倫理とは,何か? : moral  ethics 倫理とは、自由(自律的) 道徳とは、強制(他律的)

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原子科学と倫理 倫理について 篠田 佳彦 shinoda.yoshihiko@plum.plala.or.jp  篠田 佳彦 shinoda.yoshihiko@plum.plala.or.jp 「これからどうするか」を判断していく過程を重視 原子力の是非を“正しく”判断するシステムを我々は有していない “正しく” 価値観が入り込む,客観的ではない,倫理が絡む 科学技術を社会の中に展開する際における“倫理”

倫理とは,何か? : moral  ethics 倫理とは、自由(自律的) 道徳とは、強制(他律的) 国語辞典:倫理=人として守るべき道。道徳。モラル 倫理とは、自由(自律的)   道徳とは、強制(他律的) 善を為すことを喜びと感じるよう努めよ  善を為せ 倫理と道徳を区別して考える,わかりにくい概念 ただし,様々な概念や捉え方があり,ここでは,そのひとつを紹介する 工学の技術者・研究者の立場から倫理について考えて行く

法律・・・・・・道徳・・・・・・・・・倫理 規則化   非規則化    非規則化 明文化    非明文     非明文 他律    他律       自律    “止まれ”         “止まる” 止まれ 止まる ドゥルーズ(フランスの思想家) 道徳命令によって善し悪しを確保する 倫理認識によって良し悪しに到達する 法律・道徳・倫理の違いは、様々に議論されている。 ここでは、そのひとつを紹介している “止まる”であることが 倫理を理解し、 倫理を活用しうるようにする鍵

=互いを尊重し助け合う ≒ Win/Win 倫理 は 心豊か な社会を実現する鍵 ≠ 行動を縛るものではない キーワードは,自律 倫理 は 心豊か な社会を実現する鍵 ≠ 行動を縛るものではない =互いを尊重し助け合う ≒ Win/Win キーワードは,自律 「自分で律する気持ちを持ち、自立した存在」となることが大切である 何が大切な事か、また何をしてはいけないのかを自身で見極めること   自分自身の得と社会全体(皆)の得の両立のために成す事を思案すること

Win/Win  Win/Lose 立場(Position)と利害(Interest) オレンジが欲しい :立場 どうしたの:対話 なんで必要なの? 兄:ジュース 妹:マーマレード 私も欲しい:立場 利害 対立解決 Win/Win 半分づつ 半分しか要求に答えられない 兄・妹 1個じゃなきゃだめ! 対立の激化 じゃんけん 兄—負け 妹—勝ち Win/Lose さらに対立 立場の主張では解決しえないが、 その立場をとる理由(利害・関心)を掴めば 解決への道が開ける場合もある。 対話・討議 土木学会 「合意形成論」より  Win/Winへの努力と利害の調整(対話・配慮)で解決方向へ?

新たなる道を見出していくこと=Win/Win  Win/Lose ソーセージを食べたい:主張 Win/Win パンを食べたい:主張 ホットドッグ 対立解決 互いに矛盾し、対立するかに見える2つの主張に対して、いずれか一方を否定するのではなく、両者を肯定・包含・統合し、超越することによって、より高い次元のものへと昇華していくこと

Win/Win へのポイント:配慮 配慮:心をくばること,他人や他の事のために気を使うこと     色々な出来事、様々な人々について注意深く、細かく見る・考えること、     人と人の関係を重視すること,     他者の立場になってものを考えること 自身が他者の立場になったとしてとき,その立場を許容できること  隠れた危険性、日の当たらない被害者(悲しむ人)を見出すことができる、 努力  危険性を見極め、低減するために関与者に必要な素養  相手(他者)に興味を持ち、互いの信頼関係を築き、思いやる

ある村役場にて 玄関前にあるモニュメント 「夏の夜空」 芝生 石垣 歩道 配慮が無いと 石垣、芝生の上は歩いてはいけない。 「原子力技術の受容に関する個人及び集団の意思決定過程」を題材として、社会科学的見地から原子力技術を取り巻く社会的問題の解明、解決に向けての検討を推し進めています。 玄関前にあるモニュメント 「夏の夜空」 配慮が無いと 石垣、芝生の上は歩いてはいけない。 歩くことを想定していなかった 歩くほうが,悪い 芝生 石垣 歩道

