極低温X線検出器のための 断熱消磁冷凍機の開発 宇宙物理実験研究室 床井 和世

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極低温X線検出器のための 断熱消磁冷凍機の開発 宇宙物理実験研究室 床井 和世 極低温X線検出器のための 断熱消磁冷凍機の開発 宇宙物理実験研究室 床井 和世 DIOS 衛星 (提案中 PI:大橋) 宇宙の構造と進化の解明 ⇒ TES型X線マイクロカロリメータ開発 ・ 超伝導遷移端を利用した極低温検出器 ・ 100 mK 以下で ΔE < 10 eV のエネルギー分解能 私たちの研究グループでは、宇宙における物質の3次元マップを作成し、宇宙の構造と進化の解明を目的とした 次世代X線天文衛星への搭載を目指したTES型X線マイクロカロリメータの開発を行っています。 TES型X線マイクロカロリメータは超伝導遷移端を利用した極低温検出器であり、 0.1K以下の極低温環境で 10eV以下の優れたエネルギー分解能を実現します。 今後のX線天文衛星の開発ではDIOSといった衛星計画の中にTES型X線マイクロカロリメータの搭載を検討してます。 ここで断熱消磁冷凍機は、無重力の宇宙環境でこの極低温を実現する冷凍機として、カロリメータを動作させる上で不可欠であり、 その動作環境について研究を進めることが必要です。 断熱消磁冷凍機 (Adiabatic Demagnetization Refrigerator; ADR) 宇宙環境で動作可能、 100 mK以下を実現、温度安定度10 µK以下

目的 地上実験用、小型で可搬型 首都大ADR一号機 (これまで) ・ 動作温度100 mKで10 時間保持 ・ 温度安定度 10 µK ・ 液体He保持時間 40時間 50 cm 首都大ADR一号機 ADR一号機故障 → ADR二号機製作 ★ ADR熱設計 ★ソルトピル(磁性体カプセル)の製作と評価 私たちの研究室で開発しているADRは、X線観測装置として地上実験用に設計されたもので、小型で可搬型という特徴がある。 本研究室ではADR一号機の開発が進められてきたが、2005年初めに実験中の事故により使用できなくなった。 そのためADR二号機を製作することとなり、現在は冷凍機としての機能をようやく発揮し始めた次期にある。 本講演では新しいADRの製作の伴い、ADR一号機から改善したAl蒸着フィルム(MLI)によるADR熱設計と、 冷凍機の冷媒として用いる磁性体カプセルの自作とその評価について報告する。

目次 1、 ADRの原理 2、 ソルトピルの製作 3、 冷却試験 4、 まとめと今後

断熱消磁の冷却原理 内部模式図 ソルトピル 等磁場曲線 昇温 温度制御 等温磁化 磁場 大 断熱消磁 超伝導 コイル ヒート スイッチ Zz 断熱消磁冷凍機の内部模式図はこのようになっています。 超伝導コイルに電流を流し磁性塩に磁場をかけることで電子スピンを操作し系のエントロピーを制御することで極低温を作り出します。 この原理はこの図のような温度とエントロピーの関係を表す等磁場曲線を用いて示されます。 図中で磁場は左上から右下にかけて強くなっていきます。 磁性塩をヒートスイッチをつけ熱浴とつないだ状態では系のスピンはばらばらですが、 ここで磁場をかけていくとスピンは全て一様に揃います。 ここでヒートスイッチを切り磁性塩を熱浴と切り離し、断熱状態を作り出し、磁場をさげていくと、等エントロピーで低磁場の曲線に移るので 温度が極低温に下がります。 実際に測定を行う場合にはある程度磁場をかけながら、一定温度を保つことになり、 この場合もスピンが完全にばらけると温度を保つことができなくなり昇温過程に入ります。 磁性塩の選択により最低到達温度や保持時間が変わります。 磁性塩を貯めたカプセルを、以後、ソルトピルと呼びます。 断熱消磁

首都大ADRの中心部の構造 ヒートスイッチ 熱浴とのON、OFF ソルトピル エントロピー操作で磁気冷凍 He タ ン ク 超伝導コイル ソルトピルに磁場を作る これはADRの断面図で、中心部の構造は、このようになっていて、冷媒となるソルトピルと、それを囲む超伝導マグネット、 そして熱浴とソルトピルの切り離しをするヒートスイッチによりできています。 ソルトピルはマグネットの上下から6本のワイヤーでつるし、流入熱を極力防ぎます。 超伝導マグネットによりソルトピルに磁場を作ります。 そしてヒートスイッチを通して熱浴となるLHeに磁性体の磁化熱を流し、ヒートスイッチを切ることでソルトピルを断熱します。

