算案5億円(平成30年度からの新規事業) 実施期間:平成30年度~(新規)
オープンデータ活用の推進に関する基本的な考え方 オープンデータ活用の推進に関する取り組み
(平成25年6月25日 各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)
アメリカのプロパテント政策 2002.10.11.
Kinjo-Gakuin Univ. © 2007 Motohiro HASEGAWA
あいサポート条例(愛称)素案の概要 1 制定の目的 2 条例案の内容
障害者への合理的配慮を示すマークの検討会
内部統制とは何か.
2019年度 すべての教職員のための授業改善研修 本研修の背景とねらい
障害者差別解消法と図書館  松原聡(東洋大学副学長)
○ 大阪府におけるHACCP普及について S 大阪版 評価制度を設ける 大阪府の現状 大阪府の今後の方向性 《従来型基準》
ホテル・旅館のバリアフリー化に係る検討会等
Presentation transcript:

ウェブアクセシビリティの 社会的重要性と障害者政策について 2015年2月25日 山田 肇 ウェブアクセシビリティ推進協会理事長東洋大学

障害者を排除する公共サービス アクセシビリティ非対応は障害者の利用を阻害 厚生労働省は、2015年2月20日締め切りで、「障害者の雇用の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令案」について意見募集 e-Govシステムが、視覚障害者による意見提出を阻害

国立国会図書館サイトの問題点 重要な情報がCSS背景画像になっている 見出し要素が不足している など

情報通信をフルに活用する情報社会 情報通信を利用することで社会生活が営まれる 大学受験情報はインターネットで検索する 就職試験のエントリーはインターネットで 企業間取引は電子化される おいしい店はネットで探す 旅行予約はインターネットで割引 情報通信を利用できなければ社会参加できない時代

社会生活でのウェブの活用と障壁 ウェブは障害者にも多くの利便 アクセシビリティに対応しない公共サイトでは、障害者が公共サービスを利用できない アクセシビリティ非対応は、高齢者・スマートフォン利用者などにも、利用しずらい・利用できない問題をもたらす

各国のウェブアクセシビリティ義務化動向 オーストラリア、米国、英国、ドイツ、韓国、ニュージーランド、カナダなど、義務化は世界的潮流 ウェブは法律では直接規定されず、公共性のある施設の一つとしての扱い 根拠は人権法。ウェブへのアクセスは基本的人権であり、「実施に伴う負担が過重でないとき」にはといった条件は付されない WCAG2.0の達成等級AAが目標

WCAG2.0(Web Content Accessibility Guidelines第2.0版)と達成等級 JIS X8341-3:2010として国内標準 ISO/IEC 40500:2012として世界標準 個々の達成基準をA、AA、AAAに分類 達成等級Aに適合するにはAに分類された達成基準のすべてを満たすことを要求 達成等級Aではα%の、加えてAAにも適合すれば、(α+β)%の利用者ニーズを満たす

障害者権利条約でのアクセシビリティ 2006年12月に国連総会で採択され。2008年5月に発効した条約。わが国は2013年に批准し、2014年2月に条約の効力がわが国で発生 前文「障害者が全ての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たっては、……情報及び通信を利用しやすいようにすることが重要であることを認め」

障害者権利条約でのアクセシビリティ 第九条「施設及びサービス等の利用の容易さ」 締約国は、障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会を有することを確保するための適当な措置をとる

障害者基本法の2011年改正 象徴的な改正項目 社会連帯=社会福祉から、基本的人権への視点の転換 電気通信及び放送その他の情報の提供に係る役務の提供並びに電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者は、社会連帯の理念に基づき、当該役務の提供又は当該機器の製造等に当たつては、障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない 社会連帯=社会福祉から、基本的人権への視点の転換

障害者差別解消法(2016年施行予定): 行政機関等の義務(第七条) 直接的差別の禁止 障害者差別解消法(2016年施行予定): 行政機関等の義務(第七条) 間接的差別の禁止 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 …障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、…社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

障害者差別解消法(2016年施行予定): 事業者の義務(第八条) 直接的差別の禁止 障害者差別解消法(2016年施行予定): 事業者の義務(第八条) 間接的差別の禁止 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 …障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、…社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

障害者差別解消法の意思 行政機関等だけでなく、民間の事業者も対応すべきというのが、障害者差別解消法の要求 直接的差別を禁止したうえで、意図しない差別が存在した際には、過重な負担を伴わない場合の合理的対応を要求 行政機関に準じる公共機関には『実質義務が課せられている』と認識すべきだが、対応は遅れている

障害者基本計画策定(2013年9月) 障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している、事物、制度、慣行、観念等の社会的障壁の除去を進め……社会のバリアフリー化を推進し、アクセシビリティの向上を図る 障害者が円滑に情報を取得・利用し、意思表示やコミュニケーションを行うことができるように、情報通信における情報アクセシビリティの向上、情報提供の充実、コミュニケーション支援の充実等、情報の利用におけるアクセシビリティの向上を推進する

行政情報のバリアフリー化 各府省において,障害者を含む全ての人の利用しやすさに配慮した行政情報の電子的提供の充実に取り組むとともに、地方公共団体等の公的機関におけるウェブアクセシビリティの向上等に向けた取組を促進する 民間の事業者よりも強い義務を行政機関等に課そうという考え方に基づく

障害者差別解消法に基づく基本方針の策定 障害者政策委員会で進行中。原案を公開し、2014年12月期限でパブリックコメントを実施 障害者差別の解消のための取組は、このような環境の整備を行うための施策と連携しながら進められることが重要であり、ハード面でのバリアフリー化施策、情報の取得・利用・発信におけるアクセシビリティ向上のための施策、職員に対する研修等、環境の整備の施策を着実に進めることが必要である

2010年に集中した環境整備のための活動 国内標準JIS X8341-3「ウェブコンテンツ」の改正(WCAG2.0に一致) 国と地方公共団体に「みんなの公共サイト運用モデル」の改訂版を配布 ウェブアクセシビリティ基盤委員会発足。JISを実装する際に必要な情報を提供 ウェブアクセシビリティ推進協会発足

象徴的課題:外国人への防災情報の提供 東京都渋谷区の場合、公式サイトのEnglishをクリックすると、以下の警告を英語で表示 この翻訳は、プログラムを利用し、日本語版「渋谷区ホームページ」の翻訳が、機械的に行われますので、内容が100%正確であるとは限りません。 翻訳文によっては、本来の意味からはずれた結果になることもあります。 渋谷区と翻訳プログラムを提供する事業者は、当翻訳に起因する損害について一切の責任を負いません

象徴的課題:外国人への防災情報の提供 先に進むと表示されるのは 被災しても渋谷区は責任を負わないと言えるか

まとめ ウェブは利便を提供するが、アクセシビリティ非対応は「利用できない問題」を引き起こす 障害者権利条約・障害者基本法・障害者差別解消法と、これらに基づく計画・方針により、公共機関でのウェブアクセシビリティ義務化への強い流れ 今がアクセシビリティ対応の「最後の機会」