ふたつの駅倫理的感受性(配慮)  白線と点字ブロック

倫理⊇他者・相手に対する配慮 工学者倫理(技術者倫理) 工学者・技術者が製作した“人工物=製品”が、 工学者(エンジニア・技術者)が自分の仕事(人工物を作ること)    において他者・相手(不特定多数,人工物使用者以外も)を配慮すること 工学者・技術者が製作した“人工物=製品”が、   何かの拍子に他人・相手に迷惑をかけることがある =他者・相手に対する配慮が足りなかったことを意味する 科学技術の影響力の増加などによって!, 科学技術を担う者の社会的責任が要請され, その行為、意思によって社会に影響を及ぼす JSME「技術と社会」部門 ニュースレターNo.15 --小特集「社会と安全」(斉藤了文)より

工学者、技術者、研究者の倫理 工学者、技術者、研究者に固有(特有)な倫理があるわけではない 工学者倫理=工学者固有の倫理として扱う立場もある(むしろ支配的?) 倫理とは、人としての生き方(=行動規範)を示す普遍的なもの    社会生活を営む・社会を構成するすべての人々に共通に適用 工学者倫理=普遍的な倫理を工学者の目的・行動に適用したもの DBN 2358 http://www4.ocn.ne.jp/̃animals/WELFARE/1-5.htm 倫理と動物実験より DBN 5822

普遍的な倫理を貫くために求められること Win/Win“止まれ”と“止まる”の本質的違い 倫理を貫くことは、 交通渋滞を引き起こす要因=自分だけが早く行こうとする気持ちと割り込み 譲り合えば、渋滞はなくなる。==みんなが納得する解決策 倫理を貫くことは、    自分の利益を捨てる(社会=みんなの利益だけを優先)ことではなく、 倫理を貫くことが、自分の利益となっていくことを意識すること。             社会=みんなも自分も共に得をする Win/Win

倫理清廉潔白,私欲を捨てる を求めるものではない 権威・社会への 服従・同調・従順・犠牲を強いるものではなく, 社会(人々)のためになり,自分のためにもなるもの 自身がなにをすべきかについて,自身で考える 自身の認識によって,なにをすべきかを決めていく 倫理を貫く(まっとうする)と得をする!! 倫理≒・≠損得

倫理Win/Winを心がけた個人主義 の重要性 個人主義= Win/Lose  とする傾向自分だけ、得をしても幸福にはなれない 相手・他者、皆が得をすることを目指せば、   自分の得を満たすことができる=利他的利己主義                                  人間関係が重要(皆が利他的だと確信できる) 社会的ジレンマのしくみ:山岸 より 『損得』と『善悪』の関係・認識が重要   (得=悪,損=善ではない),善が得をもたらし,悪が損を生む 個人を捨てた集団主義, 目先のみに囚われた利己主義      とは、大きく異なる 社会・集団のために個人を犠牲にすることを強いる(協調を無理強いする) 自分にとって,なにが得になるか理解できずに協調行動が取れない 極端な,そして,安易な権威主義が,倫理的思考の対極

倫理学の学問体系 学際的領域(技術倫理もこの一部) 意味や用法を分析する学問 「応用倫理学」:現代社会が生み出す諸問題に倫理学的観点からアプローチ 学際的領域(技術倫理もこの一部) 「メタ倫理学」:倫理の基本的用語、例えば「善い」「正しい」「べし」などの  意味や用法を分析する学問 「規範倫理学」:「どのような行為が本当の意味で善い行為といえるか」            という問いに答えようとする試み 規範倫理学を代表する学説には、 功利主義倫理学,義務倫理学 ● 徳倫理学 http://www.tokai.t.u-tokyo.ac.jp/~madarame/lec1/theory.html  より

徳倫理学 「正しい行為とは?」という問いではなく、 功利主義倫理学,義務倫理学 「どのような人間になるべきか」 という問いを問題に倫理について考えていく 徳=勇気や節制といった、 人間が持つ卓越性(立派さ)のこと virtue 行為の指針=「ある状況において正しい行為は、 その状況において徳を有する行為者がなすであろう行為である」 という基準 「徳を有する行為者」とは、それは誰か? 「徳=得」と考える市民  社会的ジレンマ研究を題材に説明 ウィキペディア http://plaza.umin.ac.jp/~kodama/ethics/wordbook/virtue.html より

