文献の読み方と 知っておいてほしい 有機合成化学の基礎知識 分離精製工学 第11回講義 (分離精製の試験には出題しませんが レポートを書く際の参考にして下さい)
構造式をみる際に注意してほしい事 構造式は紙面(2次元)上に表記する ので実際の構造とは違っている可能 性があります。 皆さんの質問が多かった文言 配布223頁 大きな分子は分子全体の構造を最適(エネルギーを最小)にするために個々の結合の様子がそれのみの場合や小分子の場合とは大きく異なる事があります。 また分子も3次元に存在するため紙面では表現しにくい事があります。 エーテル結合 グルコキナーゼ賦活化剤の分子構造イメージ
構造式をみる際に注意してほしい事 構造式は紙面(2次元)上に表記するの で実際の構造とは違っている可能性が あります。 手元に分子模型などがあるならば実際 に組み立てて見ると解りやすいですし、 組み立てにくい(結合を表す棒が歪む 等)分子ほど合成し難い特徴を持ってい る筈です。 この様に分子の3次元的な構造の議論 したり、明らかにするための方法論等を 立体化学(stereochemistry)と呼びます。 分子模型
複雑な化合物を合成する方法(アプローチ) 出発物質に官能基を導入 官能基を利用して炭素ー炭素結合(主鎖)を生成 外周部の官能基を導入 既に安定に存在している分子にいきなり官能基を導入したり、結合の生成反応は難しい。有機合成において各種の官能基がこれらの基本になる。 まずは官能基の性質と相互変換の方法(反応条件)を知っておくのが必須 官能基導入 還元(水素添加) 官能基導入 炭素差生成 外周部官能基導入 224頁
複雑な化合物を合成する方法(アプローチ) 炭素ー炭素結合(主鎖)を生成は割愛 保護基(protective group)の活用 今回は激しいニトロ化反応のステップ手 前でジアミンを保護 反応性の高い官能基をその後の反応 に於いて不活性な官能基に変換してお くこと→保護基の生成(保護) 保護した官能基は必要な反応が終了し た後、適当な反応を行うことで保護を外 す(脱保護) 複雑な化合物の合成では保護基の選 択などで成否を分けることも多い。また、 保護を施すことで分子全体の反応性が 変わる場合もあるので注意 保護基生成 反応 脱保護 不必要に反応 反応
合成ルート選択の考え方(直線的か収束的か) A-B-C-Dという構造の分子を合成したい(224頁Scheme8.1の9はどこ で合成した方が有利か?) 直接的合成ルート A+B → A-B+C → A-B-C + D → A-B-C-D (3ステップ) 収束的合成ルート A+B 及び C+D → A-B + C-D → A-B-C-D (2ステップ) 各工程の収率を掛けた値が全体収率になるので工程短縮は非常に 効果的です。収率が悪い保護基のテクニックを使っているとどうして も2ステップ増えてしまうので泣き所でもあります。 225頁8.1.2 (Process Development)以降でルートのどこを収束合成に 変更したかを読み取る事
収束的合成を組み立てるときに大切な逆合成分析(解析)の考え方 逆合成解析(Retrosynthetic analysis)は多段階合成をする際に目的化合物から 効率的な合成経路を決定する方法 目的とする分子を単純な構造の前駆体へと合理的に切り分ける最終的には、 同様な手法を繰り返すことで各々の前駆体を入手容易な(市販されている)化 合物へと導く方法 コンピュータ将棋に非常に似ています。分子軌道法(下期で説明します)を併用 すると合成ルートもコンピュータが考えた方が早い時代が近いです
不斉炭素の取り扱い キラリティー (chirality) は3次元の図形や物体や現象がその鏡像と 重ね合わすことができない性質 キラル分子は右手と左手の様に互いに鏡像である1対の立体異性 体を持ち、これら2つの異性体は互いにエナンチオマー (enantiomer) 対掌体(対称体は×)、あるいは鏡像異性体(きょうぞういせいたい) と呼ぶ。 Scheme8.1の最終ステップでこれらの分離に関して行う精製工程がある。何が悪くて(文節8.1.1.1)、どの様に改善したか(8.1.2以降)を読み取る事
不斉炭素の取り扱い 医薬品や天然物の分野ではエナンチオマーが全く違う生理作用(片や生理 活性,片や毒性)を持つ例が少なくない→第01回講義のサリドマイドも同様; 分離精製の完成度が低かった 光学分割(分離精製→ 8.1.1Medical Route) ラセミ体で合成し、結晶化・ジアステレオマーに誘導して分離などの方法で両 異性体を分割する。確実に半分は無駄になるが、価格は安い場合が多い キラルプール(天然物由来) 安価に手に入る天然物などの不斉点を生かし、これを変換して目的物に取り 入れる。簡単に適切なキラルプールが手に入るかが問題 不斉合成(全合成) 不斉触媒、不斉補助基などを用いて、反応によって不斉点を創る。無駄な異 性体ができない、キラルプールに左右されない。一般にコストは高い
引用文献(238頁)の読み方 238頁には謝辞(Acknowledges)と引用文献(References)が書いてあり ます。 引用文献を読む際にはそれだけは絶対に読まない様にして下さい。 最初の論文は新しい物質や現象の確認だけで公開されてしまう例 が多いです。 同様な論文で2報目はこの現象などを原理的(化学の場合には電子 論など)に説明したり、より丁寧な分析結果がなければ公開(出版)さ れません。4年生の卒業研究をする際や修士課程になったら必ず2 報目以降の論文も探して、読む様にして下さい(私が30年科学技術 の世界で生活するために心がけている生活の知恵です)。