ソルトピル容器構造 8.8 cm 2.4 cm 8N銅線 ステンレス円筒 銅ふた 銅棒 Cuパイプ 電子ビーム溶接 銀ろうづけ ・ 外筒 SUS304 (厚さ0.2mm、24mmφ、長さ80mm) ・ ふた 無酸素銅 ・ 8N(99.999999%)銅線(0.1mmφ 160本) → ソルトピル内部の熱伝導をよくする

ソルトピルの磁性塩の選択 磁性塩が冷凍機の最低到達温度や保持時間を決める ● ADR一号機 ● ADR二号機 ● ADR一号機 ● ADR二号機 FAA : Feミョウバン CPA : Cr K ミョウバン [Fe(NH4)(SO4)212H2O] [Cr K(SO4)2・12H2O] キュリー温度 26mK 4~11mK 保持時間(流入熱1µWで60 mK) 50 gで13時間 50 gで10時間 ・ FAAより動作温度を低くできる ・ NeXT衛星で使用予定 2mm ・磁化測定(2K) 文献値の 77~108% ・質量密度測定 1.63±0.07 g/cm3 (文献値1.83 g/cm3) 冷凍機の冷媒には常磁性体を用います。 常磁性体を用いるのは低温で強磁性体となりエントロピーが下がり、低温で大きな比熱を持つからです。 私たちはADRの磁性塩として一般的な、クロムとカリウムの硫化物である CrKミョウバンを用いたソルトピルの開発をしています。 CPAソルトピルは次世代衛星に搭載予定となっており、その性質を研究することは重要です。 CrKミョウバンは、キュリー温度 4-11mK と低く、結晶作りの溶媒として強酸を使わないので扱い易いという特徴があります。 ただ、結晶成長が遅いため、結晶析出を自動化させるために循環法をとりました。 CrKミョウバンは 40℃以上で結晶が劣化するため、40℃以下での飽和溶解度曲線を実測から作成し、飽和溶液温度と析出温度を決めました。 また、CrKミョウバンの磁化と密度の測定も行いました。 いくつかのCrKミョウバン結晶サンプルで磁化測定した結果、文献モデルの 77-108%で少しばらつきありました。 密度の測定では、文献値で 1.83g/cm3 なのが測定値で 1.63g/cm3 とやや小さくなりました。 このような結果から、結晶内の水が抜けた可能性も考えられます。 499g/mol、密度 1.83g/cm^3、キュリー温度 4-11mK。 CPAは結晶を溶かすのに純水を使えるので、強酸を使うFAAより取り扱いが簡単である。 しかし、CPAはFAAと比べて結晶成長が遅いので、速い結晶化の方法を開発した。 よりよい結晶化速度を知るため、純水100gに対するCPAの飽和溶解度を調べた。 溶解度曲線のモデル化 W(T)=2.19exp(0.09224T)+6.452[g/100ml water]。 Tは溶解温度(セルシウス)。 これより、飽和溶液温度を36℃にし、結晶化温度を15℃と決めた。 流量 1ml/s で、恒温槽(40℃)内に置いた36℃の飽和溶液をポンプで送り、 冷却装置で冷却水を循環させ冷やし結晶を析出させ、廃液をまた恒温槽の溶液に送り、循環させるという仕組み。 結晶析出速度は 0.5g/h で、40gのCPA結晶をソルトピル容器内に溜めた。 常磁性塩の密度と磁気モーメントは、結晶化の課程に依存する。 磁気モーメントは rf-SQUID を異なるサンプルで測定した。 測定した質量密度は1.63g/cm^3 である。 測定値と文献値(1.83g/cm^3)の密度の違いは、たぶん結晶の水が抜けたためだろう。 自作したCPA結晶

循環式結晶析出法 CPAは結晶成長が遅い 強酸を使わない 循環式を採用 実測した飽和溶解度曲線 溶液循環模式図 1ml/s 恒温槽 90 70 50 30 10 1ml/s 恒温槽 40℃以上で結晶劣化 15℃ 36℃ ソルトピル 溶解度 [g/水100ml] 飽和溶液 冷却水 0 10 20 30 40 温度 [℃] 冷却装置