社会的ジレンマ(どちらを選んでも困るような状態)4235 5309 社会的ジレンマ(どちらを選んでも困るような状態)4235 5309 「お互いに協力しあえば皆が利益を得ることができるのに、各人が自分の利益だけを考えて行動すると、結局は誰もが不利益をこうむってしまう」という状況のこと 有名な囚人のジレンマ(時間があれば、調べてください) 共有地の悲劇 ≒ 公衆トイレがすぐに汚くなる理由 Cさん牧場 共有地 牧草地 共有地 荒地 Aさん牧場 Bさん牧場

社会的ジレンマ研究:山岸4235 かしこい利己主義が,社会的ジレンマを解決する =協力することができる  協力したほうが長い目で得 社会を自分たちでコントロールするための科学を作り出すための研究  いかに協力できる状況にもっていけるかを探る≒倫理+α(何か) かしこい利己主義が,社会的ジレンマを解決する =協力することができる  協力したほうが長い目で得 + 「みんなが協力すれば私も協力する」という人が多数 ○「自分だけバカを見るのはゴメンだ」という防衛本能 自分だけバカを見ないと協力する     「ひとりだけ,うまくやる」ことはないと協力する

社会的ジレンマ研究:山岸4235 みんなが協力できる状況にもっていく (強制力・選択的誘因・義務感++大切なプラスα) 社会を自分たちでコントロールするための科学を作り出すための研究  いかに協力できる状況にもっていけるかを探る≒倫理+α(何か) みんなが協力できる状況にもっていく (強制力・選択的誘因・義務感++大切なプラスα) 自覚+制度(制度は自覚を補填するもの) ○協力したものが損しないような制度 ×協力を強いる制度 「協力した方が得」と考える人の割合を ある一定以上にすると,皆が協力するようになる

自覚と倫理::「徳のある行為=善き行い」をすることは、 自分の徳を上げ、自分の得にもなる。 徳得 「自分の得になるが、善き行いではない・自分の徳を上げない」  ツケ=“報い”が回る、 その“報い”を生み出す社会(システム・制度) 正直者が損しない・得をするシステムが大事 (多数の人々が“正直者”であることを選びうる状況) 「善き行い」は、自身に得をもたらし、 自身がやりたい行為をもやりやすくする すなわち,倫理的=戦略的 になる

Win/Loseで押し通す世界 Win/Winを目指す世界 倫理的行動 ≠ 戦略的行動 倫理的行動 < 戦略的行動 倫理的な行動を行うことが戦略的な行動になる (誠実な・正直な行動が相互の信頼を生み・育み、安心感を醸成する ) Honesty is the best policy Win/Loseで押し通す世界 倫理的行動 ≠ 戦略的行動 倫理的行動 < 戦略的行動 きれい事を押し通したら,成功した 世の中、きれい事ではすまない。 Win/Winを目指す世界 倫理的行動 = 戦略的行動 徳を目指すことが,得を導く 得を目指すだけでは,徳を遠ざける  徳得

倫理的行動の本質  何が“善き行い”なのかを常に自問自答し続ける事 ただし、行動基準が、得>徳 ではだめ。 得と徳を両立できる道を探ること 倫理とは, 『正しい』について,折に触れ,事こまやかに悩むこと 黄金律:他人にしてもらいたいと思うような行為をせよ 己の欲せざるところ、他に施すことなかれ あなたにとって好ましくないことをあなたの隣人に対してするな って,言うのは簡単だけれども!