循環装置 恒温槽 ポンプ ソルトピル 飽和溶液 析出速度 0.5 g/h(従来の10倍) 析出結晶 53 g (充填率 85%) 冷却装置 結晶析出のための循環法の写真と図です。 飽和溶液は恒温槽で36℃に保ちます。 析出させるソルトピル容器は、等温化をはかるため円筒のAl熱浴に入れ、さらに周りに冷却装置から冷却水を循環させ、15℃に保ちます。 各部分には温度計を付け温度変化を常時モニターしています。 溶液をポンプで 約1ml/s で循環させ、薄まった溶液を一日に一度交換することで、24時間ほぼノンストップで結晶析出が可能になります。 従来の循環をさせないただの再結晶法による結晶析出は 2g/2day でしたが、今回の方法で析出速度 0.5g/h で40gの結晶析出ができました。 循環法では、冷却温度や循環速度をうまく調整しないとパイプやホースの途中で結晶が析出してしまいつまります。 またソルトピル内の液面を調整するため、定期的にパイプの位置を析出に合わせて上げていったりと、こつがいります。 冷却装置

冷却試験 Wisconsin大 首都大 宇宙研 Wisconsin大 商業用ADRを用い試作ソルトピルで結晶の評価 容器構造を改善(SUS 1/3) 首都大 ADR二号機とソルトピルの評価 宇宙科学研究本部(宇宙研) 将来的に導入見込みであり同様に評価 Wisconsin大 首都大 宇宙研 試作 ソルトピル

冷却サイクル (例) Wisconsin大冷却試験結果 ヒートスイッチ ON OFF 4.3 T コイル磁場[ T ] 0 T 0 T 磁化熱を 熱浴に流す 一号機より冷え、結晶の性能を確認 温度[K] 2 K 2 K 励磁開始 消磁開始 64 mK 時間 (s)

実験結果 Wisconsin大 首都大 宇宙研 消磁開始温度; TH 2.1 K 2.5 K 1.86 K 最大磁場 ; BH 4.2 T 1.36 T 2.5 T 到達温度 ; TL 64 mK 250 mK 120 mK (理想値) ; TL0 50 mK 184 mK 75 mK グラフより B/T ~ 一定 到達温度 →初期温度と磁場で決まる 首都大の最大磁場が弱く改善が必要 温度 [K] 首都大 宇宙研 Wisconsin大 0 磁場 [T] 4.0 2 0.5 理想的な到達温度は内部磁場BLで決まる 外部磁場 0 にしても残る磁化 TL0 = TH BL / BH (BL= 0.1 T) 到達温度と理想値の違いについて考察

到達温度を制限している要因 ① 熱流入(支持ワイヤー、配線、輻射) ② 磁場分布の不均一性 ③ 容器に使われている SUS, Cu による冷却能力の損失 ④ ソルトピル内部の温度勾配 ⑤ Eddy current (渦電流) による加熱 ⑥ CPA 結晶の内部磁場の不定性

熱流入の実測と見積もり dT/dt =1.9 µK/s (220 mK) dT/dt =17.6 µK/s (255 mK) Wisconsin大 首都大 宇宙研 時間[s] Wisconsin大 首都大 宇宙研 実測 P = C (dT/dt) 0.25 [µW] 2.0 [µW] 1.5 [µW] 見積もり 支持ワイヤー 0.23 0.1 1.0 配線 0.004 0.18 0.13 輻射 (σT4) 0.00007 0.0002 0.0002 超過熱流入 2 (26 K) 0.4 (17 K) 断熱消磁中の温度上昇 1 mK 16 mK 6mK

磁場分布の不均一性 磁場計算ソフトを用いて磁場分布を見積もる ソルトピル (例)首都大 ソルトピル ヒートスイッチ T1 H1 5.5 mm マグネットコイル ソルトピル 80 mm 77 mm 5.5 mm H2 T2 (例)首都大

磁場分布の不均一性 10 cm 8 cm 8 cm Wisconsin大 首都大 宇宙研 ソルトピル位置 0.7T 2.5 T コイル中心 平均磁場 3.76 T 1.13 T 2.09 T 平均/最大 90% 83% 84% 到達温度上昇 4~6 mK 23~37 mK 9~15 mK

終わり SUS, Cuによる冷却能力の損失 45 g (例) Wisconsin大 0.1 CPA測定値 (Vilches,Wheatley) CPA理論値 0.01 熱容量 [J/K] SUS(50mK-1K) SUS(1K~) 終わり 28 g 0.001 100 mK以下で上昇 Cu 182g 温度 [K] 0.1 1 2 SUS 28 g (20 mJ) Cu 182 g (4.5 mJ) 温度上昇 ~4 mK 首都大、宇宙研ではSUSを1/3にし、損失は問題にならない

ソルトピル内部の温度勾配 (例) 宇宙研データ ソルトピル下温度計 流入熱P、熱伝導率G、温度勾配ΔTの関係 P = GΔT 温度 [K] ソルトピル上温度計 ソルトピル上下に付けたヒーターと温度計を使い、熱伝導率Gを測定 時間 [s] Wisconsin 首都大 宇宙研 Gの実測 0.83 0.5~0.83 0.48 [mW/K] Pの実測 0.25 2.0 1.5 [µW] 温度勾配 0.3 2.4~4 3 [mK]

要因のまとめ(首都大) ① 熱流入(支持ワイヤー、配線、輻射) 16mK ② 磁場の不均一性 23~37 mK ③ SUS, Cu による冷却能力の損失 ~1 mK ④ ソルトピル内部の温度勾配 2.4~4 mK ⑤ Eddy current による加熱 ~0.4 mK ⑥ CPA 結晶の内部磁化の不定性 (BL=0.1 Tを仮定) 損失合計 43~59 mK 理想値 184 mK 理想値+損失 227~243 mK 実測の到達温度 250 mK 見積もった損失を考慮すれば、到達温度の説明がつく Wisconsin、宇宙研の結果も同様に説明可

まとめと今後の課題 まとめ ・ 熱設計によりHe保持時間 36時間を達成 ・ 循環結晶析出法による CPA ソルトピルの製作システムを構築 ・ ソルトピル容器を設計・製作 ・ 冷却試験を行い、冷却温度を制限している要因について考察 今後の課題 ・ 首都大ADRの最低到達温度の改善 最大磁場を2.8 Tまでかける 消磁開始温度を2 Kに下げる 熱流入を0.6~0.8 µWに下げる 到達温度 86 mKが達成できる 目標50mK → マグネット、減圧ポンプの更新が望ましい まとめです。 循環結晶法で自作したCrKミョウバンソルトピルで 最低到達温度 64mK を達成しました。 また、この冷却温度を制限している要因についてほぼ解明することができました。 今後の課題は、 熱損失の大きかったソルトピル容器構造の最適化と、 劣化のないCrKミョウバン結晶の作成です。 また、鉄ミョウバンソルトピルと特性を比較してみたいと思います。 現在製作中のソルトピルは、SUS の厚さ 0.5mm ⇒ 0.2mm に薄くすることで、39mK以下を目指しています。

終わり

要因のまとめ(全部) Wisconsin大 首都大 宇宙研 ① 熱流入 1 16 6 mK ③ SUS, Cu による冷却能力の損失 4 1 ~1.5 mK ④ ソルトピル内部の温度勾配 0.3 2.4~4 3 mK ⑤ Eddy current による加熱 13 0.4 ~0.3 mK ⑥ CPA 結晶の内部磁化の不定性 損失合計 22~24 43~59 20~26 理想値 50 184 75 理想値+損失 72~74 227~243 95~101 実測の到達温度 64 250 120

課題 ・ 最大磁場を2.8Tまでかける ・ 消磁開始温度を2Kに下げる ・ 熱流入をADR一号機で実現していた0.6~0.8μW以下に下げる 見積もり TL=TH BL /BH = 2×0.1/2.8 = 71mK 熱流入の影響 熱流入1/3なので16mKの1/3 → ~5mK 磁場の影響 平均磁場 2.8×83%=2.324 T → 9~15mK SUS,Cuの影響 ~1mK 温度勾配 熱流入1/3なので4mKの1/3 → ~1mK 到達温度 86mKが達成できる 50mKを達成するには 初期温度1.5K、磁場4T → 37mK