倫理:行動規範 安心: 信頼: 他者の行為を予測可能とし,対立を免れる道を与えるもの(将来における行為の予期 と 他者の行為を予測可能とし,対立を免れる道を与えるもの(将来における行為の予期 と 過去に見えないところで行われた行為の推測) 安心: 先(将来)が見える・見えたと思える状態。 期待する結果が起こる(だろうと)思える状態 信頼: 対象となる相手が, 自身が期待する(予期する)行為をするだろう と確信する気持ち

そして,対立に関わらない・その他の多数の人々 科学技術を推進したい側 と 推進に懸念・反意を示す者  との対立 と その解消 について そして,対立に関わらない・その他の多数の人々 の関係のあり方  倫理・安心・信頼 科学技術の問題を倫理の問題にすりかえるものではない! ある科学技術がうまく推進できないことの原因を,それに携わる関係者の倫理不足に求めるものではない。そして,倫理を求めることには,危険も付きまとう

決定事項での対立----不満足・不納得  対立解消に向けた倫理的取組≒信頼関係の構築 決定に至るまでの過程を重視するとは、  「決まった事=決定では、意見の一致は得られない・にくい」なら、   決定に至るまでの過程を重視することがポイント 決定に至るまでの過程を重視するとは、   ・予め決まったことの賛否を問うことではなく、   ・これから、どうしようかを探り,決めること=対立解消策を共に探る事 ≠決まった事の「受け入れ」を求める::推進側の論理・志向 『戦略的>倫理的』思考 受動::立案者(推進側)が適切な案を選択し,非賛成者を説得する 能動::推進側が市民社会と共に適切な案を選択し,実行する

受動:不満足・不納得≒「しかたがない」がくすぶり, ふたをされた「対立」を生みやすい 能動:意見対立を生みやすいが,対立を制御できる ・対立はまったく無くそうとすることは逆効果(強すぎる強制力) ・対立から,新しい価値を見出すことを目指していく  対立を Win/Win :相方にとって,得なものに変える 「これからどうするか」を判断していく過程  能動的 原子力の是非を“正しく”判断するシステム “正しく” 価値観が入り込む.価値観との整合として,倫理が絡む 何が“正しい”のかの基準の判断は 市民社会の中で話し合い,確認するもの, 合意を得られるもの

対立における≒倫理的・戦略的取組 『対立解消策を共に探る』姿勢から関与者の納得を導く 手続き的公正を遵守した決定過程 手続き的公正 決定の適切さ以上に手続きの公正さは重視される。 意に反する決定でも納得しやすくなる  と言われている 公明正大な意思決定プロセス だれでもが、意見が言える、 どんな意見でも反映される可能性を否定されていない (必ずしも,反映されるわけではなくとも) 決定に関わる事項の早い段階からの関与と話し合い       「上流からの関与 (upstream engagement)」 対立における≒倫理的・戦略的取組

われわれ市民の日常生活を左右する問題であり,その動向に対して積極的に関与せねばならない 手を携えて、みんなで協力してやっていこう! 「原子力技術の受容に関する個人及び集団の意思決定過程」を題材として、社会科学的見地から原子力技術を取り巻く社会的問題の解明、解決に向けての検討を推し進めています。 その場を形成するのは、我々の役割。 意見表明の場 合意形成の場 異議申し立ての場 国民と共にいっしょに考え、それに基づいて実施していこう 原子力停止も選択肢として明示した市民的議論なしに原子力推進はない  公正な意思決定過程から導かれた方針に基づいた推進がやりやすさを生む

手続き的公正 結果に至る課程に関する公正 ● ほとんどの場合、手続き的公正判断は満足度の増加をもたらす  手続きが欺瞞的と容易に疑われると欲求不満となる ● 決定により影響を受ける人々に過程コントロール、発言権を 与えると、その手続きはより公正なものと見なされる ● 手続き的公正判断は権威者(行政・専門家)や制度の評価を高める  手続き的公正は、集団や制度に対する関与や忠誠心を高める ● 手続き的公正は、態度や信念、行動にも影響を及ぼす ● 手続き的公正は、決定においても重要な関心事である ● 手続き的公正の過程はすべての社会状況においてはたらく(普遍性) ● 手続き的公正は、どのように意思決定されるかという問題以上のもの  人々が権威者によってどう扱われているかという問題を含む ● 手続き的公正における過程コントロールは、公正な結果を求める欲求 以上のもの、自分の存在感の問題に結びつく ● 手続き的公正が十分と判断されると決定事項が自分の意に反していても 信頼、納得・満足が生まれる 「フェアネスと手続きの社会心理学:E. Allan Lind ら」より