熱流入の見積もり方 Wisconsin大 首都大 宇宙研 0.5K以上 支持ワイヤー ; Q1 [µW] 0.2 0.12 0.95 流入熱と熱容量はそれぞれ時間変化するので、簡単のため温度範囲を切って見積もった熱流入と平均した熱容量で計算 Wisconsin大 首都大 宇宙研 支持ワイヤー ; Q1 [µW] 0.2 0.12 0.95 輻射 ; Q2 [µW] --- ~1.8 ~ 0.3 時間 ; t [s] 700 1000 600 (Q1+Q2)×t [mJ] 0.14 1.92 0.75 熱容量 [mJ/K] 200 150 200 温度上昇 0.7 mK 12.8mK 3.5 mK 0.5K以上 0.5-0.1K 支持ワイヤー 0.225 0.125 1.03 輻射 --- ~1.8 ~ 0.3 時間 360 200 360 (Q1+Q2)t [mJ] 0.08 0.385 0.48 熱容量 [mJ/K] 200 150 200 温度上昇 0.4mK 2.6mK 2.4mK 1 mK 16 mK 6 mK

Eddy current 磁界変化を要する際、金属部分に渦電流が誘起され、ジュール熱が発生する。渦電流は磁束が導体を貫く面積が大きいと急速に増加する。 ・ γ=4/π, A断面積, V体積, ρ電気抵抗率 ρ= 3.6×10-8 (4N銅線実測) Wisconsin大 首都大 宇宙研 ジュール熱[mJ] 2.65 0.078 0.68 熱容量 [mJ/K] 200 150 200 温度上昇 13mK 0.5 mK 0.34mK ρ= 1.6~18×10-8 [Ωcm] Wisconsin大 首都大 宇宙研 ジュール熱[mJ] 0.53~6.05 0.015~0.175 0.14~1.57 熱容量 [mJ/K] 200 150 200 温度上昇 [mK] 2.6~30 0.01 ~1.2 0.7~7.85

磁場分布の不均一性 B / T = 一定 の関係を使い、最大磁場と平均磁場での到達温度の違いを見積もる (内部磁場は 0.06~0.01 T にふる) Wisconsin大 首都大 宇宙研 消磁開始温度 2.1 K 2.5 K 1.86 K 最大磁場 4.2 T 1.36 T 2.5 T 見積り(0.1T) 50 mK 184 mK 74 mK 見積り(0.08T) 40 mK 147 mK 60 mK 見積り(0.06 T) 30 mK 110 mK 45 mK 平均磁場 3.76 T 1.13 T 2.09 T 見積り(0.1T) 56 mK 221 mK 89 mK 見積り(0.08T) 45mK 177 mK 71 mK 見積り(0.06 T) 34 mK 133 mK 53 mK 到達温度上昇 4~6 mK 23~37 mK 9~15 mK

磁場分布の不均一性(首都大) B / T = 一定 の関係を使い、最大磁場と平均磁場での到達温度の違いを見積もる (内部磁場は 0.06~0.1 T にふる) 消磁開始温度 2 K 最大磁場 2.8 T 見積り(0.1T) 71 mK 見積り(0.08T) 57 mK 見積り(0.06 T) 43 mK 平均磁場 2.324 T 見積り(0.1T) 86 mK 見積り(0.08T) 69 mK 見積り(0.06 T) 52 mK 到達温度上昇 9~15 mK

常磁性体 常磁性体を冷媒として用いるのは、低温で強磁性体となり、エントロピーが下がるため、低温にて大きな比熱を持ち得るため冷媒として使用することができる

すざくのADR 半導体マイクロカロリメータが搭載 固体ネオンを予冷用冷媒に使用 一回の断熱消磁冷凍で動作温度60 mKを36時間保持できる設計

希釈とADR ・ 希釈冷凍機 3He と4Heを分留、混合することで冷却する冷凍機。 3He と4Heの混合液は臨界温度 0.76K 以下で3He-濃縮層 と3He-希薄層に分離し、 4Heより軽い3He が上に浮かぶ。 3He のエンタルピーは2層で異なり、これを希釈混合させることで冷却が起こり、3He の循環速度を上げることで大きな冷却能力を得る。 磁場による影響をほとんど受けないので実験室で使用される。 ヒーターを用いて温度制御 ・ ADR 冷媒に固体を使用しているため高い温度安定性 固体冷媒を冷凍機内に封入させるため冷却能力劣る 磁場の影響が懸念される

1. TESカロリメータの動作原理 α 熱容量C ΔE ∝ kBT 2C /α ・X線マイクロカロリメータ ・TES温度計 (Transition Edge Sensor) X線光子のエネルギーを 素子の温度上昇として検出 超伝導転移端を温度計として利用 熱容量C 温度計 T 吸収体 低温熱浴 Ts X線 熱伝導度 G RT カーブ α logR 常伝導 X線入射 動作点 超伝導 logT エネルギー分解能は素子の熱容量 Cと温度 Tで書かれるフォノンの揺らぎで決まる エネルギー分解能 温度計の感度 α = d log R d log T ΔE ∝  kBT 2C /α

温度kT=2keV の光学的に薄いプラズマから放射される 6.7keVの鉄輝線 エネルギー分解能がよくなると各輝線の微細構造まで見える

ADRの熱設計 輻射による熱侵入を防ぐための多層断熱構造(Multi-Layer Insulation) 液体 He注入口 300-130K 領域 MLI 実装 130-30K 領域 He t a n k 50 cm 30-4K 領域 MLI挿入箇所 300-130 K領域 首都大ADRの構造はこのようになっていて、内部にガラスエポキシやアルミ合金筒、接続部分であるリング、 300Kの真空容器の部分でできている。 アルミ合金のシールドによって温度領域を黄色の300-130K、緑の130-30K、青の30-4Kと分けられる。 300-130Kには輻射を防ぐためにAl蒸着フィルムをいれます。

MLIの最適化 MLI Al蒸着フィルムを重ねたもの Lockheed モデル 熱放射+ガスの熱伝導(真空度10-6 Torr)+固体の熱伝導 時間(h) 温度計の抵抗 [kΩ] 53時間 18時間 液体He保持時間 36枚 全流入熱 熱流入[W] Lockheedモデルでは、シールド間の熱放射、ガスの熱伝導、スペーサーを通じた固体熱伝導を考えます。 熱放射 Heタンクへの熱侵入 280mW → 95mW 固体熱伝導 MLI枚数

内部磁場の不定性 エントロピー曲線 測定値は低温で磁性体の理論モデルからずれる 強磁性体へ相転移する温度付近では常磁性体のモデルでは説明できない 測定値(Vilches,Wheatley) 分子場近似が必要 温度 (K)

磁化測定 2 K 劣化結晶 磁化 質量の不定性を理論値に規格化したもの 磁場 0~7 T 劣化結晶以外は結晶は常磁性体の理論モデルと一致する

FAA結晶 FAA(Feric Ammonium Alum) 鉄ミョウバン : Fe(NH4)(SO4)2・12H2O ・ キュリー点 26 mK ・ 溶媒として硫酸を使うので取り扱いが危険

ソルトピルの経年変化 結晶が劣化してしまうような温度で放置しなければ、 基本的に経年変化はしない見込み。 実際に研究室で使用しているFAAソルトピルは5年持っている。

100mK以下にする意味 カロリメータを動作させる上でエネルギー分解能をよくするためには100mK以下が必要。 これはエネルギー分解能が温度に比例するため温度を小さくすることで、分解能をよくできる。

NeXT衛星へ CPAソルトピルの研究を進めることで、容器構造、結晶の性質について理解を深め、次世代衛星に使用するさいの参考資料となる。 あわよくば、首都大で製作したソルトピルを宇宙にあげることも目標

3機関のADRで測定した意味 ・ Wisconsin では冷凍機が確立しているため、そこでまず結晶の評価を行なった → CPAの性能として満足いくものが得られた ・ 宇宙研では首都大と最大磁場、開始温度などが似ているのでconsistentか確認するためにも行っている ・ この3つの異なる冷凍機条件で試験を行うことで比較ができた。

開始温度の制限 ・ Heタンクとヒートスイッチが熱接触を取っているが、その接触が悪いためヒートスイッチまで冷えていない (Heタンクは2K) ・ ポンプの力が足りない Heタンク自体 1.8K どまりなので、ポンプを協力にする必要がある

CPAを自作する意味 これまでFAAが主流だったため、CPAソルトピル製作のためには ・ 容器構造の最適化 ・ 結晶の評価 ・ 最低到達温度を制限する要因の理解 が必要であり、それらの理解と製作のノウハウは自作して得られるものである。 50mKを目指すためには小さな熱損失でも致命的でありそれらは地道な開発で改善されるものである。

SUSの低温での比熱 磁気比熱が効いてくる